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8.0-33 人生の終わりと始まり12

「日記……ですか?(そう言えばビクトール、前から頻繁に、何かメモのようなものを取っていましたね……)」


剣士がベッドの下に隠していた本が、実は、彼が毎日書いているという日記だと打ち明けられ、その結果、安堵の表情を浮かべながら、問いかける勇者。


すると、色々な意味でボロボロになりつつも、大切な日記の中から本の虫……ポテンティアを駆逐した剣士は、大切そうにその茶色のハードカバーに包まれた分厚い紙の束を胸に抱きながら、返答の言葉を口にした。


「お、お恥ずかしいのですが、これまでの冒険の記録を、皆には秘密で、少しずつ日記に(したた)めていたのですわ。特に戦闘に関しては、連携の仕方や、小さな身体の動かし方まで、できるだけ事細かく……。パーティーが強くなるための方法を、後で分析しようと思いまして」


その言葉を聞いて、先程までは真っ青な表情を浮かべていた賢者は、少しだけ顔色を変えながら、その感想を短く呟いた。


「意外だ……(……本当に俺は、賢者としてどうなのだろう……)」


と、これまで日記を書いたことが無かった様子の賢者。


そんな3人のそのやり取りを、傍から見ていたエネルギアだったが……何か根本的な部分で疑問があったらしく、剣士に向かって、こんなことを口にした。


『ねぇねぇ、ビクトールさん?にっきって……何?卑猥なことを書くための本なの?』


「いやいや、違いますわよ?エネルギア。日記というのは、その日あったことを、忘れないように書いておくものですわ。いつか読み返して、あー、こんなこともあったなー、って思い出すためのものですわね」


『ふーん』


剣士の説明に、エネルギアは納得げな表情を浮かべると……不意に彼女は、こんなことを言い始めた。


『ビクトールさんが書いてるなら……僕も書きたい!』


「えっ……いや、ダメとは言いませんけど……エネルギアは文字を書けるのですか?」


『ううん。書けないよ?』


「……文字が書けなければ、日記は書けませんわよ?日記というのは、こんな感じで、文字を記すものなのですから」


と言いながら、持っていた日記を、適当に開いて、その中身をエネルギアへと見せる剣士。

すると、エネルギアは、その中にあった1ページを指差して、こんなことを口にする。


『あっ、これ!この部分だけ、文字は書いてないけど……こんな風に絵だけでも良いんでしょ?』


「えぇ、まぁ……。絵日記というものがあるくらいですし……。本当に書く気なら、コレを貸してあげますわ?」


剣士はそう言うと、机の上にあった羽ペンとインク、それにA6の印刷用紙(アトラス製)をエネルギアへと手渡した。


するとエネルギアは、


『じゃぁ、さっそく書くね!』


と言って、そのまま地面に伏せると、ぎこちない様子で羽ペンを滑らせながら、A6の紙に絵日記(?)を描き始めた。

普通、日記というものは、その日の終りに書くもののはずなのだが、剣士がそれを説明しなかった事もあってか、彼女は今すぐ書くことにしたようである。


「……いったい何を描いているのでしょうか?」


「出来上がるまでは、わたくしにも分かりませんわね」


「…………(俺も日記くらい書こうか……)」


と彼女の様子を見て、それぞれに呟く勇者と剣士と、それに賢者。


それから間もなくして、


『出来た!』


エネルギアの絵日記が出来上がったようだ。

そこには……


「……何ですの?コレ……」


抽象画と水墨画を足して2で割ったような、何とも表現し難い絵が描かれていた。

それ自体は、どこからどう見ても、子どもが描いた落書きにしか見えなかったが……エネルギアの存在が特殊であることを考えるなら、この世界における美術界の歴史的には、唯一無二の貴重な1点と言えるのかもしれない。


『コレねぇ……テレサ様!』


その瞬間、


「「「…………」」」


言葉を失い、黙り込む3人。

エネルギアが描いた絵に、四角い謎の物体から、何やら太い3本の線が伸びていた描写があったのだが、どうやらそれは豆腐から触手が伸びている図ではなく、本当のところは3本の尻尾を持つテレサだったようだ。


