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8.1-22 北への旅路22

「……ねぇ、なんかおかしくない?」


「……む?何がじゃ?色々おかしなことがあって、ワルツがどれのことを言っておるのか、イマイチ分からぬのじゃが……」


「……そうね」


旅をしているというのに、毎夜、温かな布団で眠ることが出来たり、風呂にも入ることが出来たり、あるいは、美味しい食事が出てきたり……。

到底、旅とは思えない現状においては、多くの点において、違和感があった。


しかしながら、ワルツが違和感を感じたのは……どうやら今朝からのことだったようである。


「アレよ、アレ。後ろから付いてきてるアレのこと」


「……タイヤの付いた小屋じゃのう?」


「ね?いるでしょ?おかしくない?」


「うむ……夜の内に、どこからか、騎士たちが盗んできたのではなかろうかの?」


「いや、あの真新しい()()て感からすると……それは無いでしょ」


と言いつつ、細めた視線を、移動しながらも屋根の上で作業を続けていた騎士たちに対し向けるワルツ。

どうやら騎士たちは、移動しているこの瞬間も、馬車の完成度を高めているようだ。


「アレ……放っておいても大丈夫かしら?」


「趣味でやっておるようじゃから……別に良いのではなかろうかの?転落してしてケガを負っても、自己責任なのじゃ?」


「……なら、いっか」


テレサに怪しげな馬車を気にした様子は無かったので、結果、ワルツも、細かいことは考えないことにしたようだ。


そんな2人の会話に、狩人が入ってくる。


「いやー、ワルツ!前に私が、この森に来たい、って言ってたこと、ちゃんと覚えてくれてたんだな!すごく嬉しいよ!」


「えっと……はい(全然覚えてないですけど……)」


「お陰で今日は大収穫だった。アトラスも、騎士たちも、食材が大量に手に入って喜んでたみたいだったな」


「朝から美味しいごはんだったから、そうじゃないかと思ってました(まぁ、顔見ればすぐ分かりますけどね……)」


「あぁ。朝から腕によりをかけて、ワルツの好物を作ったからな!」


「そ、そうですか……(そう言えば私の好物って……何だったかしら……)」


日頃から狩人が事あるごとに『好物(?)』を作るために、自分の本当の好物を忘れてしまった様子のワルツ。


2人がいつも通りに、そんなやり取りを交わしているその側では、


「んー、やっぱりユキちゃんの側だと安心するかも!」


イブがユキの腕に張り付き、まるでマーキングするかのように、しきりに顔を擦り付けていたようだ。

そんな甘える様子のイブの頭に、ユキは手をそっと置くと、微笑みを浮かべながら、その口を開いた。


「安心するって言われましても、私には何も出来ませんけどね……おっと」


そしてイブの頭から、不意に手を離すユキ。

彼女は、イブが頭を撫でられたくないことを知っていたようだ。


「ごめんなさい、イブちゃん。もう少しで頭を撫でてしまうところでした」


と、まだ撫でていないというのに、申し訳なさそうにユキが謝罪すると……


「……えっ……」


眼を点にして、残念そうな表情を浮かべるイブ。

彼女のその視線が、ユキの手に釘付けになっているところを見ると……ユキになら撫でられても良い、と彼女は思っていたようだ。

むしろ、是非でも撫でて欲しい、とすら思っていたようである。


だが、イブがそれを口に出すことはなかった。

子ども扱いされることを嫌う彼女としては、撫でて欲しい、とは口が裂けても言えなかったのだろう。


対して、ユキもそれを察することはなかったようである。

それは、彼女が鈍感だったから、というだけでなく、他にも理由があったようだ。


「…………」がしっ


イブとはユキを挟んで反対側に座っていた、少女の姿をした飛竜が……何故か、イブを真似るように、ユキの腕にしがみついていたのである。


「えっと……あのー……ドラゴンちゃん?」


「む?なんだろうか?」


「こう聞くと失礼かもしれませんが……何をしてるのですか?」


と、どこか言い難い様子で問いかけるユキ。

もしも飛竜が単に甘えているだけなら、受け取り方によっては彼女のことを傷つけてしまうような発言になってしまいそうで、ユキとしては慎重に事情を問いかけたかったようである。


対して飛竜の方に、それを気にした様子はなく、彼女はそのままのユキにしがみついたままで、こんな言葉を口にした。


「深い意味は……無い。単に師匠(イブ)の真似をしているだけだ。だがこうしていると……何となく、安心できる気がするな」


「そ、そうですか……」


結果、両腕のイブと飛竜を、しばらくそのままにしておくことにした様子のユキ。


そんな彼女の姿を見て……


「なん……なんて羨ましいんだ……!」


ロリコンが謎の感情に打ち震えていたようだが……詳しい理由は不明である。


しかし、それ以上、彼が下手な発言を口にし続けることは無かった。

それには、ユリアがメンバーから抜けたことによって、御者台で道を切り開く担当が変わったことに原因があったようである。


チュン……ドゴォォォォン!!


