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8.1-15 北への旅路15

暗い夜空を低い雲が覆い尽くす、ミッドエデン中央平原。


その北方にあった町の回りには、いつの間にか無数の篝火(かがりび)が焚かれており、そこから断続的に大きな火球が飛んできては……


ドゴォォォォン!!


と、町の近くへ落下して、爆発と共に地面へとクレーターを穿っていた。

どうやら町から住人たちによって追い出された貴族などが、早速、私兵たちを引き連れて、報復にやってきたようだ。

ここに中央所属の騎士たちがいることを知っているなら、単なる悪手でしかないはずだが、それでも攻撃してきたとなると、相手側は騎士たちの存在を知らないようである。

あるいは、騎士たちに負けない、という自信があって挑発してきている可能性もあるが……その場合は、自殺行為としか言いようがないので、指揮を取っている貴族の頭がおかしくなったとしか言いようがないだろう。


それはさておいて。

その戦力は、アトラス麾下(?)の騎士たちを除けば、町人たちだけなら短時間で制圧できるほどの規模だったようである。

それでも町を総攻撃してこないところを見ると、どうやら相手側は町人たちに降伏を勧告するつもりで、これみよがしに強い火魔法を飛ばしてきているらしい。

住民たちが収める税金で貴族たちは収入を得ているので、下手な戦闘で犠牲が出て(税収が減って)しまわないよう、できるだけ事は穏便に済ませたいのだろう。


その様子を見て、3000人の騎士たちは、難しそうな表情を浮かべていた。

同胞に刃を向けるというのは、果たして、いかがなものか……。

そんな自問自答の念が脳裏を()ぎっていたのかもしれない。


だが、暴動を起こしたとは言え、弱い立場にあった町民たちを、町にいた騎士たちが見捨てるような事は無かった。

皆、塹壕を築いたり、武器の確認をしたり、配置の確認などを怠らないようにして、戦闘の準備を着々と進めていたのである。


だが、そんな彼らの部隊長たちを集めた会議で……アトラスはこんなことを口にした。


「今夜はお前らは、全員待機だ」


「「「えっ……?」」」


戦闘のブリーフィングに来たつもりが、待機を言い渡されてしまい、思わず自身の耳を疑う騎士たち。

彼らのその反応をアトラスは予想していたのか、騎士たちから質問が飛んで来る前に、彼は言葉を続けた。


「質問は……認めん」


そう言って席を立つアトラス。

これ以上は事情を聞かないで欲しい……。

彼の背中は、そう物語っていた。




視点は変わって。


爆発音を聞いて、町全体が一望できる物見櫓(ものみやぐら)までやってきたユリアたち3人は、その光景に向かって、悩ましげな視線を向けていた。


「昨日今日で追い出されて逃げていったと言うのに……思ったよりも体勢を整えるのが早かったようですね。あらかじめ準備でもしていたんでしょうか?」


と、町を取り囲むように、ぽつらぽつらと輝く篝火を見て感想を呟くユリア。


そんな彼女の隣りには勇者もいたが、彼は何も言うこと、難しそうな表情を灯火へと向けていたようだ。

同じ国にいる者同士が争おうとしているその様子を前に、未だ心境を整理できていなかったのだろう。


対して、ヌルの方は……何やら様子がおかしかったようだ。


「そうですね……。私も、もう少し、時間が掛かるかと思っていました」


と、先程まではユリアに対し、上から目線で話していたと言うのに、ここに来て何故か敬語を使うヌル。

どうやらヌルの中で、何か大きな変化が起っていたようである。


それがどうしてなのか分からず、ユリアは首を傾げながら問いかけた。


「……どうしたんですか?ヌル様?」


すると、淑やかな様子のままでヌルが返答する。


「……何の話です?」


「(何の話って……さっきと全然、喋り方が違うじゃないですか?刺々しさが無いというか……)」


と思いつつも、それを口に出すことは無かったユリア。

ヌルの態度の変わり具合に、彼女は何か地雷のような気配を感じ取ったようである。


それから細かいことを考えないようにしたユリアは、そこから見える景色に意識を向けて、情報局員らしい分析を始めた。


「えーと……ざっと5000人ってところですね。町の周囲を取り囲むように散開しているところを見ると……随分とこちらを舐めているようです。同規模の兵士と戦うことを考えるなら、戦力を分散させるというのは、一点突破されてお終いなので、よほど町の人たちには負けないという自信があるんでしょうね」


