8.1-10 北への旅路10
「サー!酒と肴の奪取に成功しました!」
「サー!宿屋の制圧に成功しました!いつでも泊まれます!」
「サー!街中から傷薬という傷薬をありったけ回収しました!」
「お前ら…………よくやった」がっくり
嬉しそうにミッションの達成報告をしてくる騎士たちを前に、頭を抱えながら、一応褒めるアトラス。
どうやら騎士たちは、町へと暴動の鎮圧に向かったのではなく、前回立ち寄った村でこなせなかったミッションを達成するために、突撃していったようだ。
普通、少し考えれば、町の中の異常事態に気付いて、作戦に何らかの変更があっても良いはずだが、それがなかったのは、普段の余りに厳しい訓練のせいで、彼らの思考が麻痺していたためだろうか。
まぁ、町民側からの抵抗が無くなったので、結果として暴動を鎮圧したことに変わりは無いだろう。
そのせいもあって、部下たちからの報告を聞いても、アトラスが彼らを叱ることは無かったようである。
あるいは、ミッションの内容を伝えずに、すべてを騎士たちに放り投げた自分の責任を感じているのかもしれない。
一方。
そんな騎士たちの行動を、情報局員として空からひと通り監視していたユリアは、地面に降りた後で、後輩と新人と共に報告会を開きながら、どういうわけか羨ましそうな表情を浮かべていたようである。
「……ねぇ、私たち情報局も、あんな感じの特殊部隊を作るっていうの、どうかしら?(通信士、仕事しないし……)」
「先輩……。人事権は先輩が持ってますよね?」
「ユリアお姉さま。その際は、ぜひ私を部隊長に……!」
と、それぞれユリアに対して返答する後輩と新人。
表情は2人とも180度近く異なっていたようだが、概ね、特殊部隊の設置には賛成のようだ。
その他、騎士たちの近代的な装備と作戦行動には、馬車の中で眺めていた者たち全員に、色々と思うことがあったらしく、あーでもないこーでもないと感想を出し合っていた。
皆、武器を持たずに町を制圧(?)してしまった騎士たちの行動に、よほど大きな衝撃を受けたのだろう。
まぁ、その結果については、あまり気にしていなかったようだが……。
「さて……町からの攻撃も止んだようだし、計画通り前進しましょうか」
空を見上げて、まだ昼を回ったばかりである事を確認したワルツは、今日も更に先へと進むことにしたようである。
今回の旅の目的は、その半分がボレアスに食料を提供しに行くことだったので、ここで道草を食うわけにはいかなかったようだ。
そう、この旅はまだまだ先が長いのだから。
ガラガラガラ……
「おい、来たぞ……」
「何だ、あいつら?」
「中央が派遣した騎士じゃねぇのか?」
一瞬だけ、嵐のように現れ、街中の店という店を荒らし回って……そしてすんなりと戻っていった騎士(?)たちが、隙間なく幌が閉じられた馬車に引き連れられる形で再び現れたことで、町で反乱を起こしていた人々は大いに混乱した。
とはいえ、やって来た騎士たちや馬車に向かって、彼らが攻撃を仕掛けるようなことが無かったのは、騎士たちと自分たちの戦力が比較にならないことを、よく知っていたからだろうか。
「あの先頭の馬車は……なんだ?」
「ボロっちい馬車だよな……。少なくとも、貴族や豪族が乗っているようには見えんな」
「ボロい感じを装ってるだけで、実は超高級な馬車なんじゃねぇか?」
やはり、騎士たちの前を行く馬車が気になるのか、泥で汚れた幌で包まれた馬車へと視線を向ける町民たち。
だが、2人の御者を含めて、高級の『こ』の字も見えなかったためか、皆がその馬車の中身を想像して首を傾げていたようである。
と、そんな時……
「うっぷ……もうだめかも……」
馬車の幌の隙間を開けて、不意に犬の獣人の少女が真っ青な顔を馬車の外に出し、そして……
*********(自主規制)
馬車の後ろに向かって、盛大に吐瀉した。
そして、気持ち悪そうな表情を浮かべたまま、幌の中へと顔を引っ込める。
どうやら、完全に閉ざされた馬車の中は、劣悪な環境にあるらしい……。
「……?!危ないですわね……」
「……ビクトール。あなた、少し気が抜けているのではないですか?」
「いや、お前ら、もう少し馬車から距離を取れよ……」
