8.0-17 国産飛行艇17
さらに日は進み、日曜になって……。
ブォォォォォ!!
「……うむ。A/F比調整器、進角制御装置、可変バルブタイミング機構……すべて正常に動いておるのじゃ!」
魔力を圧縮して、点火し、そして爆発する……。
その反動を使って回転エネルギーを生む魔導レシプロエンジンを搭載した飛行艇の横で、作業着を着たテレサは、そのエンジン音に満足げな笑みを浮かべていた。
たった1年で飛行艇の技術を獲得することに成功したミッドエデンのこれからを考えて、感無量、といったところなのだろう。
まぁ、それはさておいて。
排気音を中和するための吸音装置や共振器を持たないそのエンジンは、少々、煩かったようである。
……いや、煩過ぎたようである。
「ーーー!」
不意にやって来たルシアが、エンジンの調子を見ているテレサに対して、爆音の中で何かを大声で言ったのだが……
「え?!何じゃ?!何か言ったかのう?!」
「ーーー!」
2人ともがお互いに、何を言っているのか、分からなかったようだ。
それから間もなくして、ルシアは業を煮やしたのか、手に光の粒子を貯めて、それをエンジンに向け始めたので……
「ちょっ、やめっ?!い、今、止めるのじゃ!」
それを見たテレサは、エンジンを破壊されると思ったのか、必死になってエンジンに供給する魔力を調整するための仮設のスロットルレバーを最も下まで倒し、直ちにエンジンを停止することにしたようである。
そして、エンジンが止まって、周りにいた人々の声が聴こえるようになってから、ルシアは手にあった魔法を何処かへと収めると、テレサに対して改めて話し始めた。
「テレサちゃん、うるさい!」
「う、うむ……。すまないのじゃ……。それは妾も承知しておるのじゃ。じゃが、これはこういうものじゃからのう……」
眉を顰めて腰に手を当て、そして頬を膨らませているルシアに対し、獣耳と尻尾を萎れさせながら、申し訳なさそうに俯くテレサ。
「お城のてっぺんまで、聞こえてきてたよ?」
「じゃろうのう……。今度、コルに、消音器なるものについてレクチャーを受ける予定じゃから、それまでは辛抱してほしいのじゃ」
「爆音のする飛行艇が空を飛んだとき、周りの人たちの迷惑にならないか心配だよ……」
「うむ……。テスト飛行が終わり次第、コルと一緒に、最優先で対策させてもらうのじゃ……」
テレサはそう口にすると、まるで開き直るかのように、ペタリと倒していた獣耳と尻尾を、ピンッと元通りに戻すと、ルシアに対し、ここへやって来た目的を問いかけた。
「それで、どうしたのじゃ?主がここに来るのは珍しいと思うのじゃが……」
するとルシアも怒っていた表情を元に戻して、いつも通りに返答する。
「んーとねぇ……お姉ちゃんの伝言を伝えにきた?」
「ワルツの伝言?ま、まさか……」
「……何を考えてるのか、何となく分かるけど、テレサちゃんが考えてるようなことじゃないからね?そもそも、そんなこと、私が絶対許さないし……」
「…………」
まだ何も言っていないのに、そうじゃない、と否定された挙句、許さないと言われ、何となく理不尽さを感じなくもなかった様子のテレサ。
それは、彼女のいつもの発言が原因で自業自得なことなのだが……実はそのことを分かっていても、彼女は素直に承服できなかったようである。
一方、テレサがそんな微妙な表情を浮かべているのを見ても、ルシアには、それを気にした様子は無かったようだ。
どうやら彼女は、テレサのおかしな言動に、すでに慣れきっているらしい。
そのためか、ルシアはここに来た理由……すなわち、姉からの伝言を伝えるべく、その口を開いて話し始めた。
「えーとねぇ……今度、ボレアスに行くときの話なんだけど、その時、無理をしないでエネルギアに乗ってきて、だって?だから、そんなに飛行艇の開発は急がなくても良い、って言ってたよ?」
