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8.1-25 北への旅路25

エネルギアに乗って飛ぶこと5分。

そして郊外に着陸し、歩くこと15分……。


「ここがノースフォートレスか……」


ワルツたちが次の目標地点にしているノースフォートレスへと、アトラスとユキとヌルの3人は、一足早く到着した。

彼らから見る限り、ノースフォートレスはしっかりと形状を保っており、爆発して無くなっている、などということは無かったようである。

……ただし、


「随分と静かですね?まだ日が沈んで間もないというのに……」


「そうだな……」


「まるで……人がいないみたいですね」


雪に閉ざされているわけでもなく、そして極端に寒いわけでもないのに、どういうわけかノースフォートレスからは、人の気配がしなかった。

もちろんそれには、町壁の外側から眺める限り、という前提条件が付くのだが……それを考慮したとしても、入町管理のための検問があるのに、そこに兵士がいない時点で、町が異常な状態にあることに間違いは無さそうだ。


結果、アトラスは、普段は身につけることのない戦闘用の黒い手袋を手にはめると、2人に対してこう言った。


「今から中の様子を見てくる。ユキとヌルは……どうする?」


女性2人に対して、ここで待っているか、とは聞かない、警戒モードのアトラス。

例えこの先、危険が待ち構えているかもしれないとしても、現魔王と元魔王に対する発言としては不適切だと考えたらしい。


そんな彼の問いかけに対して、


「行きます!」


と、即答するユキ。

今の彼女には、そう口にする以外に、選択肢は無かったようだ。

この町に来ることになった原因を作ったのが彼女自身であることを考えれば、必然の返答だったと言えるだろう。


対して、姉のヌルの方は、妹よりも慎重に考えていたようである。

恐ろしく強い小鳥――ニクのことや、今もなお背中のマントに付着しているキノコ――インビンシブルジェリーの件があったので、少し及び腰になっているらしい。

よく分からない状況の中で、下手な行動を取れば、狩りをしていた時のように、痛い目に遭ってしまうのではないか……。

彼女の中ではそんな懸念が渦巻いていたことだろう。


とはいえ、その場に一人で残るというのもどうかと思ったらしく、彼女は、なし崩し的に、行動を決めたようだ。


「……アインスが行くのなら、私も行きましょう」


その返答に対して、アトラスが、


「(ヌル……1人にされるのが嫌なんだな……)」


と思っていても、それを口にしなかったのは……この世界で造られてからこの方、否応なしに降り注いできた様々な困難が、彼に身に着けさせた危機管理能力のおかげ、だろうか……。




その後、3人は、ノースフォートレスの正門から、町へと入ることにしたようだ。

もしも、何者かによって占領されているとするなら、正面から入るというのは、悪手になる可能性があったのだが……ここまでの道程で、争った形跡が無いことから、その可能性は低い、と3人は判断したのである。


「人っ子一人いないな……」


「動物も魔物もいないですね……」


「魔力の気配も無いようです……」


と、辺りに気を張りながら、まるで罠だらけの迷宮中を進んでいくかのように、町の大通りをゆっくりと北に向かって歩いて行く3人。


それからしばらく、明かりの無い街の中を進み、周囲を建物に囲まれた中央広場までやって来たところで……夜でも(カメラ)の見えるアトラスが、何かに気が付いたのか声を上げた。


「おい!あそこに人が倒れているぞ!」


「「…………!」」


その結果、周囲を警戒しつつも、倒れている者の側へと駆け寄ろうとするアトラスたち。

しかし、彼らはそこで、足を止めることになる。


バシャッ……


「……?おんせ……いや、待て!」


街の中央広場の、さらにその中心にあった噴水のような場所から大量の湧き水(?)が吹き出し、広場の地面を濡らしている光景を見て……アトラスが何故か足を止めてしまったのだ。

それ自体は、取り立てて指摘すべき大きな変化、というわけはなかったはずなのだが……それでも彼には、直ちに足を止め無くてはならない理由があったようである。


その理由が分からなかったために、ユキが怪訝な表情を浮かべつつ、事情を問いかけた。


「どうしたのですか?そこに倒れている人がいるのに……」


「……ちょっと拙いかもしれない」


「「えっ?」」


「とにかく、今すぐ後ろに……それもできるだけ高い所に移動しよう。あと、可能な限り息はしないようにしてくれ!」


そしてアトラスは、2人に有無を言わさず、彼女たちの手を握って、来た道を戻ろうとするのだが……


ふらり……バタン……


彼が手を握った女性の内、背中から触手を生やしていた人物が、不意にその場へと倒れ込んでしまう。

その様子を見て……妹のユキが驚いて声を上げた。


「ヌル姉様?!」


「待てユキ!ヌルのことは後にして、まずはとにかく、ここから逃げるぞ!」


「一体何が……っ?!」


グイッ……


ユキはアトラスへと事情を問いかけたかったようだが、何よりも逃げることを優先していた彼の手に引っ張られたために、この場では結局、口を閉ざさざるを得なかったようである。




