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7.8-13 狩人講座13

『おーっほっほっほ!』


「…………アンバー?」ゴゴゴゴ


「ま、拙いですわ!早く逃げないと……!」

「そ、そんな……ソフィーが……本気でキレた?!」


自分たちに向けられていた、2方向からの容赦のない殺意(?)を感じて、身が竦んでしまっていた様子の剣士ビクトールと魔女アンバー。

他、疲れ切ってしまったせいか、剣士に背負われていた賢者は、グッタリとしていて意識が無く、そしてエネルギアは、思い通りにならない現状に、苛立ちを隠せなかったようだ。

なお、事情がまったく飲み込めていないのか、サーロインは『ムォッ?』と言いながら首を傾げていたようである。


そんな中で、気配を隠して剣士たちに付いてきていた狩人が、薄くしていた気配を元に戻すと、その場にいた5人にとって残念な言葉を口にする。


「……時間切れだ」


そう。

ここまで来るのに時間を掛け過ぎたせいで、狩人が設定した訓練時間のタイムリミットをオーバーしてしまったのだ。


だが、路地の向こう側から今にも姿を表そうとしている騎士団の副長に対して怯えていた剣士や、意識のない賢者、人の言葉が理解できているのかよく分からないサーロイン、そして、ソフィーからのただならない気配を感じていたアンバーには、狩人のその言葉は届かなかったらしく、結果、返答を口にできたのは、心に余裕のあったエネルギア1人だけだった。


ただ、そのエネルギアも、狩人の言葉には納得していなさそうである。


『でも狩人さん?多分、この訓練、簡単には終わらない……というか終われないと思うんだけど?』


と、足元が痙攣している剣士と、肩が震えているアンバーに対して、微妙な視線を向けながら呟くエネルギア。

たとえ、ここで『訓練終了』と宣言したとしても、剣士たちに迫ってきている魔の手(?)たちが、大人しく襲撃を諦めて、帰っていくとは限らない、と彼女は考えたのだろう。


「んー……そうだなぁ……」


震えている2人と、意識のない賢者、そしてあまり機嫌が良さそうではなかったエネルギアに眼をやって、狩人は考え込むのだが……しかし、ゆっくり考えている時間は無く。

別のタイムリミットが近づいていることを察した彼女は、おもむろにこんなことを口にした。


「……しかたないな。訓練続行だ。でも、この訓練が終わるまでは、昼食抜きだぞ?」


その言葉に反応したのは、やはりエネルギア一人だけで、


「うん!ごめんね、狩人さん」


彼女は不機嫌そうな表情を緩めると、狩人に対して手を合わせながら、そんな言葉を口にするのであった。


一方、必死に現状を打開しようとしていた剣士とアンバーの間にも、何やら動きが生じる。


「アンバー!早く転移魔法を!」


普段は『さん』付けして呼んでいるはずの彼女の名前を、急いでいたためか呼び捨てにして、剣士が叫びのような声を上げたのだ。


その瞬間、アンバーはハッとしたような表情を浮かべて、慌てる剣士たちがいた方を振り向くと、自分がここへとやってきた目的を思い出したのか、ようやく行動を始めた。


「あ、危ないところでした……。ソフィーのあまりの恐ろしさに、肩がガクガク震えて、胃がキューッと小さくなって……」


「そ、それは後でゆっくりと聞きますから、今はとにかく転移魔法をお願いしますわ!」


「あ、はい。それでは行きますね?いやー、(すご)まれてビックリしたんですよー。ソフィーったら、昔、魔王をやってたみたいで……」


「だから、そんなことは後で良い…………えっ?」


ブゥン……


そして不意にその場から姿を消す、剣士たち6人(?)。

その後、噴水前で追手たちが顔を合わせたようだが、その際、彼女たちが、すんなりと持ち場に戻ったかどうかは……不明ある。




そして、無事にエネルギア本体へと辿り着いて、乗り込んで離陸してから30秒で目的地の小川がある森へとたどり着いた6人(?)。

そしてタラップから降り、地面へと足を下ろしたところで、剣士はアンバーに対し、何かを問いかけようとしていたようだが。

それ自体は、大して重要ではなかったのか、エネルギアのこんな一言を聞いて、彼は質問の言葉を引っ込めてしまう。


『ビクトールさんたちは聞いてなかったかもしれないけど、この訓練が終わるまでは、(昼)ごはん抜きだってー』


「ごはん抜き……?えっ、訓練が終わるまで、ごはん抜きですって?!」


『うん。さっき、狩人さんが言ってたよ?』


「そ、そう……(訓練が終わるまでって……何をもって終了とするのでしょう?やっぱり……タイムリミットを迎えたら、明日の朝、再びトライするまで、ごはん抜きってことでしょうね……。これは急がないと、いけないですわ!)」


と、エネルギアが舌っ足らずだったため、すでにロスタイムに突入していることを知らずに、決意を固める剣士。

エネルギアとしては、この訓練の制限時間が無くなって、それまでは昼食が抜きになる、ということを言いたかったようだが、前者の方の説明が完全に抜け落ちてしまったせいで、時計を持っていなかったために時間を確認できなかった剣士は、自身を追い込むような結論へと辿り着いてしまったようだ。


