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8.1-31 北への旅路31

ドゴォォォォン……

ドドドド……

ズドォォォォン!


そんな重火器を使用している戦場のような音が鳴り響くノースフォートレスの外側では、


「ゾンビの肉って……食えるんだろうか……」


と呟きながら、


ジュー……


と肉を焼くエプロン姿の狩人と、


「ふむふむ。つまりその、じゅーしーな肉は、ちょっとそこの町で獲って来たゾンビの肉、ということじゃな?」


ネジが抜けたような発言をしているテレサ、それに、


「えっ?!きょ、今日の晩御飯、いらないかもだし……」


それを真に受けて戸惑っているイブの姿があった。

狩人はいつも通りに夕食の準備を、そしてテレサとイブは非戦闘員(?)なので、町の外で留守番することになったようである。


ちなみに。

それ以外の戦闘可能なメンバーたちは、犠牲になった人々に永久の安らぎを与える……という名目で、ゾンビ退治のために、ノースフォートレスへと出かけていた。

この轟音も、恐らくは兵士たちではなく、ワルツやルシアたちによって引き起こされてたものではないだろうか。


まぁ、それはさておいて。

先程までは焼いている肉を見つめてよだれを飲み込んでいたイブが、顔色を変えて後ずさりしていく様子を不憫に思ったのか、狩人は苦笑を浮かべながらフォローの言葉を送った。


「……イブ。勘違いしてるようだが……いま焼いているのは、ゾンビの肉じゃなくて、ただのニクだ。たとえゾンビの肉が食えたとしても、さすがに皆が食う夕食には出さないから安心してほしい。ゾンビたちも元は人間だったわけだしな……」


すると今度は、イブが戸惑ってしまう原因になった発言をしたテレサが、呆れたようにこう口にする。


「まったく……。妾の高尚な冗談が分からぬとは、まだまだじゃのう?イブ嬢。少し考えれば、ゾンビの肉を焼いておるわけではないことくらい、匂いを嗅げば分かるじゃろ?犬の獣人なわけじゃし……」


それに対し、イブは、不機嫌な様子で言葉を返した。


「ううん、分からないかもだもん!テレサ様、ゾンビの臭いを嗅いだことあるかもなの?イブは無いかもだけど……。どうする?もしもいい匂いがしたら……」


「まぁ、いいとこ、漬物みたいな臭いはするかも知れぬが……香ばしいかったり、柑橘系のいい匂いがしたりなんてことは、まず無いはずなのじゃ。のう?狩人殿?」


そう口にして、料理中の狩人へと話を振るテレサ。

すると狩人は、徐々に暗くなりつつあった空へと、遠い視線を向けて、何かを思い出すようにこう言った。


「まぁ……人によるんじゃないか?」


「「えっ……」」


と、日常の5分の1程度の時間を女騎士(?)として生活している狩人の発言に耳を疑うテレサとイブ。

戦闘経験豊富な狩人は、どうやらゾンビと戦ったことがあって、その臭いを知っているらしい。


「そ、それはどういう意味なのじゃ?まさか……人によっては、いい匂いに感じるとでも言うのではないじゃろうな?」


「そ、そうかもだもん。どんな臭いフェチかもだよ、その人……」


そう口にしつつも、臭いフェチに心当たりあった様子の2人。

その人物は噂によると情報部にいるらしいのだが……まぁ、その話は置いておこう。


そんな2人の驚いている様子を見た狩人は、補足を兼ねて、詳しい話をすることにしたようだ。


「2人の期待を壊すような発言をして申し訳ないと思うが……私が嗅いたことのあるゾンビの匂いは、あまり嗅ぎたくない種類の腐臭だったぞ?で、人によるかもしれない、って言った理由なんだが……実は、前にゾンビの臭いだけで、種類を特定できる、って豪語する強者がいたからなんだ。きっと彼なら、ゾンビのことをいい臭いだと思ってるんだろうな。……まぁ、うちの兄貴なんだけどな」


「「えっ……」」


「いや、お前ら……そんな視線をこっちに向けても、うちの家系全体が変なフェチズム持ってるってわけじゃないからな?」


と、その存在自体がフェチズムの塊のような狩人が口にするのだが、それに対してテレサもイブも反論することはなかったようだ。

もしかすると、2人とも、周囲に妙なフェチズムを持っている者が多くいるために、感覚が麻痺してしまっているのかもしれない……。


それから今度は、今日もお気に入りのメイド服を着込んでいたイブが、狩人に対してこんなことを問いかけた。


「狩人さんのお兄さんって……どんな人かもなの?」


「兄さんたちか?そうだな……。どんな人って説明するのが中々に大変なんだが……全部で4人いて、そして全員が全員……貧弱だったな……」


「「……あ、うん……」」


お察し……。

まさにその通りの表情を浮かべて、閉口してしまうテレサとイブ。

2人は、狩人の視点から見て、一体どんな人物なら、屈強な男性と言えるのかを想像したようだが……結局、納得できるような人物像は浮かんでこなかったようだ。

ミッドエデン共和国を守る筋骨隆々な騎士たちのその頂点に立つ細身の狩人から見た男性像には……どうやら虚数成分が含まれていたようである。


それから2人が、狩人の兄たちと、屈強な騎士たちに対して同情の念を抱いていると、狩人が何かを思い出したのか、不意に眉を顰めて、再び口を開いた。


「そう言えば、一番上の兄さんだけは、武術でも頑張ってたような気がするな。年が離れてるから、あまり話したことはないんだが、王都の武術コンテストで、準優勝まで行ったことがあるらしいぞ?」


「そ、そうかもなんだ……(なのに貧弱かもなの?)」


「王都の武術コンテストのう……。妾は聞いたことが無いのじゃ?」


「王族も毎年、観覧してたみたいだから、テレサも見て……あ、すまない。記憶を失ってるんだったな……」


「いや、気にしておらぬのじゃ。昔のことなど良いではないか。今があれば、の」


「そう言ってもらえると助かる」


そう口にして、事故で命を落としてからと言うもの、旧ミッドエデン王国の記憶の大部分が抜け落ちてしまっていたテレサに対し、申し訳無さそうな表情を向ける狩人。

それから彼女は、お詫びの証、と言わんばかりに、


「ほれ。ニクの肉が焼けたぞ?熱々の内に食べてくれ」


フォークとナイフを両手に持ってスタンバイしていたテレサと、そして同じく両手に合計4本の箸を握りしめていたイブの前に、それぞれこんがりと焼けた肉を置いた。

結果、


「いただきますかも!」

「いただきますなのじゃ!」


遠慮なく肉へと齧りつく2人。


「んー、熱いけど美味しいかも!」

「ふむふむ。まったくもってごちそうなのじゃ!」


「あぁ、ワルツの好物だからな!」


そして狩人は、2人の少女たちの反応に満足げな表情を見せると、戦い疲れて(?)帰ってくるだろうワルツのために、次なる肉を焼き始めたのであった。


なお、余談だが。

嬉しそうに口を動かしている2人が、後で本当の夕食の際に満腹で大変な目に遭うとは、この時点では露も思っていなかったようである……。

……で、結局、駄文を書くことにしたのじゃ?

まぁ、今更、駄文が2〜3話程度増えたところで、問題はないじゃろう。


さて……。

今日は少しばかり(キーボード)が進みそうじゃから、今度こそあとがきをショートカットするのじゃ!

気付くと延々、有る事無い事、書き連ねておるからのう……。

少し自重すべきだと思うのじゃ。

有言実行なのじゃ?


……でも、短いと、何となく不安に駆られるのじゃ……。

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