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7.8-22 黒い飛行艇4

修正:

勇者はエンデルシア国王と契約しているわけではないのじゃ……

女神となのじゃ……

いつの間にかごちゃ混ぜになっておったので修正するのじゃ。

「令嬢になるための……修行ね……」


車椅子(エネルギア)に乗った剣士と、そんな彼と並んでやってきた賢者の服装を見て、眼を細めながらそう呟くワルツ。

その際、彼女が笑ったり吹き出したりしなかったのは、あまりにシュール過ぎたためか、それとも訓練を狩人に頼んだのが、元を(ただ)せば自分だったためか。


そんな彼女とは対照的に、ルシアの方は、机に突っ伏し、プルプルと震えていた。

彼女には、必死になって、自分の表情を隠さなくてはならない、何らか特別な理由があったようである。


そんな2人の反応を見て……包帯まみれだと言うのに、いまだに真っ赤なドレスへと袖を通していた剣士が、おもむろに口を開く。


「こ、これは、エネルギアと一緒に本気で修行に取り組んだ結果ですわ!」


ここ数日の間、狩人の訓練が続いていたためか、癖のようになっていた剣士のそんな喋り方を聞いた瞬間、ルシアの振動は一回り以上大きくなり、彼女の尻尾はまるで竹箒のように再度パンパンに膨れるのだが……。

