8.2-09 河畔の国9
「さて……。オリージャ政府は、俺たちに一体何を隠しているんだろうな?」
「…………」
そのアトラスの追求に対して、口を固く閉ざしてしまった様子のクラーク。
どうやら彼は、その場にいるものたちに対して、何やら言い難いことを隠しているらしい。
対してアトラスの方は、その隠し事の内容が分からないと騎士たちの身に何かあったときに困る、と考えたらしく、クラークからの返答をじっと待っていたようである。
そんな折……
『まぁまぁ、アトラス。何があろうともいいではないですか〜』
ワルツが胸に抱いていた(?)スライムから、おもむろに声が飛んできた。
独特な喋り方で分かる通り、今頃、王都で夕食の時間を迎えているだろうコルテックスの声である。
その声を聞いて、その場にいた殆どの者たちが、声の主が誰なのかをすぐに察したようだが……彼女のことを知らないクラークにとっては、不可解な出来事だったようだ。
「ス、スライムが喋っているだと?!」
驚いたクラークの、その言葉を受けて……
『ほら、お姉さま〜?クラークさんが戸惑っているではないですか〜。声を出す必要は無いので、私の言葉に合わせて口を動かして下さい』
と自身の声を隠す様子もなく、普通に話すコルテックス。
すると、まぁ、当然のごとく……
「……めんどい」
ワルツに断られてしまう。
ただ、ワルツの言葉は、そこで終わりではなかった。
彼女は、その変わり、と言わんばかりに、こう口にしたのである。
「ほら、アトラス!パスッ!」
そして、重力制御システムを使い、アトラスに向かって、マクロファージを投擲するワルツ。
「うおっ?!いらねぇっ!」
ぽふっ……
『アトラス〜?今、何か言いませんでしたか〜?』
「いや、何も言ってないぞ?可愛いな、このマクロファージ……」
『そう思うのなら、私の言葉に合わせて、口パクをして下さい』
「う、うぅ……」
こうしてアトラスは、一連のやり取りをクラークに見られているその前で、コルテックスの言葉に合わせて、まるで罰ゲームのように口パクを始めたのである……。
『……オリージャ政府が何を企んでいようと、俺たちには関係ねぇな〜。ただ、兵を進めて〜……オリージャの観光を楽しむだけだ〜』
「「「……は?」」」
『もちろん、それだけではないけどな〜?……ほら、アトラス〜?口パクです。口パクを忘れていますよ〜?』
「ぐっ……」ばくぱく
「…………」ぽかーん
そんなアトラスの行動とコルテックスの発言を前に、開いた口が塞がらない様子のクラーク。
しかし、それでも、彼は一国の外交官。
コルテックスの発言と、それに耳を傾ける者たちの様子を見聞きして、彼女がただならぬ立場にいる人物だとすぐに察すると、彼は真剣な表情を取り戻してから、疑問の言葉を口にした。
「観光……というのは、どういう意味ですかな?」
『……そうだな〜。街の中の景色や情景、それにその国の歴史などに触れて、知識や理解を深める行為〜……まぁ、そんな感じだろう〜』
「理解を深める……」
『……あなたはオリージャの外交官という話。なら、俺の《観光》という言葉がいったい何を意味しているのか〜、なんとなく分かるのではないか〜?』
「…………」
そのアトラスの口調を真似た……と思しきコルテックスの言葉を聞いて、眼を細めるクラーク。
そんな彼の反応を見て、今のところ、自分の言いたいことが伝わっていると判断したコルテックスは、それからも言葉を続けていった。
『確か、先程の話では、俺たちを国賓として迎えるという話だったな〜。それは実に良い。ミッドエデンとしては、大歓迎だ。是非、国賓として迎えてほしいものだな〜。しかし、それが何を意味するのか〜……これ以上の説明は、いらないだろう?なにせ、コレは、国と国との交流なのだから〜。……そうですよね〜?外交官のクラーク様〜?』
その言葉を聞いて、
「くっ……狐だったか……」
と、後悔した様子で呟くクラーク。
そんな彼に対してコルテックスは、アトラスの口調を真似る(?)ことを止めて、こう言い返した。
