8.1-29 北への旅路29
夢の中で、大昔にいたという魔王ビクセンに蹂躙されていたヌルが、次に眼を覚ましたのは……
「う……うぅ……もうキノコはやめ…………はっ?!」がばっ
「あ、ヌルちゃん起きたよ?狩人さん?ご飯をもう一人分、追加ねー?」
「あいよー」
大きな月が頭の上で輝く森の中で、いつも通りに焚き火を囲んで談笑しながら、夕食を口にしていた旅の仲間たちの側であった。
「私は……一体……」
自分が夢を見ていた事は分かっていたようだが、その前にいつ眠ったのか分からず、現状が理解できなかった様子のヌル。
そんな彼女の戸惑いを察したのか、妹のユキが事情を説明する。
「えっとですね……もしかすると、薄っすらと覚えているかもしれませんが、ヌル姉様はノースフォートレスに塩を買いに行ったところで……」
そこで何故か言葉に詰まるユキ。
それには魔王特有の問題があったようだ。
というのも、このままヌルの身に何が起ったのかを説明すると……ノースフォートレスの町の中央広場まで行って、毒ガスを吸って倒れて、カタリナに救われて、そして現在に至る……というものになるはずだった。
だが、相手は、何と言っても、御年500歳を超える魔王なのである。
塩を買いに行ったはずのに、幼児でもできそうなお使いどころか、何もしない内に倒れて、ただ助けられた、という説明をすると、ヌルのプライドが傷ついてしまう……と、ユキは考えたらしい。
その結果、彼女は言葉に詰まったわけだが……少し考えた後で、あったことをそのまま説明するのはやめて、姉の背中からいつの間にか消えていたインビンシブルジェリーの事を織り交ぜ、適当に話を補完することにしたようだ。
「……実は、本性を現したインビンシブルジェリーモドキの猛攻にあって、瀕死の重傷を負ってしまいました。それでもヌル姉様は諦めること無く……背中のインビンシブルジェリーと戦い、そして勝利を勝ち取ったんです。しかし、残念なことに、そこで力尽きてしまい、カタリナ様に救われた、というわけです」
「そ、そうだったのですね……」
「はい、それは酷い戦いでした……。インビンシブルジェリーモドキの強大な魔力で、町並みはことごとく破壊され、周辺の森は焼き尽くされてしまったのです。山は吹き飛び、川は干上がり、人々はゾンビになって……」
「……えっ?」
「いや、本当に居たんですよ?ゾンビ。ですけど、結局、何もせずに放置して戻ってきましたけどね……」
と言って、うんうんと唸るユキ。
一方、そんな彼女と250年に渡って付き合い続けてきたヌルには、妹の話が半分以上、脚色されている、となんとなく分かったらしく、怪訝そうな表情を浮かべながら、当然の質問を口にした。
「…………で、どこまでが作り話ですか?」
「えっと…………最初と最後以外全部です」
「……え?」
「すみません。調子に乗ってました……」
「…………」
最後のゾンビというところが一番嘘くさいと考えていたヌルだったが、実のところは、自分が活躍したはずの真ん中当たりの話がごっそりと嘘だったことで、思わず閉口してしまったようだ。
いや、むしろ、ゾンビの話が本当だったことに驚いている、と言うべきか。
2人がそんな不毛なやり取りをしていると、彼女たちの会話の中へと、ニクの串焼きを両手に抱えたワルツと、珍しく夕食に姿を見せていたカタリナが入ってくる。
「ほら、ユキ?変な嘘ばっかついてると、後で面倒なことになるわよ?」
「仕方ありませんね。代わりに私が説明しましょう」
「えっ……えっと……本当にすみません……」
と、やってきたワルツとカタリナに対して、申し訳なさそうにシュンとしながら、謝罪するユキ。
そんな彼女の姿に、苦笑を向けたカタリナは……彼女の視点から見た出来事を説明し始めた。
