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8.1-20 北への旅路20

ゴゴゴゴォォォォ!!


トンネルに入るまで、そして入ってからも、ただひたすらにワルツたちの乗った馬車を追いかけてきていた騎士たちは……当然のごとく、大混乱に陥っていた。

轟音が鳴り響いて、視界を埋め尽くさんばかりに落下してくる大量の土砂を前に、命乞いする者や、故郷に残してきた家族に対し、別れを告げる者……。

大半の者たちはそんな反応を示していたようだが……中には、


「……グラウンドウォール!」

「穴の中に飛び込め!」

「退避だ!退避!」


地面に土魔法で穴を穿って、その中に飛び込む者や、土砂が落下してくるまでの短時間で、一気に穴の外側まで移動する者もいたようである。

どうやら、日々の大変な訓練は、彼らに危機的状況からの生還方法を身に付けさせつつあるようだ。


そんな彼らの訓練メニューを考えて、彼らの本当の上司である狩人を指導している立場にあるアトラスは……しかし、その光景を眼にしながらも、普段と変わった様子無く、指揮(?)を取っていた。


「お前ら、うろたえるな!全員待機!」


「「「ちょっ……!」」」


この状況下で、わけの分からない指令を下す上官に対して、騎士たちは思わず突っ込んでしまいそうになっていたようだが……その反面、彼らに突っ込む余裕があったのは、これから先、どのようなことが起るのか、心の何処かである程度の予想が付いていたから、だろうか。


……そして、彼らの予想は、現実のものとなる。

間もなくトンネルの向こう側が土砂に隠れて見えなくなる、といったところで……


ドゴゴゴゴ…………ピタッ


……落下してきていた土砂の動きが急に止まったのだ。

予想がついていたとは言え、その現象見て、騎士たちは唖然として言葉を失ってしまったようである。


そのためか、少女2人の透き通った声が、トンネルの中を響き渡った。


「ねぇ、ルシア?近距離で、大出力の火魔法を使ったりなんかしたらダメよ?トンネルの中、オーブンみたいになっちゃうからね?」


「う……うん」


「……もしかして、落ちてくる岩石を、本当に山ごと吹き飛ばそうとしてた?火魔法で……」


「……ウ、ウウン?ソンナコトナイヨ?」


「…………そう」


「「「…………」」」


誰から聞いても分かる、ルシアの棒読みのような声を前に、とりあえずは安堵するワルツと他一同。

その後で、ワルツとルシアの姉妹による土砂撤去作業が始まった。


ドゴォォォォン!!


……終わったようである。

いったい何が起ったのかを簡単に説明すると……山の上半分が無くなった……そう説明すれば、大体のことを分かってもらえるのではないだろうか。


結果、眩しい2つの太陽が見えるようになった、キレイなV字型の渓谷を前に、息をすることも忘れて、唖然としたまま固まってしまう騎士たち。

その他、馬車の隅の方で、ヌルが膝を抱えて小さく震えていたようだが……詳しい原因は不明である。

嘗ては暴虐の限りを尽くしたと名高い魔王である彼女ですら、怖い、と思うものでもあったのだろうか。


「これどうしよう?お姉ちゃん……」


と、重力制御魔法で土砂と岩盤を地面から切り離し、そして実際に0.5秒で融解させて、一辺が500mほどの四角いサイコロ状の巨大な物体――モノリスを5個ほど作り出したルシアは、姉に向かってそう問いかけた。


「ま、今は持っていても仕方ないから、その辺に置いてきたら良いんじゃない?どーせ帰りも町に立ち寄るんだし、町の郊外に並べておいても良いかもしれないわね?持って帰るの忘れないようにさ?」