それを聞いた結果、
「むむむむ…………」
テレサは急に唸り始めた。
その様子から推測すると、彼女は、どうしても、自作の飛行艇でワルツたちのことを追いかけたかったようである。
彼女が一体何故、そうしたかったのか……。
その原因は、彼女の眼の前にいるルシアにあったのだが……鈍感なワルツも、そして、まさか自分がテレサから見られているとは知らなかったルシアも、彼女がそこまで自作の飛行艇にこだわる理由については、理解できなかったようである。
「……その話は、ワルツからの指示、ということかのう?」
「ううん。多分、違うと思う。テレサちゃん、どこか焦ってる感じがあるから、お姉ちゃんがブレーキをかけようとしてるだけじゃないかなぁ?」
「焦っておる……か。そんなつもりはないのじゃがのう……」
「ふーん……(テレサちゃん、気付いてないのかなぁ?)」
ほぼ毎日のように徹夜をして、議長の仕事の合間を見つけては、魔導エンジンを作ることに明け暮れているテレサ。
そんな彼女の姿が、ルシアにも、そしてワルツや他の仲間たちにも、まるで時間に追われるように、焦って作業をしているようにしか見えなかったらしい。
「まぁ、無理はしないほうが良いよ?ちゃんと寝ないと、身長伸びなくなるって、カタリナお姉ちゃんも言ってたし……」
「んなっ?!」
「なんかさぁ……最近、コルちゃんの方が、少し背が高くなってるんじゃない?」
「そ、そ、そ、そんなはずは……」
「だから、テレサちゃんは……ちゃんと休むべきだと思うよ?」
「う……うむ……。そうじゃのう……。近々、まとめて休みを取らせてもらうのじゃ」
「近々ね……。今日からでもすぐに休んでも、誰も文句は言わないと思うんだけど……」
「今は……どうしても今は、休むわけにはいかぬのじゃ。この山を片付けて、スッキリとしてから、休みたいのじゃ」
「……まぁいいけど。でも、本当に、無理しちゃダメだよ?」
ルシアは呆れた表情を見せながら、そう口にすると、それ以上、この件については、言及しないことにしたようである。
もう、何を言っても彼女のことを止めることが出来ない……。
恐らくはそう思って、説得することを諦めたのだろう。
「……すまぬのう。心配かけて……」
「……えっ?」
「いや、なんでもないのじゃ。おいしいクッキーが食べたいと思っただけなのじゃ?」
「……!?なら、良いクッキーがあるよ!最近、王都で流行ってる稲荷寿司クッキー!」
「…………(最近、王都全体がおかしいのじゃ……。どうして稲荷寿司を使ったスイーツが増えておるのじゃ?どう考えても、スイーツじゃのうて主食じゃろ……)」
「はい、あげる!」
「……どうしてタイミングよく、ルシア嬢のポケットから出てくるのじゃ……。というかそれ、『いつ』『誰が』作ったクッキーなのじゃ?」
ルシアの手に握られた袋に入った、その稲荷寿司クッキー(?)に眼を向けて、第7感が警告を発していること察するテレサ。
それを食べれば、おそらく色々なものを引き換えに、自分の疲労は飛んで行く……。
彼女の脳裏には、そんな核心があったようで……結局、彼女は、ルシアからの差し入れを、受け取らないことにしたようである。
稲荷寿司クッキー……。
それは食べた者をベッドへと転移させ、そして時間を1日進めてしまう、禁断の食べ物なのじゃ……(イブ談)。
あるいは、意識を刈り取って、1日昏睡させる……とも言うかもしれぬがのー。
さて。
今週は、1年の中でも、最も忙しい……かもしれない1週間なのじゃ。
故に、これから、1話しか無いストックを貯めるべく、必死なって書きまくるのじゃ!
リアルでもゲッソリな狐とか……もう、クッキーブーストをするしかないのじゃ!
じゃがのう……ルシア嬢。
お主がその手に持っている危険な代物じゃn……もがっ?!
……zzz。




