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7.8-26 勇者と魔王2

ミッドエデンの王城には、全部でおよそ400人のメイドたちが雇われている。

戦闘メイド、偽議長メイド、癖毛メイド、そして普通のメイド……。

とは言え、前者の3種についてはそれぞれ1人ずつしかいないのだが……。


しかし、である。

今回、そんな希少な特殊メイドたちの中に、新たな仲間が加わる事になりそうだ。


サーッ、サーッ、サーッ……


王城施設屋上には、朝早くから、竹ぼうきで枯れ葉の掃除をするメイドの姿があった。

それは、前述したどのメイドにも属さない……どころか、この王城では雇っていないはずの、はぐれメイドである。


彼女は、手際よく掃除を進めているらしく、たった一人で掃除をしているというのに、広大な屋上(なかにわ)の掃除を、既に半分以上済ませてしまっていたようだ。

しかも手を抜くこと無く、枯れ葉の他にも、ホコリや細かい土、マイクロマシンに至るまで、徹底的に掃き溜めていたようである。


ちなみに、ここには、彼女以外に誰もいない、というわけではない。

ここが、国家の中枢であるだけでなく、王都の市役所的な役割を担っていた施設であったために、市民たちの出入りが自由に許されていたのだ。

結果、その場には、冬でも栽培されていた花々や噴水を見ながら、朝のジョギングなどを楽しんでいた町の人々の姿もあり、その中の一部の町人たちは、


「おはようございます。メイドさん!」


「おはようございます。気持ちのいい朝ですね」


と、朝の挨拶を、そのはぐれメイドに対し、向けていたようである。

一見すると、王城のメイドの一人に見えるので、いつも通りに挨拶をしたのだろう。


だが、彼女が王城のメイドではないことに、いち早く気付いた存在がいたようだ。

ボレアスの現皇帝のはずなのに、ワルツと妹のユキのことを追いかけ、ミッドエデンまでやって来て……そして何故か、王城で戦闘メイドをしていたヌルである。


戦闘に長けたヌルは、はぐれメイドのその立ち回りや身体の動かし方から、彼女(?)がただのメイドではないことを感じ取っていたらしい。

結果、少し離れた場所から、メイドのことをしばらく眺めていたヌルは、彼女に歩み寄って、直接事情を問いかけることにしたようである。


「……そこの方。あなた、どこの所属です?」


と、単刀直入に問いかけるヌル。


すると、はぐれメイドは、箒をメイド服の何処かへと収納して、恭しくヌルに対してお辞儀をすると、こんな挨拶を口にした。


「今日から一緒に働かせていただきます勇者です!よろしくお願いいたします!」


はぐれメイド……もとい、メイド服を身に付けた勇者がそう口にすると、


「……あなた、いい度胸をしていますね……」ビキビキッ


と口にして、額に青筋を立てるヌル。

それから彼女は、続けざまに、こう口にした。


「私の前で、勇者の名を語りますか……」


すると勇者メイドは、少し首を傾けて、疑問の表情を浮かべると、ヌルに対してこう説明する。


「私は、つい先日まで……いえ、昨日まで、本物の勇者をしておりました。とは言っても、正式に勇者を辞めさせていただいたわけではございませんので、今も一応は勇者であると言えるのかもしれません。ですが……ここ工房に潜伏しているという我が国の国王を見つけ次第、辞任の意向を伝えるつもりです」


と、おそらく、話しかけてきた王城のメイドが、自分の正体を知らないのだ、と思い込み、説明する勇者。

だが、事態は勇者の想像を越えて、回り始めたようである。


「……ふっ……面白い……!」


勇者の言葉を聞いた瞬間、戦闘メイドであるヌルの表情と話し方が大きく変わったのだ。

その直後には、


ドゴォォォォ!!


