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8.1-32 北への旅路32

「くっ……これだからゾンビは嫌だ!」

「ゾンビ相手に戦うのが好きだなんてやつはここにはいねぇよ!」

「おい、お前ら!無駄口叩いてないで、ちゃんと手を動かせ!」


ア〜……

ウ〜……


太陽が見えている明るい内は、なかなか姿を表さなかったゾンビたち。

ところが、暗くなった途端にゾロゾロと出てきた彼らに、暗闇の中で武器を向けていた騎士たちは、皆、一様に、嫌そうな表情を浮かべていた。

元は自分たちが守るべき善良な町人だっただろうゾンビたちに対し、武器を向け無くてはならない彼らが、いったいどれほどの罪の意識に苛まれていたのか……。

その、心にかかる負担については、想像を絶することだろう。


そんな折。

彼らが持っていた支給の無線機へと、町に入ってから何度目かになる定期連絡が飛んでくる。


『こちらHQ。フォックストロット隊、状況を報告せよ』


ゾンビ掃討作戦の指揮を取っていた、仮設の作戦司令本部からである。

やはり、彼らの実質的な総司令官であるアトラスが構築した軍組織は、この世界の他の軍隊と比べて、妙に近代化されているようだ。


すると、連絡を要求してきたHQに対して、その部隊のリーダーと思しき人物が、背中のリュックに付いた四角い箱のような魔導無線機を使い、返答する。


「こちらフォックストロットリーダー。この戦場は……いつも通り地獄だ。ゾンビは殺っても殺っても立ち上がってくるし、それにこの腐臭……どうにかならんか?」


『鼻息を止めろ、フォックストロットリーダー。私からはそうとしか答えられない。他に変わりはないか?』


「あぁ。ただ……予想外にゾンビが多くて、定時までに目標地点まで移動できる保証がない。多少遅れてパーティーに参加することになっても、花嫁は逃げていかないだろうか?」


『安心しろ。お前のことを待っている花嫁はいない。よって、多少遅れても……いや、最悪来れなくなっても問題はないだろう。オーバー』


「おまっ……」


そして容赦なく切れてしまうHQからの通信。

リーダーとしては、HQの通信士に文句の一つでも返したかったようだが、私用で通信するわけにもいかず、悶々とする他なかったようである。


「くっそ、アイツ……。同期のくせして、調子に乗りやがって……」


「まぁまぁ、リーダー。相手は2階級上の元貴族なんですから……って、言葉遣いに気をつけないと、左遷されますよ?」


「はぁ……」


と大きな溜息と共に、目に見えないストレスを、口から吐き出す部隊長。

しかし彼の憂鬱は、そこで中断せざるを得なくなったようである。


ア゛〜

ウ〜

ア〜


彼らから見て、ほど近い距離にあった路地から、一度に複数のゾンビが現れたのである。


「もう、お腹いっぱいだぜ……」


「やるしか無いですよ。……ほらっ!」


ズドォォォォン!!


と、大剣をゾンビの頭から真っ直ぐに振り下ろす部下1。


「だよな……っと!」


ブゥン……ズドォォォォン!!


ただでさえ、予定のスケジュールが遅れていたこともあって、リーダーもすぐに気を取り直すと、手に持っていた妙に刃幅の広いスピアを振り回して、その勢いでゾンビの首を()ね飛ばした。


……しかしである。


ウ〜……

ア〜……


首から下が、3枚おろしに失敗した魚のような姿になったり、もはや原型をトドメていなかったり、あるいは首から上を吹き飛ばされたりしているというのに、ゾンビたちはその動きを止めなかったのである。


それはこの世界における一般的なゾンビの特徴であった。

生命活動を停止してしまった生き物は、特定の条件が重なると、アンデッド化してゾンビやスケルトンのような魔物(?)になるのだが、一旦、そのような姿になってしまった物たちは、まさに、文字通り『アンデッド』そのもの。

