8.1-23 北への旅路23
樹齢何年になるかも分からない太い針葉樹が、背の低い広葉樹たちを押しのけるかのように生い茂る原生林の中。
そんな中を、狩人装備の狩人と、冒険者装備のユキ、それに魔王装備のヌルが、獲物を求めて進んでいた。
そして、移動を始めてから、5分と経たずに……
「…………!」
狩人は早速、何かを見つけたようだ。
「(伏せろ!)」
「「…………!」」
口の動きだけで指示を出す狩人に、大人しく従うユキとヌル。
どうやら2人には、魔物の姿が未だ見えていなかったらしい。
「(大物だ)」
「(何がいるんです?)」
「(大物?)」
「(あぁ、ニクだ)」
「「(肉?)」」
「(いや、違う。肉じゃない。ニクだ)」
と、ニクの発音に気を使っている様子の狩人。
それから彼女は、小声のままで、ニクという生物がどのようなものなのか、説明を始めた。
「(あのな。ニクっていうのは、鳥の魔物の名前だ。それも飛べない鳥の、な)」
「(飛べない鳥ですか……)」
「(私たちの国では聞いたことはないですね)」
「(そうか……。ならコレだけは知っておいて欲しい。彼らは……)」
と、狩人が続きを言おうとした瞬間だった。
ガサガサ……
ピヨッ?
彼女たちの目の前に、保護色と思しき緑色をした、手のひらサイズの小鳥が姿を現したのだ。
その姿を見た瞬間、
「見つかった!」ズサッ!
一切の迷いも見せず、その場から気配を消して立ち去る狩人。
一方、
「「えっ?」」
急に身を翻して、小鳥から逃げて行ってしまった狩人の行動に、ユキとヌルは唖然として固まってしまったようだ。
結果、彼女たちは小鳥の恐ろしさ……ニクの恐ろしさを知ることになる……。
ピヨッ!ピヨッ!
ドゴォォォォン!!
ドゴォォォォン!!
「?!」
「ぐはっ?!」
ドシャァァァァ!!
小鳥がその場で何かを啄む仕草を見せただけだというのに、何か見えない大きな力のようなモノに吹き飛ばされてしまうユキとヌル。
彼女たちは、周囲の木々や、そこに張っている蔦、それに倒木などをなぎ倒しながら、原生林の中を吹き飛び、そして……
ドゴォォォォン!!
大きな岩に当たって、ようやく止まることに成功する。
「かはっ!」
「だ、大丈夫ですか?!ヌル姉様?!」
サイボーグ化していたユキに大きなダメージは無かったらしく、彼女は自分の心配をするよりも早く、一緒に吹き飛ばされてしまった姉に対して、その安否を問いかけた。
すると、ヌルの方も、魔王装備だったためか、思ったほど大きなダメージは負っていなかったようで、
「だ、大丈夫です。アインス。それよりも、気を付けなさい!あれは……化け物です!」
岩にぶつけて痛めたのか、左腕を押さえながら、彼女もその場に立ち上がった。
「ですが、どう気を付ければいいのでしょう?攻撃された気配も無かったし、原理も分かりません……」
「と、とにかく、あの化け物の視界に入るのは危険です!ここは一旦、木陰に隠れて……」
と、ヌルが口にした時だった。
ピヨッ?
ピヨッ?
ピヨッ?
今度は3羽のニクが現れたのである。
「ふ、増えてる?!」
「に、逃げっ……」
結果、ユキたちは、まともな対抗手段を取ることも出来ず、混乱状態に陥るのだが……
サク、サク、サクッ……!
「ふぅ……2人とも、危ないところだったな」
いつも通りに気配を消して、ニクたちの後ろに移動していた狩人が、一撃で彼らの息の根を止めたおかげで、ユキたち2人はどうにか事なきを得たようである。
「か、狩人様……助かりました」
「い、一体、ニクとは何なのですか?!」
「ニクが何なのかを的確に説明するのは、なかなかに難しいかもしれない。このミッドエデン北部の森だけに住む、怪鳥……まぁ、一言で言えば化け物の一種で、大きさの割に無茶苦茶強くて、そして……ものすごく美味しい鳥だ。一応、幾つかの種類がいるんだが……この森には、ベーシックなタイプの『ニク』が生息しているようだな」
と、ニクについて熱弁を振るう狩人。
彼女の手には今まさに血抜き途中のニクが3羽ぶら下がっていて、そんな彼らを一見する限りでは、単なる小鳥にしか見えなかったが……彼らはサイボーグと魔王を吹き飛ばしてしまうほどの、紛れもない化け物だったようである。
それからも続く狩人たち3人の狩り。
血抜きし終わったニクを袋の中に仕舞い込んでから、彼女たちは、次なる獲物を求めて、再び歩き出した。
そして、10分ほど進んでいくと……
「…………!」
今度も狩人は何かを見つけたようだ。
それを察したのか、先ほどと同じように身を伏せるユキとヌル。
そんな彼女たちの様子に必死さのようなものが見え隠れしていたのは……つい今しがた、痛い目に遭ったから、だろうか。
結果、ユキは、恐る恐ると言った様子で、狩人に問いかけるのだが……
「(何かいたのですか?)」
「いや、隠れなくてもいいし、普通に喋ってもいいぞ?」
「「…………?」」
どうやら今回、彼女が見つけたものは、ニクのような化け物……というわけではなかったようだ。
「魔物じゃない。キノコを見つけたんだ。それもキクラゲの一種だ」
「「キクラゲ?」」
「あぁ。スープとかに入れると、コリッコリして美味しいやつだ。名前は確か……」