と、ヌルから吹き出る純粋な魔力の突風。

どうやら彼女は、勇者と戦う気満々のようだ。


一方、勇者の方はどうしていたのかというと、


「あの……折角、掃き貯めた塵が吹き飛びそうなので、やめていただけませんでしょうか?」


ただただ、困惑していたようである。


そんな戦意のない勇者のことが気に食わなかったのか、500年に渡って戦闘狂一筋だったヌルは、勇者の闘志に火を付けるために声を上げた。


「貴様が勇者を辞めようとしていることなど、この際、どうだっていい!このボレアス皇帝、ユークリッド=ヌル=シリウスと尋常に勝負せよ!むしろ、貴様にはこう名乗ったほうがいいか?……魔王、と!」


すると、


「……?!」


驚いたように眼を見開く勇者。

それから彼は、一步後ろに下がると、柄が鉄パイプで出来た竹箒をどこからともなく取り出し、それをヌルに対して構えてからこう言った。


「ワルツ様のお仲間に入らせていただく以上、勝手な行動をするというのは避けようと考えておりましたが……魔王に勝負を仕掛けられて断るというのは、勇者として恥たる行為。その勝負、受けて立ちましょう!」


「ふっ……そうは言っているが、貴様も血が見たくて仕方がないのだろう?この魔王の血がな!」


「いえ、そういった趣味はないので、正直、どうでもいいです」


「えっ……」


ドゴォォォォン!!


そして朝っぱら早くから、王城施設の屋上、通称『中庭』で勇者と魔王との戦闘が始まったのである。




その戦闘は、この世界の頂点に近い者たちの戦闘、と表現しても、まったく遜色ないものだった。


ドゴォォォォン!!


強大な魔法が入り乱れ、


ガキィィィィン!!


伝説の武器が火花を散らしながら交わり、


ドシャァァァッ!!


攻撃の衝撃が地面を削る……。

そんな戦闘の中で、2人ともが、充実したような笑みを浮かべていたのは、やはりこれが2人の本来の運命だったからなのか……。


まぁ、それはそうと。

2人の戦闘によって、周囲に被害が出ていない……わけが無かった。

美しい花々が咲き乱れる花壇は吹き飛ばされ、噴水のオブジェは倒壊し、勇者が折角掃き貯めたゴミはすっかり四散して、中庭は悲惨な光景になっていたのである。

それでも、町の人々に被害が出ていなかったのは、2人が一応は彼らのことを気にして戦っていたためか……。


そんな町の人々は、2人の戦闘を、何かの()し物のように、歓声を上げつつ、遠くから眺めていたようである。

これが普通の町なら、勇者と魔王が衝突するクラスの戦闘が始まった瞬間、町民たちは町から避難するほどに慌てふためくはずだが、ワルツたちがいるこの王都の場合は、やはり事情が異なるようだ。


それからも町人の前では戦闘が続き、激化して、ヌルが巨大な氷魔法を行使しようとした……そんな時だった。

2人の戦闘を見て、町人たちが上げていた歓声が、


サーッ……


っと、不意に引いていったのである。

どうやら町人たちは、何か非常に拙いものを見たらしく、思わず言葉を失ってしまったらしい。

中には、顔を真っ青にしながら、その場から逃げ出す者までいたようである。


だが、戦闘に夢中だった勇者たちがそれに気づいた様子は無かったようだ。

結果、2人は、行動が遅れることになる。


「これを食らうがいい、勇者!アブソルートヌル!」


「くっ!」


ヌルから放たれた強大な氷魔法を、愛用の鉄パイプを仕込んだ竹ぼうきで、どうにかいなそうとしてた勇者。

この1週間、文字通りに死と隣り合わせの環境で、ただ一人だけ生き抜いてきて、そしてメイド服に身を包んでいた勇者にとって、魔王が放った最強のその魔法は、決して避けられないものではなかった。

そう、その魔法は、である。


しかし、ヌルの魔法が勇者に届くことはなかった。

直線的に勇者へと飛んでいった魔法が、彼女(?)に届く前に、


『……おやおや、2人とも〜。朝から激しい戦闘、お疲れ様です。早速ですが、死んでください。……よくも、私が大切にしていた花壇を、ここまで台無にしてくれましたね〜……』ゴゴゴゴ


どこからともなく、そんな声が聞こえたかと思うと、


「とぅ〜」


ドゴォォォォン!!


