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8.1-27 北への旅路27

そして、毒ガスが満ちているはずの中央広場へと、再びやって来た2人。

そこへやって来ても、ユキの呼吸が荒くなったり、具合が悪くなったりしなかったのは、脳以外の大部分をサイボーグ化していたからか……あるいは元々がホムンクルスだったからか。


そんな普段と何ら変わらない様子の彼女は、さり気なく自身のことを心配してくれているアトラスに対して、これからのミッションについて問いかけた。


「それで家を壊すって……具体的にどうするのですか?」


と、戸惑いながら聞きつつも、何処かやる気満々な表情のユキ。

するとアトラスは、真剣な表情を浮かべてこう答える。


「まだ生き残っている人がいるかもしれないから、まずは家の中に人が居ないことを確認しよう。その後なら……まぁ、好き勝手壊してしまって構わない。でもな……」


と言ってから、眉を顰めるアトラス。

その表情には、その先の言葉を口にしたくない、という色が多く含まれていたようだ。


しかし彼は、それでも言葉を続けた。


「恐らく家の中には、ガスの犠牲になった人々がいるはずだ。彼らの事を広場に連れ出してから、家を壊して欲しい。辛い作業になるかもしれないが……頼めるか?」


その言葉に対し、ユキは顔を引き締めると、重々しく首肯した。


「はい、もちろんです。たとえ亡くなっていたとしても、人々をそのまま家ごと吹き飛ばすようなことはしません。おまかせ下さい!」


「なら……俺は時計回りで回っていくから、ユキは反時計回りで頼む」


「はい。それでは反対側で」


そして、大通りを挟み、右の方の家へと消えていくユキと、左の方に消えていくアトラス。

こうして家を破壊する前に、2人による町人探しが始まったのである。




「(えーと?確か噂によると……勇者というものは、民家の箪笥(たんす)を勝手に開けて、中から金品を強奪するという話でしたね?)」


と脳内で呟きながら、早速、最初の家のドアノブに手を掛けるユキ。

この場に犠牲者がいなければ、試しに勇者の真似事してみるのも悪くない、と元魔王の彼女は考えていたようだが、流石に不謹慎だと思ったのか、真面目に人々を捜索をすることにしたようだ。

なお、その歪んだ知識が、誰から(もたら)されたものなのかは、もはや言うまでもないだろう。


そして彼女は、最初の1件目のドアノブを、()()回した。


ガチャ、バキッ、ドゴォン!


「あれ?扉が壊れかかっていたようですね?」


ユキが取っ手を握って引っ張ってみると、不思議なことに(?)、扉はその枠ごと外れてしまう。


「鍵がかかってないなんて、不用心ですね……」


などと言いながら、家の中へと入っていくユキ。

その表情に引きつった様子があったところを見ると……どうやら彼女は、自分で扉を壊してしまったことを自覚しているようだ。


ともあれ、扉が開いたので、彼女はその中へと足を進めた。


「おばんでーす……」


ボレアスの言葉(?)で『こんばんわ』を意味する挨拶を口にして、家の中へと入った彼女を待ち受けていたのは……


「……あれ?誰もいないですね?」


生活感の溢れた、誰もいない家の中の光景……ただそれだけだった。


玄関、台所、居間、トイレ、それに寝室とクローゼットの中まで……。

ユキは家主の姿を探し回ったが……幸か不幸か、寝室のベッドにすら、人の姿は無かったようである。


「留守だったのでしょうか?おじいちゃんが2、3人くらい出てきてもおかしく無さそうな雰囲気なのですが……」


と言いながらも、念のため箪笥も開けて、その中を確認するユキ。

しかし、当然だが、そこにも住人の姿は無かったようである。




結果、彼女は安堵したような表情を浮かべて外へと出てくると、次なる家へと足を進めた。

そして、先程の家と同じようにドアノブを回すのだが……


カチャリ、ドゴォン!