ただ、その絵を見て、3人とも、笑うようなことは無かった。

むしろ皆、眼を細め、悲しげな表情を浮かべて、そして俯いてしまったようである。

テレサとの付き合いがそれほど長くはなかった彼らとはいえ、身近な知り合いが死んでしまったことに、3人とも少なからず心を痛めていたのだろう。


その結果、剣士がエネルギアのことを気遣うように、口を開いた。


「エネルギア……。テレサ様がいなくなって……あなたも辛いのですわね……」


すると、


『え?テレサ様なら、さっきコルちゃんと一緒に、いつも通り、アトラス様の事をイジメてたけど?』


と、ケロッとした表情で返答するエネルギア。

どうやら、彼女が描いた日記にある棒人間のような物体は、虐げられているアトラスか、虐げている側のコルテックスだったらしい。


一方、その言葉を聞いた剣士は、なんと返答して良いのか分からなくなってしまったようで、眉を顰めて口を閉ざしてしまったようだ。

もしかすると彼は、エネルギアの心が病んでしまい、見えてはいけないものが見えている……そのように考えてしまったのかもしれない。


そんな仲間の姿を見て、今度は勇者が代わりに口を開く。


「……エネルギアちゃんには、テレサ様の姿が見えたのですか?」


と、難しそうな表情を浮かべながら問いかける勇者。

恐らく彼も、エネルギアの心に大きなキズが出来てしまっている……そう考えたのだろう。


ただ、閉口してしまった剣士の代わりに問いかけた勇者も、


『うん。赤いロープで、ぐるぐる巻きにするのを手伝ってた。亀さんの甲羅みたいな縛り方?』


エネルギアのそんな際どい発言を前に、


「…………そうですか」


同じく言葉を失ってしまったようだ。

死んでしまったテレサが戻ってきた姿を直接見ていなかった勇者たちにとっては、素直にエネルギアの言葉を受け入れられず、混乱してしまったとしても何ら不思議はないだろう。


そして最後に、賢者が口を開く。


「ふむ……。とある文献によると、心に大きなキズを負った者が見る幻覚は、その者の意識の根底にある欲望を写しているという……。つまり、今のエネルギアちゃんは……」


「いや、ちょっと待ちなさいニコラ。それ、テレサ様を失ったことによる傷とは多分関係ないですわよ?縛られているのは、アトラス様ですし……」


「……よく考えてみろビクトール。もしかすると、テレサ様が、我々の知らないところでエネルギアちゃんの欲望を押さえていたのかもしれないではないか?彼女が失われたことで、そのタガが外れて、内なる欲望が押さえきれな…………いや、やっぱりこの話は止めておこう。もしもそうだったとして、その欲望が向けられる先はアトラス様などではなく、本来お前…………いや、なんでもない」


「……それ、言いたいことのほとんどは、もう言い切っていますわよね?」


と頭を抱えながら溜息を吐く剣士。

その際、エネルギアが、剣士に対して首を傾げながら、マイクロマシンで作ったロープのようなものを手で引っ張っていたのは……恐らく、手持ち無沙汰、というやつではないだろうか……。

そして妾はーーー気付いたのじゃ。

……カタリナ殿やユキ殿が、妾の復活について、何も言及していない、ということに……!

要するに、イブの発言は聞いていても、妾が意識を取り戻したことについて気付いていない、ということなのじゃ。

状態的には、エネルギアの言葉を聞いても、妾が復活したことを受け入れられぬ勇者たちと同じ、と言えるかもしれぬのう。


これのう……正直なところ、書くのを忘れておったのじゃ。

じゃから、近い内に補足で話を追加するのじゃ。


というわけで、先日のイブ嬢の話は……カタリナ殿は、辛いものが嫌いすぎて、近くでやり取りをしておった妾とコルに気付いておらず……そしてユキ殿は、好きなものを食べるのに必死で、気づかなかった……的な設定にしてしまおうと思うのじゃ。

本当に、場当たり的で申し訳ないのじゃ……。

まぁ、大修正の折には、統合しようと思うのじゃ?

とはいえ、大修正を実際にするかどうかは……また別の話じゃがのう?




……はぁ……。

鼻水が止まらぬのじゃ……。

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