その様子を見ても、羞恥の一線を超えつつあった剣士にはそれを指摘するつもりは無かったらしく、彼はルシアの反応を極力無視しながら、自身の言葉を続けた。


「ここにいなかったワルツさん方には分からないかもしれないですけれど、この1週間、色々と大変なことがあったのですわ……」


と、骨折した両手両足がガッチリと車椅子に固定されている様子の剣士。

その隣りにいた賢者も、


「あぁ……。大変だった……」


心底疲れた様子で、そう口にしながら深い溜め息を吐いた。


その様子を見て、ワルツは珍しく、(ねぎら)いの言葉を口にする。


「それは……お疲れ様だったわね」


その言葉を聞いて、剣士たちは、この1週間に渡る過酷な(?)訓練の終了を感じて、安堵の表情を浮かべたようだが……


「……それじゃぁ、2週目もがんばってね?」


「ちょっ?!」

「う、嘘だよな?」


ワルツの無慈悲なその一言を受けて、2人とも絶望の表情に変わってしまったようである。


「ま、それは冗談だけどさ……」


と、ワルツは、やる気満々の狩人に釘を刺すような言葉を口にしてから、彼らがここに着てからというもの、ずっと抱いていた疑問を、2人に対して投げかけた。


「……ところでさ、貴方たちのリーダーはどこ?」


首を傾げながら、そう口にするワルツ。

その瞬間、剣士も賢者も、微妙そうな表情を浮かべて、とある方向へと視線を向けるのだが……彼女の質問に答えたのは、この訓練の教官役を務めていた狩人であった。


「ん?何言ってるんだ?ワルツ。勇者ならそこいるじゃないか」


と言いながら、剣士たちと同じ方向……すなわちメイドの少女の方へとチラッと眼を向ける狩人。


そんな彼女の反応を見て、問いかけた本人であるワルツと、ようやく落ち着ついた様子のルシアは、揃ってメイドの方へと視線を向けた。

すると、


「…………」にっこり


と、単なる営業スマイルとは異なる、ハイレベルな微笑みを返すメイドの少女。

そんな彼女の姿を見て……ワルツは思わず声を上げる。


「ま、まさか……」


「あぁ……。そのまさかだ」


とまだ何も言っていっていないワルツの言葉に、頷く狩人。


そしてワルツは、いよいよその核心に触れた。


「つまり、訓練がものすごくうまくいって……見えないくらいに、存在感が無くなったんですね!」


「勇者のお兄ちゃんすごい……」


「えっ……いや、うん……。強ち間違いではないかもしれないけど……いや間違いだな」


こうして狩人は、ワルツたちが答えにたどり着けなかったために、苦笑を浮かべたのである。




それからそのメイドが、勇者であるという説明を受けて、


「…………」ぼーぜん

「…………」がくぜん


とするワルツとルシア。

その他、実は彼女たちとほぼ同時刻にこの館へと到着したために、事情を知らなかったテンポも、


「……世の中には、理解の範疇を越えた出来事が存在するようです。まさか、勇者様が性転換手術をお受けになるとは……」


珍しく驚愕の無表情を浮かべていたようである。


「いえ。中身も身体も男のままでございますよ?テンポ様。ただ、今まで自身の能力を発揮する際の(しがらみ)となっていた色々なものを捨て去っただけでございます」


「そう……。貴方にとって男らしく生きることは、柵だったのね……」


と、勇者に対して可哀想なモノを見るような視線を向けるワルツ。


しかし、大切にしていたものを捨て去ることで、防御力が取り柄なはずの地竜すらをも簡単に葬り去ることが出来るほどの力を手に入れた勇者は、そんな視線を向けられても傷つくことのない、鋼以上の強度を誇る特殊合金製の心も同時に手に入れていたらしい。


「大切な仲間たちのために、リーダーとして何が出来るのか……。私は、仲間たちを守るためなら、この想い以外の全てを捨て去っても構わない……そう覚悟を決めたのです。……一度失ってしまった仲間は、どんなにお金を掛けても、どんなに取り戻す手段探し回っても、そしてどんなに神様に願っても、二度と帰っては来ないのですから」


そして、悔しそうに口を結ぶ勇者。

そんな彼が思い浮かべているだろう人物が誰なのかについては、その場にいた人物の大半がよく理解していたので、皆、神妙な表情を浮かべていたようである。

それはワルツも例外ではなく、彼女も眼を細めて、視線を下げていたようだ。


そんな重苦しい空気が漂う原因を作り出してしまった勇者は、自分でもそれ感じ取っていたのか、無言が支配する空気を自ら破壊するようにして、話題を変えることにしたようである。


「……ワルツ様。お願いごとがございます」


勇者がそう切り出した瞬間、彼が何を言いたいのか察したワルツは、その言葉が勇者から放たれる前に言葉を返す。


「つまり、私たちの仲間に入りたいって話?」


「その通りでございます」


と言いながら頭を下げる勇者。


そんな勇者に対して、ワルツはいつも通りに大きなため息を吐いた後、短くこう答えた。


「別にいいわよ?」


「……よ、よろしいのでございますか?!」


「ダメ、って言っても今の貴方なら、地の果てまで付いてくるでしょ?仲間を守るために……いえ、一旦は失ってしまった仲間を取り戻すために、さ?」


「おっしゃる通りでございます」


そう言ってニッコリとした笑みをワルツに向ける勇者。


そんな彼の姿を見て、ワルツは……


(正直、笑みが怖いんだけど……)


勇者がその片足を狂気に踏み入れているように感じていたようだ。

とはいえ、その種の『狂気』が彼女に向けられるのは、今回が初めてのことではないのだが……。


「そんじゃ、アレね。勇者も、そろそろ『勇者』を辞めなくちゃならないんじゃない?なんて言ったって、私、魔神扱いされてるマシンなわけだし?」


「はい……そうかもしれません。ですが、私と女神様との契約を管理されておりますエンデルシア国王は、今のところ行方不明のご様子……。彼が見つからないと、辞意を伝えることも(まま)なりませんので、暫くは勇者を兼任する形になるかと存じます」


「えっ?エンデルシア国王なら、4日くらい前に会ったわよ?」


「……それは一体どちらで?」


「王都にある私の工房」


「えっ……」


「なんでか知らないけど、自分の首を箱に入れて、『Present for you』とか書いたリボンで飾り付けしてたから、箱ごと溶鉱炉に突っ込んでおいたわ。今頃、シラヌイの新しい刀に化けてるんじゃないかしら?(勇者とは狂気の次元が違うわよね……)」


