8.2-13 河畔の国13
コルテックスの作り出したマクロファージを探して、周辺を歩き回ったワルツは……いまや移動宿泊施設と化しているエネルギアの中に、その姿を見つけた。
より具体的に言うなら……ボレアスへと運ぶ予定の資材が山と積まれた、エネルギア内部の格納庫である。
その中で彼(?)は……
「こ、こうでしょうかっ……?」ビュンッ
『少しかなり違いますね〜?そんな腰の曲がったおばあちゃんのような体捌きでは、ウチのメイドにすら負けてしまいますよ〜?ね〜?エンデルシア国王〜?』スッ……
『あぁ、まったくもって、コルテックス様の言う通りだ。……レオナルドよ!エンデルシアの勇者を辞めたくば、俺を越えてみせるが良い!』
どういうわけか、勇者と戦っていたようだ。
というより、コルテックスがマクロファージを操り、勇者に特訓を付けていた、と言うべきか……。
それはそうと、今ごろ王都にいるだろうコルテックスの横には、どうやらエンデルシア国王もいるらしい。
そこにいる3人の会話から推測すると……『勇者』をやめたい勇者は、どうやらエンデルシア国王と勝負をして、勝たなければならないようである。
「なにやってんの……?」
何となく事情が把握できていても、あえて問いかけるワルツ。
すると、ワルツの接近に気づいた勇者は……しかし、愛用の鉄パイプを構えたまま、マクロファージを真っ直ぐに見据えて、こう返答した。
「コルテックス様に、稽古をつけてもらっているところでございます。この旅が終わって、ミッドエデンの王都に戻った時、陛下と勝負をして勝たなければ……私は勇者をやめられないのですっ!」ギュンッ
「そ、そう……。頑張ってね……」
勇者のその言葉を聞いて、果たしてそこまでして『勇者』を辞める必要はあるのか、と頭を悩ませるワルツ。
しかし、彼の決意は強固なようなので、彼女は余計なことを言わず、好きなようにさせることにしたようだ。
それからワルツは、彼と対峙していたマクロファージに向かって声を投げかけた。
「ねぇ、コルテックス?特訓をしながらでいいから、聞いてほしんだけど?」
『なんですか〜?』
「ユリア、こっち来るみたいよ?」
『えぇ、知ってますよ〜?先程、情報局局長の椅子に、新入り局員のリサをロープでぐるぐる巻きに固定して、飛び立っていきましたからね〜。試しにですが、リサのことを、そのまま放置しておきますか〜?きっと凄いことになりますよ〜?』
「そりゃそうでしょ……てか、知ってんなら解いてやりなさいよ……。ちなみに、シルビアの方はどうなの?」
『愚問ですね〜』
「こっち来るのね……」
と、いつも2人が一緒に行動していることを思い出して、呆れたように呟くワルツ。
どうやら情報局では、イジメに近い何かが行われているようだ。
それからもコルテックスは、断続的に勇者に対して攻撃を仕掛けながら、いつも通りに話し続けた。
『そう言えば、そろそろ、狩人様を返してもらえませんか〜?』
「ん?なんかあったの?」
『いや〜、ノースフォートレスの件や、騎士たちの訓練の件、それにアレヤコレヤがありますし〜。一応、国防省長官なんですから〜』
「……毎回、肩書変わってない?」
『まぁ、良いじゃないですか〜?殆ど、名ばかりみたいなものですからね〜』
「それなら狩人さん、やっぱりいらないんじゃ……」
と呟きつつも、コルテックスが必要だと言うので、狩人のことを国に送り返すかどうかを悩むワルツ。
それからワルツが、この辺りには、狩場らしきフィールドが無いことを考えて、やはり狩人をミッドエデンの自然に返そうか、と考え始めた頃……。
「っ!」
『……遅いですね〜』
ドゴォォォォン!!
「がはっ!」
ドシャァァァァ!!
