8.1-09 北への旅路9
町まで、あと2kmのところまで差し掛かったワルツたちは、その場にあった林の陰に、一旦馬車を止めた。
このまま進んでも、むやみに相手を刺激するだけ……。
自分たちに戦意がない以上、下手に町へと近づくのは、下策だと判断したのだ。
「なんでこの町の通信士は、この出来事のことを中央に伝えてこなかったのかしら……」
と、街の光景を馬車の中から眺めながら、首をかしげるワルツ。
彼女が見ていた町からは、魔法で作り出したと思わしき火球が、断続的に自分たちの方へと飛んできていたようだ。
どうやら先程の爆発は、この火魔法が原因で生じた爆発らしい。
そんな町には、彼女の言葉通り、中央政府と地方とを結ぶ、科学の力による電波通信設備が導入されているはずだった。
以前、コルテックスが、ミッドエデン全体に配備した、通信システムである。
本来なら、今回のような事件が生じた時は、それを使って、近隣の地方や中央政府に助けを呼んだり、援軍を求めたりする手筈になっていた。
だが……以前、サウスフォートレスで起った事件の際もそうだが、担当の通信士が機能をすることはなく、結果、コルテックスが想定したようなシステムとして、活用されていなかったようである。
電話のありがたみを皆が理解している現代世界と違って、それにどんな利点があるのか浸透していないこの世界の者たちにとっては、使える者が限られていたこともあって、無用の長物と化していたのかもしれない。
そして、システムの導入を承認したワルツも、通信士が仕事をしない理由が何故なのか分からず、腕を組みながら首を傾げていたわけだが……それについては、ユリアが何か知っていたようだ。
結果、彼女は、どこか申し訳無さそうな表情を浮かべながら、その口を開いた。
「すみません……。この町の通信士も、反乱に参加してるみたいです……」
「あっ…………そう……」
偵察に出していたリサから受け取ったレポートに、ある程度、事情を察することの出来る情報が書いてあったのか、それを見て、ユリアは怒りや焦りからプルプルと震えていたようだ。
通信士の設置が、情報局の管轄だったこともあって、トップである彼女は責任を感じているらしい。
ただ、ワルツは、通信士側の事情をある程度理解していたようである。
通信士もまた、ただの人間……。
周りの者が皆、一方方向に動いているというのに、一人だけ逆行するようなことが出来ないことを、よく分かっていたのだろう。
そのせいか、ワルツはその話はそこで区切って、話題を元の問題へと戻すことにしたようである。
「エネルギアたちには出払ってもらってるから、これ以上、騒ぎが大きくなることは無いとは思うけど……これからどうしましょうねぇ……」
と、もしもエネルギアとポテンティアがこの場にいたなら、今頃、街は火の海になっているのではないか、と思い始めるワルツ。
それから彼女が、警告と威嚇を兼ねて、街の上空へと対消滅ミサイルでも打ち込もうか、と考えていた……そんな時であった。
「……ではアルファからタンゴまで行動を開始します!」
不意にそんな声が、馬車の外側から聞こえてきたのだ。
その声に反応したのは……その言葉の意味を知っていたワルツであった。
「ちょっ……あんたたち、何やる気よ?!」
そして、馬車の幌から顔を出し、その先にいた人物へと問いかけるワルツ。
するとそこには、騎士たちを統括していたアトラスの姿があって……彼は、どういうわけか迷彩柄の軽甲冑を着込んだ100人程度の若手の騎士たちに対し、指示を出していたようである。
彼は、姉の問いかけに気付いて彼女の方を振り向くと、ハンドサインだけで『行け』と騎士たちに指令を出してから話し始めた。
「えっ?何やるかって?そりゃ……半分実戦を兼ねた、騎士たちの訓練だ。若い奴らから、折角の機会だし、ぜひ参加させてもらいたい、という申し出があってな」
と言いながら、騎士たちの背中を見送るアトラス。
そんな彼らには、武器を持った様子は無く……ただ防具を付けただけの状態で、戦場へと駆け出していったようだ。
武器は現地調達なのだろうか。
「ちょっと待って、意味が分かんないんだけど……。これ訓練じゃなくて、実戦よ?確かに、他国と戦うわけじゃないけどさ……」
と言って、騎士たちの背中に、怪訝な視線を向けるワルツ。
対してアトラスは、どこか自慢げな表情を浮かべながら、姉へと返答した。
「自慢の部下たちだ。(……本当は、狩人姉の部下なんだがな……)まぁ、姉貴は黙って見てろよ。あ、それと、何があっても手を出すなよ?」
「何があってもって……」
と、ワルツが言った瞬間だった。
ドゴォォォォン!!
町から飛んできた魔法の一部が、町へと移動中の兵士たちへと落下して、そして爆ぜたのである。
その瞬間、兵士たちは爆煙に包まれ、その姿は完全に見えなくなってしまった。
「あー……死んだわね、あれ……」
ワルツは思わず眼を細めるも、しかし
「まぁ、見てろって」
目の間で、部下が爆発したというのに、アトラスには余裕があったようである。
……その直後であった。
木っ端微塵に吹き飛んだはずの騎士たちが居た場所から、ようやく爆煙が晴れて……
「……隊列散開!」
無傷の騎士たちの姿がそこから現れたのだ。
その様子を見て、ワルツは思わず首を傾げた。
「……どうなってんの?」
「なぁに、簡単な話だ。相手側から飛んでくる魔法が、ショボかったってのと……こっち側の装備が、コルテックスナイズされていることだけだ。こういう表現はどうかと思うが……相手は生身の町民で、こちらは魔導アーマーを着込んだ機械化歩兵……みたいなもんだろう。戦力的には、赤子と大人くらいの違いはあるんじゃないか?」
と、自慢げに話すアトラス。
要するに、魔法を扱う兵士でもない相手から飛んできた火魔法など、最新どころの騒ぎではないチート級の装備を着込み、その上、良く訓練された騎士たちの前では、まったく意味を意味を成さなかったのである。
そこまで装備のポテンシャルが異なっていれば、もはや、武器などは必要無いだろう。
「というわけだから、今回は騎士たちに任せておけよ。姉貴」
「そう……。そういうことだったのね……」
アトラスの種明かしを聞いて、ようやく事の次第を把握するワルツ。
自分たちだけでどうにか解決しようとしていたら、後ろから付いてきていた兵士たちが、我先に、と出ていって、そして問題を解決しようとしているのである。
そんな状況を前に、常に問題を自分だけで抱える傾向があった彼女は、先日テレサに言われたことを思い出しながら、複雑な表情と安堵の表情を同時に浮かべていたようだ。
……まぁ、それも、妙に近代化された騎士たちの本当のミッションを知るまでの話だったようだが。
第一稿を書き上げた次の日、朝起きて……そして、話の展開が気に食わなくて、忙しいというのに朝修正したのじゃ。
とは言っても、納得には程遠いのじゃがのう。
まぁ、あっぷろーどしたのは夜じゃったがのう。
……ここまでが、更新した当時のあとがきだったのじゃ。
妾としたことが、あとがきをちゃんと書くのを忘れておったのじゃ……。
もうダメかもしれぬ……。
それで、何か書くことはないかのう……といつも通り考たのじゃが……やはり、こちらもいつも通り出てこないのじゃ……。
こういうときは、さっさと眠るに限るのじゃ?
今日一日、微分方程式と格闘しておったゆえ、頭がぱんぱんじゃからのう……。