と言いながら、持っていた単眼鏡を覗き込み、そこに見えた相手の兵士たち構成を手帳に書き込んでいくユリア。

兵士の種別、装備、位置関係などなど……戦況の評価に必要な情報をまとめているようである。


それが終わった後で彼女は、ここまで自分たちに付いてきていた騎士たちの状況を確認しようと、遠くを眺めるのではなく、近くを見下ろして……そして気付いた。


「……あれ?騎士の皆さん、戦う気がなさそうですね?」


その言葉に、ヌルと勇者が反応して、2人も下を見下ろす。


するとそこには、敵が目の前にいると言うのに、最前線に設置された即席の塹壕にも入らず、単に相手の動きをじーっと眺めているだけの騎士たちの姿が……。

ただし、彼らは、談笑をしているわけでも、そして気を抜いているわけでもなく、真剣な顔をして相手のことを観察していたようだ。

その様子を見る限り、戦意を喪失した、というわけではないのだろう。


そんな彼らの動きを見て、ヌルと勇者がそれぞれに口を開く。


「皆、何をしているのでしょう?怠けているわけではなさそうですが……」


「一定の緊張を見せているところを見ると……上層部から待機の指令が出ているのではないでしょうか?」


「一体何のために?」


「そうですね……」


ヌルの言葉を受けて考え込む勇者。

しかし、騎士たちの指示系統がどうなっているのかを知らなかった彼には、明確な返答ができなかったようである。


対して、情報局局長のユリアは、勇者が知らない『何か』を知っていたらしい。


「……あー、そういうことですか」


と、雲に覆われた空を眺めて、呟くユリア。

そんな彼女に、ヌルと勇者の2人が首を傾げていると、彼女はそれ以上詳しいことを言わずに、一言だけこう言った。


「えーと……多分、見ていれば分かると思います。というか、私も見るのは初めてなんですけどね?」


「「…………」」


余りにユリアの説明が漠然としていて、眉を顰めてしまいそうになるヌルと勇者の2人だったが……彼女たちの疑問は、間もなくして、晴れることになったようだ。




住民たちの暴動を受け、町から追い出された貴族たち。

そんな彼らの怒りのとばっちりを受け、夜を徹して町の奪還作戦に駆り出されていた寄せ集めの兵士たちは……ゲッソリとした表情を浮かべていたようだ。


「眠てぇ……っていうか、何で俺らが自分の身内を攻撃しなきゃなんねぇんだよ……」げっそり

「だよな……。あの町には知り合いが大勢いるってのに……」げっそり

「しっ!あんまり変なことを言うと、聞かれるぞ……」びくびく


と内心では今回の奪還作戦に反対している様子の兵士たち。


しかし、上官からの命令に背けるわけもなく……そして、今更、町民たち側に付いて、暴動に参加できるわけもなく……。

貧乏くじを引いてしまった、と彼らは自分たちの不運を呪っていたようである。


ただ、彼らもまた、日々訓練に明け暮れる兵士の端くれ。

自ら士気を上げるかのように、気持ちを切り替えることが出来たようだ。


「まぁ、なっちまったもんは仕方ねぇ。そう言えば、投降を促す威嚇の魔法を放ってから30分経ったな……。そろそろ、上から命令が……」


と、ある兵士が呟いた直後だった。


ドン!ドン!ドン!


大きな太鼓のような音が、どこからともなく聞こえてきて、


シュー…………パンッパンッパンッ!


と3回、空で光魔法が爆ぜたのだ。

それが意味するところは……全軍前進の合図である。


「さーて、行くか」

「行きたくないけど行くか」

「さっさと終わらせて帰るか」


口々にそう言いながら、町の方へとジリジリと詰め寄っていく兵士たち。

その様子を上から見ると、町を取り囲んでいた円形の輪が、徐々に小さくなっていっている……そんな風に見えていたことだろう。


そしてその包囲網は、本来なら、抵抗する一部の町人を制圧しながら、大きな問題もなく、町の中に吸い込まれていく……はずだった。

だが、彼らが町へと辿り着くことは、できなかったようである。


何故なら……


ヒュゥゥゥゥ……ドゴォォォォン!


黒い雲を突き抜けるかのように、上空から突然何かが降ってきて……包囲網を形成する兵士たちと、そして彼らが目標地点としている町との間に割り込んできたからである。


その様子を見ていた一部の兵士たちは、思わず足を止めて声を上げた。


「何だあれ?」

「町の住人たちの放った魔法……じゃないよな?」

「気を付けろ!新手の魔物かもしれん!」


その、闇に半分溶け込んでいるのような見た目の物体に対し、警戒を強める兵士たち。

だが、彼らの警戒は……まったくの無駄だった。


ブゥン……


ドゴォォォォン!!


その物体の中央で、小さな赤い光が輝いた瞬間、300人を越える兵士たちが……空を舞っていたのである。

それが何故なのか、現在進行形で空を舞っていた兵士たちにも、そしてそんな仲間たちの姿をただ眺めるしかできなかった他の兵士たちにも分からず、皆が唖然としていたようだ。


そんな折、いつの間にか、包囲網の内側ではなく、包囲網の外側に移動していた謎の物体から、こんな声が聞こえてきた。


『おっと、宣戦布告をするのを忘れていました。ではここで宣言します。……始めましょう、戦争を』


そして……


ドゴォォォォン!!


その声の主……テンポによる一方的な虐げが始まったのである。

昨日は結局、書けなかったのじゃ……(ストックの話)。

忙しかった上、帰ってきたのが遅い時間で、頭もぼーっとしておったからのう……。

まぁ、たまにはサボっても、妾以外、文句は言うまい。


そんなわけで、この話は、次の日の朝……つまり今朝、修正したものなのじゃ。

やはり、1日でも頭を休めてしまうと……思い通りに書けぬものじゃのう。

サボりは良くないとしみじみ感じるのじゃ。


まぁ、サボりの話はここまでしておいて……。

ちょっと今、時間が無いゆえ、あとがきはここまで切り上げさせてもらうのじゃ。

これから最短でも8時間に渡る大移動が始まるからのう……。

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