燃やして灰にするか、薬品を掛けて化学処理するなどしないかぎり、その動きを止めることはなかったのである。

それはたとえ、肉片になったとしても、例外ではなかった。


そして、この部隊のメンバーたちは、残念なことに、皆が魔法を使えなかったのである。

そのせいで彼らは、ただひたすらに武器を振り回して、文字通り肉塊にすることでしか、ゾンビたちを無害化出来なかったのだ。

結果、相手が動きの鈍いゾンビだとしても、1体当たりの対応時間が他の部隊よりも長くかかるために、なかなか前進できずにいた、というわけである。


「マジでやりたくねぇ……」

「隊長がそんなこと言ったらダメですよ」

「これ絶対、夢に出るんだろうな……」


それからも、町人の面影をそのまま残したままのゾンビを、丹念に小さな肉片に分解しつつ、疲れた表情を浮かべなら、延々と手を動かす魔法が使えない騎士たち。


と、そんな時、彼らに対し、再び司令部から連絡が入る。


『こちらHQ。魔法が使えないせいで彼女が出来ず、ゾンビ以外にモテない、可哀想なフォックストロット隊に告ぐ』


「「「うるせぇ!黙れ!」」」


『今、そちらに増援を送った。くれぐれも失礼のないように。オーバー』


「は?増援?失礼のない?何言ってんだ?」


通信士の発言の意味が理解できず、首を傾げる部隊長。


すると、間もなくして彼らのところへと……くだんの増援がやって来た。


カサカサカサ……

カサカサカサ……

カサカサカサ……


「「「…………!」」」


その黒光りする物体を見て、HQの通信士が失礼のないように、と口にした意味を理解する部隊員たち。

どうやら皆、その黒い昆虫のような姿をした集団に喧嘩を売るとどうなるのか、よく知っているようだ。


そしてもう一人、昆虫たちの後ろから増援がやってくる。


「……主らが、援護を希望する部隊か?」


白と青を基調としたメイド服に身を包んだ、人の姿の飛竜である。


その姿を見て……


「「「…………!?」」」


まるで信じられないものを見たかのように眼を擦りなら、驚きの表情を浮かべる騎士たち。

その驚き様は、飛竜の問いかけにすら答えられないほどのものだったようだ。


「ふむ……。どうも、皆、我らの姿を見ると、様子がおかしくなるようだ……。まぁいい」


そう口にして、騎士たちから視線を外し、そして目の前で緩慢な動きをしているゾンビに眼を向ける飛竜。

それから彼女は、近くにいた黒い小さな昆虫の群れ……のような姿をしたポテンティアに対して、言葉を向けた。


「ポテちゃん殿。主はどうする?右から喰い破るか、左からやるか吹き飛ばすか……」


その問いかけに対し、虫たち(?)の方から、ポテンティアの声が聞こえてくる。


『そうですね……。ちなみにドラゴンちゃんさんは、この哀れな犠牲者たちを一人で相手できますか?』


「うむ。それは問題無いが……」


『では僕は、路地裏や家の中に潜んでいる者たちを優先して処理させていただきます』


そう言って、早速、路地裏へと消えていくポテンティア。

狭い通路や、閉鎖空間の中で戦うことを考えるなら、彼の小さな体はうってつけ、と言えるだろう。


飛竜にもそれが分かっていたのか、不満そうな表情を一切見せること無く、彼女は眼の前にいるゾンビたちを形付けることにしたようだ。


「……ではゆくぞ?」


彼女がそう口にした瞬間、


ボフンッ!


と突然、周囲に立ち込める濃霧のような白いガス。

それが風で晴れて、中から現れたその姿を見た騎士たちは……


「やっべ、鼻血出そう……」

「もうブレスに巻き込まれて死んでも悔いはないぜ……」

「っていうか、いっその事、吹き飛ばしてほしいよな……」


……どういうわけか、皆、恍惚な表情を浮かべながら、メイド服を着た大きな飛竜(ドラゴン)の背中に、熱い視線を送っていたようだ。

王城の職員といい、騎士たちといい、どうやら皆、飛竜に対して、特別な感情を抱いているようである。


そうとは知らない飛竜が、大きく息を吸って、そして吐いた瞬間、


ドゴォォォォ!!


と彼女の口から、ゾンビたち目掛けて、真っ直ぐに飛んでいくドラゴンブレス。


こうして飛竜による一方的な戦闘が始まったのである。

あと2話で8.1章は終わる予定なのじゃ。

というか、もう書き終わっておるのじゃ?

どうやって終えるかを悩んだのじゃが、重要なことを忘れておったゆえ、そのフラグを回収するついでに、いやなんでもないのじゃ。


さてさて。

昨日は筆が進むやも知れぬ、と言っておったのじゃが、実際のところ、あまり進んでおらぬのじゃ。

いや、新しい話を書く速度自体は早かったのじゃが、数が出ておらぬというか……。

今日はまだ少し時間がある故、追加であと1話くらい、書き溜めておこうと思うのじゃ。

じゃがのう……未だ展開の仕方で悩んでおることがあってのう……。

まぁ……とりあえず書いて、気に食わなかったら、別の選択肢を採ってみようかのう。

次の2話をあっぷろーどする前に、の?


あ、そうそう。

一つ、書いておって、思ったことがあるのじゃ。

……『ゾンビ』が『バンビ』に見えてくる謎現象……。

狐特有のゲシュタルト崩壊の一種かのう?


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