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8.1-26 北への旅路26

カコン、カコン、カコン……


と、大きな音を立てながら、刻一刻と時間を刻んでいく、教会の魔導式大型時計。

その音に過ぎ去っていく時間を感じながら、人のいなくなった暗いノースフォートレスにある、一際背の高かった教会の屋根で、アトラスとユキは次の行動をどう取るべきか悩んでいた。


「ここまでカタリナ様に来てもらう、というのはどうでしょう?」


「カタリナ姉なら確かにどうとでもなりそうだが……もしもカタリナ姉も倒れるようなことがあったらどうする?」


「で、では……エネルギアちゃんに迎えに来てもらうとか?」


「あいつ……多分、俺たちの前で曲芸飛行できるような操縦技術は持ってないと思うぞ?この前も、工房に大きな穴を開けてたし……」


それからも、必死になり、幾つかのプランを練っていく2人。

どうしても案が思いつかない場合は、無線機でワルツを呼ぶことにしていたようだが……いよいよそれ以外の方法が思い付かなくなり始めた頃、2人の眼下にあった大通りへと、知っている人物たちが不意に姿を見せた。


『ビクトールさん。やっぱり、誰もいないみたいだね?ユキちゃんたちも居ないみたいだし、みんなどこに行っちゃったんだろ?』


最近、ようやく、服を着ることにした様子のエネルギアと、


「ゲホッ、ゲホッ……!」


……苦しそうな様子の剣士である。

どうやら2人とも、ただ待っているだけだと暇だったのか、アトラスたちのことを追いかけてきたらしい。


そんなエネルギアたちの姿を見たアトラスは、教会の屋根の上から、2人に対して声を投げかけた。


「おい、2人とも!そんな低い所にいたら、ガスにやられて死ぬぞ!」


すると……


『あ!アトラスくん!』


と、口にして、暗闇の中でも分かるほどに、満面の笑みを浮かべるエネルギア。

対して、剣士の方は……


「…………」ビクンビクン


エネルギアとは対照的に、もう間もなく絶命しそうな様子である……。




そして、アトラスを見つけたエネルギアは、教会の屋根までグッタリとした剣士を引きずりながら、はしごを登ってやって来た。

彼女は屋根についたと同時に、


『えっ?ビクトールさん、また死にそうになってる……?』


引っ張ってきた剣士がグッタリとしている姿に、ようやく気がついたようだ。

結果、先に横たわっていたヌルの横に、彼のことを寝かせるのだが……それを見て、


「……気のせいでしょうか?剣士さんがここに寝てるだけで、ヌル姉様も助かるような気がしてきました」


「実際はどうかと思うが……確かにな……」


謎の安心感に包まれるアトラスとユキ。

これまで何度も死線(?)を切り抜けてきた剣士が横たわっているだけで、今回もまたどうにかなりそうだ、と思ったようだ。


一方。

いつの間にか剣士がグッタリとしていて、その変化に気づかなかったエネルギアの方は、


『ビクトールさーん……ごめんなさい……。だから眼を開けて……』ゆっさゆっさ


意識の無い剣士の肩を必死になって揺らしていたようである。

最近、力の加減が出来るようになって、剣士に褒められたばかりだったというのに、早速、彼の変化に気づかなかった自分が情けなくて仕方がないのだろう。


その姿を見て、


「さて……どうしたものか……」


と呟きながら、頭を抱えるアトラス。

新たな犠牲者と共に、エネルギアがやって来たわけだが、それによって事態が何も改善しないどこか、むしろ悪化してしまったことで、余計に頭が重くなってきたらしい。


そんな彼には、横たわる2人の他にも何やら懸念があったようである。

彼は不意に顔を上げると、突然こんなことを言い始めた。


「……よし。家と壁を壊すか」


「『……えっ?』」


ただ聞いただけでは、何の脈絡もなさそうなその発言に、耳を疑ってしまうユキとエネルギア。


それはアトラス自身も分かっていたらしく、彼は言葉を続けた。


「これから何日後かには、ここに姉貴たちが来るはずだろ?その時には、もちろんウチの部下たちも来て、この町の詳しい調査をすることになると思うんだ。でもその時……あいつらが、この前みたいに、わけの分からない姉貴の真似をして、先行して突っ走って、略奪(?)を始めても困るだろ?って、2人ともその話は知らないか……。まぁ、要するに、やって来た部下たちが、何も知らずにここに来たりなんかしたら……どうなると思う?(もちろん、説明はするつもりだけどな)」


