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8.0-14 国産飛行艇14

世の中には、得体の知れないモノがいる。


例えば、王都の中を跋扈している、黒い昆虫の姿をした者たち。

彼らの正体は、マギマウスの亡霊(?)に取り憑かれたマイクロマシンたちなわけだが、事情を知らなければ得体の知れない昆虫のような何か、という言葉以外に表現のしようが無いだろう。

そのせいか、王都の中には、『黒い魔物』と呼ぶ者も少なからず居たようだ。


あるいは、王城を取り囲むように造られていた堀の中に住む、一風変わった特殊な魔物たち。

彼らは、狩人によって食用の家畜として養殖されていた者たちを水竜が引き取って、そして丹精込めて大きく育て上げた、本来、海に住むはずのクラーケンである。

そんな彼らもまた、王都に住む者たちにとっては、見たことのない未知の生物だったので、紛れもなく、得体の知れないモノの一つであった。

とはいえ、最近は、そんな堀も、どこか動物園や水族館といった雰囲気で、堀にかかる橋から毎日エサを与えている者も居たようだが……。


だが世の中には、そんな彼らなどよりも、遥かに得体の知れない存在がいた。


「…………」にゅるにゅる


……迷宮の孤児(みなしご)、シュバルである。

まるで光を吸い込んでしまうかのような黒い闇のような姿をしていた彼は、まさに、魔法学的にも、科学的にも、まったく説明の付かない特殊な存在だった。

正真正銘、闇が身体を形作って、勝手に動いている……。

そうとしか形容できない容姿だ。


そして彼は今、掃除のよく行き届いたカタリナの診察室の床の上を、縦横無尽に這いずり回っていたようである。

いや、彼の場合、一応は赤子の姿をしていたので、ハイハイをしていた、と言うべきだろうか。


「…………」にゅる?


そんなシュバルは、カタリナとユキがいつものように研究を始めた様子を見て、それを理解しているのか、2人を邪魔しないように1人で遊ぶことにしたようである。


その結果、彼は、近くにあったベッドに、スライムのように形を変えてよじ登ると、そこに齧りやすそうな何かを見つけたらしく……早速、大きな口を開けて噛み付いた。


ガリガリ……


そして、まるで漫画に出てくるような、無数の三角形型の歯を立て、歯ぎしりをするように甘噛(?)をするシュバル。

しかしすぐに、


「…………」にゅるにゅる……


飽きてしまったのか、それとも、あまり美味しくなかったのか、彼は口を離してしまった。

どうやら彼にとって、賢者の足は、それほどお気に召さなかったようである。


それから彼はベッドから降りると、今度はカタリナたちの所へ甘えに行こうとするのだが……彼女たちが真剣に作業をしている様子を見て、再び思い(とど)まることにしたようである。


「…………」にゅるにゅる……


そしてその場でカタリナとユキのことを見つめながら、まるで考え込むように、ジッとして動かなくなるシュバル。

それが1分程継続した後……


「…………」にゅるにゅる!


彼は、遊び場を変えることにしたようで、診察室の奥の方へと移動を始めた。


そこには、成長した彼にとって、すっかり小さくなってしまったトレジャーボックスが置かれていた。

それを見つけた彼は、その蓋を開けて、猫のように、中へと無理やり入ろうとするのだが……


「…………」にゅる……


小さなサイズのトレジャーボックスには、彼の身体の体積をすべて受け入れるだけの容量はなく、


「…………」ぷるぷる


まるでコーヒーゼリーを無理矢理小さな容器へと詰め込んだかのように、彼の身体の3割ほどが、外へと飛び出してしまったようだ。


その結果、


「…………」にゅる……


残念そうに身体を変形させて、陸に上がったクラゲのような見た目になってしまうシュバル。


その際、偶然にも、彼の身体の一部が、近くにあった自動ドアの人感センサーを反応させて、


ガション!


その扉を大きく開け放ったようである。


「…………」にゅる?


