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8.1-21 北への旅路21

山岳地帯を真っ直ぐに横切り、そして、いよいよ大森林に突入する……その直前で、一行は早めに野営の準備をすることにしたようだ。

一部の騎士たちが乗っていた馬車が壊れてしまったことへの対処と、逃げ出してしまった馬代わりの魔物を再び確保するために、少し多めの休憩時間(?)を取ることにしたらしい。


そして、その他にも、もう一つ大きな理由があった。


ゴゴゴゴゴ……


町人をあまり驚かせたくないという理由から、一時的に王都へと帰還させていたエネルギアとポテンティアをこの場へと呼び寄せて、ついでに人員の交代を行うためである。

なお、交代というのは、勝手に後ろから付いてきている騎士たちのこと……ではない。


「ワールーツー……!」ドドドドド


一定期間、ワルツに会わないと、禁断症状を起こして、狩りと料理を続けていないと落ち着かなる病(?)にかかってしまった狩人と、


「……これでようやく、休暇が取れそうです……」げっそり


カタリナにこき使われて(?)、まるで数週間に渡ってまともに眠っていないプログラマのような表情になっているユキ。

それに、


「ふむ……。たまには自分の手で狩りを楽しむのも悪くないか……」


この1週間、エネルギアの中で、操縦技術をみっちりと教えてもらっていた(?)飛竜が、ワルツたちの旅に加わることになったのである。


となると、馬車の中は人口密度が高くなって、無理矢理に乗るか、誰かが馬車から降りて、歩かなければならないのだが……今回は入ってきた3人の代わりに、別の3人がエネルギアに乗って王都へと戻ることで、帳尻合わせをすることになったようだ。


「……正直、帰りたくないのですが、これも務め……!心を鬼にして帰ります!ね?後輩ちゃん!」


「えっ……でも、ノースフォートレスでは、また来て案内するんですよね?先輩」


「……ワルツ様が忘れなければね」


「ちょっ……」


「ワルツ様……私たちのこと、忘れないでください!」ぷるぷる


「……新入りちゃん。いい加減、ワルツ様に刃物を向けながら、震えるのを止めなさい……」


といったように、ユリア、シルビア、それにリサの情報局員3人組が、王都へと戻ることになったのである。

情報局の重役が、いつまでも席を外すわけにはいかなかったようだ。


「お疲れ様、3人とも。それじゃぁ、王都のことはお願いね?特に、コルテックスの足止めを、さ?」


「「「無理です」」」


「……そうよね」


と、ワルツの願いに対し、諦めの意思を即答で示す3人組。


こうして3人はエネルギアに乗って王都に戻っていくのだが、もう1人……


『……ビクトールさーーーん!!』ドドドド


ぽふっ……


「おっと、エネルギア。あなた、ようやく力加減が出来るようになったのですわね?」


『ビクトールさんがいないなんて、僕はもう生きていけないよ!』


ギュン!ガシッ!


「ふがっ?!」


『それじゃぁ、ゆーしゃ?ビクトールさん、借りてくねー』


ドドドドド……


……追加の犠牲者として、剣士が連れ去られていったようである。




そしてその夜は……それはもう、どんちゃん騒ぎだったようだ。

……まぁ、本来の意味とは違った騒ぎだったようだが。


カンカンカン!

トントントン!

ギーコギーコ!


広大な森林を前にして、暗い夜空へと響き渡る作業音……。

言うまでもなく、騎士たちが工具を片手に木を加工する音である。

つまり、馬車を失った騎士たちは、自ら不足している分の馬車を作ろうというのだ。


目の前にある大量の木々を斧(?)で切り倒して、そこから板材を切り出し、ホゾを切って、ハンマーで叩き入れて、そして部品を組み合わせていく……。

釘も接着剤も無い場合における、木々の接合方法だが……それはワルツやアトラスが教えたものではなく、彼らが自ら編み出した方法だったようだ。


結果、夜半には、一切釘を使わない馬車の第一弾が完成したようだが……ソレを新しく捕まえてきた魔物に引かせた瞬間、


バキッ……ドシャァンッ!