一方、そのエネルギアの言葉には、直接関係の無さそうなアンバーも反応した。


「ごはん抜きですか……(いつもソフィーに食事を作るのは私なんですけど、作った本人が食べられないとか、拷問ですよね……。今までに何度かあったんですよ……)」


そう口にしてから、どこかゲッソリとした表情を浮かべるアンバー。

その姿を見て、何を考えたのか、


「……アンバーさん?一緒に頑張りましょう!」


と、言いながら剣士が明るい表情を彼女に向けた。


「えっ……?」


「たとえ、ここでミッションに失敗しても、アンバーさんの食事は、わたくしがどうにかしてみせますわ!ですから、安心してくださいまし!」


「あ、はい……(剣士さん……何か勘違いしてません?私の食事は抜かれないですよね?いや、伯爵家の力があれば、どうとでもなるとは思いますけど……)」


と、考えながら、アンバーは剣士に対して苦笑を向けるのだが、訓練が終わってもすぐにソフィーのところへと戻る気になれなかった彼女は、可能なら一緒に食事を摂るのも良いかもしれない、と考えたようである。




そして、遂に……


「はぁ〜……ようやく着きましたわ……」


狩人が目的地として設定していた森の中の小川へと到着した剣士たち。


そこはやはりマギマウスによる魔法の影響か、一面、雪景色と化していた。

ただ、マギマウスの魔法は、植物を枯らしてしまうことはなかったらしく、そこでは色とりどりの花が咲き乱れ、周囲に積もる白い雪と共に、なんとも言い難い幻想的な光景を作り出していたようだ。


その光景に、思わず見入ってしまいそうになる剣士たちだったが、これからのミッションに今日明日の食事が懸かっているかもしれない、という身も蓋もない事情があったためか、彼らはすぐに気を取り直すと、次の行動に取り掛かることにした。


「次は確か……自分よりも大きな魔物を狩るのですわよね?」


「えっ……ここに来るまで、そんな魔物どころか、マギマウス一匹の姿も見なかったですけど……」


『んー、空から見てても、それらしい生き物はいなかったみたいだし、もしかするといないのかもね?』


「ムォ〜……」


「なら、どうしたら……」


普段とは異なる現状の特殊な環境下では、狩人が設定したミッションが完遂できなさそうであることに気付いて、頭を抱える剣士他3名。


結果、悩んでいても、時間だけが過ぎ去っていくと判断したのか、剣士はすぐに思考を中断すると、虚空に向かって声を投げかけた。


「……お姉さま?この場合、どうすればよろしいでしょう?」


剣士のその言葉は、言うまでもなく、気配を消して自分たちに付いてきているはずの狩人に対して向けたものだった。

狩人自身が『教官として付いていく』という発言をしていた上、つい先程もエネルギアが会話をしたと言っていたために、狩人はこの瞬間も近くで自分たちを観察ついているはず、と剣士は考えたのである。


だが……


しーん……


いくら待っても、狩人からの返事は無かった。


「……?」


『あれ?さっきまでいたはずなんだけど……』


と、同時に首を傾げる剣士とエネルギア。


すると、彼らの近くにいたアンバーが、申し訳なさそうに、こんな言葉を口にし始めた。


「……あの……すっごく聞き難いことなのですが……一つ聞いてもいいですか?」


「えぇ、もちろん構いませんわよ?」


「……狩人さんって……居たんですか?」


「…………あ」

『…………うん』


アンバーがそう口にした瞬間、表情が固まってしまう剣士とエネルギア。

その言葉を聞いて、事情を把握した様子の2人は、数秒固まった後で、誰かに対して同情を向けるように口を開く。


「お姉さま……影、薄いですからね……」


『だよね……。僕もたまに乗せるのを忘れて飛び立っちゃうんだよね……』


その表情は狩人に向けられたものだったのか、それとも彼女のことを忘れたアンバーに対して向けられたものだったのか。

いずれにしても、ここに狩人がいない以上、彼女たちに訓練を継続すべきかどうかは、決められなかったようだ。


……ただそれは、剣士たちが周囲に大きな魔物がいるという痕跡や、その姿を確認できなかったことで、魔物が近くにいない、と判断したことが、そもそもの原因だった。

つまり言い方を変えるなら、魔物が見つけられれば、解決する問題だったのである。


そして、この瞬間、4人+1人の悩みは……一気に解決する事になった。


ブゥン……


不意に、白い花畑に光り輝く巨大な魔法陣が現れて、そこへと……


ドゴォォォォン!!


そんな振動と衝撃、そして爆発のような風を発生させながら、彼らが探し求めた大きな魔物が姿を現したのだ。

まぁ……少々大きすぎる可能性も否定は出来ないが。


「…………」

「…………」

『…………山?』

「…………」

「…………」ちーん


その突然現れた、巨大な岩の塊のような存在に、どう反応して良いのか分からず、言葉を失ってしまう4人+1人。

一方、相手の方には、明確な目的があったようで……


グォォォォォン!!


大きな岩のような、あるいは山とも形容できそうな魔物……地竜が、その場にいた5人に向かって、大きな咆哮を向けたのだ。

もう、妾も、むぉ〜と言いながら、1週間くらい寝て食べて書くだけの自堕落な生活を続けたいのじゃ。

じゃがのう、世の中、そんなに甘い話は無くて、やらねばならぬことが山積しておるのじゃ。

まぁ、それでも今週は、それほど忙しくはない……はずなのじゃがの?

そんなことを言うと、フラグになってしまうじゃろうか……。


そうそう。

今日の話を書いておって、狩人殿以上に忘れておった存在がいたのじゃ。

……サーロイン。

初稿を書き上げた際、奴の存在を完全に忘れておって、急いで書き足したのじゃ?

とは言っても、今話では、やつが活躍する機会はなかった故、人数さえ合わせておけば、問題は無かったのじゃがの。


他は……何か書くことはあったかのう?

最近、運動をしておらんかったから、ちょっと軽登山がてら、神社参拝に行った話を書いても……仕方ないじゃろ?

まぁ、そっちの方は、適切な方の物語に書き留めていこうと思うのじゃ。

……最近、書けておらぬがの……。

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