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8.0-07 国産飛行艇7

青く大きな空を望むことが出来るようになってしまった議長室……跡地。

そこでイブは一人、言葉を失って、立ち尽くしていた。


「…………」


何が起ったのか、まったく分からない様子の彼女の頭の中は、今まさに真っ白になっていることだろう。


だが、ワルツと共に行動していて、驚きに対してある程度、免疫を身に付けかけていたイブは、すぐにハッとした表情を浮かべると、手の平をポンと叩いて、納得したように口を開いた。


「コルテックス様が爆発したかもだね!」


自分の仕業ではない……。

これはきっと、コルテックスが自爆したのだ……。

イブの頭の中では、その2つの言葉だけが渦巻いていたようである。


「……そんなわけ無いではないですか〜」


「!?」


急に聞こえてきたコルテックスの言葉に、尻尾の毛をタワシのように膨らませるイブ

一体彼女が何を考えて、そんな反応を見せたのかについては、その真っ青な顔を見れば言うまでもないだろう。


実際、コルテックスは、それを察したようだ。


「その表情、私が死んでしまったと思いましたか〜?」


ガラガラ……


と、自身の上に覆いかぶさっていた議長室の机を軽々と退けながら、何事もなかったかのように、立ち上がるコルテックス。


そんな彼女の自体の見た目は、()()()()()狐娘が、単に立ち上がったように見えなかった。

ただし、彼女が手の甲で押しのけた議長専用の机が、厚み50mmのルシア製特殊鋼で作られていなかったら、の話だが。


「い、イブは、何も知らないかもだよ?!」


と、現実逃避をしてみたものの、自分がやったという自覚からは、結局逃れられなかった様子のイブ。

まさか、わざとやりました、などと答えたなら、次の瞬間にどうなってしまうのか……。

最早、想像するまでもなく明らかである。


そんな彼女に対して、単に服が乱れている以外に特に損傷が無かったコルテックスは、肩についた埃を払い落としながら、普段通りの柔和な表情のままで、こう口にした。


「そうでしょうね〜。魔力の雰囲気からして、イブちゃんのものではなかったように感じます。なんというか〜……実験用のネズミたちが使う魔力の気配に近かったような〜……」


「ね、ネズミ?なんで?」


「さぁ〜?それはイブちゃんにしか分からないのではないですか〜?魔法を使ったのは私ではなく、イブちゃんの方ですからね〜。そうですね〜……最近、何か変わったことは無かったですか〜?」


「う、うん…………さっき、ヌル様が言ってた紅玉(こーぎょく)とかいう気持ち悪いものを飲み込んだからかも……」


「…………なるほど〜」


と、イブの発言に対して、随分と興味深げな表情を見せるコルテックス。


それから彼女は、自身のポケットに手を入れて無線機を取り出し、「アトラス召喚〜」と一言だけ口すると、すぐに無線機を再び仕舞い込み……。

そして再び、イブに対して問いかけた。


「その紅玉というものは、どこで見かけたのですか〜?」


「えっと……ドラゴンちゃんの部屋?まだ、たくさんあるみたいだけど、普通の人には見えないかも、ってヌル様が言ってた」


その言葉を聞いて、


「そうですか〜。見えないというのは、よく分かりませんが〜……まぁ、どうにかなるでしょう。ではちょっと紅玉採取に行ってきますね〜」


そう口にしてから、嬉しそうに議長室の扉を開けて、外に出ていこうとするコルテックス。

おそらく彼女は、ほぼ間違いなく、面白そうな玩具を見つけた、と考えていることだろう。


「あ、この部屋は、その内、アトラスが直してくれると思いますので、放っといてもいいですよ〜?……マクロファージ、オペレーションモード〜」


ニュルニュル……


そしてコルテックスは、姉のマイクロマシンに対抗するために作り出した人工魔法生物(?)の使い魔を呼び出して、工房の最上階にある飛竜の部屋へと向かったようである。


「……ほんと、ユキちゃんやヌル様なんかより、ずーっと魔王様っぽいかもなんだけど……。それもお伽話に出てくるような、悪い魔王さまに……」


吹き飛ばされたというのに、すぐに立ち直って、嬉しそうに去っていったコルテックスの背中に、イブはなんとも言い難い微妙なモノを見るような視線を向けていたようである。




その後、折角の機会なので、まだ協力な魔法が放てるのかを確かめるために、底から見えていた空に向かって、再び魔法を行使しようとした様子のイブ。

だが、彼女が手から放とうとした火魔法は、ガスコンロよりも少し火力の強い程度のものでしかなかったようだ。


その結果、心底残念そうな表情を浮かべて、自身の両手に視線を向けていたイブのところへと……


ガチャッ……


「コルよ。例の飛行艇の初飛行の日程についてじゃg……」


……この部屋のもう一人の主であるテレサが戻ってきた。

そして彼女は、当然のごとく、その場の光景を目の当たりにして凍りついてしまう。


そんなテレサの表情と、周囲の惨状を見て……イブは悟った。

このままでは誤解される、と。


その結果、


「ち、違うかもだからね?!これやったのイブじゃないかもなんだから…………いや、イブかも……」


と全力で否定しようとして、しかし、実際には自分がやったことだ、と思い出した様子のイブ。


だが、テレサの方は、イブのことを疑ってはいなかったようだ。


「……なに。主のことは、(はな)から疑っておらぬ。風が吹けば倒れてしまいほどに非力なことは、よく分かっておるからのう。どうせ、またコルが何かしでかしたのじゃろう」