「そ、そうでございますか……。では後ほど、シラヌイ様に、お声をおかけするとしましょう」


と、怪訝な表情を浮かべながら、その光景を想像している様子の勇者。

その際、彼は、不死身なエンデルシア国王の事を思い出して、自分で魔王退治に行けばいいのに、とこれまでにも何度も思ったことを、再び思ったとか思わなかったとか……。




……ところで、である。


ここまでの会話に、全く関与していない人物が、約2名ほどいた。

少年の姿のポテンティアと、車椅子の姿のエネルギアである。


では、2人は一体何をしていたのか、というと……


『…………』にっこり

『…………』ゴゴゴゴゴ


無言のまま、身体から放っていた気配を使って、会話(?)をしていたようだ。

その様子は、例えるなら……縄張り争いをする動物のよう、と言えるかもしれない。

とはいえ、新参者であるポテンティアには、まったくそのつもりはなく、エネルギアが一方的に対抗心を燃やしているだけのようだが……。


結果、ワルツと勇者の会話が一段落したところで、少年の姿のポテンティアが、剣士の車椅子に対して話しかけた。


『エネルギアちゃん?僕に何か言いたいことがあるのでしょうか?』


と、異様な気配を漂わせていた車椅子に対して問いかけるポテンティア。

すると、エネルギアは、車椅子の形を一旦崩して、そして人の姿になり、骨折していた剣士のことをソファーに下ろしてから、こんなことを口にする。


『……ビクトールさんのことは、絶対に渡さないんだからね?』ゴゴゴゴゴ


どうやら彼女は、自身と同じ存在であるポテンティアに、剣士が横取りされるかもしれない、と考えていたようである。


だが、そんなわけがあるはずもなく……。

ポテンティアは浮かべていた笑みを苦笑に変えて返答を口にした。


『いえ、僕は要りませんよ。誰かを好きになるという感覚については、まだ理解できていませんから』


その瞬間、


『ビクトールさんがいらない?!なんて事を……!』


と、ポテンティアの発言を勘違いしたのか、声を上げるエネルギア。

その結果、火の付いた彼女は


『お姉ちゃん!ちょっと、そこの新入りに教育したいんだけどいいかな?!』


この1週間、血気盛んな人々や教官(かりゅうど)と一緒にいたためか、ポテンティアとの関係に、ある種の白黒をつけることにしたようである。


「えぇ、いいわよ?だけど、死人を出したり、畑や建物に損害を与えたりしたらダメだからね?」


『うん、分かった!ほら行くよ!ポテンティア!』


『……ということになってしまったのですが、よろしいでしょうか、お母様?』


「仕方ありませんね……。無責任なお姉さまについては、私の方で懲らしめておくので、ポテンティアはエネルギアちゃんのことを適当にあしらってきなさい。でも、相手がレディーであることを忘れてはいけませんよ?あなたは男の子なのですからね」


『分かりました。お母様!』


そして姉に当たるエネルギアの後ろを付いて、来賓室を出て行く弟のポテンティア。

こうして、プライドと剣士を懸けた、半ば一方的な2人の戦いが、幕を開けたのである……。

今日は珍しいケースだったのじゃ。

修正したら、文が減ったのじゃ。

大抵の場合は、修正前に比べて1000文字程度増えるのじゃが、今日は500文字程度少なくなってしまったのじゃ。

昔はこの1000文字、500文字というのが大変に思えておったのじゃが、今では誤差の範疇になってしまったようじゃのう……。

まぁ、文字数を稼ぐためだけの駄文でしかないからのう。


さて。

今日、妾は、自宅におらぬのじゃ。

これまではできるだけ避けるようにしておった、人生初めての満員電車に揺られて、獣耳と尻尾を誰かに見られぬようにとビクビクしながら、大都市にやってきておるのじゃ。

誰にも見られてはおらぬはずじゃが、妙に人からの視線を感じてしまうのは……やはり後ろめたいことがあるからかのう……。


そんなわけで、今、妾がおる宿では、環境が整っておらぬ故、執筆活動が大変なのじゃ。

それに、前述の通り、満員電車の件もあって疲れた故……今日はもうこの辺であとがきを終わろうと思うのじゃ。

明日は……家に帰れると良いのう……zzz。

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