「……私が駆けつけた時、ヌル様は硫黄化合物系のガスを吸って昏倒されていました。その際、どういうわけか背中から生えていたキノコに侵食され、死にそうになっていたので……私がヌル様の治療を、そしてキノコの方をシュバルが食べて、処置したんです。危なかったんですよ?もう少しで、ヌル様の背中には触手が生えるところでした」
「…………」にょろにょろ
「「……え?」」
「ふーん、なるほどね」
カタリナの説明が予想外だったためか、混沌としていく4人(+1人)の会話。
このまま放っておくと、彼女たちの説明はいつまで経っても核心に近づけず、そればかりか明後日の方向へと進んでいきそうである……。
それからユキが、着色をせず、正しい説明をして、どうにかその場の空気を正常な状態に戻してから……。
「それにしても、ホント、ゾンビとか……面倒よね……」
これまでにもゾンビ関連の面倒事に巻き込まれていた経験があったためか、ワルツは心底嫌そうな表情を浮かべながら、そんな言葉を呟いた。
それにはカタリナも同感だったようで、何かを思い出した様子の彼女は、再びドス黒いオーラを纏っていたようである。
その姿を見て、いたたまれない気持ちになったのか、ユキは少しだけ話題を変えることにしたようだ。
「え、えっと……これからノースフォートレスのことはどうするのですか?ゾンビのこととか、町並みの修復のこととか……。一応、北の要なのですよね?」
それに対し、その場で唯一、答えられる立場にあったワルツが返答する。
しかし、
「そうよね……。その問題もあったわよね……」
何も考えていなかったのか、彼女は問いかけてきたユキから、そっと眼を背けてしまったようだ。
そんな彼女の視線の先では、夕食を食べてから間もないというのに、騎士たちが、
トントン、カンカン、ギコギコ……
と、今日も馬車(?)に改良を加えていた。
やはり彼らは、騎士をやるよりも、職人をやっていたほうが性に合っているのかもしれない……。
すると、彼らを見たワルツが、
「……あ!」
と、不意に声を上げる。
どうやら彼女は、何かを思いついたらしい。
「あのさー、騎士たちをノースフォートレスの守りに置いていく、っていうのどうかしら?そうすれば、私たちの移動速度も上げられるわけだし……」
それに対し、
「そういうことですか……。その案、良いですね?」
「随分な偶然のような気がしますが……ワルツさんが言うのなら特に問題は無いのでは?」
「……もしや、ワルツ様はこのことを見越しておられた……?」
と、それぞれに反応を返すユキ、カタリナ、それにヌル。
数千人に上る町人たちが亡くなったことを考えれば、あまりにも場当たり的な提案である可能性も否定は出来なかったが、町人の死体を1週間ほど放置したことで自然発生したゾンビたちについては、今のところ事件性は低く、その上、騎士たちを置いていく事自体は、対応として間違っているわけでもなかったので、
「じゃぁ、それで行きましょうか」
ワルツはその案を採用することにしたようである。
見える……見えるのじゃ……!
新しいナレーションの書き方に目覚めた妾が……半年後に後悔しておる姿が……!
……もうダメかも知れぬ……。
まぁ、それはどうか分からぬが、少しだけ、いのべーしょんのヒントのようなものの片鱗が、見えておるような気がするのじゃ。
……2+1、あるいは3+1……。
とある部分における、文の数なのじゃ。
正確には比率と言うべきかもしれぬ。
どこの部分なのかまだ言わぬが……まぁ、効果があれば、明日、明後日の話で、読みやすくなってくるのではなかろうかのう。
おっと。
今日も無駄に、修正に時間を費やしてしまった故、日付をまたぎそうなのじゃ。
というわけで、あとがきはここいらで切り上げて、次の話の修正に入りたいと思うのじゃ?
……そういえば、最近、ストックが貯められておらぬのう……。




