8.0-26 人生の終わりと始まり5
豪勢な飾り付けをされた、だだっ広い自室では、とにかく居心地が悪かった様子のテレサ。
そんな彼女に配慮して、狐娘たち2人は、とりあえず、ほど良い大きさの議長室へと場所を移した。
そして、やはり記憶に残っていない議長室の自分のデスクの所までやってきたテレサは、議長室の窓から一望できる王都の町並みを……しかし、できるだけ見ないようにして、そこにあった自分の席へと腰を下ろしたようである。
しかし、
「の、のう、コルよ……。妾、これからここで、うまく生きていけるのじゃろうか……?」
その椅子は、あまりに座り心地が良かったためか……彼女の中では、逆に不安がこみ上げてきてしまったようだ。
「大丈夫ですよ〜?妾〜。私が付いていますからね〜」
と、テレサが意識を取り戻してから(?)というもの、ずっと彼女の側について、ここまで一緒に着いてきていたコルテックス。
自分の配慮が足りず、その結果、テレサが命を落としてしまったことについて、責任を取る……。
コルテックスは、その後悔を、行動として示すことにしたのだろう。
「……まぁ、コルがおるなら、どうにかなるかの?」
テレサはそんな背景を知らなかったものの、右も左も分からない状況の下で、とりあえず強力な助っ人を得られた事については理解できたようだ。
そのせいか、少しだけ心に余裕が出来た様子の彼女は、自分のデスクに向かうと……そこにあった引き出しをおもむろに開けて、その中に目を通そうとした。
……生前の自分は、そこに何を仕舞っていたのか。
彼女は、それを確認したくなったのだろう。
そして彼女がその妙に重い引き出しを開けると、そこからは
ガラガラガラ……
と、大量のガラクタと思しき金属部品の山が……。
それを見てテレサは、どういうわけか嬉しそうな表情を浮かべて、こんなことを口にする。
「……うむ。間違いなく妾の机なのじゃ!」
そんなテレサの表情と発言を見聞きしていたコルテックスが、一体何を見たのかと、彼女に対して不思議そうに問いかけた。
「何かあったのですか〜?」
「うむ。このピストンとコンロット、それにイグニッションプラグらしき部品を、こんな感じで無造作に机の中に入れるのは、妾くらいじゃと思っての」
「そうですね〜。私もそんな風に、事務机の中に部品を仕舞っているのは、妾くらいしか見たことが無いですね〜。というよりも、そもそもこの世界で、エンジンを作ってる人間は、妾くらいしか居ないでしょうけどね〜」
「……えっ?」
この世界についての知識を大きく失っていたためか、コルテックスのその言葉を聞いて、眼を点にするテレサ。
その様子からすると、エンジンくらい、誰でも作れるだろう……そう思っていたのかもしれない。
しかし、自身が思っているよりも、異世界の技術は進んでいなかったことを薄々感じ始めていたテレサは、驚きを持って、コルテックスに対し、確認の言葉を投げかけた。
「こ、この世界で、妾くらい……じゃと?一体、どんな仕事をしておったのじゃ?生前の妾は……」
「え〜とですね〜……エンジンや飛行機を、寝る時間も惜しんで作っていた、この国の国家議会議長様ですね〜。多分、放っておいても、その内、頭がおかしくなっていたのではないでしょうか〜?(時間の問題……いえ、元々ですかね〜)」
「……や、やはり、妾がこの世界で生きていくのは、少々難しいかもしれぬ……」
そして、生前もそうだったように、机に両肘を付いて、手で頭を抱えるテレサ。
その姿を傍から見ていたコルテックスが小さく微笑んでいたのは……そこにいたテレサが、記憶の中の彼女とまったく同じ仕草をしていたから、だろうか。
と、そんな折、不意に議長室へと来客(?)が訪れる。
ガチャッ……
議長室へとノックもせずに扉を開けて入ってくるその人物は、言うまでもなく、一般の王城関係者ではなかった。
では誰だったのか、というと……
「…………」ムスッ
と顰め面をしていたホムンクルスの一人、アトラスであった。
