8.0-32 人生の終わりと始まり11
カタリナが、イブの笑顔のために、人知れず苦行に絶えていた頃。
「……勇者を辞めたいという申し出を、陛下がなかなか認めて下さらないのは、いったい何故でございましょう?ワルツ様にご依頼して、もう1週間以上、飲まず食わずトイレにも行かせずで磔にしているというのに……」
どこからどう見ても、メイドの少女にしか見えなかった女装勇者が、
「んー……わたくしには何とも……というか、そろそろ陛下のこと、開放してあげません?」
オネエ言葉(?)が抜けなかった剣士と、
「…………」
何かを考え込んでいる様子の賢者と共に、勇者を辞めるための方法を、剣士の部屋の中で相談していた。
「いえ。まだです。陛下は不死の身。この程度の虐げなど、苦痛にすら感じていないでしょう。……この際、強硬手段として、エンデルシアに宣戦布告をするなど如何でしょうか?」
「レオ……。あなた、『勇者』を辞めたいのは分かりますけれど、色々な意味で、それはどうかと思いますわよ?」
「…………」
どうすれば自分は勇者を辞めることが出来るのか……。
寝ても覚めても、最近の勇者は、そんなことばかりを考えていたようだ。
そんな彼に対して、剣士はふと思いついたことを質問する。
「でも、レオは確か……賢者と違って、国王陛下と契約を結んでいるわけでは無いですわよね?だったら、無理に、陛下の承諾を得る必要は無いのではないですか?」
「いえ。あのような外道な方でも、一応、私たちの国の王様なのですから、今後のことを考えて穏便に事を進めるのなら、辞めることについて同意を得るのが筋かと思いまして……」
「……そのわりには、先程まで、物騒な事を口走っていたような気がしますけど……」
そう口にしながら、呆れたような視線を勇者へと向ける、見た目は男装の剣士。
それから彼は、隣りにいた賢者に対して、助言を得ようと問いかけた。
「ねぇ、ニコラ?あなた、何かいい案は無いかしら?賢者なんですし……1個や10個くらい簡単に出てきますわよね?」
その質問に対して、賢者は……
「…………」
まるで話を聞いていないかのように、無言を貫いていたようだ。
「……ニコラ?」
寝ているわけではないのに反応のない賢者に対して、そんな言葉と共に怪訝な表情を向ける剣士。
すると賢者は、俯いていた顔を上げ、剣士の部屋の高い天井を見上げると、急にこんなことを口にし始めた。
「……俺、賢者やめようと思う……」
その瞬間、
「えっ……?それはいったいどういう……」
「急にどうしたのですか?」
驚いたような表情を浮かべて、それぞれに賢者へとその言葉の意味を問いかける剣士と勇者。
対して賢者は、どこか疲れたような表情を天井へと向けたままで、ため息混じりに事情を話し始めた。
「最近な……俺、思うんだ。俺なんかよりも、ずっと賢者に向いている奴がいるって……」
「ニコルよりも……賢者に向いてる?」
「少なくても、私たちのパーティーの中では、あなたは最も賢いと思いますよ?」
賢者の呟きを聞いて、青天の霹靂、という言葉がぴったりな表情を浮かべながら、首を傾げる剣士と勇者。
彼らがそんな表情を浮かべていたのは、ワルツの仲間になってからというもの、毎日うれしそうに図書館に通い詰める、賢者の姿を見ていたからだろうか。
だが、そこにこそ、賢者にとって『賢者』をやめたいと思わせる原因があったようである。
「実はな……図書館に、俺なんかよりも、ずっと賢いやつがいるんだよ……」
「はあ……」
「それは……どなたですか?」
その問いかけに賢者が答えた人物は……問いかけた本人である勇者にとっても、そして剣士にとっても、思い掛けない者だったようだ。
いや、正確には、人ですらなかった。
「……昆虫だ」
「「……は?」」
「黒くて、すばしっこくて、中々死なないアイツだ……」
「黒くて、すばしっこい……あぁ、エネルギアですわね?」
『えっ?それ、僕じゃないよ?』
剣士が呟くと、家具の隙間から現れるマイクロマシン集合体のエネルギア。
どうやら彼女は、まだ『ごっこ遊び』をしているようだ。
そして、彼女から遅れること数秒。
すべての問題の根源が、家具の下からだけでなく、床のつなぎ目や窓の枠の隙間、その他、扉の操作パネルや冷蔵庫の中からも姿を表した。
カサカサカサ……!
