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8.1-05 北への旅路5

パキパキ……


沈みかかっていた巨大な月に照らし出される草原の所々で、赤と黄色の炎が、白くなりつつあった薪を折っていく……。

その一つの焚き火を眺めながら、ワルツたちは食後の団欒を繰り広げていた。


「……今日の村の人たち、どこ行っちゃったんだろうね?お姉ちゃん」


本来なら、魔王のヌルと一緒に、道具屋を襲げk……傷薬を分けてもらうはずだったルシアが、村に誰もいないことを思い出して、姉に対してそんな疑問を投げかけた。

だが、その理由をワルツが知っているわけもなく……


「そうねぇ……。私も見当が付かないわ」


彼女もただただ、首を傾げるしか無かったようだ。


そんな疑問に皆が頭を悩ませたせいか、あるいは、うつらうつらと眠り始めていた者たちが増え初めていたせいか……。

不意に会話が無くなったところで、真っ赤な薪が爆ぜ……そして、それから間もなくして、遠くから、雷鳴のような(とどろき)が皆の耳に入ってくる。


ドォォォォォン……


その音を聞いて、最初に反応したのは、かつてその轟に近い音を聞いたことのあったルシアであった。


「……また、何処かで戦争してるのかなぁ」


寒かったのか、そう口にしながら、厚手の毛布を肩に掛け直すルシア。

そんな彼女のつぶやきに、ユリアが返答した。


「いえ。ここはまだ大分、ミッドエデンの内側なので、戦場になることはありえないはずです。それに、ノースフォートレス周辺は、それほど治安が悪いわけではないですし……いや、違う意味で悪いですけど……」


と言いつつ苦々しい表情を浮かべるユリア。

どうやら彼女は、かつてノースフォートレスで起った出来事を思い出してしまったようだ。


それはさておいて。

ここが、ノースフォートレスよりも随分と南側で、ミッドエデンの中央平原と北方の森林地帯を隔てる山岳地帯にも届いていないことを考えるなら、この付近の地域が戦場になっている可能性は極めて低かった。

ミッドエデンが他の小国と抱える領土問題は、常に国境線沿いで生じるものであって、国の内陸部で争いが生じるなどということは、あり得なかったのである。

むしろ最近では、他国も経済活動に重点を置いていることもあって、国境線の位置を決める争いも、殆ど行われなくなった、と言っても過言では無かった。

故に、その音源が戦争によるものである可能性は、本来皆無のはずだったのである。


「じゃぁ、何の音かなぁ?」


「飛竜じゃないの?あの娘、また寝ぼけてブレスを放ってるとか……」


と、最近、工房の自室から、夜な夜なブレスを放っている飛竜のことを例に挙げるワルツ。

なお、その言葉を聞いた瞬間、ルシアの眼から輝きが失われたのだが、ワルツはそれに気づかなかったようだ。


その言葉に反応したのは、何もルシアだけではなかったようである。

今日もアトラスに頭をもみくちゃにされて……しかし、癖毛だったためか、あまり髪型は変わっていなかったイブも、何か思うことがあったようだ。


「……そうかもだね」


「……分かるの?イブちゃん」


「ううん。断定はできないかもだよ?だけど、飛竜ちゃんのブレスが爆発するときって、離れてると、大体こんな感じの音がするかもだから」


「ふーん……。いつも、空に向かって放ってて、光っても音はしなかったから、私にはよく分かんないかなぁ……」


その言葉に、


「あっ……」


と、何かを思い出したような声を上げて、そして真っ青な表情を見せる今日もメイド姿のイブ。

それは彼女の昼間のミッションが、村にある金貨をありったけ調達してくる、という無理難題で、不意にそれを思い出したから……というわけでは無さそうである。

どうやら彼女の脳裏に、何か嫌な予感が浮かんできたらしい。


そんなイブの様子を見て、ルシアが問いかける。


「どうしたの?イブちゃん」


「……ドラゴンちゃんがいるのは、エネルギアちゃんの中でかもじゃん?で、エネルギアちゃんの中は、閉じた空間で窓が無いかもでしょ?じゃぁ、ドラゴンちゃんが漏らしたブレスは……どこに行くんだろ、って……」


その瞬間、


「「「…………あ」」」


一斉に同じ表情を浮かべる一同。


結果、ワルツは、無線通信システムを起動して、エネルギアに安否を確認した。


「ちょっ、エネルギア?!大丈夫?!」


すると、少し間を置いた後で、


『な、何かあったの?お姉ちゃん?』


と、挙動不審なエネルギアの返答が戻ってくる。


「いや、何かあったわけじゃないけど……飛竜が寝ぼけて、おかしなことしてないかと思って……」


『カリーナちゃん?うん。特に何もしてないよ?今はお肉を食べて、お腹いっぱいみたいで、部屋で静かに寝てるみたい』


「あ、そう。ならいんだけど……」


『それだけ?』


「えぇ」


『じゃぁ、おやすみ』


と言って一方的に通信を切ろうとするエネルギア。

そんな彼女に対して、ワルツは何を思ったのか、こんな一言を口にした。


「……寝てる剣士にイタズラしたらダメよ?」


その瞬間、


『……?!』


言葉には出さなかったが、息を飲むような反応を返すエネルギア。

ワルツたちと違って今日も一日中歩き通しで、疲れていた勇者たち3人は、エネルギアの中にある彼らに充てがわれた部屋の中で、まるで死んでしまったかのように、先に眠っていたのである。

それはもちろん、剣士も例外ではなく、彼もエネルギアが特別に用意した部屋の中で寝ていたのだが……どうやらエネルギアは、そんな剣士の寝床に忍び寄って、何かをしようとしていたようだ。

