7.8-17 狩人講座17
勇者が放った鉄パイプが生み出す、その猛烈な衝撃によって、何千トンあるかも分からないような巨大な地竜は宙を軽々と吹き飛んだ。
ドゴォォォォォン!!
グオッ?!
「っ?!ば、馬鹿なっ?!」
そう口にしたのは、自分と地竜が軽々と吹き飛ばされたことで、地竜の背中にしがみついたまま、驚愕の表情を鎧の内側で浮かべているだろう黒甲冑の男性である。
一方、泥などが付着して汚れていたものの、解れや乱れのない真っ赤なメイド服に身を包んでいた勇者は、どこまでも淑やかに振る舞いながら、一步、また一步と自身が吹き飛ばした地竜を追いかけて……。
そして、地竜にたどり着いた瞬間、何も言わず、そして表情すらも変えずに、
ドゴォォォォォン!!
グオッ!!
と再び地竜に向かって、再び鉄パイプを振り下ろした。
そんな、機械とも……あるいは、狂気じみているとも言える行動を見せる勇者が突然現れたことで、地竜と共にその攻撃の対象となっていた男性は、自身が直接攻撃を受けていたわけではなかったが、驚愕のあまり思わず言葉を失ってしまっていた。
それは彼だけでなく、仲間である剣士や、勇者にメイド服を着せた本人である狩人も同じだったようで、まるで人が変わってしまったかのような勇者に対して、皆が怪訝な視線を向けていたようだ。
「……なぁ、剣士。勇者のやつ、最初からあんなに強かったのか?」
と、勇者から視線を逸らさずに、近くにいた剣士に対して問いかける狩人。
すると剣士は、首を横に振りながら、同じく視線の先を勇者から動かすこと無く、狩人に対して返答を口にした。
「いいえ。最初からレオがあんなに強かったら、きっとわたくしたちは、ここには居ないですわね」
「だろうな……」
ドゴォォォォォン!!
と再び宙に浮いた地竜と男性に向かって、同情気味の色を含んだ視線を向ける剣士と狩人。
2人とも、勇者が行方不明になっていた間、彼に何が起ったのかを想像しようとして、頭を悩ませていたようである。
その他、その場にいた者たちも、大方、同じような表情を浮かべていたようだ。
ただ、勇者を行方不明にした張本人であるアンバーだけは、何かひんやりとした冷たいものを背筋に感じていたらしく、一人、顔を真っ青にしていたようである。
それからアンバーが、最悪、勇者に絡まれた時に、彼のことを何処か遠いところへと再び転移させようと考え……しかし思いつく限りの遠い場所が、結局、近所しか無かったことに気付いた頃。
無限に回復するかのように見える地竜を、これまたひたすらに殴り続けるかというような勢いで、鉄パイプを振りかざしていた勇者が不意に手を止め、そして立ち止まった。
そして彼は、地竜の背中に乗っていた黒甲冑の男性へと、言葉を投げかけたのである。
「……そこにいる方?このままペットのドラゴンと一緒に、殴り殺されたいのですか?私としては、一向に構いませんけれど……」
そう口にしてから、返事を待つように、小さく首を傾ける勇者。
どうやら彼女(?)は、戦闘を停止するための何かしらの条件を、男性から引き出そうとしたようである。
しかし彼には、勇者と会話をする気があったのか、それとも無かったのか……。
そのどちらとも言えない態度で、勇者の質問に対してこう返答した。
「悔しいが、今の俺や地竜にゃぁ、お前に対抗する力は無さそうだ。けれど、俺を殺すっていうのは、そう簡単にゃぁいかないぜ?」
「そうでございますか……。それでは、死んでください」
そう言って、再び愛用の鈍器を握りしめる勇者。
今度は単に叩きつけるだけではなく、魔力を通わせて物理的な衝撃を強化させ、本気で地竜と男性を消滅させる気になったようである。
半端な攻撃で消滅させられないのなら、再生不可能になるくらい、徹底的に粉砕すればいい、と思ったらしい。
対して男性の方には、その言葉通り、これ以上、戦うつもりは無かったようだ。
戦っても勝ち目の無い相手に、これ以上、手を焼いても仕方がない、と考えたのだろう。
ただ、さすがに、そのまますんなり逃げ切れるとは思っていなかったようである。
結果、彼は、置き土産をすることで、厄介な勇者やエネルギアたちの注意を分散させ、その隙に逃げることにしたようだ。
「……お前たちにプレゼントだ」
そして、空に向かって手をかざし、魔法を行使する黒甲冑の男性。
その結果、空には、岩石を召喚する緻密で巨大な魔法陣が再び描かれるのだが……。
今回、彼が作り出した魔法陣の数は、1個や2個どころの話ではなく、
ドゴゴゴゴゴゴ!!