そんな会話を交わしながら、馬車の後ろをピッタリとついて歩く2人の冒険者とメイド(?)たち。
さらにその後を、3000人と1人の騎士たちが、真っ直ぐに街道が突き抜けている町の中を、隊列を乱すこと無く歩いていった。
その様子を見て、町人たちは、一つの結論に辿り着く。
「……これはあれだな。北の貴族にでも、禁止されているはずの奴隷たちを秘密裏に納めに行くんだろ。法律も口先だけってことか」
「じゃぁ、こいつら、ノースフォートレスの守りに就く兵士たちってことか?」
「俺……ノースフォートレスだけには、喧嘩を売らないようするよ……」
そして、先頭の馬車に向かって、様々な色の視線を向ける町民たち。
それからも、馬車と騎士たちは町の中を淡々と進み、そして街の反対側から抜けようとした……そんな時である。
ガラガラガラ……ガッコン……
町民たちが見ている前で、不意に馬車が停車したのだ。
「「「……?」」」
その光景には、町民たちだけでなく……後ろから馬車に付いてきていた兵士たちも戸惑いを隠せなかったようである。
彼らの様子を見る限り、ここで馬車が停車するという予定は無かったのだろう。
結果、そこに居た決して少なくない人々の視線が、一斉に馬車へと向けられていたわけだが……そんな中で幌が再び少しだけ開き、そこから一人の少女が顔を見せた。
銀色の狐耳と長い髪、それに和装が特徴的な、狐娘である。
その姿を見た瞬間、町中にざわめきが広がった。
「あれ……テレサ様じゃないか?!」
「そんなはずは……確か、亡くなったという話では?」
「いや、コルなんとかっていうテレサ様の影武者かもしれないぞ?」
といった噂話のようなやり取りを展開していく町民たち。
一方、騎士たちの方は、最初こそ取り乱していたものの、皆、忠誠心が高いのか、すぐに隊列を整え直したようである。
そんな者たちの様子を見たテレサは顔を顰めて……一旦、そこで振り返って幌の中に視線を向けると、その中にいるだろう人物とやり取りを始めた。
それから数秒後。
もうひとりの人物が、テレサの下から顔だけを出す。
背中まである金色の髪と、それと同じ色の狐耳を持った少女である。
彼女が顔を見せた瞬間、町民の中に動揺が広がった。
「やばい……ルシア様だ……」
「まずい……ルシア様だ……」
「俺ら消されるぞ……」
と、顔を青ざめながら、まるで猛獣から逃げるように、ゆっくりと後ずさり始める一部の者たち。
だが、全員が全員、そういった反応を見せていたわけではなかったようだ。
なにも皆が、ルシアの顔を知っているとは限らないのだから。
「……ルシア様?」
「あぁ。ミッドエデン最強の魔法使いだ」
「あれ……?テレサ様とルシア様がいるということは、もしかしてあの中には……」
そして、ごく一部の者たちは、とある結論に辿り着く。
「「「ワルツ様がいる……!」」」
そして、急に地面へと跪いて、祈りを捧げ始める町民たち。
ほとんどの者たちには、彼らの行動が理解できなかったようだが、そのただならぬ気配を感じ取ったのか、皆がどういうわけか平伏し始めた。
こうして町の中は、異様な雰囲気に包まれたのである。
んー……。
乾燥昆布以外のおつまみがほしいのじゃ……。
甘い系はプリンとゼリーがあれば、どうにかなるのじゃが、塩辛い系は昆布だけでは飽きてくるのじゃ。
流石に『塩辛』をつまみにすると、塩分が気になるしのう……。
前は、キャベツに塩という組み合わせを食べておったこともあったのじゃ。
じゃがのう……。
キャベツを分解する作業が面倒で、いつの間にか食べなくなってしまったのじゃ。
それに、味付けに塩を使う以上、やはり塩分が気になるからのう。
あるいは、増えるワカメ系の海藻を食べておったこともあったのう。
じゃが、これも、おつまみとして食べるにはあまり適しておらんかったのじゃ。
カロリーは無いのじゃが、こう、なんというか……コリコリ感がまったく無いからのう……。
……もうこれは、茎わかめを買ってくるしかないじゃろう。
サンタの爺が茎わかめをプレゼントに……持ってきてくれるはずはないからのう……。
というわけで、ちょっとコンビニに行ってくるのじゃ!
ドゴォォォォォ……!




