8.1-01 北への旅路1
「旅、のう……」
どこまでも延々と続いていそうな、その北へ繋がる街道を見て、大きく溜息を吐きながら、そう呟くテレサ。
そんな彼女対して、隣を歩いていたワルツが、首を傾げながら問いかけた。
「何よ?随分と、不満そうじゃない?」
するとテレサは、背負ったリュックの位置を調整しつつ、ワルツに対して返答する。
「旅自体は、妾も大好きなのじゃ。四季の空気を感じたり、見知らぬ土地の情景や歴史を楽しんだり、仲間たちと親交を深めたり……。それ自体には何も不満は無いのじゃ。……じゃがのう……」
それだけ言うと、テレサは青い空を眺めた。
するとそこには……
ゴウンゴウンゴウン……
ゴウンゴウンゴウン……
と、白と黒の巨大な空中戦艦が2隻浮かんでいて……
「他にも……」
そして後ろには……
ザッザッザッ……
無数の王城職員たちが隊列を成して、延々とつながっていた。
その様子はどこからどう見ても、行軍、である。
「これ、旅って言うのかのう?」
「ま、いいんじゃない?エネルギアとポテンティアがいれば、宿代が浮くし、何かあったら何時でも皆で帰れるし……。後ろの連中がなんで付いてきてるかは知らないけどさ……」
と言いながら、ワルツもテレサを見習うように後ろを振り向いた。
そこには前述の通り、王城職員たち……もとい、騎士の面々が連なっていて、その先頭には議長専属騎士のアトラスがいたようである。
どうやら今回の旅は、テレサの精神的なリハビリという目的だけでなく、彼らの訓練も兼ねているらしい。
とはいえ、ワルツにも、そしてテレサにも、勝手に付いて来た彼らのことは、正直どうでもよかったようである。
実際、テレサは、彼らへの興味がまったく無いかのように前を向くと、隣りにいたワルツに対して、こんなことを呟いた。
「……すまぬのう、ワルツ」
「え?何よ、急に改まって……」
「こうして妾のために、時間を割いてくれたことじゃ。すべては身勝手な妾が悪かったというのに……」
「え?いや、別に、テレサのことなんて、これっぽっちも考えて無かったけど?」
「……そこはせめて、うん、と言ってほしかったのじゃ……」がっくり
「うん」
「…………はぁ」
ある一定以上、親しくしようとすると、逃げるような反応を見せるワルツを前に、疲れたように溜息を吐いてしまうテレサ。
そんな彼女たちの後ろには、ルシアとイブに挟まれるような形で、今回、強制送還することになったヌルが付いてきていた。
なお、彼女の妹のユキの方は、カタリナたちと一緒に、エネルギアの艦内にいるようである。
「…………」
まるで、犯罪者が後悔するように、申し訳無さそうな表情を浮かべて、何も言わずトボトボと歩いていくヌル。
そんな彼女に向かって、いつも通りにメイド服を来ていたイブが口を開いた。
「あのー……ヌル様?もしかして、気分悪いかもなの?」
するとヌルは、首を振りながら返答する。
「いえ、そういうわけではありません、メイド長。ただ……ワルツ様とお別れするのが酷く悲しくで、そして妹たちに会うのが凄く嫌なだけです……」げっそり
「それ、多分、ヌルちゃんが悪いんじゃないかなぁ?」
と、現魔王に対し、友人に向けるような言葉を使うルシア。
全世界を探しても、ヌルに対して、『ちゃん』呼ばわり出来る人間は、恐らく彼女くらいしかいないのではないだろうか。
一方、ヌルの方に、それを気にした様子は無かったようだ。
「確かに、国の政を放り出してこの国にやって来た私が悪いのは分かっています。でも……いいではないですか?500年に1回くらい、こんなことがあっても……」
「本当に、500年に1回だけ?」
「……ひゃ、100年に1回?」
「……本当かなぁ?」
「……すみません。20年に1回くらいあるかもしれません……」
と、徐々にサボりの周期を小さくしていくヌル。
この分だと、実際には、年数回のペースでボレアスを抜け出しているのかもしれない。
そして。
彼女たちの更に後ろには……
「……どうして皆さん、歩いてボレアスに行こうと思ったんでしょうね?」
「さぁ?テレサ様が歩いて行きたい、って言ったからじゃないですか?」
「ダイエットですかね?」
情報局の有翼人種3人が、馬車に乗りながら、PCのような端末と大量の書類に眼を通しつつ、そんなやり取りを交わしていた。
