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8.1-12 北への旅路12

……その結果。


「……頼んだら意外と出てくるものね?」


無理をすれば、3000人の騎士たち全員が乗れなくもない数の馬車が、町民たちから提供されることになった。

その大半が、荷車のように小さなものだったようだが、人が乗れるのなら、問題は無いだろう。

あるいは問題があるとすれば、馬車を引く馬の方だろうか。

だが、それも、アトラス麾下の騎士たちが明日の朝までにはどうにかする、ということなので、大きな問題にはならなそうである。


そんなわけでワルツたちは、1晩、この町に泊まることにしていた。

それには、馬車や馬の準備以外にも、他に理由があったのだが……それについては後ほど。


結果、騎士たちが制圧した町の宿屋の一室に陣取ったワルツとルシアとテレサの3人は、騎士たちの厳重な警備の中、今日の出来事と、そして明日からのスケジュールについて話し合っていたようである。

そんな中で、ワルツが今日の戦利品(?)について感想を呟いたわけだが……それに対して、返答したのは、演説(?)で馬車の供与を呼びかけた本人であるテレサであった。


「うむ。言ってみるものじゃのう?」


「でも、脅すのはどうかと思うけどなぁ……」


と口にしたのは、テレサから納得できる回答を聞き出せていなかったのか、昼からずっと小言を呟き続けていたルシアである。

誰よりも争いごとが嫌いな彼女にとっては、テレサの強引な方法が気に食わなかったようである。


するとテレサは、頬を膨らませて顰め面を向けてくるルシアに対し、心底疲れたような表情を浮かべながら、何度目になるかも分からない説明を始めた。

ただ、今回に限っては、いい加減、この無限ループにケリをつけようと考えていたようだが。


「じゃからのう?ルシア嬢。何度も言っておる通り、今回の件については、妾も非常に苦慮したのじゃ。口ではああ言ったのじゃが、実際に行動に移すことはないことを、主も知っておろう?」


「うん……それは知ってるけど、恐怖を使って町のみんなを思い通りにするっていうのは、どうかと思うよ?」


「ふむ……なれば、主はどうすればよかったと思うのじゃ?」


そんなテレサの逆の問いかけに、ルシアは悩んだ後……


「……やっぱり、物々交換?」


と言いながらも、難しそうな表情を浮かべた。

どうやら、お金や物の交換で、本当にどうにかなる問題だったのかを、決め兼ねているらしい。


その言葉を聞いたテレサは……どういうわけか、満足げな表情を浮かべると、ルシアに対して、再び話し始めた。


「物々交換というのなら、妾たちは既に、十分な価値を持ったモノを交換しておるのじゃ?」


「えっ?何を交換したの?」


「それはのう……馬車を供与してもらう代わりに、この町で住人たちが起こした暴動について、見て見ぬふりをする、という条件なのじゃ」


「……あ」


「まぁ、後はコルにこのことを報告しておけば、適当に対応してくれるじゃろう。もちろん、町民たちに対する貴族たちからの報復についても配慮してくれるのではなかろうかのう?」


と、いま気づいた、といった様子のルシアに対し、笑みを浮かべながら説明するテレサ。


すると、そんな2人のやり取りの中に、話を聞いていたワルツが割り込んできた。


「その話なんだけどさー……それ多分、間に合わないと思うのよねー」


「「……えっ?」」


「いやさ?確かにコルテックスは、ミッドエデンの軍隊を、狩人さん経由で掌握しているけど、彼らが紛争に割り込むためにこの町までやってくる来るのに、大体どのくらいの時間がかかると思う?」


「……ひー、ふー、みー……早くて、1週間くらいかのう?」


「でしょうね。で、その間、町民たちを守るものは、何も無いわけだけど、その間に報復を受けても無事でいられるかしら?私たちも1週間、ここで足止めを食うわけにはいかないだろうし……」


「「…………」」


その言葉を聞いて、考え込むテレサとルシア。

彼女たちは恐らく、どうすればこの町の住民たちを、1週間に渡って守り続けることが出来るのか、その方法を考えているに違いない。


なお、政府の上層部……例えばコルテックスから、報復をしないように、と呼びかける方法は、意味を成さない可能性が高かった。

前王たちが死んで、この国を共和制にした際、反対する貴族たちと折り合いをつけるために、コルテックスは彼らに対してある条件を提示したのである。


……自治政府を認めること。


つまり、ミッドエデンという大きな国の枠組みの中に、これまで通りに貴族たちの領地を認めて、その領地の中では彼らがある程度自由に法律を決めて自治をしてもいい、という折衷案(せっちゅうあん)を提示していたのだ。