「グハァァァァッ?!」


と、ヌルの身体が、横方向に猛烈な勢いで吹き飛び、


「や〜」


ドゴォォォォン!!


「ウボァァァッ?!」


と、勇者も同じ方向に向かって吹き飛んだのだ。

この間、0.5秒である。


そして2人が居なくなった場所には、ヌルが直前に放った巨大な魔法が残っていたわけだが……それすらも、


「マクロファージ〜」


という間の抜けたような声と共に、


バクンッ!


一瞬の内に、どこかへと消え去ってしまった。


誰が勇者と魔王の戦闘に介入して、2人のことを一撃で沈めたのか……最早、言わなくても、明らかだろう。

長い銀色の髪と、それと同じ色をした獣耳、それに1本の立派な尻尾が特徴的な、この国の評議会議長……コルテックスである。


「さてさて〜。ヌル様?あなたに対しては、まだ教育が足りなかったようですね〜。仕方がないので、私自ら、再びボッコボコにして差し上げましょう〜」


「ひ、ひぃっ?!」


「それと、そこにいるのは〜……誰ですかね〜?まぁ、誰でもいいですけど〜。あなたも、ヌル様と同じように、ギッタンギッタンにして差し上げましょう〜」


「ぐっ……!」


不意に自分たちの前に現れた、勇者と魔王の物語には出てこなさそうな凶暴な議長を前に、顔を真っ青にしたり、苦々しい表情を浮かべたりする、ヌルと勇者。


そんな中、その名前に恥ない強い心を持った勇者が、隣で恐怖の色を表情に浮かべていた魔王ヌルに対して、おもむろに提案した。


「……魔王様。ここは一旦、私と手を組みませんか?」


「な、何を言って……」


「私たちがバラバラにコルテックス様へ対応しても、勝てる見込みは……万に一つも無いでしょう」


「まさか……貴様、コルテックス様に楯突くつもりか?!」


「……それしか、生き残る道が無いと言うのなら……」


そして、箒を杖代わりにして、再び立ち上がる勇者。

その後で彼女(?)は、コルテックスの方に一步踏み出ると、持っていた箒を再び構えた。


そんな勇者の後ろ姿を見ていたヌルは……


「……勇者が戦うというのに、この私が戦わぬわけにはいかん!」


再びその眼に闘志の炎を灯らせると、彼女も立ち上がって、魔法で作った氷の大剣を構えたようである。


そんな2人の姿を見て……


「ほう〜?何処かで見たことがある顔だと思ったら、勇者さまでしたか〜。つまり、あなたと魔王が結託して、私と勝負をするというのですね〜?……いいでしょう〜。その勝負、受けた立ちます。私もこの世界の歴史の一部に名を連ねることにしましょう〜!」


コルテックスは、無手のまま、勇者と魔王に対して笑みを送るのであった。


こうして、勇者と魔王対、最強のホムンクルスであるコルテックスとの戦いが幕を開けたのである……。

……気づいたのじゃ。

いつの間にか、天使モードの賢者と、勇者の設定がごちゃ混ぜになっておることに……。

じゃから、改めて説明すると、


・勇者

-契約相手:女神

・賢者(天使)

-契約相手:エンデルシア国王


なのじゃ?

これがいつの間にか、よく分からないことになっておったのじゃ。

じゃから、これについて言及しておった話を、3話ほど、修正させてもらったのじゃ?

ご了承ください、なのじゃ。

まったく……いつの間に、おかしくなっておったのじゃろうか……。


それはさておいて、なのじゃ。

やはり、コルの話を書くのは、ものすごく簡単なのじゃ。

どうしてここまで簡単なのか、妾自身も良く分からぬのじゃが……お陰で、色々と余裕が出て、助かっておるのじゃ。

コルには礼を言っておかねばならぬのう。


じゃがのう……。

今日の話はいいのじゃが、明日の話をどうするか、未だ決めておらぬのじゃ。

プランは3つほどあるのじゃが、どれで行けばよいか……。

それが悩ましいところなのじゃ。

……ここはあえてプランDで行こうかのう。

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