カサカサカサ……!
カサカサカサ……!
エネルギアと同じマイクロマシンの身体を持っていて、自ら空中戦艦を組み上げた思考生命体(?)ポテンティアである。
その姿を見て、賢者は心底嫌そうな表情を浮かべると、現れたソレに対して震える指を向けながら口を開いた。
「アイツだ……」
「え?ポテンティアがどうかしたのです?」
「アイツが、図書館の本という本に挟まっているんだ……」
「「『……えっ?』」」
その言葉を聞いて、状況を想像できなかったのか、一斉に頭を傾げる3人。
「最初は誰かが挟んだしおりかと思っていたんだ。だけどよく見たら、足と触角が生えていて……それが、どの本にも1匹以上、入ってるんだよ……(もう、思い出したくもない……)」
「「「『…………』」」」
そして黙り込んでしまう一同。
そんな合計4人の視線が向けられていたポテンティアは……いつも通り縦横無尽に部屋の中を動き回った結果、どうやら剣士のベッドの下に、何やら本を見つけたらしく……暫くすると、そこに向かって吸い込まれるように消えていった。
その姿を見て……
「…………ちょっ!」
現状を悟り、慌て始める剣士。
どうやらその本は、彼にとって、誰にも見られたくなかった書籍だったようだ。
そんな慌てふためく剣士の様子を見て、エネルギアが問いかける。
『ビクトールさん、何慌ててるの?』
その質問に対して返答したのは、必死な剣士ではなく、事情が良く分かっているらしい賢者だった。
「エネルギアちゃん……。できれば見てみないフリをしてあげてほしい。アレの中身は、まだ君には早過ぎると思うんだ」
『まだ……早い?』
「あぁ。恐らくとても、卑猥な……それも口にはできないようなことが書かれているだろうからな……(エネルギアちゃんに欲情しないビクトールのことだ。相当、マニアックなことが書かれているに違いない……)」
すると、その言葉を聞いたエネルギアは、必死に本の中からポテンティアを追い出そうとしていた剣士に対し、細めた視線を向けると……こんな一言を呟いた。
『……そっかー。前に少しだけ見たことあるけど、あの内容が『卑猥』っていうことなんだね。……なんか賢者さんと勇者が、仲良さそうに身体を動かしている内容だったような……』
「「…………?!」」
そして、筆舌には尽くし難い、複雑な表情を浮かべる賢者と勇者。
その後で、剣士の部屋の中が、これまで以上の混沌に包まれたことについては、もはや言うまでもないだろう……。
お腹がーーーいっぱいなのじゃ。
じゃから、一部、頭が回っておらぬ点があるやも知れぬが……まぁ、いつものことじゃから、気にしないでほしいのじゃ?
この話題は、予定では……あと1話で終わらせるつもりなのじゃ。
まぁ、予定は未定という言葉もある故、もしかすると、もう1話くらい増えてしまうやも知れぬが……おっと。
そう言えば、2名ほど存在を忘れておった人物が居たのじゃ。
ということは、今からもう2〜3話、追加することになるかのう。
早く、次の話に進みたいところなのじゃが、ここで最低限、書いておかねばならぬことがあるのじゃ。
ご了承くださいなのじゃ。
さて……それでは、ここいらで、昼寝(?)の時間に突入しようと思うのじゃ?
(なお、予約投稿を使用しているので、実時間とは異なります、なのじゃ〜)
あまりの満腹感に、頭が回らぬ……そんな時のリセット手段なのじゃ。
20〜30分程度フリーズすることで、頭がスッキリするのじゃ?
それと、寝る前には、カフェインを摂取することも忘れてはならぬのじゃ。
それではさっそく……ん?
なんじゃ?ルシア嬢?
早く風呂に入r
ブゥン……




