8.1-30 北への旅路30
それからもワルツたちは、一路、ノースフォートレスを目指して、馬車を進めた。
その間にも騎士たちの馬車は完成度を高め……遂には2階建ての小屋が30棟(?)ほどが完成したようである。
移動中、彼らは、余程暇を持て余していたらしい。
そして、月と太陽が、頭上を3回ほど通過して、今日も西の木々の向こう側に沈むかどうか、といったところで……
「ようやく着いたわね……」
一行は、木々の間に見え隠れする石造りの壁で囲まれた町、ノースフォートレスに到着した。
とはいえ今は、壁の残骸のようなものしか無く、すっかり廃墟のような見た目に変わっていたようだが。
すると早速、
「……アルファー隊は、これより威力偵察任務に入ります」
「ブラボー隊、作戦行動開始」
「チャリー隊はブラボー隊のバックアップを行う」
と、指揮系統と行動が妙に近代化された騎士たちが、アトラスの指揮の元、ガスマスク込みのフル装備の状態で、ノースフォートレスの町の中へと駆け出していく。
流石に今回ばかりは、ふざけること無く、真面目に突入する様子だ。
ワルツは、その様子を後ろから眺めながら、無線通信システムを起動すると、今頃王都にいるだろうユリアに対し、声を送った。
『ユリア?着いたわよ?どうする?道案内する?町には誰もいないみたいだけど……』
すると間髪入れずに、
『えっ……やっぱり迎えに来てくれn……いえ、何でもありません』
と返ってくるユリアからの返事。
そのレスポンスの早さから推測するに、恐らく彼女は、常に無線機を握りしめて、今か今かとワルツからの連絡を待っていたのではないだろうか。
それからユリアは、神妙な様子で、ワルツへと問いかけた。
『……やはり、ノースフォートレスは……ダメですか?』
『今、騎士たちが調査に向かったから、しばらくすれば詳細が判明するんじゃないかしら?でも、カタリナやユキたちから聞いた話だと……あまりいい話は期待できないでしょうね……』
『……分かりました。今回は、王都で報告を待ってます。軍の再編成も必要でしょうし……』
『そうね。頼むわ。……あ、そうそう。この事、コルテックスにも伝えといてくれる?できれば、あの娘が変な行動に出ないように、誘導する感じで』
『えっ……ちょっ……それは……無理……』
とユリアが狼狽えたような反応を返した時のことだった。
『お姉さま〜?ちゃんと聞こえてますよ〜?』
どういうわけか、異様にクリアなコルテックスの声が、無線の電波に乗ってきたのだ。
『……この通信、暗号化してるんだけど?』
『え〜?何を言っているのですか〜?ブロードキャストモードで、全員に聞こえてますよ〜?』
『……えっ?あれ?(設定ミスってた……?)』
『まぁ、そんな細かいことはどうでもいいのです。それで、どうだったのですか〜?ノースフォートレスの内部は〜?』
『……まだ見てないわよ(あれ?やっぱり暗号化してるわよ……ね?おかしいわね……)』
と、自分の通信システムを確認しても、暗号化されていたために、首を傾げるワルツ。
なお原因は、コルテックスが通信の暗号化をわざわざ解除して、それを再送信していたからだったりする……。
一人だけ留守番を言い渡されたことに対する、ささやかな反乱なのだろう……。
とはいえ、特に重要ではない内容の会話だった上、ちょうどコルテックスに言いたいことがあったワルツは、そのまま彼女へと、要件を伝えることにしたようだ。
『でさ。この町に騎士たちを置いていくことにしたから』
その瞬間、
「「「……えっ?!」」」
と一斉に反応する、周囲の騎士たち。
そんな彼らの様子を見て……
「……あ。ブロードキャストモードだったわね……」
そこにいた兵士たちに支給されていたすべての無線機へと、自身の声が届いていたことに、ワルツはようやく気づいたようだ。
一方、コルテックスは、そんなワルツの後悔などいざしらず。
アトラスたちからの事前連絡や、姉の一言で大体の事情を把握したらしく、
『あ〜、そうですか〜。なら、急いで兵士を派遣する必要は無いですね〜』
とだけ言って、無線通信を切断してしまった。
一言でいうなら、作戦成功で勝ち逃げ、といったところだろうか。
その結果、ワルツは、騎士たち対して事情の説明をしなくてはならなくなってしまったようである。
この件については、まだ正式決定ではなかったこともあって、アトラスによる通達も行われていなかったので、彼の部下(?)である騎士たちには未だ伝わっていなかったのだ。
「え、えっとね……」
自身に集中する戸惑いの表情に対し、ほぼ同じような困惑の表情を返しながら、言葉に悩んでしまった様子のワルツ。
予定ではアトラス経由で騎士たちに通達を出して、自分たちは面倒事に関わらないように、そっとこの場から立ち去る、という算段だったのが、コルテックスのせいで、すっかり狂ってしまったらしく、どう対処していいものか、と彼女は困ってしまったようだ。
