8.1-03 北への旅路3
ガラガラガラ……
2日目も、晴れ渡った空の下を、北へ向う馬車と人の列。
そんな中、通りがかった農夫と思わしき老人たちの、自分たちに向ける筆舌に尽くし難い表情に気付いたワルツが、ニッコリと笑みを浮かべて手を振って……そして彼らが必死になって逃げていく姿を、怪訝な表情で見送りながら……。
彼女は馬車の後ろから景色を眺めていたテレサに対して、おもむろにこんなことを言い始めた。
「テレサさー、元の貴女はこの世界出身な訳だけど、この世界に関する知識や記憶が無くなってるのよね?」
「う、うむ……。面目ないのじゃ……」
「いや、別に謝らなくても良いんだけど……。ってことはさ?今の貴女って……この世界にやって来たばかりの頃の私と、大体同じ状況にあるってことよね?」
「同じ状況……じゃと?」
「そう。つまり、変に目立って、誰かに眼を付けられたくない、的な感じ」
「「「…………??」」」
その言葉を聞いて、首を傾げ、そして眉間に皺を寄せる一同。
どうやら皆、ワルツが何を言ってるのか、解らなかったようである。
一応、ルシアは、そのことについて一定の理解はあったものの、今は180度真逆の状態にあったので、苦笑を浮かべてしまったようだ。
だが、記憶を失ってしまったテレサにとっては、本当の意味で、良く分からない話の内容だったようである。
そのせいか、周囲の者たちの反応に気付いた様子を見せること無く、彼女はワルツに対して返答を始めた。
「まぁ、一人きりではない故、寂しいとか、恥ずかしいとか、そういった感覚は無いのじゃ。皆で行けば怖くない、というやつかのう?じゃがまぁ……もしも一人きりなら、見えるものすべてに怯えておるかも知れぬがの」
「でしょー?それってさ、人生いきる上で、重要な事だと思うのよねー」
一体何が重要なのかは不明だが……そこで一旦言葉を区切って、ニッコリと笑みを浮かべるワルツ。
そして彼女は、その碌でもない笑みの理由を話し始めた。
「……ってなわけで、せっかくだし、みんなでその気分を味わってみない?」
その瞬間、
「「「えっ……」」」
「お、お姉ちゃん?どうしたの急に……」
「……それがワルツ様の願いなら……」
と、大半が戸惑い、一部に同意の表情を見せる仲間たち。
そんな彼女たちに対して、ワルツは追加の説明を口にする。
「だってさ?さっきも言ったけど、今のテレサって、この世界のことをよく覚えてないらしいじゃない?で、私も、最初は何も知らなくて……ということはよ?今の私が、テレサに対して、この世界のことをより効果的に説明するためには……以前、私が経験したものと同じ環境に置くべきだと思うんだけど、どうかしら?でも……それをテレサ一人にやらせるっていうのはどうかと思うから、皆で一緒にやるのはどうかな、と思って」
その言葉に最初に反応したのは、実際にその経験のあるルシアだった。
「えっとー……じゃぁ、まずは、どこかの酒場に、食べ物を分けてもらいに行かなきゃ……じゃなくて、その前に、私みたいな子を探さなきゃダメかなぁ?」
「いや、そりゃどうかと思うわ……。ま、でも、お金を持たずに酒場に突撃するのは良いかもしれないわね」
「「「…………」」」
そんなワルツの言葉を聞いて、色々と思うことがあったのか、様々な色の表情を見せる仲間たち。
その大半は、もしもここに狩人がいれば、ごく当たり前にやりかねない、と思っているのではないだろうか。
その際、ワルツの提案に対して、ネガティブな反応を見せていた者も少なからずいたようだが、全員が全員、ネガティブ……というわけではなかったようだ。
特に、今回のイベント(?)の主役であるテレサは、むしろ積極的だったようである。
「ふむ……。つまり、口車で酒場の店主を丸めて、食事を頂いてこい、というのじゃな?」
「……もしかして、本当にやる気?」
「うむ。もちろんなのじゃ!ワルツがやれというのなら、火の中、水の中……たとえどんな苦行だったとしても、妾は必ず成し遂げてみせるのじゃ!」ゴゴゴゴ
「えっ……う、うん……」
テレサが思いの外、やる気満々だったせいか、戸惑ってしまった様子のワルツ。
やはり、基本的な頭の作りは、ワルツとテレサとで、大きく異なるようだ。
と、そんな中。
今日は朝から復活していたユリアが、嬉しそうにその場に立って、2人の会話に口を挟む。
「それでは、私がテレサ様のサポート役を務めまs」
「却下」
「えっ……」