まさに空を埋め尽くさん限りの大量の魔法陣だった。
そして空を巨石が埋め尽くし……雪雲どころか、その向こう側にあった太陽や月すらも覆い隠してしまったことで、辺りは急激な暗闇に支配されることになる。
そんな半径5km程度の範囲で繰り広げられていた、現実とは到底思えないような光景を見た剣士たちは、
「…………急に夜になりましたわね?」
『び、ビクトールさん!現実から逃げちゃダメだよ!』
「……私の短い人生、ソフィーに虐げられて終わr」バコンッ!「あ痛ーっ!」
「何言ってるのよ、アンバー……」
「これが最期の瞬間というのなら、この心の内側に秘める思い、今ここd(以下略)」
絶望を前にしても、それを素直に受け入れられなかった(?)のか、現実逃避の言葉を口にしていたようだ。
しかし、である。
一人だけ、そんな巨石が覆い尽くす空に眼もくれず、逃走のための転移魔法陣を起動していようとしていた男性に向かって、視線を向けていた人物がいた。
男性側もその視線に気づいたのか、彼もその人物へと眼を向けるのだが、視線が合った瞬間、彼は鎧を被っていたために直接表情が見えなかったにも関わらず、まるで後ろめたいことがあるかのように、その顔をすぐに背けてしまう。
その瞬間、彼に向かって視線を向けていた……狩人は、疑問混じりに、こんなことを呟いたのである。
「……兄さん……?」
しかし、その言葉は、離れた場所に居た男性にも、そして、周囲一面に広がっていた危機的な状況に意識が向けられていた仲間たちにも、届くことは無かった。
それはもしかすると、彼女の纏う気配が、いつも通り薄かったからということも、関係していたのかもしれない。
一方、そんな彼女とは別に、黒甲冑の男性の最も近くにいた勇者も、鉄パイプを構えながら、魔法陣を完成させつつあった男性にまっすぐ視線を向けて、警戒の色を濃くしていた。
あるいは、悩んでいた、と言うべきか。
「(果たして進むべきか、それともここにとどまるべきか……)」
勇者は、あと一步踏み出せば巻き込まれるだろう距離にあった転移魔法陣を前に、逃亡するつもりの敵を追って、一緒に飛び込もうかどうかを悩んでいたのである。
そんな勇者の内心が読めたのか、完成した魔法陣の光へと徐々に身体を包まれ始めていた男性は、おもむろこう口にした。
「そこから踏み出してこちら側に来たなら、めでたく敵地のど真ん中だ。前回会ったときから、貴様がどれほどの修練を重ねたのかは知らないが、もしかすると今なら、俺達に一泡吹かせることが出来るかもしれないぞ?」
と深追いを誘うような言葉を告げる男性。
だが、そこにいたメイド姿の勇者は、今日この瞬間も、王都にあるワルツの工房で潜入ミッションを繰り広げているだろうエンデルシア国王やロリコンたちとは、根本的に頭の作りが違ったらしい。
彼女(?)は手に持っていた鉄パイプを手首だけで振り回して、そのままの勢いでメイド服の何処かへと収納すると、腹部に両手を置いて、丁寧にお辞儀をしながら、こう返答したのである。
「申し訳ございませんが、今日のところは自分のベッドが恋しいので、深追いするようなことは止めておきます。後日、同様に誘われることがございましたら、その際は検討いたしますので、再度、お申し付けください。ただ……」
そして、頭を上げて、ニッコリとした表情を浮かべると、これまでの勇者には似つかないドス黒いオーラを身体から放ちながら、男性に対して最後の一言を口にする。
「その際は、私一人ではなく、仲間たち全員でお世話になろうと思いますので、貴方様のご主人に『よろしく』とお伝え下さい」
「…………伝えておこう」
そして、
ブゥン……
と魔法陣の向こう側へと姿を消す、黒甲冑の男性と地竜。
こうして彼らとの戦闘は、幕を降ろすのだが……空に浮いていた無数の巨石は、術者がいなくなっても、やはり消えることはなく、
『あー、これやっぱり、みんな死んだね。あ、でも、ビクトールさんはどうにか僕が守るから安心してよ?多分、次は肋か鎖骨かな?』
「ちょっ……ゆ、勇者?!あなた、何か対処できる手段は無くって?!」
「申し訳ございませんが、私には、エネルギア様に守られる以外、無事に生き残る術は思いつきません」
このままだと、その場に居たものたちは、近くにあるサウスフォートレス共々、最期の瞬間を迎えなくてはならないようだ。
もう少し加筆すれば、250万文字に到達したんじゃがのう……。
じゃが……そのことはあまり喜ばしいことではないのじゃ。
この物語の場合、その構成要素の200%が駄文じゃから、文字数が増えれば増えるほど、つまり駄文だけが延々と増えてくということを意味しておることに、他ならないのじゃ。
まったくもって、頭が痛いことなのじゃ。
とはいえ、毎日書くというスタイルを続けておる以上、体調や頭の周り具合によって、時には駄文で文字を埋めねばならぬこともあるのじゃ。
今回の話にしても、黒甲冑の男性が何をするためにやって来たのか、という記述が、結局、具体的に記述できずに終わってしまったしのう。
まぁ、大した理由でもない上、後で回収可能な伏線じゃから、無理矢理に書く必要はなかったのじゃがの。
もうすこしゆっくり書く時間があれば、まともな文が書けるやも知れぬが……いや、無理かもしれんの。
忘れっぽいし、あまり深く考えないし……。
ってなわけで、妾が書く物語は、基本、その場しのぎ的なもので適当じゃから、完璧には書けぬのじゃ!
さて……あとがきも駄文で埋めたし、そろそろ寝るかのう。
次回は……いや、何も言わないでおくのじゃ。
……え?それはどうしてか?
なぜなら……妾も何を書くのか、まだ決めておらぬから、なのじゃ!
もう駄文かも知れぬ……zzz。