そんな彼女たちの乗っているこの馬車は、臨時のミッドエデン情報局……そう言えるのかもしれない。
と、そんな折、不意にユリアが顔を上へと向けて、それと共に奇声を上げた。
「……うわぁ……」
「どうしたんですか?ユリアお姉さま?」
「そうですよ、先輩。急にうめき声なんて上げて、どうしたんです?」
「……酔ったわ……」
「「えっ……」」
「エネルギアちゃんに乗って移動してた時は、まったく揺れなかったから良かったんだけど、この馬車は……ねぇ。……うっぷ」
「ちょっ……や、やるなら、外にぶちまけてくださいよ?!」
「っていうか、吐く前に、エネルギアちゃんの所に行ってくださいよ……」
するとユリアは、真っ青な顔を、再び白い幌の向こう側へと向けながら、ゆっくりと呟いた。
「……上司が、歩いてるのに……私たちだけが、エネルギアちゃんの中でヌクヌクとしてるなんて……出来るわけないじゃない……!うっぷ」
******(自主規制)
「ちょっ!……うっぷ」
「や、やめっ!……うっぷ」
そして、連鎖反応を起こすかのように、顔色を青くしていくシルビアとリサ。
こうして、ミッドエデン情報局出張所(?)は、出発から30分も経たない内に、崩壊してしまったのであった……。
そこから更に後方では……
「……ねぇ、何か臭わないかしら?」
「……言うなビクトール。前の馬車の惨状を見れば分かるだろ……」
「誰か、ぶちまけたようですね……」
前を走行していた馬車から滴る怪しげな飛沫を見て、勇者たち3人組が、怪訝な表情を浮かべつつ、その液体を避けるように歩いていた。
しかしそれは、長い冒険者生活の中で、何度も見慣れていた光景だったためか……。
特に馬車の乗員を心配する様子もなく、淡々と歩いていたメイド勇者が、難しそうな表情を見せながら、首を傾げてこう言った。
「果たして今回の旅……私たちは一体、どんなことをすれば良いのでしょう?」
すると剣士が、後ろから付いてきているアトラス他、ミッドエデン中央騎士団の大隊に眼を向けながら返答する。
「そうですわね……。狩人が来ていないことを考えるなら、毎食の食材を調達することが、とりあえずの役割ではないかしら?」
それに対し、賢者が補足する。
「コレだけの人数の行軍だ。食料の確保はそう容易ではないぞ?俺たちの気配を察して、狩られる側の魔物たちも、遠くへと逃げていくだろうからな……」
「そうですわね……。大量の食料を、エネルギアで運んでいますけれど、それはボレアスに持っていくための物資ですし、わたくしたちがどうにか出来るものではないですからね……」
「つまり……今回の旅における私たちの役割は、自給自足に差し支えの出そうな、大隊の方々のサポート。少数精鋭の食料調達係、というわけですね」
と、単にワルツに付いて来ただけで、特にやることのなかった勇者たちは、自分たちで考えて、とりあえずの目的を見つけたようである。
と、そんな折。
ガラガラと音を立てながら移動していた馬車が、不意に停車した。
「……なんですの?」
「さぁ?」
「まさか、故障か?」
勇者たち3人が首を傾げていると、馬車の向こう側から、事の次第を伝えに、メイド長(?)のイブがやって来た。
そして彼女は、勇者たちの前で足を止めると、こう口にする。
「……ごめんなさいかも。ちょっと、人員の整理があるから、数分停止するかもって、ワルツ様が言ってたかも?」
「……人員の整理?」
「うん……。テレサ様が、疲れたんだって……」
「「「…………」」」
そして、閉口する勇者たち3人。
どうやらテレサは、出発してまだ40分と経っていないにもかかわらず、疲労で歩けなくなってしまったらしい。
ボレアスまで、まだ1000km以上あるわけだが……この分だと、到着までに、ボレアスは食糧難で滅んでしまいそうである。
鼻が詰まって……呼吸が……出来ぬ……。
まぁ、悪寒は無くなって、それと一緒に頭痛も腰痛も無くなった故、まぁまぁ、体調は悪くはないのじゃがのう。
さて。
いきなりで申し訳ないのじゃが、明日はもしやすると書いておる時間が無いかも知れぬ故、今から準備を始めようと思うのじゃ。
一応、ストックは有るのじゃが、修正のために1時間は掛かるからのう。
というわけで、今日はあとがきを省略させてもらうのじゃ。
……え?お前は何を言ってるんだ、じゃと?
まぁ、今更じゃろう。