それを受けて貴族たちは、ミッドエデンに共和制を導入することを認めたわけだが……そのために、今回のような暴動があっても、上層部からの命令を聞かなければならない、というルールは存在しなかったのだ。


そんな背景もあって、テレサとルシアは頭を悩ませていたわけだが……実は既にワルツの方で、町民たちを守るための具体的な策を講じていたようである。

結果、悩む2人の思考を遮るように、彼女は再びその口を開いた。


「ま、コルテックスは王都から動けないけど、今すぐに動ける人物は他にいるじゃない?それも、たった一人だけで、何万人と対等に戦うことの出来る人物が、さ」


と、ワルツが口にした瞬間だった。

窓の外……より具体的に言うなら、黒い空の彼方から、声が飛んできたのである。


『荷物をお届けに参りましたー』


その声は、黒い空中戦艦、ポテンティアの声であった。


彼の船体は、中までギッシリと詰まっていて、本来なら人も荷物も運べないはずだった。

そんな彼が、何かを届けに来たとすると、前例があるのは……


「ポテちゃんが連れてくるんだから……テンポかぁ……」

「……テンポじゃのう……」


コルテックスの姉であり、ワルツの妹であるホムンクルス、テンポくらいのものだろう。


そして次の瞬間、


ドゴォォォォン!!


と、爆ぜる宿前の大通りの道。

その様子をワルツたちが窓から覗き込むと、そこには、どういうわけか紫電を纏い、そしてゆっくりと立ち上がるテンポの姿が……。


「……あれ、何やってんのかなぁ?」


「さぁ?雰囲気作りじゃない?きっと」


「……あれ、妾にも出来るのかのう?」わくわく


「うん、無理」


「……残念なのじゃ」しょんぼり


まるで、時間か次元を越えて現れた殺人マシンのような雰囲気を纏いながら、その場で立ち上がるテンポを前に、そんなやり取りを交わすワルツたち。

なお、念のため言っておくが、テンポは服を着ているようだ。




「それで……私に何をしろと言うのですか?お姉さま。正直言って、私にはあまり暇ではないのですよ?」ゴゴゴゴ


ポテンティアに運ばれて、王都からやって来たテンポは、ワルツたちの泊まっていた部屋までやって来ると、不満げにそう口にした。


そんな彼女に対して、ワルツ……ではなく、ルシアが説明する。


「あのね、テンポ。この町にいる人たちを、怒って襲ってくるかもしれない貴族さんたちから守って欲しいの。1週間くらいでコルちゃんの派遣した兵士さんたちが来るはずだから、それまでの間、ね」


「……分かりました、ルシアちゃん。そういうことなら、後のことは私にお任せ下さい」


「ちょっと貴女、私とルシアとで、随分対応が違うんじゃない?!」


あまりにテンポの態度が素直だったためか、文句を口にするワルツ。


「それはそうではないですか?ルシアちゃんは頑張り屋さん。対してお姉さまは、いつもグータラなだけですからね。悔しかったら、何か言い返してみてはどうです?」


「い、いや、私だって、みんなの見てないところで……」


「あー、そうですか。では、その、皆の見てないところで頑張ったという成果を提示して下さい。それも今すぐに」


「ぐ、ぐぬぬ……」


唸りながら、テンポに言い返す言葉を探そうとするワルツ。

だが、結局何も出てこなかったのか、彼女は普段通りの妹からの口撃に、ただただ頭を抱えるしかできなかったようだ。

あやうく1話飛ばして、あっぷろーどするところだったのじゃ。

修正したり、新しい話を書いたりと、色々しておるからのう……。

じゃがまぁ、どうにか思い出せた故、今回の話に関しては問題はないのじゃ。

問題は……ここまでの話で、欠けておる話があるのではないか、ということなのじゃが……まぁ、大丈夫じゃろう。

多分の。


で、早速じゃが……今日はここであとがきを終えようと思うのじゃ。

朝が早い、忙しい、腰が痛い、それでも次の話を書かねばならぬ……。

どう考えても、まともに文を書いておる時間が無いのじゃ。

ということは、あとがきをさっさと書き終えて、空いた時間で書かねばならぬのじゃが……おっと。

今日(昨日)も気付いたら駄文を重ねてしまったのじゃ。


というわけで、ここいらで、あでゅー、なのじゃ!

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