7.8-16 狩人講座16
修正:
剣士と賢者の記述が逆になっておった部分があったのじゃ。
「エネルギア?これ、どう思います?」
『んー、ビクトールさんは僕が守るから良いとして、でも多分、他の皆は死んじゃったね、コレ』
「ちょっ……?!」
「ムオッ……?!」
空からまっすぐに落下してくる巨大な岩石から降り注ぐ猛烈な熱線に眼を向けながら、いつも通りの会話を交わしていた剣士と、そして彼の鎧になっていたエネルギア。
その話の内容は、それを近くで聞いていた賢者やサーロインにとっては、聞き捨てならないものだったようである。
「……仕方ない。私は天使化して逃げるか……」
エネルギアに守ってもらえないなら、自分の身は自分で守るしか無い……。
ということで、纏う気配と自身の髪色、それに服の色を変えて、サーロインの背中で天使モードになる賢者。
そうなると、この場にいて、最も『死』に近い人物(?)は……
「ム、ムォォォッ!?」
っと、焦ったような声を上げるサーロインということになるので、彼は、その場から飛び立とうとしていた賢者にしがみつき、自分だけが取り残されるような事にならないよう、必死になっていたようだ。
「は、離せ!お前と心中するつもりはない!」
「ムォォォッ!!」
このままだと自身も巻き込まれてしまうのでで、賢者も懸命にサーロインを引き離そうとするのだが……そうこうしている内に、どうやら時間切れが訪れてしまったらしい。
ゴゴゴゴゴ!!
「くっ!もう、逃げきれんか……!」
迫りくる赤い景色が、眼前の殆どを埋め尽くしてしまった光景を目の当たりにして、遂には逃げることを放棄する天使モードの賢者。
その結果、彼は、
「仕方ない……。剣士とエネルギア。あの変態が来たら、その時は、お前たちが私の身を守ってくれ!」
天使としての力を大きく使って、落ちてくる岩石に対処することにしたようである。
そして賢者は、空に向かって手を突き出した。
そんな彼が行使しようとしていたのは、魔法を無効化する魔法である。
空から落ちてくる岩石が、魔法によって召喚されたもので、今もなお、その全体像を魔法陣から出していないとするなら、魔法陣の機能さえ停止させてしまえば、何もなかったことになる……彼はそう考えたらしい。
その魔法は本来、異常な魔力を持った魔女たちに対処する天使たちが、彼女たちの魔法を無効化するために用いる常套手段であった。
例えばアンバーのように転移魔法の化け物のような人物に対処することを考えるなら、何も無しに対応するというのは、骨の折れることなのである。
まぁ、彼女の場合は、転移防止結界が一つあれば、どうとでもなるのだが、他の人物が彼女と同じく重大な欠陥を抱えているとは限らないことについては、言うまでもないだろう。
そんな魔女たちを速やかに制圧すべく、天使たちはデスペル魔法を多用してきたわけだが……ただそれは、飽くまでも、単に魔力が強いだけの一般人を相手にした場合の話で……。
もしも、その魔法を行使する相手が、どこからともなく魔力供給を受ける同じ天使(?)だった場合は、無理矢理に魔法を無効化したすると、一体何が起こるのか、その場にいた誰にも分からなかったのである。
いや、正確には、何が起こるのか、大体の予想が付いていた、と言うべきか。
すなわち、自身が契約する神と、相手側の天使の主人たる神とで、どちらが大きく大量の魔力を供給できるのかで優劣が決まる、というわけである。
とはいえ、現在のところ黒甲冑の男性は肉塊になっていて復元中であり、賢者側の神であるエンデルシア国王は生死不明で、行方も不明(?)だったので、一概にその枠が当て嵌まるかどうかは、なんとも言い難いところなのだが。
それでも賢者は、諦めること無く、あと数秒で衝突する距離にあった岩石に対して、デスペル魔法を行使した。
「消えよ!魔法!」ゴゴゴゴゴ
しかし、どうやら、彼の予想は、最初から大きくハズレてしまっていたようだ。
「……?全く効果がない?!」
デスペル魔法を行使しているはずなのに、一切の効果が見られない目前の岩石に、驚愕の視線を向ける賢者。
読みが外れて、選択を誤り、その結果、起った出来事は……
ドゴォォォォォン!!