まだ自動ドアの原理については理解できていなかったのか、その様子を見て、溶けていた身体をもたげさせるシュバル。

そして彼は、その扉の向こう側に、何か面白いものを見つけたのかプルッと身体を震わせると、


「…………」にゅるにゅる!


そこに向かって、迷うこと無く、身体を滑らせていったようだ。




ガシューーーッ!!


「…………?!」にゅるっ?!


シュバルが通路のような小さな部屋の中に入って、自動ドアが閉じた瞬間、鋭い突風と、診察室の中に漂っているようなアルコールの香りのするミストが、壁に開いていた無数の小さな穴から、容赦なく彼に対して襲いかかる。


「…………」にゅる〜


その突然の出来事に、シュバルは思わずカタリナに助けを呼ぼうと、泣き声を上げてしまいそうになるが……しかし、すぐに風とミストが止んで、入った側の扉とは別にあった通路の奥の扉が開いたので、どうにか事なきを得たようだ。


「…………」にゅ、にゅる〜


そして疲れ切った様子で、その部屋から彼が外へと這い出ると……そこは診察室の外ではなかった。


赤ともオレンジとも言えない、少し薄暗いライトで照らされた部屋の中……。

要するにそこは、カタリナの診察室に隣接して設置されていた、集中治療室だったのである。


「…………」にゅるっ!


結果、そこにあったベッドの上に、緑色の長い髪が特徴的な、狸の獣人の少女が寝ていることに気付くシュバル。


それから彼は、まるで遊んでほしいと言わんばかりの様子で、その少女が眠るベッドへと駆け寄って、そして賢者に噛み付いたときのようにベッドへとよじ登るのだが……


「…………」にゅる?


大きな口を開けて、彼女の腕に噛み付こうとした瞬間……彼はそこで固まってしまったようだ。


肉付きが無くてあまりに細い……まるで骨と皮だけで出来ているような彼女のその腕を見て、幼いシュバルにも何か思うことがあったのだろう。

それから彼は齧ることを止めると、まるでその少女……リアの容態を伺うかのように、自身の頭(?)を彼女の手の上にそっと載せたのである。


……そんな時であった。


ガシューーーッ!


「ゲホッゲホッ…………あっ!シュバルちゃん!こんな所に居たのですね?」


診察室からシュバルが居なくなったことを察したユキが、彼のことを探しにやって来たのだ。


その様子を見て……


「…………!」にゅるにゅる!


ビュン!

ガシッ!

がぶっ!


と、機敏にベッドから降りて、ユキに飛びつき、彼女の腕に容赦なく齧りつくシュバル。

彼にとっては、余程、ユキの腕が、美味しそうな肉の塊か何かに見えたのだろう。


「ちょっ、シュバルちゃん?!か、カタリナ様!た、助けてくださいぃぃぃ〜〜〜!」ぶわっ


齧りついたシュバルを腕にぶら下げたまま、泣きながら来た道を戻り、そして診察室へと戻っていく元魔王のユキ。

そんな彼女の腕には、シュバルの歯型が付いてしまったものの、穴が空いたりしなかったのは……やはりカタリナに人体改造されたサイボーグだったからだろうか……。


ガション!


そして集中治療室には再び静寂が戻ってきた。

その際、シュバルが頭を乗せていたリアの手が、少しだけ動いたようだが……それがシュバルの頭の重さによって引き起こされた単なる物理現象だったのか、あるいは脊椎反射の一種だったのか、はたまたそれ以外に何か原因があったのか……。

それを見ていた者は誰も居なかったので、結局真相は、『闇』の中へと埋もれてしまったようだ。

……駄文。

駄文なのじゃ。

まぁ、駄文ゆえ、書きやすかったがのう。


というわけで、今日はシュバルの日常を少しだけ書いてみたのじゃ?

これには色々と理由があって、今回、書かざるを得なかったのじゃ。

なお、その理由については、説明を差し控えさせてもらうのじゃ?

色々、狐にも事情があるのじゃ。

そう、色々のう……。


まぁ、そんなことはさておいて。

明日は……妾のターン(?)なのじゃ!

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