鍵がかかっていないというのに、再び扉を引き千切ってしまう。


「あ、これ、押して開くタイプの扉でしたか」


しかし今度は、努めて何もなかったかのように振る舞い、家の中へと入ると、ユキは何処か上機嫌な様子で、さっそく家の中の物色(?)を始めたようだ。

どうやら、彼女は、このシチュエーションを、さり気なく楽しんでいるらしい……。


「……やっぱりいないですね。留守なのに鍵を閉めないと、勇者や泥棒に入られて危ないと思うのですが……」


と、自ら扉を破壊したというのに、防犯について考えるユキ。

どうやら、この世界では、銀行の金庫並みに頑丈な扉を設置しなければ、勇者の他、魔王も家に入り込んでくるようだ。

尤も、その程度の扉で、ユキの侵入を防げるかどうかは、(はなは)だ疑問だが……。




そして、住人が居ないことを確認しながら、広場に建っていた家を半周ほど回ったところで……


「どうでした?アトラス様。人の姿はありましたか?」


「その様子じゃ、ユキの方も、誰も見つけられなかったみたいだな?」


ユキは逆側から町人を探していたアトラスと合流することになった。

捜索した結果は、生存者0、要救護者0、そして死者0……。

2人ともが予想していなかった結果になってしまったようである。


「町の人たちはどこに消えたのでしょう?」


「ここまで痕跡がなければ、神隠しみたいだよな……」


「かみかくし……ですか?」


「あぁ。原因不明で消息を断った人間に何が起ったのかを、神様の仕業として片付ける……そんな考え方だ。町の皆が揃って外出するはずもないし、それに実際、そこには……」


そこで、不意に言葉を止めるアトラス。

その様子が余りに不自然だったためか、ユキは怪訝な表情を浮かべながら理由を問いかけた。


「……何かあったのですか?」


「……なぁ、ユキ。さっきまでそこに転がってたはずの死体……知らないか?」


「……えっ?」


アトラスのその言葉を聞いて、後ろを振り返り、そして……


「……いなく……なってる?」


噴水のオブジェの直ぐ側で、横たわっていたはずの人物が、忽然(こつぜん)と消えていることに、ユキも気がついたようである。

そんな何も知らなそうな彼女の表情を見て、


「これ、もしかして、ヤバいやつじゃ……」


アトラスがそう口にした……そんな時だった。


くちゃ……くちゃ……


家々の路地の方から、あまり聞きたくないタイプの、水々しい音が聞こえてきたのである。

まるで、誰かが、しっとりとした何か……例えるなら、肉汁滴る肉を食べているかのような……そんな音だ。


「……何の音でしょう?」


音の原因が何となく分かっていて、それでもあえて問いかけるユキに対し、


「……よしユキ。容赦はいらないから、全力で家ごと、町並みを吹きとばしていいぞ?」


同じく原因が分かっていたのか、迷うこと無く戦闘許可を下ろすアトラス。


「嫌な予感がするのですが……」


「……奇遇だな?」


そんなやり取りをしながらも、ユキは腕を回し……そして音が聞こえてきた方角にあった家の壁際に立って……


「えーと……リミッター解除。最初の1発だけオーバーブーストモード……。それじゃぁ、いきますね?」


「あぁ。俺は周囲に気を配ってるから、思う存分、ぶちかましてくれ」


「すぅ…………はぁ…………てぃっ!」


ドゴォォォォン!!


地面へと斜め30度程度の角度で、その拳を突き立てて……地面ごと家々を吹き飛ばした。


その衝撃で地面が10m四方に渡って割れ、大通りの石畳は盛り上がり、家々が倒壊して……そして、


ドゴォォォォ!!


……その衝撃が引き金になったのか、噴水から猛烈な勢いで水(?)が吹き出してくる。

ついでにその反力で、


ズサーーーッ!!


5mほど後退するユキ。


そして……それと共に……


ウー……

アー……


と、現れる――――ゾンビたち。


それも1体や2体どころではなくゾロゾロ、あるいはワラワラという擬音で表現できるほどに、大量にどこからともなく沸いて出てきたようである。


それを見て、


「やっぱり……」


「まじか……」


と心底嫌そうな表情を浮かべるユキとアトラス。


どうやらこの町の人々は全員、ゾンビ化してしまっていたようである。

最近のう。

ねっとつーはん、というものに片足を突っ込んでおるのじゃ。

安くて美味しいものが届く故、重宝しておるのじゃ。


で、買うのは何も、食べ物だけではないのじゃ?

執筆の効率が上がるような小道具や、生活用品まで……簡単に安く購入できる故、すごく便利なのじゃ。


じゃがのう。

一つだけ、気に食わないことがあるのじゃ。

……まともな狐耳と尻尾が売ってない……。

コレは由々しき事態なのじゃ……!


まぁ、妾自身は、余っておるくらいじゃからいらないのじゃが……コレには深い訳があってのう。

その辺のネタが話せる機会があれば、紹介することにしようかの。


いずれにしても、この世界には獣耳と尻尾が足りておらぬと思うのじゃ!

この憤り……果たして晴らさでおくべきか〜……なのじゃ。

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