爆風と高温、それに莫大な運動エネルギーによって、周囲一体が大きく削れて無くなってしまう、という最悪な事態だった。
それを安全なサウスフォートレスから見ていたアンバーは、おもむろにこう呟いてた。
「……あ、間違えた」
「ちょっ?!ま、間違えた、じゃないぞ?!私の心のふるさとがぁぁぁぁぁ!!」
と、アンバーの言葉を聞いて、頭を両腕で押さえながら、叫び声を上げる狩人。
目の前で消えてしまった小さな森は、狩人にとって大切な心の拠り所とも言うべき場所だったので、彼女はやり場の無い絶望感に打ちひしがれてしまったようである。
とは言っても、それ以上、彼女にはアンバーのことを責めることはできなかった。
そもそもアンバーが、その岩石の塊を、街の上から森の上空へと転移させなければ、このサウスフォートレスは、多くの人々と共に、消え去っていたはずなのである。
狩人はそれを理解していたので、心の葛藤をその内側に溜める以外に、叫ぶことくらいしか出来ることが無かったのだ。
ところで。
そんな2人が一体どこにいたのか、というと、サウスフォートレスの正門入口から少し町中に入ったところにある、噴水の前であった。
要するに、数分前、狩人を転移魔法で連れて行くことを忘れて、彼女を置き去りにしたその場所へと、アンバーは帰ってきていたのである。
つまり、そこには、
「……団長。対応は如何なさいますか?」
と、まるで人格が変わったような普通の話し方をしている騎士団副長と、
「……アンバー?大人しく頭を出しなさい?お尻でも良いわよ?」プルプル
拳を握りながら肩を震わせるソフィアがいた。
前者については、ここに獲物(?)がいないためか、落ち着いているようだったが、後者については、その言葉通り、怒り心頭状態だったようである。
それを見て、
「……!」
と何も言わずに転移魔法を使って、その場から逃げ出そうとするアンバー。
ところが彼女のその逃走手段は、すでに予想済みだったのか、
ガシッ!
ソフィアがアンバーの肩をミシミシと音を立てながら握りしめる。
そして彼女の行動は、それだけではなかった。
「狩人様も一緒に行きましょう」
転移魔法を行使しようとしているアンバーの肩に手を置いている右手とは逆の手で、ソフィアは狩人の手を握りしめたのである。
すると、事態をなんとなく察した狩人は、握られた手とは逆の手で、副長の獣耳を掴み、
「おい、ガスト!お前もどーせ暇だろ?暇じゃなきゃこんなところにはいないよな?ほれ、一緒に行くぞ!」
「い、痛いです!お嬢さ……じゃなくて、団長!」
副長のことも巻き込むことにしたようだ。
結果、アンバーの他、彼女に間接的に触れていた、ソフィア、狩人、副長の3人が転移魔法で空間跳躍することになり、
ブゥン……
そんなお馴染みの低音が鳴り響いた後で、世界が暗転し、そして4人の視界に再び光が差し込んでくる。
すると、そこには
「……逃げられなかった。痛っ!いたたたた!ソフィー!もう逃げないから許してぇ〜!!」
そんなアンバーの言葉通り、生きながらにして肩をゆっくりと万力で挟まれる生き地獄……ではなく、
「近くで見ると……やっぱり、悲しいな……」
巨大な岩石が落下したことで、今は跡形なくなくなってしまっていたが、つい先程まで小さな森と小川のあった場所だった。
正確には、その森があった場所の近くに停泊しているエネルギアの側、と言うべきか。
狩人は副長の掴みやすかった獣耳から手を離すと、大きなクレーターのような状態になっている場所の縁のところまで歩いていって……そして、そこにいた人物に話しかけた。
「剣士。無事か?」
すると、一体どんな着地すればそんな姿になるのか分からないような体勢で、柔らかい地面に突き刺さっていた剣士と、彼の身を守っていたエネルギアが、言葉を返す。
「もう、一步も動けませんわ……」
『大丈夫だよ、ビクトールさん!まだ、両腕と両足しか骨折してないし……』
「そうか。無事で何よりだ」
「いえ、決して無事ではないですわよ?お姉さま……」
そう口にしながら、狩人の向こう側に居た副長の怪しげな視線を目の当たりにして、心底、疲れたような表情を浮かべる剣士。
それでも彼にとって幸いだったのは、骨折が日常茶飯事だったので痛みには慣れていて、最悪、エネルギアに無理やり身体を動かしてもらえば、副長からどうにか逃れられることだろうか。
剣士とそんな他愛のないやり取りをした後も、そのまま歩みを進め、クレーターの中を覗こうとする狩人。
だが、彼女の足がそこで止まってしまうような……そんな状況が、不意に発生したようだ。
ドゴォォォォン!!