ただ、幸いなことに、彼女の近くには、本来の司令官(?)たるアトラスの姿があった。
そんな彼が、姉の言動を見聞きしなかったことにするわけもなく、すぐに事態を察して、口を挟もうとするのだが、
「いいか?お前ら……」
そこまで言ったところで……どういうわけか、ワルツが彼の前に手を出して、その発言を中断させる。
「……姉貴?」
ワルツの行動が、普段とは違ったためか、驚いたような表情を浮かべて、事情を問いかけようとするアトラス。
しかし、ワルツからその返答が戻ってくることはなく……。
その代わり彼女は、弟に小さく笑みを返してから、目の前にいるたくさんの騎士たちに眼を向けると、自分の口を使って話し始めた。
「……あまり、人前で話すことは得意ではないから、語弊があるかも知れないけど聞いてくれるかしら?アトラスから報告があったと思うけど、今このノースフォートレスには……残念ながら人が誰もいないみたいなのよ。事故でみんな死んじゃってね……。だけど、ここは、ミッドエデンでも北方を守るために中心となる町であって、そして砦でもある。だから、わかってると思うけど、放置するわけでにはいかないの。それで、今回は、あなた達に白羽の矢が立った、っていうわけなのよ。だから……」
そしてワルツは、一旦周囲を見渡してから、こう言った。
「……この国を守るために、みんな、一役買ってくれないかしら?」
その瞬間、
「はい!任せて下さい!」
「絶対にこの地は死守してみせます!」
「例え、この命に替えても!」
うおぉぉぉぉ!!
と、雄叫びを上げる周囲の騎士たち。
それから彼らは意気揚々と、ノースフォートレスへと立ち去っていったようだ。
そして、騎士たちの姿が疎らになったところで……
「……おい、姉貴。心変わりでもしたのか?」
アトラスが、普段と比べても、かなり珍しい行動をしたワルツに対し、改めて問いかけた。
するとワルツは、赤みがかった空に向かって、遠い視線を向けながらこう口にする。
「騎士たちがどうして付いて来たのか……その理由をずっと考えてたのよ。ただ歩くだけで、何も無いはずなのに、どうして付いてきたのか、って。最初は暇だったから付いて来ただけだと思ってたのよ?ま、少なくない人たちが、実際、そう思っているかもしれないけどさ」
「まぁ……そうだろうな。訓練ばかりで身体を持て余してる奴らも、少なからずいるだろうからな」
「でもさ?こんな長い距離を、はいそうですか、って簡単について来ようなんて思うかしら?それも本当ならボレアスに行くつもりなんだから、さらにここから4倍以上の距離を移動するのが分かってるはずなのに……。だから……気づいたのよ。彼らは役に立ちたいんだ、ってことにね」
と、空に向けていた眼を細めるワルツ。
そんな姉の発言に、アトラスは甚く感心してしまったようだ。
結果、彼は……それ以上、聞かなければよかったにも関わらず、余計な一言を口にしてしまう。
「そうか……。ちなみに、奴らは、誰の役に立ちたいんだと思う?」
「それはもちろん……テレサのためじゃないの?知らないけど」
「…………」
「だって、あの娘、曲がりなりにも、この国の元王姫なわけだしさ。そう考えると、騎士たちは、彼女の護衛を兼ねて付いてきてる、って解釈できるじゃない?ま、そんなわけだから……テレサの顔に泥を塗るわけにもいかないし、今回は仕方なく、私が説明した、ってわけ。……この分の恩を後でテレサから回収しなきゃね」
その言葉を聞いて、
「……はぁ……」
と大きなため息を隠さずに吐くアトラス。
「……何よ?何か言いたいことでもあるわけ?」
「いいや。何でもない。ただ、いつも通りだな、って思っただけだ」
そして彼は、姉の発言に疲れたような表情を見せながら、先に行った騎士たちを追いかけたようである。
ただ、その表情には、どこか安堵したような色が含まれていたようだが。
ウルトラスーパー突貫工事(執筆)なのじゃ。
修正に時間をかけたり、書いておる途中で電話したりと忙しくて、気づいたら、日付変更10分前だったのじゃ。
というわけで、今日はあとがきを大きく省略させてもらうのじゃ?
……多分の。
特に補足することは無いと思うのじゃ。
まぁ、問題があるとすれば……この8.1章……どこまで書けば良いか悩んでおることくらいじゃろうか……。
実は、ストックとしては、街の中で兵士たちとゾンビが戦うシーンまで書けておるのじゃ?
じゃがのう……いい加減、話を先に進めたくもあるしのう……。
それをあっぷろーどするかどうかを凄く悩んでおるのじゃ。
まぁ……明日は、おそらく、時間があると思う故、何パターンか書いて、悩んでみようかのう……。




