8.0-29 人生の終わりと始まり8
その頃、イブは、工房の中を彷徨っていた。
それはテレサの姿をした幽霊(?)のようなものを見かけて、ショックを受けてしまったことが原因だったのだが……
「……テレサ様……生き返ったかもなんだね……」
どうやら彼女は、テレサが幽霊ではないことについては、しっかりと理解していたようである。
では一体なぜ、イブはしょんぼりとしながら、工房の廊下を彷徨っていたのかというと……
「とーちゃん……」
急に復活したテレサが原因で、半年ほど前に死んでしまった自分の父親のことを、思い出してしまったようなのだ。
カタリナは死んだ者までは救えない、という前提があったために、これまでイブは、死んだ父親を復活させてもらうことを、やむなく諦めていたのである。
だが、今回のテレサの一件は、イブから見ると、その範疇を越えた出来事だったために……彼女の中にあった父親への想いが、再び湧き上がってきてしまったようなのだ。
死者を救うことが出来るなら、自分の親も蘇らせて欲しい……。
ワルツたちがどうやってテレサのことを救ったのか、詳しいことを知らなかった彼女が、そんな思いに至ってしまっても、何もおかしいことは無いだろう。
とはいえイブは、蘇ったテレサのことについて、まったく理解が無かった、というわけもなかったようだが。
「……そうかもだよね。テレサ様、本当に死んじゃったわけじゃなくて……死にそうになってたギリギリのところを助けて貰おうとして……でも助けられなくて死んじゃったかもなんだよね……」
と、葬儀が行われて、火葬されたテレサのことを、思い出すイブ。
その際、彼女の脳裏に、『今のテレサは何者か……』という疑問がふと浮かび上がってきたようだが、それ以上深く考えようとしなかったのは、これまでワルツたちと共に行動してきた結果、彼女が身に付けた処世術(?)のおかげだろうか。
ただ、全体的な思考自体は続いていたせいで、
「でも……だとしても……ううん。それこそ、死んじゃったテレサ様を蘇らせたかもなんだから、とーちゃんも同じようにして蘇らせ…………られないかもなんだよね……」
結局、イブは、思考の無限ループに嵌まり込んでしまったようである。
そんな彼女が、シラヌイの溶鉱炉がある部屋の前を、通過した時のことだった。
ガラガラッ……
部屋の主が家出(?)をしたはずなのに、部屋の中から、何やら怪しげな物音が聞こえてきたのだ。
「……シラヌイ様……じゃないかもだよね……?」
シラヌイが家出(?)したことを知っていたイブは、その物音を聞いた瞬間、頭の中に『不審』という言葉を浮かべた。
ただ、ワルツが建てたこの巨大な工房の中へと入るためには、王城と工房を隔てる部分に、生体認証が必要な扉が2つほどあるので……簡単に不審者が入ってこれないことを知っていた彼女は、すぐに不審者という言葉を頭から消し去ったようである。
「誰だろ……ポテちゃんかな?」
と、黒い虫のような姿で、工房や王城の図書館の中を這いずり回っているポテンティアのことを思い出して、首を傾げるイブ。
それから彼女は、軽い気持ちで、その音源を確かめようと、今は主の居ないはずのその部屋へと入っていこうとするのだが……。
後に彼女は、そこに入ったことを後悔したとか、後悔していないとか……。
「ぽ、ポテちゃん?いるかもなの?」
シラヌイがいなくなったために、誰も使うことがなくなったせいで、冷たくなってしまっていた大きな溶鉱炉。
それがある部屋へと入ったイブは、その薄暗い部屋の中へと、恐る恐るそんな言葉を投げかけた。
すると、彼女の声に反応するかのように、
ガラガラッ……
何やら、重い金属同士がぶつかるような音が響き渡ってくる。
「……ちょ、ちょっと怖いかもだね……」
そのシチュエーションに、自分の嫌いな雰囲気の類が含まれていたためか、尻尾を丸めて、獣耳を伏せて……しかし、それでも振り返ること無く、前へと進んでいくイブ。
そして入り口から入って、しばらく歩き、停止した溶鉱炉の全貌が見えたところで……
ガラガラッ!
「……?!」
……彼女はその音源が何なのかを知ることになった。
それを見た瞬間、イブは1步2歩と後ずさりながら、心底、驚いたような表情を見せて……そしてこんな声を上げる。
「へ、変態?!」
「もがっ……!」ガラガラッ
イブが見たのは、口に猿轡をされて、十字架に磔にされて、そしてガリガリにやせ細ったていた男性……エンデルシア国王であった。
どうやら彼は、この数週間に渡って、ここに磔にされたままだったらしい。
物理的にも魔法的にも死なないのなら、餓死させればどうなるのか……。
ワルツたちがそう考えたのかどうかは定かではないが、この部屋からシラヌイが居なくなったことで、彼はここに一人だけで取り残されていたようである。
「……うん。イブは何も見なかったかもだね!」
そしてクルッと180度方向転換して、部屋から立ち去ろうとするイブ。
彼女とエンデルシア国王との邂逅は、これが初めてだったこともあって、彼女としては、すぐにここから離れたかったようである。
このまま、ここに居たなら、きっと、ろくな事にはならない……。
そんな予感が、彼女の中で、沸々と湧き上がってきていたようだ。
一方、エンデルシア国王の方は、立ち去ろうとしていたイブのことを……しかし、呼び止めることはしなかったようである。
それ以外にも、彼が行動として見せることは何も無く……ただただ悲しげな視線を、イブの後ろ姿に向けるだけだった。
その結果、イブは、走って逃げようとしていたその足を止めると、チラッと後ろを振り返ってしまう。
するとそこには、
「…………」うるうる
と、目尻に涙を蓄え、泣きそうな表情を浮かべている、ガリガリに痩せたの青年の姿が……。
「逃げたい……逃げなきゃダメって分かってるかもだよ?でも……逃げられない……かも……」
そして逃走することを諦めるイブ。
今ここで目の前の変態を見放したことで、彼が命を落とすようなことがあれば、目覚めが悪い……。
その他にも、テレサの一件の事もあったので、『人の生き死に』に敏感になっていたイブは、余計に足を止めざるを得なかったようである。
あるいは、かつて捕らえられていた経験のあった彼女だからこそ、同じような境遇にある眼の前の男性の事を無視できなったのかもしれない。
その結果、彼女は、流石にエンデルシア国王の拘束を解くようなことまではしなかったものの、彼の口に嵌められていた猿轡だけでも外すことにしたようである。
「はぁ……。今、その口にはまってるやつを取るかもだから動かないでよね……」
イブがそう口にした瞬間、プルプルと震えながら、涙を零してしまうエンデルシア国王。
見放されていた彼にとって、イブのその発言は、余程、心に沁みるものだったようである。
まぁ、それも、彼に近寄りたくなかったイブが、近くにあった棒にシラヌイ製の鉄板バサミを括り付けて、振りかざすまでの話だったようだが……。
もう……ダメかも知れぬ……。
疲労困憊で、意識朦朧な妾は、あとがきもマトモに書けない状態にあるのじゃ……。
この話は前回と同じく、予約投稿を利用して投稿しておるのじゃが……もしかすると、前回の話同様、明日(今日?)もあとがきを書けぬかも知れぬ。
……まぁ、それも、あと2日なのじゃ。
もう少しじゃから……とにかく頑張るのじゃ!