ゆっくりと喋り、そしてゆっくりと動いているようにしか見えないコルテックス(マクロファージ)が繰り出した攻撃をもろに受けて、勇者が横方向に吹き飛んでいった。
「……コルテックス?あまり、勇者のこと、イジメちゃダメよ?」
『分かっています。分かっていますよ〜?ですが、この試練は、勇者様が自ら選んだ道程。ある程度の痛みは覚悟できているはずです。まぁ、死にそうになったら、カタリナ様の所に送るのでご安心下さい』
「そう。ならいいけど、あまりやりすぎると、カタリナに叱られるわよ?」
『…………!?』
基本的なことを失念していたのか、マクロファージの向こう側で、何かに気づいたような気配を放つコルテックス。
すると、彼女の表情を直接見ているだろうエンデルシア国王が、何やら感心した様子で話し始めた。
『……コルテックス様を恐怖に陥れるほどに、カタリナの力は随分と強大になったのだな……』
そんなエンデルシア国王の呟きを聞いたワルツは、露骨に嫌そうな表情を浮かべながらこう返答する。
「別に強大ってわけじゃないと思うわよ?確かに、昔に比べれば、魔法の威力とかは上がってるかもしれないけど、ルシアみたいに、世界を滅ぼしかねない出力の魔法を使えるわけでもないし、魔法を連発して使えるわけでもないし……」
『ふむ……。魔力特異体というわけでは無いのか……。では何故、皆、カタリナを恐れておるのだ?』
「いや、別に、恐れているわけじゃないんじゃない?むしろ感謝してるくらいだと思うわよ?カタリナのキャラが……周りにそう感じさせるんじゃないかしらね?きっと……」
と、カタリナに直接教育を施している立場にいるワルツ。
彼女としては、カタリナは優秀な生徒であって、脅威などとは無関係だったようである。
それについては、コルテックスもほぼ同じ意見だったようだ。
『そうですね〜。カタリナ様は、尊敬すべき方ですからね〜。私も脅威を感じているというわけではく、ご迷惑をおかけして、申し訳なく思っているだけですし〜。カタリナ様には感謝しても感謝しても、しきれないですね〜』
と、世辞ではない様子で口にするコルテックス。
その際、格納庫にあった荷物の影の方から、なにやらブンブンと風を切るような音が聞こえてきたのは……まぁ、気のせいだろう。
すると、そんな2人のカタリナ談義を聞いていたエンデルシア国王が、床に倒れている勇者に心配そうに擦り寄るマクロファージの向こう側で、こんな言葉を呟いた。
『そうか……。なら大きな心配は無いな』
それに対して……
「えっ?何の話?」
『心配が無い……とは、どういうことでしょうか〜?』
と、当然のごとく問いかけるワルツとコルテックス。
そんな2人に対してエンデルシア国王は、こんな一言を口にしたのである。
『魔力特異体ではないのなら、変に目立たない限り、他の神たちに潰されることはなさそうだと思ってな』
「もしかして、前に私たちが、メルクリオの自称神を語る奴に、自称天使をけしかけられたときみたいな感じの話?」
『メルクリオの……あー、アイツか。いや、奴のことではない。もっと大きな……』
と、そこまでエンデルシア国王が口にしたところで……
『……うっ!持病の痔がッ……!』
彼は、急にそんなことを言い出して、話をはぐらかして(?)しまった。
それに対して、ワルツは呆れたように言葉を返す。
「……言えないなら、言えないって最初から言いなさいよ。素直にさー……」
『……事情を聞かぬのか?』
「世の中にはテレサが使うような言霊魔法があるんだし、言いたいことが言えないなんて、珍しくもなんともないわよ。むしろ、最初から言えないって言ってもらった方が、その背後関係を予想しやすいわ」
『そうか……。神々の契約で、詳しいことは言えんのだ。察してもらえると助かる……』
とマクロファージの向こう側で、安心したような雰囲気を出すエンデルシア国王。
その後で彼は、自身の口から言えるだろうギリギリの発言を口にした。
『すべてを言わぬ俺の言葉を信じるか信じないかの判断は、ワルツ女史や、コルテックス様に任せるが……ルシアちゃんと、念のためにカタリナ、それに……テレサ元王姫からは、不用意に目を離さない方が良いぞ?』
「そうね……ルシアのことは、確かにそうだと思うわ。色々な意味でね。ま、カタリナとテレサの方は……正直、放っといても大丈夫だと思うけど」
『えっ……』
「いや、あの娘たち、多分、コルテックスよりも強いと思うわよ?特にテレサなんか、さっきも魔王のこと、一撃で倒してたし……」
『『…………』』
ワルツの言葉を聞いて、無言になる2人。
エンデルシア国王の方は、ワルツの言葉がにわかには信じられない様子で。
そしてコルテックスの方は……おそらく今頃、マクロファージの向こう側で、嬉しそうな笑みを浮かべているのではないだろうか……。
補足というほどではないのじゃが……この場の物陰には、千切れんばかりに尻尾をブンブンと振り回しながら、顔を真赤にしておるカタリナ殿がいたりいなかったり……。
まぁ、今回、彼女は登場せぬがのう。
それはそうと。
今日と昨日(?)の話から、少し書き方を変えたのじゃ。
多分、分からぬと思うのじゃが……簡単に言うと、手を抜いておるのじゃ。
あまりにも、修正に費やす時間が長すぎて、モチベーションが落ちるにいいただけ落ちておったから、えらーちぇっく?の度合いを少し緩やかにして、執筆に掛かる時間を短縮したのじゃ。
もはや、ここまで来ると、ぷろぐらむと同じかもしれぬのう……。
じゃから、一字一句ゆっくりと朗読すると、びみょーな部分が出てくるやも知れぬが……まぁ、そこまでしっかりと呼んでおる者はおらんじゃろう。
……いたら嬉しいがの。
そんなわけで、次回からは、手を抜いても抜かなくても分からない程度に手を抜いて、河畔の国の話を進めていこうと思うのじゃ。
……え?
コルテックスと会話するために、マクロファージを探す必要は無い?
……のーこめんと、なのじゃ!