「うーん……変に誤解されなくて良かったかもだけど……。嬉しいような嬉しくないような……」


「まぁ、後でアトラスが来て、修復するじゃろうから、主は片付けなどしなくてもよいのじゃ。ケガをしても困るからのう」


「うん……。さっき、コルテックス様が呼んでたかも……」


と、そんなやり取りをしていると、タイミングよく、


「……な、何か用か?」


真っ青な顔色をしたアトラスが現れた。

そんな彼が何処かおどおどしていたのは、やはり、コルテックスから何らかの仕打ちを受けることを恐れていたから、だろうか……。


「いやのう?議長室の風通しが随分と良くなってしまってのう。このままじゃと業務にも支障が出る故、直してほしいのじゃ」


「また、あいつ、何かやったのか……」


「え、えっと……これやったのイブかもなんだけど……」ぼそっ


「ん?何か言ったか?イブ」


「う、ううん……」ふるふる


そしてイブは口を噤んでしまった。

どんなに説明しても、証明する方法が無いので、話が余計に(こじ)れるだけ……。

彼女にはそんな未来が容易に想像できたようである。




それから、コルテックス談義を交わしながら、3人が部屋の片付けを始めた頃。

その真下の部屋では、メイド勇者とユリアが顔を合わせていたようである。


「……解せません」


「あの……何が解せないのでしょうか?(というか、上から大きな音がしたんですけど、気にならないんですか?)」


「あなたのことが気に食わない、というわけではないのです。私もワルツ様の配下に加わった身ですから。しかし……すぐには納得出来ないといいますか……とても複雑な問題なのです」


と、難しそうな表情を浮かべながら、情報局局長の椅子に座っているサキュバスの前に佇む勇者。

要するに彼には、これまで魔族と戦ってきた背景があるので、サキュバスという魔族が、人間側の国を収める立場にいるという状況が、すぐには受け入れられなかったようである。

特に(元?)男性の勇者にとっては、サキュバスはある意味で天敵のようなものだったので、余計に頭が重かったのだろう。


一方、ユリアの方は、小さくため息を吐くと、勇者に対してこう言った。


「……受け入れられないというお気持ちは理解しているつもりです。少し前まで、ほかの政府関係者にも、中々、受け入れてもらえなかったですから」


と言いながら、苦笑を浮かべるユリア。


「では、今は受け入れられた、と?」


「それは……少し表現が違いますよ?勇者様」


それからユリアは、先ほどとは異なる別の種類の笑みを見せながらこう言った。


「受け入れられるのを待つのではなく……正しくは、受け入れてもらうようにする、ですね。それが我々、情報局の面々の仕事みたいなものですから」


そんな彼女の言葉に対して、


「…………」


メイド勇者は、眼を細めるのだが……


「……そうですね。そういった態度が重要なのかもしれませんね……」


何か思うことがあったのか、彼は不承不承(ふしょうぶしょう)ながらも、ようやく納得げな表情を見せたようである。


と、そんな折。


ガチャッ……


先輩(せんぱーい)?今週末の飲み会の会場、予約を済ませました!相手は……ギルド連合のおじいちゃんたちでしたよね?」


その場に漂っていた2人の空気を壊してしまうような発言を口にする人物……シルビアが、ノックもせずに、局長室の扉を開けて入ってくる。


その直後には、


ガコン……


「ゆ、ユリアお姉さま……。例の写真が出来上がったんですが……あまりにも刺激的すぎて、わ、私には……ブフッ……」


局長室の床にあった隠し通路から、ワルツが映っていると思わしき写真を片手に、鼻血を出しながらリサが現れた。


そんな急にカオスが漂い始めた部屋の中で、ユリアは体裁を整えようとするのだが……


「…………い、いいですか?勇者様。受け入れられるのではなく、受け入れられるように……」


「……いえ、もう説明は結構でございます。私の考え過ぎだということがハッキリと分かりました……。ご迷惑をおかけしましたね。それでは失礼いたします……」


むしろ、勇者が求めていた答えは、そんな混沌の中にあったようである。


そんな彼に対して、ユリアはバクパクと口を動かして、何か言いたいことがあったようだが……立ち去っていく彼に対して向けられる適切な言葉が見つからなかったのか、そっと見送るしかなかったようだ……。




そしてメイド勇者が次に向かった先は、ユリアたちとはまた別の魔族でありながら、彼の元パーティーメンバーである……シラヌイのところであった。

うーむ……。

何となく書き方の新しいコツを掴みかけておると思うのじゃが……どうなのじゃろうかのう……。

今日は特に睡眠時間も長かった故、頭がスッキリしておるというのもあって、そちらの方が大きく影響しておる可能性も否定はできぬか……。

まぁ、頭がスッキリとしておる内に、コツを考えながら、次の話でも書くとするかのう。


今日の話についても、特に補足すべきことはないのじゃ。

ただ……本文に書きたかったことが書けなかった、ということについては一応書いておこうかのう?

いや、大したことではないのじゃが、イブ嬢に『も、もう一回やっていい?(キラキラ)』と言わせたかったのじゃ。

まぁ、キャラが崩壊する故、書かなくて正解だったのじゃがのう。


メンバーの中でそれを言っても問題ないとすれば……む?

何じゃ?ルシア嬢?そんなニッコリ笑って……


ブゥン……

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