そう言いながら、目の前にあった倒木を乗り越えて、その向こう側へと足を進めていく狩人。
するとそこには、何やら触手のようなものが大量に生えた、柔らかそうな物体が生えていて……それが狩人の言うキクラゲの一種、ということらしい。
その物体の目の前まで歩いていってから、狩人はキノコの名前を口にした。
「あぁ、そうそう。インビンシブルジェリーだ」
「「…………」」
その名前を聞いた瞬間、眉をピクッと動かし、そして閉口するユキとヌル。
どうやら2人とも、何となく嫌な予感がしているようだ……。
対して狩人は、そんな2人の懸念を払うかのように、インビンシブルジェリーについての説明を始めた。
「コレな、切っても切っても、すぐに再生するから、少しずつ採取するか、長くて幅の広い特殊な器具で、石突きの部分を切らないと簡単には刈り取れないんだ」
と言いながら、インビンシブルジェリーに対し、ダガーを滑らせる狩人。
すると彼女のダガーは、何の抵抗もなくインビンシブルジェリーに埋まっていくが……その断面は、何事もなかったかのように、すぐにつながってしまう。
特段、硬いというわけではないようだが、切った側からすぐに再生してしまうため、切ろうとしてもあまり意味が無いようだ。
「ってなわけでだ。今回はダガーしか持ってきてないから、破片を持ち帰るくらいしかできないな」
そして狩人が、再びダガーを滑らせようとした……そんな時である。
「……ここは私の剣を使ってみましょう」
ヌルが魔王専用の長剣を抜きながら、そんなことを口にした。
先程、ニクに襲われた際は、不甲斐ない結果になってしまったので、ここで格好良いところを見せて、汚名返上といきたいのだろう。
「あぁ、試すのは構わないが……」
そんな彼女が魔王であることを知っていた狩人は、何が起ってもいい場所まで後退して、彼女の行動を観察することにしたようである。
こうしてヌルの戦いは始まった。
「せいやっ!」
剣の重さがどれほどのものなのか、見る限りでは分からないが、ヌルは、自身の身長にも迫るほどに長いその魔王専用の長剣を軽々と振り回し、そしてインビンシブルジェリーへと勢い良く振り下ろしたのである。
……しかし、
プルン……
ドゴォォォォン!!
大剣は、まるでそこに何もなかったかのように、インビンシブルジェリーを通過して、地面へと突き刺さってしまった。
「クッ……こ、このままでは魔王の名折れ……!」
それからも続く、ヌルの猛攻。
プルン……
ドゴォォォォン!!
プルン……
ドゴォォォォン!!
プルン……
ドゴォォォォン!!
上から振り下ろすだけでなく、横からも、そして後ろからもインビンシブルジェリーへと剣を滑らせた。
結果、インビンシブルジェリーが付着していた倒木はバラバラになるが……
「つ、強い……」
肝心のインビンシブルジェリーの本体を剥がすことはできなかったようである。
そればかりか、今度は地面に落ちて、下にあった岩へと根(?)を張り始めたようである。
「まぁ、その辺にしておけ。無理に持ち帰らなければならないものでもないからな」
「はぁ……そうですね」
狩人に説得された結果、ヌルは諦めることにしたようだ。
だが、諦めきれなかった人物がそこにいた。
ヌルの妹であり、全身をサイボーグ化していたユキである。
「これって、引っ張ったらダメなんでしょうか?」
「いや、引っ張って取れるなら誰も苦労しn」
ブチッ!
「なんか取れましたよ?」
「「…………」」
あまりにも簡単に岩から剥がせたためか、唖然として固まる狩人とヌル。
どうやら、さすがのインビンシブルジェリーも、サイボーグには勝てなかったようである。
「……で、これどうします?」
と、無数の触手が生えたような形状のキノコを、どこか気持ち悪そうに掴みながら、狩人の方へと差し出すユキ。
しかしその際、彼女は……一つ大きな間違いを犯してしまった。
そのまま、狩人へとそっと手渡せばよかったものを、気持ち悪がって不自然な体勢で差し出そうとしたせいで……
ベチャッ……
せっかく剥がした石突きの部分を、とあるモノのぶつけてしまったのである。
そう、ヌルの背中に……。
「「……あ゛」」
結果、ぶつかった側から、ヌルのマントへと急速に根を張っていくインビンシブルジェリーを目の当たりにして、思わず固まってしまうユキと狩人。
ヌル自身がそれを直接見ることは出来なかったが、流石に違和感には気づいたようだ。
「……アインス。何か背中が重いような気がするのですが、気のせいですか?」
「えっと……あの…………ヌル姉様?魔王っぽいです」にっこり……
「…………はぁ」
そして事情を察して、疲れたような表情を浮かべるヌル。
こうしてユキとヌルの狩人体験は、散々な結果で、最初の1回目を終えることになったのである……。
いつもこんな感じで書けると良いのじゃが……まぁ、無理じゃろうのう……。
というか、問題は、これからどうするのか、ということなのじゃ。
いつまでも馬車(?)の移動の話ばかりを書いておるわけにもいかぬからのう……。
というわけで、どうするかをちゃんと考えてくるのじゃ!
……ちゃんと考えても、駄文になる気しかしないがの。




