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7.8-23 黒い飛行艇5

虐げ注意なのじゃ。

ドゴォォォォン……


「あー、やってるわねー」


来賓室の窓の外から聞こえてくる、重低音に耳を傾けながら、呆れたような表情を浮かべていたワルツ。

どうやらエネルギアとポテンティアの2人は、街の近くで大規模な戦闘(?)を始めたらしい。


「あの子、武器とか持ってるのかしら……」


本体が武器の塊のようなエネルギアとは違い、マイクロマシンと、ルシア製の鉱山の欠片で出来ていたポテンティアに、果たしてエネルギアへと対抗できる手段があるのかどうか、とワルツが考えていると、


「……お姉さま。ポテンティアを舐めてもらっては困ります」


勇者メイドに出された茶を、上品に啜っていたテンポが、ソファーに座ったままで口を開いた。


「放っておけば、エネルギアちゃんの本体ですら、一瞬で砂のように消し去ってしまうことでしょう」


その言葉を聞いて、


「あー、その可能性を考えてなかったわ……」


と、今更のようなことを口にするワルツ。


つまり、ルシアが作り出した人工鉱山を崩してしまった時のように、ポテンティアがマイクロマシンで、エネルギア本体を破壊しようとすれば、造作もなく彼女のことを亡き者に出来る、というわけである。

例え、特殊合金でエネルギアが構築されていたとしても、物理的な融点や沸点は必ず存在するはずなので、マイクロマシンが発するメーザーや、高周波誘導加熱によって破壊することは決して不可能ではないのだ。

言い換えるなら、エネルギア本体に搭載されているミリマシンやマイクロマシンで自身の船体を修復することと、全く逆のことであると言えるだろう。


ただ、2人の戦闘において、エネルギアが一方的にやられる、という展開は考え難かった。


「でも、大丈夫よ、きっと。ポテンティアが破壊した部分から、エネルギアが修復していけば、破壊と修復のイタチごっこになるはずだし」


というワルツの言葉通り、同じ存在であるエネルギアとポテンティアが争ったとしても、それは結局、プラスマイナスゼロにしかならないのである。

もちろん、物量に相当な差があれば、その限りではないはずだが、現在の2人のマイクロマシンの比率を考えるなら、そこまで大きな差があるわけではなかった。

その上、マイクロマシンの他にも、大量のミリマシンも保有しているエネルギアのことを考えるなら……ポテンティアの侵食程度でに墜されるようなことは無い、と言い切れるだろう。


ということは、である。


「なら、逆にポテンティアは大丈夫でしょうか?」


「……自信あったんじゃないの?」


不意に自信の無さそうな無表情を浮かべたテンポが口にした通り、逆にポテンティアの方が危機的状況に陥ってしまうかもしれない、という可能性は否定できなかった。

マイクロマシンと鉱物だけで構成されているだろうポテンティアと比較して、エネルギアの方は、巨大な本体の他に、マイクロマシンとそれよりも1000倍大きなミリマシン、それに船体補修用に用意されていたルシア製特殊合金の予備を保有しているのである。

両者が何の策も無しに、まっ平らな平地で衝突するようなことになったなら、どちらが勝つかは、最早、言うまでもないことだろう。


「……ポテンティア!」


ガタンッ!


そして、自身の隣で座っていた包帯まみれの剣士ごとソファーを倒しながら、急に立ち上がるテンポ。


その際、


ゴツンッ!


「うっ……」がっくり


と、剣士が思うように身体を動かせず、後頭部から床に落下して……そして、意識を失ってしまったのは、ある意味で彼にとって幸いだったと言うべきか、それとも不幸だったと言うべきか。

いずれにしても、ソファーから床へと変な体勢で転倒してしまった剣士は、先の戦闘で骨折していた腕や足が、文字では表現を(はばか)られるような状態になっていたのだが……。

気を失ったために、彼が叫び声を上げることは無かったようである。


「はぁ……病人はもう少し、丁寧に扱いなさいよ。ルシア?剣士さんに回復魔法を掛けてあげて?」


「う、うん……(かわいそう……剣士さん……)」


微妙そうな表情を浮かべながら、そう口にして、剣士に対して簡易的な治療を施し始めるルシア。


そんな妹の行動を見届けてから……。

ワルツは、その場にいた狩人たちに、王都へと戻るための準備をしてほしい、という旨の言葉を告げると、先に部屋から出て行ったテンポの背中を追いかけて、自身も外へと飛び出したのであった。




そして、音のした方へとやって来たワルツとテンポ。

具体的な場所を説明するなら……月見団子状に巨大な岩が重なっていた場所である。


そこでは、エネルギアによるポテンティアへの一方的な乱暴が繰り広げられて……いなかった。


『……次は僕の番ですよ!』


ドゴォォォォン!!


と、いつの間にか黒い戦艦の姿に戻っていたポテンティアが、その姿と同じような黒い砲撃を、どういうわけか、その岩へと浴びせかけていたのである。


それが終わった後で、


『……じゃぁ、次は僕ね!』


ドゴォォォォン!!