……バラバラになってしまったようである。


「くっ……!このままでは、明日も歩かなければならないぞ!」

「一体、何が悪かったんだ……」

「個々の部品は原型を留めているが、こっちの部品は折れてるな……」

「つまり、ここを補強すれば良いのか?」

「朝までに用意することを考えると、このままこの一号機を改造したほうが良さそうだ」


こうして朝方まで絶え間なく続いていく作業音。

どうやら彼らがアトラスから学んだことは、何も強くなるための方法だけではなかったようである。




そして翌朝。

狩人の朝は、今日も早かった。


「ふぁぁぁ〜っ……と。あー、よく寝た。しっかし、森を前にすると、テンションが上がるな!」


他の者達と違い、朝でも血圧が高めなのか、狩人に早起きが辛そうな様子は無かったようだ。

あるいは、魔物が多く住むという大森林を前にした猫の獣人の本能がそうさせるのかもしれない。


しかし、次の瞬間……彼女は眼を擦ってしまう。

もちろんそれは、眠たかったから、という理由からではない。

何やら信じ難いものを見たのだ。


「な、何だあれは……」


その予想外の光景を前に、思わずそんな声を上げる狩人。

すると、彼女の後ろから、代理司令官を務めるアトラスの声が飛んできた。


「俺も分かんねぇ……」


「アトラスか……。アトラスにも分からないなら……私に分かる訳はないな……」


と、2人並んで、()()()に対して、呆れたような視線を向けるアトラスと狩人。

そんな2人の目の前には……おおよそ300人は収容できそうな、大量の屋根付き馬車が……。


どうやら騎士たちは、夜の内に突貫工事で、不足分の馬車の作成に成功したらしい。

恐らく、彼らの中に、国産飛行艇の制作に携わっていたものが、少なからずいたのだろう。


「あいつら、騎士をしてるより、職人やってたほうが輝きそうだよな」


「なんて言ったか……前にアトラスから聞いた話で、大きな軍隊には、モノを作る種類の兵士がいる、って話を聞いたような気がするんだが……」


「あー、川に橋を渡したり、塹壕を作ったりする奴らのことか。『工兵』って種類の兵士だ。でも、乗り物を作るって話は聞いたことがないけどな……」


そう言って苦笑を浮かべるアトラス。

とはいえ彼は、そんな騎士たちの行動を、高く評価しているようだ。

もしも評価していなかったなら、直ちに止めさせていたはずなのだから……。


そしてそれは、狩人も同じだったようである。


「工兵か……。悪くないかもしれないな。ちなみに……狩りに特化した兵士はいないのか?」


「……それ、普通の兵士だろ」


「……そうか……そうだよな……」


そして残念そうな表情を浮かべる狩人。

とは言え、その表情も刹那のこと。


「……狩り特化した兵士がいないなら、これから作るまでだ!」にやり


狩人はすぐに立ち直ると、近くにいたアトラスの他、徹夜して起きていた騎士の一部を半強制的に連れて、真っ黒な木々が所狭しとひしめき合う暗い森の中へと、強くて大きな魔物を求めて今日も歩いていくのであった。

……今日は寝すぎたのじゃ。

3時ころに、ユキ殿の家で、つきたての餅を食べてから、ちょっと仮眠、と思って眼を覚ますと……世界が暗くなっておったのじゃ。

どうやら妾は、眠っておる内に、タイムスリップをしてしまったらしいのじゃ……。

……未来に向かって3時間ほどの。


まったく、アメもルシア嬢も起さぬからこんな事故が起るのじゃ……。

このままでは、年末年始に失ってしまったストックが貯められぬ故、今日はあとがきをこの辺で切り上げて、新しい話の執筆に入ろうと思うのじゃ?


でもまぁ……惰眠というものは、甘美なスイーツみたいなものじゃのう……zzz。

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