まぁ、それも、ワルツが話しかけたせいで、中止せざるを得なくなったようだが……。


「……剣士、大丈夫かしら?」


エネルギアとの通信を終えた後で呟くワルツ。

それを聞いていた仲間たちが苦笑を浮かべていたのは、やはり皆、ワルツと同じような懸念を持っていたからだろうか。




その後。

その音が随分と離れた場所から聞こえていたこともあって、皆が疑問に思いながらも、就寝のためにエネルギアの中のベッドへと向かってから。

ワルツとアトラスと……それにテレサは、焚き火に新しい薪をくべながら、引き続き会話をしていた。


なお、前者2人がここにいるのは、眠ることが無いからで、夜を徹して周囲へと気を配るためである。

だが、テレサは、普通の人間と同じように、しっかりと眠るはずだったので、本来はここにいるべきではなく、明日の旅に備えて、エネルギアの中の自室で寝ていなければならないはずだった。


故に、彼女がここにいるのは……特別な理由があったからだったようだ。


「……なんか、ワクワクするのじゃ?」


「ワクワクするって……いつも通りにコルテックスと、無線で会話するだけじゃない……」


「じゃが、生きておった頃には、存在すら知らなかった、秘密の会議なのじゃ?興奮してしまうとしても、仕方ないじゃろう」


「そんなものかしらねぇ……」


と言いながら、自身とホムンクルスたちだけが参加できる、サウンドオンリーの高速会議システムを起動するワルツ。

それと同時に……頭の中までサイボーグ化したテレサも、自身の中にあった同じシステムを起動した。


要するに、死んでしまったことで、コルテックスの身体を得たテレサは、人間側ではなく、ホムンクルス側へとやって来てしまったのである。

そして今回が、彼女にとっての、最初の会議だったのだ。


『コルテックス?どう?息してる?』


と、いつも通り電波の向こう側へと問いかけるワルツ。

すると、反対側から……


『……実は呼吸しなくても、生命活動が維持できるように、改造してもらいました〜。宇宙空間でも、深海でも、なんでもござれ〜、ですよ〜?』


アトラスの代わりに議長職へと復帰して、今回は留守番をしているコルテックスから、返答が戻ってきた。

それと同時に……もう一人からも返答が飛んでくる。


『いかがですか?お姉さま。私たちを差し置いた、慰安旅行の具合は?』ゴゴゴゴ


今回、コルテックスと共に、王都で留守番することになったテンポである。

どうやら彼女は、自分のことを置き去りにした姉のことを、恨んでいるらしい……。


『ちゃんと後で、貴女のことも、回収しに行くわよ。きっと』


『いつも通り、未定の予定ですか?……仕方ありません。お姉さまがその調子なら、私の方も行動を考えようと思います。……コルテックス?マクロファージの作り方を教えなさい』


『かしこまりました〜』


『ちょっ!やめっ……』


そして、慌てふためくワルツ。


するとそのやり取りを聞いていたテレサが、自身も嬉しそうに電波へと言葉を乗せた。


『きっと、少し前までの妾なら……主らの会話を一つも理解できなかったのじゃろうのう』


『おやおや〜。妾もいたのですね〜?じゃぁ、妾にもマクロファージの作り方を伝授しますよ〜?』


『うむ。頼むのじゃ!』


『もう、本当に止めて……』


といって、頭を抱えるワルツ。


4人がそんなやり取りをしていると、今度は、女性ばかりで肩身の狭さを感じていたアトラスが、会話へと割り込んだ。


『それで、コルテックス。一つ聞きたいことがあるんだが、いいか?』


『1つで良いのですか〜?』


『じゃぁ……2つで』


『そんな簡単に出てくる質問なら、あまり重要性は高くなさそうですね〜』


と、無線通信システムの向こう側で、高をくくるコルテックス。


しかし、アトラスが口にした質問は……コルテックスにとって、そう簡単には答えられる内容ではなかったようである。


『もう少しでノースフォートレスのある森林地帯と、中央平原を隔てる山脈に到達しそうなところなんだが……この辺で何か争いごとでもあるのか?』


『……現在のところ、把握はしておりません。お兄様〜』


『そうか……』


そのたった2言で終わってしまうコルテックスとアトラスの会話。

だが、それは、2人の仲が悪かったからというわけではなく、どうやら2人ともが、きな臭さを感じている結果だったようだ。


それが分かっていたのか、ワルツは、コルテックスに対してこう言った。


『コルテックス?調査は可能かしら?』


『はい。ですが〜……恐らく、同行しているユリアたち情報局員に調べてもらったほうが、手っ取り早いと思いますよ〜?私も結局は、情報局経由での情報収集になりますし〜(本当は、お姉さまが直接動くのが一番早いのですけどね〜?)』


『いやさー……実はもう、皆、寝ちゃったのよね……。意外に馬車の旅は、疲れるみたいよ?』


『……嫌味ですか〜?』


『ほら、コルテックス。早くマクロファージの作り方を!さぁ!』


『ホント、勘弁して……』


そして再び頭を抱えるワルツ。

この分だと、彼女が工房に戻ったときには、何も残っていないのではないだろうか。

カフェインを摂ったのじゃ。

結果は……まぁ、血管収縮の作用で、頭痛は消えたのじゃ?

じゃがのう……やはり、倦怠感は消えなかったのじゃ。


そこで、妾は考えたのじゃ。

この倦怠感は、一体どこから来るのか……。

それを考えた結果……主殿に温泉へと連れて行ってもらうという、むーぶめんとに出ることにしたのじゃ!


で、実際に連れて行ってもらったのじゃが……まぁ、倦怠感は止まったのじゃ?

やはり、身体を暖めることは重要なのじゃ。

じゃがのう……。

今度は、鼻水が止まらないのじゃ。


そこで、妾は(略


(注:昨日の話なのじゃ?)

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