「いや、だって、貴女の場合、相手が生き物なら、幻影魔法で何でもありじゃない……。酒場の店主が食べようとしていた昼食を、食べたように錯覚させて、奪取するとか……」
「えっと…………はい……」
「残念だけど、今回は場合、貴女にとっては役不足も良いところよ?」
「分かりました……」
そして乗り出していた身を床に下ろして、しょんぼりとするユリア。
そんな彼女の反応に、申し訳なさを感じたのか……。
ワルツは平等性を考えて、こんな提案を口にした。
「それじゃぁ、公平に、あみだクジで決めましょう?」
………………
そして厳正なるクジ(?)の結果。
「なんで私……」
「うむ!テンションが上ってきたのじゃっ!」
どうやら、今回の件を最初に言い出したワルツが、テレサと共に、次に立ち寄る村の酒場へと突撃することになったようだ。
ミッション内容は、ワルツが実際に経験した通り、『日本の500円玉で、この世界の食事を確保する』、である。
なお、あみだクジを引いた際、他のメンバーたちも、組み合わせと目的が決まったようだ。
具体的には、
・テレサ-ワルツ:食事の確保
・ルシア-ヌル:傷薬の確保
・ユリア-リサ:宿の確保
である。
エネルギアの内部を含めるのなら、他にもカタリナやユキ、それにイブや飛竜もいるのだが、カタリナとユキは寝たきりのリアの治療、飛竜はエネルギアの操縦技術を学んでいて、イブは……慣れない馬車の旅のせいで、尻尾が千切れそう(?)になってしまっていたので、今日ここにはいなかった。
そのせいで、ここには7人しかいなかったのだが……そうなると、2で割り切れないために、ペアを組めない人物が、1人生じることになってしまうだろう。
今回、そんな、配慮の行き届いていない小学生のグループ分けのように溢れてしまったのは……シルビアであった。
「……あれ?私は?」
そう口にしながら、馬車の中を見渡して、自分のペアとなる人物がいないかを探すシルビア。
だが、突然、どこからともなく、新しい仲間が沸いて出て来るわけもなく……。
結局彼女は、悲しげな表情を見せると、一人でミッション(新しい住居の獲得)を遂行ことに決めたようだ。
何もせずに馬車の中で待機する、という選択肢ではないところは、彼女らしいと言えるかもしれない。
なお、その場にはロリコンとカペラもいたのだが、2人はクジの組み合わせに含まれず強制的に『奴隷』だったので、グループ分けの中には含まれていない。
そして、眉をハの字にしながら座り込んで俯いているシルビアに対し、ワルツは困ったような表情を浮かべながら、こんな提案を口にした。
「そうねぇ……。後ろから勇者たちが付いてきてるはずだから、彼らに声を掛けるっていうのはどう?」
「えっ……」
「ごめんね……。誰か余るとは思って無くて……。何だったらシルビアは、無理に参加しなくてもいいわよ?あるいは、誰かの所に混ぜてもらっても……」
と、そこまでワルツが言ったときのことだった。
「……いえ。これも試練!大人しく勇者様方と一緒に、このイベントに参加させてもらいます!」ビシッ
シルビアはそう言って敬礼すると……そのまま馬車の外へと飛び立っていってしまった。
どうやら彼女は、さっそく事の次第を、勇者たちに打ち明けに行ったようだ。
「シルビアって、いい娘よね……」
「後輩ちゃん、いつも全力ですからね……」
「自慢の先輩です」
と、離れていくシルビアの黒い翼に向かって、眼を細めるワルツ、ユリア、それにリサ。
だが、彼女を一人、勇者たちのところへと向かわせたせいで大変なことになるとは……この時点では誰も気付いていなかったのであった。
……そして妾は風邪をぶり返してしまったのじゃ……。
昨日は少々、寒い思いをして、身体が怠かったところを、消炎鎮痛剤でごまかしつつ、執筆しておったからのう……。
それが今日になって、ぼでぃーぶろーのように効いてきたのじゃ……。
とは言っても、朝方は調子が良かったのじゃがのう……。
そう言えばのう?
今日は初期の頃の話を、1話だけ修正したのじゃ。
具体的には『1.2-05話』なのじゃが……やはり半年前と3ヶ月前にぼやいた通り、『1.2-04話』とは書き方が異なっておったのじゃ。
これはもうダメかも知れぬ……。
まぁ、頭を使って考えておる以上、時間と共に文が変化していくことは仕方ないのじゃがのう?
さて……。
今日は調子が悪い故、ストックをあと2つくらい書いたら、眠ろうかのう。
恐らく、月曜日も、帰ってこれぬじゃろうし……。
なんで師走は、こんなにも、忙しいのじゃろうか……。