と、1200mmレールガンによる砲撃を1発だけ別の岩に向けるエネルギア。


その様子を見て……


「……積木崩しでもしてるのかしらね?」


「はぁ……。安心しましたよ。紳士的な遊び(?)で良かったです」


ワルツとテンポは、それぞれにそんな感想を口にした。


「いや、ビリヤードとかだったら、紳士的な遊びって言えるかもしれないけど、岩を砲撃で撃ち抜くって、紳士的な遊びって言えるの?」


「少なくとも、誰にかに迷惑を掛けているわけでもなければ、公序良俗に反する行為をしているわけでもないと思いますが?」


「……納得いかないけど、否定も出来ないのよね……」


と色々と言いたげなワルツ。

とはいえ、それ以上、無意味な反論をするつもりはなかったらしく、彼女はそこで頭を切り替えると、改めてテンポに対して問いかけた。


「話は変わるんだけどさ、ポテンティア……何で今になって姿を見せたの?」


そんなワルツの疑問は、これまでテンポの前にしか姿を見せなかった彼が、何故今日はマイクロマシンをハッキングして人の形になり、そして自分たちの前に出てきて会話することにしたのか、というものであった。

彼女にはどうしても、その理由が分からなかったらしい。


すると、質問を向けられたテンポは、こう返答を口にする。


「……実は、反対していたのです。お姉さまと会話をすると頭が汚染されると思いまして……」


「は?」


「まぁ、それは冗談ですけど、本当はあの子も皆様と会話したがっていたようですよ?ですが、王都ではそれが出来ない理由があったようです」


と、難しそうな無表情を浮かべるテンポ。

その気配を察したのか、あるいは聞き捨てならない言葉があったのか、ワルツは眉間にシワを寄せながら、妹に対して再び問いかけた。


「なんか、嫌な予感しかしないんだけど、どういうこと?」


するとテンポは、空に浮かぶポテンティアに向けていた眼を、ワルツへと戻してから、口を開く。


「まず、最初に断っておきますが、あの子は人そのものです」


「そりゃ……人の姿をしてるから、そうなんでしょうね」


「では、何故、あの子が、王都で人の姿にならなかったのか、いえ、なれなかったのか……分かりませんか?」


「つまり……いや、まさか、王都では人でいられなくなる、ってわけ?」


「大体そんな感じです。正確には、人の姿を維持できなくなる、と言うべきでしょうか」


「んー、まだよく分からないわね……」


「要するに……王都には、人の姿になることを妨害しようとする存在がいる、というわけです」


「……やっぱり、面倒くさいことになってたわけね……」


そして質問したことを後悔するワルツ。

だが、一度聞いてしまったことを、聞かなかったことにはできなかったようで、彼女は続けざまに問いかけた。


「で、原因は何?」


「それは……薄々感じてるんじゃないですか?あの子にしてもエネルギアちゃんにしても、幽霊みたいなものなんですからね。ということはですよ?あの場で大量に命を落した者が何なのかを考えれば……」


「……エンデルシア国王……」


「確かに、死にそうになっている回数は、人類の中で一番多いかもしれませんが……残念なことに、あの本物のゴキブリのような方は、まだ存命してると思います。それを言うなら、前ミッドエデン国王たちの方が可能性としては高いのではないですか?」


「はいはい、分かってるわよ……。全く、大変よね。生命ってやつは、さ……」


そしてワルツは、無人島に投棄することを止めて、責任を持って工房で処分している実験用のマギマウスたちのことを思い浮かべて、頭を抱えてしまった。

どうやら、この世界のネズミたちは、生きていたとしても、そうでなかったとしても、ワルツの頭痛の原因になることに変わりは無いようである。

今日の話は……正直に言うと、数話前でポテンティアが出て来た際に、ワルツがポテンティアに対して直接問いかけるはずのモノだったのじゃ。

じゃが、すっかり忘れてしまっておってのう……。

じゃから、昨日から策を練って、今日の文に無理やりねじ込んでみたのじゃ。


本当に、物忘れには困ったものじゃのう……。

いや、物忘れではなく、他のタスクに上書きされてしまった、と言ったほうが適切かも知れぬがの。

昔から、短中期記憶のバッファが人の半分くらいしか無くて、考えておることを、どうしても次々忘れていってしまうのじゃ。

長期記憶には自信があるんじゃがのう……。

まぁ、それはどうでもいいんじゃがの。


さて。

昨日書いたあとがきの通り、妾は家へと無事に帰ってこられたわけじゃが……駄文が、まるで別人の書いた、表現力あふれる、魅力的な文になるわけもなく……。

本当にあと数話で7章が終えられるかどうか分からない展開になってしまったのじゃ。

いや、無理矢理にでも終えるんじゃがの?

まぁ、王都で蔓延る亡霊たちについては、8章でコル辺りがどうにかするんじゃなかろうかのう。

とはいえ、まだ詳しいことは特に決めておらぬがの……。

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