それから、町の外に出る……のではなく、最寄りの教会のその上部にある時計台から、教会の屋根へと出て来た2人。

その時点で、アトラスに背負われていたヌルの意識は、完全に失われていたようである。


教会の屋根の、町全体が見渡せる場所までやって来てから、事情を把握できていなさそうなユキに対し、アトラスは真っ先に問いかけた。


「おい、ユキ。お前は息が出来るか?苦しかったりしないか?」


「え?えっと……はい。普段と特に変わりはありません」


「そうか……(身体の基本的な作りは、俺たちと同じだからか……)」


「それより、ヌル姉様は一体どうして……」


と言って、教会の屋根に寝かされているヌルの側にしゃがみ込み、その容態を確認している様子のユキ。

その際、彼女の手つきが少しだけ慣れているように見えていたのは、やはりカタリナのところで共に医学を学んでいるためか。


そんな彼女へと、アトラスは説明を兼ねて、逆にこんな質問を投げかけた。


「ユキは……亜硫酸ガスって知ってるか?あるいは二酸化硫黄って名前なんだが……」


「に、にさんかいおー?」


「その様子じゃ、化学は不得意そうだな……」


と言って、苦笑を浮かべるアトラス。

しかし彼は、すぐに真剣な表情を取り戻すと、詳しい説明を始めた。


「二酸化硫黄ってのは、火山などで地面から吹き出てくる……まぁ、簡単に言えば、毒ガスのようなものだ。空気より重くて、低い所に貯まる性質があるんだが……さっきの噴水の周り、家に囲まれてたろ?その上、この町自体が、高い町壁に囲まれてて、そもそもが町の中にガスの溜まりやすい条件が揃っていたんだ。ただ……二酸化硫黄が原因だ、って断定しているわけじゃない。特に臭いもしなかったしな。だけど、恐らくそれに類する毒ガスが、あの噴水から発生していて……ヌルは昏倒しちまったんだろう」


と言ってヌルに視線を向けるアトラス。

それから彼は、残念そうな視線を眼下に広がる町並みに向けながら、こう呟いた。


「残念だが……この町の人々は恐らくもう……」


そして彼は、そこで口を閉ざしてしまう。

それ以上の言葉を口にできなかったのだろう。


そんなアトラスの様子に、ユキも心底残念そうな表情を浮かべるものの……彼女にはまだやらなくてはならないことあったためか、すぐに険しい表情に戻って、アトラスへと問いかけた。


「……ヌル姉様は大丈夫でしょうか?」


「もしも原因が亜硫酸ガスで、臭いも分からないほどの高濃度の雰囲気の中にいたとすれば、数分で命に関わる可能性も否定は出来ないが……ヌルが意識を失ってからここに来るまでの時間は1分もかかってないはずだ。ただ、絶対に大丈夫、とは言い切れないから、一旦、カタリナ姉のところに連れて行ったほうが良いかもしれないな。だがな……」


「……もう一度、ガスの中に戻らなければならない……というわけですね?」


「あぁ……」


そう言って、難しそうな表情を浮かべるユキとアトラス。

どうやらヌルの生死は、これからの2人の行動如何で、左右されることになりそうだ。

最近は予約投稿を使っておるのじゃが、今日は、最近のサボりのせいと、修正に時間がかかってしまった故、マニュアルでの投稿になったのじゃ?


予約投稿は、何かあった時でも、安定してあっぷろーどできる反面、さぼりを誘発してしまうシステムだと思うのじゃ。

そのせいか、この2週間くらいは、一気に3話くらいストックを予約しておいて、モチベーションが上がらぬ時はサボる……というのを繰り返しておるのじゃ。

まぁ、サボると言っても、書かぬ日は無いのじゃがのう?


では何故、書くのが進まぬのか、というと……今日の話もそうじゃが、どんな感じで話を進めていこうかと考えて……考え付かないことが多かったからなのじゃ。

いのべーしょんを考えると、無駄に文字数を稼ぐというのもどうかと思うしのう。

その話については、明日以降の話で語ろうと思うのじゃ。

……いつも通り、覚えておったらのう。


てなわけで……すぐに投稿できる話のストックが0なのじゃ……!

あとは……分かるじゃろ?

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