「みんなお姉さまみたいになる……?」

『ビクトールさんみたいに倒れちゃう……?』


「そういうことだ。それにな……」


と言って、意識のないヌルと前にしゃがみ込み、2人の首元の手を当てて、血圧と呼吸が安定していることを確認するアトラス。

そして彼はこう口にした。


「……今のところ2人とも、どうにかなる、ってわけじゃなさそうだしな。それで……さっきの騎士たちの話と、この2人の容態を、足して2で割って出した結論ってのが……家と壁を壊す、ってことだ」


だが……


「えっと……あの……すみません、アトラス様。やっぱり意味が分からないのですが……」


『足して2で割る、足して2で割る……』


ユキもエネルギアも、アトラスが何を言わんとしているのか、まだ分からなかったようである。

特にエネルギアの方は、指折りで数えており、もしかすると今頃、ヌルと剣士を真っ二つにして、融合させた姿でも想像しているのかもしれない。


「つまり、家と壁を壊して、町の外に重い毒ガス発散させる、ってわけだ。そうすれば、今度、部下たちがここにやって来たときも、ガスが残ってるかもしれない窪地に入るとか変なヘマをしない限りは安全だろうし、風で流されるのを待てば、俺たちもここから歩いてエネルギアの機体まで戻れるからな」


そこまで言って、ようやく、


「なるほど。そういうことですか……」


『ここには見えない毒ガスがあるんだ……』


アトラスが何を言っていたのか理解した様子の2人。

エネルギアの方は、ガスの存在すら知らなかったらしく、ここに来てようやく自体を飲み込めたようだ。


「それで、急いで作業に取り掛かりたいんだが……2人とも手伝ってくれるか?」


「はい。もちろん手伝います!」


『町ごと吹き飛ばせばいいの?』


「いや、エネルギアは町を囲んでいる壁だけ吹き飛ばしてくれればいいんだ。家の方は俺たちがやるからな」


『おっけー。分かった!……ビクトールさん。ちょっと行ってくるけど、すぐ戻るから待っててね?』


そう言って、剣士に抱きつくように、彼の上へと覆い被さり、そして自身の身体の形状を、布状の物体へと変えるエネルギア。

それと共に、ヌルの上にも被さって……それっきりエネルギアの気配はそこから消えた。


その代わりに……


ドゴゴゴゴゴ!!


まるで重機が作業を始めたようなけたたましい音が周囲へと響き渡り……。

そして町の南方からは、月の光に照らし出された白く巨大なエネルギアの船体が現れた。

どうやら彼女は自身の意識を、マイクロマシンから本体へと戻したようである。


その姿を見て……


「さて、俺たちも行くか!」


「はい」


と、行動を始めるアトラスとユキ。

そんな彼らの行先は、最もガスが濃いと思しき町の中央広場を囲んでいる背の高い家々なのだが……。

そこで待ち受けているモノの存在を、2人とも予想していなかったようである。

難しいのじゃ……。

思い通りに行かないことがたくさんあってのう……。

特に、食事で何を食べたかによって、その日の執筆活動の効率が変わるというのが、一番たいへんなのじゃ。

やはり、夕食に炭水化物を摂るのは良くないと思うのじゃ。

……いったい何度、この話を繰り返したかのう……。

まったくもって、成長しない狐なのじゃ……。


というわけで、エネルギア嬢とビクトール殿がやって来たのじゃ。

これのう……昨日のあとがきにもあった通り、彼ら2人を出すか、暇なポテンティアを出すか、その他の人物を出すかで悩みに悩んでおったのじゃ。

この話の落とし所をどうするか……。

ワルツを呼んで、助けてもらえば、一番手っ取り早いのじゃが、話としてどうかと思うしのう……。

故に、今話でも何度かワルツの名前がちらほらと出ておったのじゃが……おっと。

まだ終わっておらぬ故、これ以上、余計なことを書くのはやめておこうかのう?


さて……。

妾は今日も忙しいのじゃ。

これから枕に襲われて、意識を刈り取られる前に、次の話を1.5話ほど書かねばならぬのじゃ。

ストックを貯めることを考えれば、そのくらいの話数を書くのが丁度いいことに気がついての?

で、その内、2話、2.5話、3話と増えて、サボるためのストックが……結局多分、増えないじゃろうのう……。

まぁ、そんなこんなで、今日もこれから、睡魔と戦ってくるのじゃ!

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