不意にクレーターの内側から、巨大な岩石のようなものが、狩人のいる場所の近くへと吹き飛んできたのである。
その様子を見るや否や、
「っ!」
と、華麗に身を翻して、避ける狩人。
そして彼女は、安全な場所まで後退してから、飛んできた物体に対して視線を向けるのだが……ソレは彼女が当初考えていたような単なる岩石とは異なるものだったようである。
「……ドラゴン?」
狩人がその血まみれの巨大な物体に向かって、そんな疑問の言葉を言い終えた……その瞬間であった。
「……私の仲間を傷つけようとする方は、この世界から退場していただきます」
少し低い女性のような言葉が聞こえてきたかと思うと、
ドゴォォォォォン!!
グォォッ!
その巨大な岩のようなドラゴン……地竜が、軽々と宙に放物線を描きながら浮かぶと、再び50m程の距離を吹き飛んでいったのである。
そして、その原因となっただろう人物が、先程まで地竜がいた場所から、姿を現した。
「……勇者……なのか?」
何処かで見たことのあるような、彼女(?)の容姿を見て、そんな感想を口にする狩人。
そんな狩人の目の前では、ぐったりとしたサーロインと、おなじく力なく四肢を投げ出していた賢者のことを、軽々と担ぎながら、空いた手で鉄パイプを握る、どこからどう見ても少女にしか見えない勇者似のメイドが立っていたのだ。
ナレーター7〜8割の、キャラ2〜3割といった比率が、読んでおっても、書いておっても、バランスが良い、と本話を書いておって思ったのじゃ。
それが、前半部分。
後半部分は……ちょっとダレたかも知れぬ。
ナレーターの比率が、キャラクターの会話の比率に近くなっていくと……必然的に、ナレーターの言葉が、箇条書きになりがちになってしまうのじゃ。
それはそれで、読みにくいわけではないのじゃが……ただでさえ薄い物語じゃと言うのに、まるで妾の財布のごとく、余計に薄っぺらい物語になってしまっておるような気がするのじゃ。
え?妾の財布はこれ以上、厚くも薄くもならない?
まさに、この物語のようじゃのう!
まぁ、それはさておいて。
じゃからと言って、比率を元に度せば深い文になるのか、というと、またそれは別の話で……。
ともすれば、箇条書きのナレーターの文に、何らかの、いのべーしょんを考えるべきかも知れぬのう。
……ダメじゃ、パトラ○シュ……じゃなくて、ルシア嬢。
妾にはお迎えが見えるのじゃ……。
天使が……枕の形をした天使が、空から舞い降りて……って何じゃと?
畳んでおいておったフェイスタオルが棚から落ちてきただけ?
そんなこと言ってないでさっさと寝ろ?
う、うむ……。
寝るのじゃ……zzz。