そんな彼は、コルテックスやワルツと、兄弟喧嘩をしたままだった。
その原因は、テレサが死んでしまったことに他ならないのだが……それ以外にも、腹立たしい事があって、不機嫌な表情を浮かべていたようだ。
死んでしまったテレサと、その彼女を救うために自分の身体を明け渡したコルテックスが、この国から居なくなるという状況が、一体何を意味するのか……。
もっと直接的に言うのなら、この国から正副の議長が2人とも居なくなったのなら、いったい誰が議長を務めることになるのか……。
不特定多数の人物と関わることが嫌いなワルツが、その代理を務めることは無いので、それ以外の誰かが、居なくなった議長の代わりを務めなくてはならないのである。
つまりそれが……アトラスだったのだ。
要するに、この議長室は、今や彼の部屋だったのである。
「はぁ……」
議長室に入ってくるや否や、大きなため息を吐いて、眼の前にあったソファーへと、そのまま頭から、
ドサッ……
と沈み込むアトラス。
「疲れたぁ……」
ため息と共に、そんな言葉を呟く彼は、魑魅魍魎が跋扈する政治の世界のことが、どうやらあまり得意ではないようだ。
専属のメイド(?)はいても、仕事を肩代わりしてくれる秘書はいないので、彼の両肩には、余計に仕事が集中してしまっているのだろう。
ちなみに。
テレサの代役として、正式に議長を務めることが出来るコルテックスが、2代目の身体を得て再起動したのは、1週間前の話である。
しかし、再起動してからというもの、彼女はすぐに議長職には戻らず、ずっと目を覚まさないテレサに付きっ切りだったことも、アトラスに不満を抱かせる原因になっていたのかもしれない。
そして今回、事故の前のように、テレサとコルテックスがこの部屋へと戻ってきて、部屋の奥にあった議長専用デスクの向こう側に立っていたわけだが……疲れ切っていたアトラスがそれ気付くようなことは無かったようだ。
それを感じ取ったのか、両手の隙間から彼の事を観察していたテレサが、重い頭を上げると、アトラスに対しておもむろに質問した。
「随分と疲れておるようじゃのう?アトラス」
「あぁ……。マジであの貴族共、所得税を100%にしてやろうかと思ったぜ…………え?」
「この際だから、実際にやってしまえば良いのですよ〜。どうせ、私と妾が責任を追うわけではないですし〜?」
「…………」
聞き慣れた2人の声を聞いた瞬間、ソファーに突っ伏した状態で急に固まってしまうアトラス。
それから彼は、そのままの体勢で、プルプルと震えながら、声の主に対して確認を取る。
「て……テレサ?」
「うむ。少なくとも、コルでは無いのう」
「そうですね〜。私が妾のモノマネをしているわけでもないですね〜、なのじゃ〜?」
「…………」
そして再び言葉を失ってしまった様子のアトラス。
それから彼は顔を上げること無く、
「……良かった……。本当に……良かった……」
と口にして、しばらく顔を上げなかったのは……きっと、心に大きな疲労が溜まっていたからに違いない。
うむ……。
本当はこれよりも500文字くらい少なかったのじゃが、どうにかこうにか駄文を宛てがって、体裁を整えたのじゃ。
修正を兼ねて加筆した故、普段よりもちゃんと掛けておるのではなかろうかのう?
……普段からちゃんと書け、というツッコミは無しなのじゃ?
さて……。
明後日から3日間、ただひたすらにストックを消費するだけの日々が始まろうとしておるのじゃ。
少なくとも、最初の1日目と、最後の3日目は、間違いなく書けないはずなのじゃ?
じゃから……これから、この2日間分のストックの修正作業に入ろうと思うのじゃ。
じゃがのう……。
第1稿を書き上げるよりも、この修正のほうが、時間がかかって面倒なのじゃ……。
どうにか修正作業を面白くする方法は無いかのう……。
まぁ、それも、昔に比べれば、相当楽になったのじゃがの。
というわけで。
これより、地獄の修正作業へと突入しようと思うのじゃ。
……で、結局、追加の物語を書くことになるのじゃろうのう……きっと。




