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1.2-41 町での出来事32

 それからまもなくして——


コンコンコン……


——と、部屋の扉をノックする音が聞こえてくる。

 それを聞いて、一番扉に近い位置にいたカタリナが、扉を開けると——


「失礼すr……リーゼ?!」


——狩人の父、ベルツ伯爵が、娘の意識が戻っている姿を見て、部屋の中へと飛び込んできた。


「と、父様?!」


 部屋に入ってくるや否や、自分のことをギュッと抱きしめてくる父に、戸惑い気味の反応を見せる狩人。


 そんな来客は彼だけではなかった。氏のほかにも、もう一人いたようである。


「あらあら、アナタ。嬉しいのは分かりますけど、リーゼは怪我をしているんですよ?もう少し考えたらどうです?」


 清楚な雰囲気(?)を纏わせた、長い金髪の女性……。ベルツ伯爵の夫人——つまり、狩人の母もやってきたようだ。


 そんな夫人の獣耳と尻尾は、夫と子どもの真っ黒なソレとは違い、金色と黒色のストライプカラーで……。狩人たちとは少々異なる種類の猫(?)の獣人だったようである。まぁ、だからといって、身体能力も異なるとは限らないが。


「皆様、お初にお目にかかります。(わたくし)、名を、キャロライン=アレクサンドロスと申します。此度は娘の命を救っていただき、感謝の言葉も見つかりません……」


 そう言って、深々と頭を下げる夫人。


 その感謝の言葉を向けられたワルツは、一瞬戸惑い、逃げ場を求めるようにカタリナへと視線を向けたものの……。その先でカタリナが、自身に向かって苦笑を向け返していたのを見て、ワルツは諦めたように、返答を始めた。


「えっと……感謝なんて、とんでもないです。単に偶然、居合わせただけですので……(そう……偶然ね?)」


 と、しばらく事の成り行きを観察していた、とは言わず、偶然を装うワルツ。ただ、その言葉はあながち嘘ではなく、狩人が助かったのは、大きな偶然がいくつも重なった結果だった。


 ……偶然にワルツがこの世界へとやって来て、偶然に狩人と知り合い、偶然この町に一緒に来ることになって、偶然狩人が命を落としかけた……。そして何より、偶然ワルツが、狩人のことを助けられるだけの知識と技術を持っていたのである。もはや、ここまで偶然が重なると、『必然』と言っても良いかもしれない。


 それからワルツが、はたして本当にこれは偶然なのか、と疑心暗鬼に囚われていると——


「私からも重ねて礼を言う」


——伯爵も、夫人に合わせて、ワルツに対し頭を下げ始める。

 するともう一人——


「ワルツ。本当に恩に着るよ」


——狩人も頭を下げ初めたようだ。


「いえいえ、礼を言うなら、私じゃなくて、カタリナやルシアに言ってください。回復魔法を使って狩人さんのケガを治したのは彼女たちなんですし……」


「ワルツ……謙遜しなくてもいい。勇者に殺され掛けたときだって、ワルツは私のことを助けてくれたんだ。きっと今回もワルツがいなければ……私は死んでたはずだからな!」


「えっ……そうだったのか?」

「それは尚更、お礼をしなくてはいけませんわね……」


「えっと……(そもそもからして、私がここに来なければ、勇者に襲われるようなことなんて無かったと思いますけど……)」


 と、ワルツが、どう返答して良いものか、と考えあぐねていると——


「貴女方には是非お礼をしたい。しかし、今日はもう遅いから……少し狭いかもしれないが、この屋敷で寛いで行ってもらえないだろうか?もちろん、夕食をご馳走させてもらおう。コックには腕によりを掛けるよう、伝えておくよ」


——この館の主である伯爵が、そんなことを口にした。

 それ自体は、まさに、館の客人に向けられる言葉で、著しく変わった言葉ではなかったものの……。しかし、その発言は、ワルツにとって、”極めて”受け入れ難い言葉だったようである。


「(うわ……夕食?なにそれ……。マナーって地球と同じ?箸?ナイフ?フォーク?断食?全然、分かんないんだけど……)」


 これまでこういった機会どころか、まともに人と接したことすら無かったワルツにとって、あまり素性の知らない()()人物と食事をするという展開は、可能な限り避けたいイベントだったようである。