不意に放たれた大出力光魔法で、一瞬にして蒸発する魔物、木、それに大きな岩石……。

要するに、ロリコンの隣の席には、ルシアが座っていたのだ。


「ん?ロリコンさん、何か言った?」


「…………」ブルブル!


「そっかぁ……なら良いけど、ロリコンさんとカペラさんが、変な行動を見せたら、首以外、消し炭に良いってお姉ちゃんに言われてるから、気を付けてね?」にっこり


「お、俺もか……」


ロリコンとタッグを組んだことが、運の尽きだった、と今更になって思うカペラ。

今では身体に発信機を埋め込まれてしまい、どこへも逃げられなくなった彼は、心の底から自分の行動を悔いていたようである。

まぁ、同じ状況にあるロリコンの方は、イブを眺めているだけで、幸せそうだったが……。




それからも森を切り倒しながら進み、そしてようやくノースフォートレスに繋がる街道に辿り着いて……。

一行は今日の野営地を決めて、馬車を停車することにしたようだ。


「ふぅ……やっぱり、馬車の旅は腰に来るな」


狩人はそう言いながら猫の獣人らしく、背を伸ばすと……愛用のダガーの調子を確かめ始めた。

到着早々、皆が野営の準備をしている間に、夕食の食材を狩りに出かけるらしい。


そんな彼女に対して、意外な人物が声を掛ける。


「狩人様?もしよろしければ、ボクも一緒に、狩りにお供させていただきたいのですが……」


頭の天辺から足の爪先まで、冒険者装備のユキである。


そんな彼女が、狩りに参加したい、と口にするのは、今回が初めてだった。

そのためか、いつでもお供を募集している狩人であっても……


「それは構わないが……ユキは狩りをしたことあるのか?」


すぐに首肯できなかったようである。


「えっと……無いです。無いですけど、昔から憧れていました。実は、ヌル姉様がいつも楽しそうに話していまして……」


と彼女がヌルの話を口にしようとした……そんな時、


「……アインス?私がどうという話をしているように聞こえたのですが……」


馬車を降りてからというもの、自ら荷解きを進めていたヌル本人が、2人の会話に反応して近づいてくる。


「あ、はい。狩人さんの狩りに、私もお供させてほしいという話をしていました。前にお姉さまが……魔王たるもの、一夜にして、森の中からすべての魔物たちの命を刈り取れなくてはならない……と言っていたことを思い出しまして」


「そ、そうでしたね……(あれ、言葉の綾ですよ?アインス……)」


と、内心で、話を盛ったことを今更になって後悔するヌル。


一方、狩人の方は……いたく感動したようだ。


「……分かった。2人の気持ちは、よーく分かった。そういうことなら、協力させてもらおう!」


そしてユキとヌルの手を、


ガシッ


と掴んで握手すると……狩人は必要な装備を一瞬で整え、森に対し鋭い視線を向けた。

その様子を例えるなら……お宝が眠っている迷宮に対し、今にも挑もうとしている冒険者とほぼ同じ、と言えるだろう。


そして狩人は2人に対して宣言したのである。


「では、行こうか!大物を求めて!」


「あ、はい(ボク、何も武器持ってないですけど……いいですかね?)」


「えっ……私もですか?」


宣言した後で、スタスタと先を進んでいく狩人の背中を、戸惑いならも追いかけるシリウス姉妹。

こうして、狩人、ユキ、ヌルの3人による狩りが始まったのである。

まぁ、ノースフォートレスをどうこうするまで、サブタイトルは変えないで行こうかのう。


さて。

そんなわけで、狩人×魔王×サイボーグという組み合わせの狩りが始まろうとしておるわけじゃが……誰かが極端に強い、というわけではない故、意外にバランスが取れておったり、なかったりするのじゃ?


しっかし……どうなのじゃろうかのう?

正面から戦ったなら、ヌル殿と狩人殿はどちらが強いのじゃろうか?

ユキvs狩人なら、恐らく、気配のない狩人殿の勝ちで、ユキvsヌルなら、力勝負でユキ殿の勝ち。

なら、三すくみを考えると、ヌル殿は狩人殿よりも強い、という関係に持っていくとバランスが取れるのじゃが……狩人殿がヌル殿に負けておるシーンも、そしてヌル殿が狩人殿に負けておるシーンも想像できないのじゃ……。

女騎士属性同士の戦い……とも言えるかも知れぬのう?

意外といい勝負になるのではなかろうか。


というわけで、次回は狩り話なのじゃ。

ただ、これまでの狩りとは、少し(おもむき)が違うのじゃ?

……多分の。

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