『はい。私はそこにいるはずのテレサと同じく狐です。ですが〜……外交というものは、本来、国益を確保するための、狐と狸の化かし合いみたいなもののはずですよ〜?外交官であるクラーク様には、愚問ですよね〜。この世界は〜……《食うか》《滅ぼすか》の2択しか無いのですから〜』
「……おい、コルテックス。それ、何かおかしくないか?」
『いいではないですか〜。大国が大国たるためには、大国なりの行動を取らなければならないのです。横暴〜……そう、横暴です!』
「いや、それを自信満々に言うのはどうかと思うけどな……」
と口にして、実際に頭を抱えてしまったアトラス。
それから彼は、コルテックスの口パクをするのではなく、自身の言葉で、クラークに問いかけた。
「……と、ウチの国家元首殿が言ってるわけだが……オリージャ王国としては、クラークさんの言葉通り、俺たちを国賓として受け入れる、ってことでいいか?もちろん、侵略ありきの話ではなく、表向きは交流を深めるために伺うことになると思うが……もしかすると、損のほうが大きいかもしれないぞ?(コルテックスのやつ、何考えてるか分かんねぇし……)」
その最後通告とも取れるアトラスの発言に対して、クラークは胃の痛そうな表情を浮かべながら、返答した。
「……吾輩がここで何を言ったところで……あなた方は、無理矢理にでも、我らが王都へとやってくるのだろう?ならば……毒喰らわば皿までだ。我らもあなた方を道具として利用させてもらおう。それが……偉大なる小国としての意地だ!」
そう本音の一部を漏らして、溜息を吐くクラーク。
本来、単なる外交官に過ぎない彼には、そんな大きな決断を下す権限は無いはずなので……恐らく、オリージャ政府の決定として、最初から、ミッドエデンの騎士たちを王都に招き入れることになっていたのだろう。
むしろ今回の場合、クラークがここでワルツたちを自分たちの王都に連れて行くことに失敗していたなら……彼は王都に戻った後で、大変なことになったのではないだろうか。
「そうか……なら、俺たちは、クラークさんの言葉に甘えて、客として振る舞うことにする。それで良いな?コルテックス」
『はい。ミッドエデンとしては、それで構いません。ですが、アトラス〜?騎士たちやお姉さま方に何かあった時は、部隊を指揮する立場にあるアトラスが、全責任を負うことになるんですよ〜?大変ですね〜』
「ちょっ……」
『おっと、メイドが夕食を持ってきたようです。私はこれから、この異世界で初めて作られただろうラーメンの試食に入るので、また後日、お会いしましょう〜』
「まて、コルテックス!話はまだ……」
『いっただきま~す!……ずずずずず〜』ブチッ
そんな何かを啜るような音を残して切れてしまう、マクロファージを介したコルテックスとの通信。
こうしてアトラスは、数日に渡り、頭が痛い思いをすることになったのである……。
コルの話を書いておって、思うことがあるのじゃ。
……コルの喋り方が、ちゃんと読者にも伝わっておるのか……。
多分じゃが、伝わっておらぬのではなかろうかのう……。
というわけで、コルの喋り方れっすんなのじゃ〜。
例えばのう……
「ね〜?アトラス〜?」
この発言は、
↑〜?↓↓↓→〜?
といった感じの音の高さになるのじゃ。
より正確に述べるなら、アトラの部分が、アからラに向けて徐々に下がっていくのじゃ?
……分かりにくいのう。
あるいはこんな例を上げようかのう。
「ずずずずず〜」
この発言(?)は、
↓・↑・↗・→・⤵〜
といった感じになるのじゃ?
……もしやすると、環境によっては、文字化けして見えぬかも知れぬがのう……。
うむ……。
この感じを、どうやって伝えればよいのじゃろうか……難しいのじゃ……。
まぁ、ともかく、コルの喋り方は、ものすごく癖があるのじゃ?
さて。
今日はここいらで駄文を終えようと思うのじゃ。
昨日のあとがきでも言った通り、明日、不毛な用事があって、もしかすると、アップロードできぬかも知れぬからのう。
というわけで、これからもう一話、あっぷろーどしてくるのじゃ!
……予約投稿じゃがのう。