「うん。じゃぁ、町の近くに並べてくるね?」


そう言うとルシアは、重力制御魔法で飛び上がって、5個の巨大なサイコロと共に、来た道の上空を戻っていったようである。




ガラガラガラ……


「「「…………」」」


けたたましい音を響かせながら走る馬車とは対照的に……一行を、まるで葬式のような沈黙が包み込んでいた。

皆が必要なこと以外はまったく口を開かず、そして、テイムしていた魔物が逃げ出していったために、早歩きすることを強制されていた者ですら一切根を上げず……。

皆、粛々と足だけを動かしていたようだ。


それは何も、誰かが傷ついたり、亡くなったりしたから、というわけではない。

たとえここが異世界だとしても、超常現象としか言いようのないルシアの魔法を、皆が至近距離で目の当たりにした結果である。


そんな絶対的な力を前にして、口を開くことの出来る者がいるとすれば、それは……


「……なんか、騎士たちの雰囲気、悪くない?」


彼女以上の力を持っている者か、あるいは……


「みんな歩き疲れておるからじゃろう……多分の」


彼女と同等の力を持っている者。

それかまたは……


「……私もルシアちゃんくらい、強くなりたいものです」

「いやいや、オーバースペックも良いところですわよ?!」

「……お前ら余裕だな」


その力に憧れている者たちか……


「やっぱり、一仕事の後は、お寿司でエネルギー補給に限るよねー」ぱくぱくもぐもぐ


……本人くらいのものだろう。


その中には、情報局局長であるユリアも含まれていたようだ。


「……えっ?それ本当ですか?」


耳に当てていた何かから、聞き捨てならないことでも聞こえてきたのか、不意に聞き返すような声を上げるユリア。

どうやら彼女は、誰かと無線機で会話をしていたらしい。


「「「…………?」」」


「あ、はい。私の方から伝えておきます。それでは失礼します……」


と言って、ユリアは無線機の終話ボタンを押し、会話を終えたようである。

嘗てワルツが作った無線機は、送受信をスイッチで切り替える、一般的な無線機と同じシステムのはずだったが……彼女が持っている無線機は、無線機……というよりは、携帯電話機のような使い方が出来る端末のようである。

恐らくコルテックスが作った、新しい魔導通信デバイスなのだろう。


そのことに対して、少なくない興味が湧いていたワルツだったが、彼女はそれを聞くこと無く、別のことを問いかけた。

というよりも、それ以上に気になることがあったらしい。


「……ねぇ、ユリア。雰囲気から察するに……また、碌でもないことが起ったでしょ?」


「さすがはワルツ様!よくご存知で」にっこり


「……で、何が起ったわけ?」げっそり


「……聞きたいですか?」


「ううん、聞きたくないわよ。聞きたくないけど……さっき、私の方から伝えておく、って言ってたじゃない……。あれ、どーせ、コルテックスでしょ?」


「はい」


「コルテックスったら、何で直接言ってこないのかしら……」


と言いながら、無線通信システムを使って、コルテックスに直接文句を言おうかどうかを悩むワルツ。

しかし、それ以上に、ユリアから聞かなくてはならないことがある、と判断したようで……


「で、何の話?」


ユリアに対し、話の続きを促した。

聞かなければ、余計に面倒なことになる……。

ワルツにはそんな予感があったのかもしれない。


するとようやくユリアは、事情の説明を始めた。


「実は……ノースフォートレスとの連絡が、1週間ほど取れていないようです」


「……え?」


「毎度、毎度で申し訳ないのですが、ウチの情報部所属の通信士、みんな仕事しないんですよ……。一体、どうしてでしょうね?」


「どうしてかって……どうしてでしょうね?……じゃなくて、何があったのよ。ノースフォートレスで……」


「私にもよく分かりません。ただ……最後に連絡を行った日、町の泉から湧き出る温泉の流量が、急激に増えたとかなんとか……。意味分からないですよね」


「はぁ……。もう、それで、大体、想像が付いたわよ……」


「えっ?」


ワルツの予想が付いた、という言葉に、戸惑う様子のユリア。


一方、彼女と同じ情報部員のシルビアの方は、事情を察することが出来たようだ。


「あの爆発する液体……」


「あっ……」


シルビアの呟きで、ユリアも事情を察したらしい。


要するに、爆発する液体……つまり、ノースフォートレスで何故か湧き出るニトロ化合物の水溶液が原因で、ノースフォートレスに何か問題が生じた……というわけである。

果たして、本当にそれが原因かどうかは、情報が何もない以上、何とも言い難いところだが……町ごと爆発して吹き飛んでいるかもしれない可能性が捨てきれなかったために、3人とも頭を抱えてしまったようだ。

そろそろ、サブタイトルを変えようかのう……。

旅路といえば、旅路なのじゃが……これから先は、少し旅路とは異なる話になってくる……かもしれぬからのう。

まぁ、そういう意味では、既に旅路の話ではないのかも知れぬがの。


というわけで。

前回のあとがきで書いた通り、70%程度、キャラクターのセリフ間の繋ぎを改善(かいあく)してみたのじゃ。

書いておって、すべてを変える必要はないことに気付いたゆえ、100%では無いのじゃ?


で、何を変えたのかというと、なのじゃ。

そのセリフが誰の発言なのか、特定できる説明を地の文の方でしておったわけじゃが、その構成内容を少し変えたのじゃ。

これまでセリフの直後は、『と、〜〜〜ルシア。』と書いておった割合が高かったと思うのじゃが、それを別の文に置き換えることにしたのじゃ。

そうでないと、どうしてもキャラクターの表情や仕草、様子の説明の割合が多くなって、文の使い回し感が出てしまうからのう。

例えば、『溜息を吐いた』とか『眉間に皺をよせた』とか『苦笑した』とか……パターン化しておったのじゃ。


……まぁ、その改善をしたところで、果たして本当に妾の意図通りの文が書けるかどうかは、また別の話なのじゃがのう……。

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