 そう。たとえそれが、失礼に当たると分かっていても……。


 結果、ワルツは、これからの行動について、即座に決断した。彼女はその眼を閉じると、伯爵に対し、こう口にしたのである。


「あの……領主さま?失礼を承知で、一つだけお願いしたいことがございます」


「遠慮なく、ぜひおっしゃって下さい」


「私には……やらなくてはならないことがあるのです。そのためのお願いです」


「それは一体……」


「とても簡単なことです。……私たちのことを、放っておいてください!」


 そう口にして開けた彼女の眼の中では、二重の虹彩が青く輝いていた。

 そして、彼女の髪色も、みるみるうちに真っ白な色へと変化していき……。その姿だけで、見る者に畏怖を植え付けるような、神々しいとも言える容姿へと、ワルツはホログラムの姿を変えていったのである。

 ただし、機動装甲の姿は不可視のままで。


 そんなワルツの姿を見て、目を見開く伯爵と夫人、それに狩人の3人。そんな彼らの反応は、ワルツの想定内の出来事だったようである。なにしろ、それが目的で、ワルツは姿を変えたのだから。


「(さてと。それじゃぁ、最後に一言だけ言って、逃亡しまsy……って、何やってんの?この人たち……)」


 逃げるための経路を確保するために、重力制御システムを使い、窓を開けて……。そして、ワルツが最後の別れの言葉を口にしようとした……そんなとき。ふとワルツが目の前に視線を戻すと、そこではアレクサンドロス家の3人が、彼女に向かって跪いていたようである。


 ワルツとしては、自分の言葉に説得性を持たせるための演出として、姿を変えたつもりだった。しかし、結果として起こったのは、期待以上の効果。むしろ、予想外の方向へと話が転がり始めた、と言えるかもしれない。


「えっと……あの……皆さん?どうしたんですか?」


 そんな、戸惑い気味のワルツの問いかけに対し——


「か、神とは知らず、ご無礼な発言を働きましたこと、誠に申し訳ございませんでした……!」

「せめて娘は……娘のことは、見逃して下さいませ……!」

「ワルツ……頼む!私は良いから、父様と母様のことはどうか……!」


——と揃いも揃って、似たような内容の発言を口にするアレクサンドロス家の一同。どうやら3人ともが、ワルツのことを”神”だと捉えてしまったようである。そんな3人の中の”神”は、どうやらかなり凶暴らしい。


 その言葉を受けたワルツとしては、その誤解を解きたかったようである。

 とはいえ、この3日間、ルシアやカタリナとの間でも、似たようなやり取りが続いていたためか、その説明をするのが億劫になってきたらしく……。彼女はこのまま話を進めることにしたようだ。


「……一応言っておきますけど、私は神様でも、その使いでもないですからね?私は……自分が元いた世界に戻りたいだけなんです。端的に言うと、すっごく忙しいんです。ですから、これ以上、私には構わないでください。もちろん、礼とかいりませんから」


「「「ははぁ!」」」


「(うん、絶対に理解してないわね。この人たち……)」


 深々と頭を下げる3人に対し、どこか呆れたような表情を浮かべるワルツ。

 それから彼女は、未だ眠ったままだったルシアと、その場でどさくさに紛れて頭を垂れていたカタリナのことを重力制御システムで浮かべてから、開け放った窓の方へと移動した。


 そして、そこで狐娘たちを両脇に抱えたワルツは、最後に狩人たちの方を振り返って、こう口にしたのである。


「狩人さん、今までお世話になりました。……あ、そうそう。ひとつ忘れてたんですけど……私たちの代わりに、宿のチェックアウトの手続き、お願いできますか?」


「「「……え?」」」


 そんな締りのない別れの言葉を口にしてから、窓の外へと身体を投げ出すワルツ。


 それから彼女は、大きな月が輝いている黒い空へと向かって、どんどんと高度を上げていったのであった。



ここまで修正するのに幾星霜……。

まぁ、2ヶ月しか掛かっておらぬがの?


……そう、2ヶ月しか。


3年前に投稿したときは、ここまで22話だったのじゃ。

それが修正後は71話。

もうダメかもしれぬ……。


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この世界の「神」は意外と暴力的?
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