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7.8-10 狩人講座10

それから、エネルギア本体に戻って、空から勇者を探し回って。

それでも彼の痕跡を見つけられなかった狩人たちは、探すことを諦めてサウスフォートレスへと戻ってきた。

勇者ならその内、フラッと戻ってくるはず……。

彼女たちはそう信じることにしたようだ。


そして、月と太陽が、4回ほど水平線へと消えて、そして登ってを繰り返した頃。

新伯爵邸の食堂の中には、令嬢になるための修行を行った結果、筋骨隆々(?)になった剣士たちの姿が……


ドゴォォォォン!!


「だ、ダメですわ!あいつまだドアの後ろで、わたくしたちのことを狙ってますわよ?!」

『あの人、僕も苦手……』

「早く、元の生活に戻りたいな……」


……無かったようだ。

狩人が3人に対し、毎朝の日課として『伯爵邸脱出ミッション』を課したわけだが、令嬢修行の参加者たちは、誰ひとりとして、食堂から脱出することすらできなかったのである。

パーティーのリーダーである勇者が居なくなってしまったことも、少なからず影響しているのだろう。


そんな剣士たちの姿を、今日も気配を消しながら眺めていた狩人は、彼らの非力さを嘆いていた、わけではなく、


「……副長のやつ、私のときには見て見ぬふりをしていてくれたんだな……。まさか、こんなに頼りになるやつだとは思ってなかったよ……」


などと、むしろ、剣士たちを虎視眈々と狙っている(?)副長に対して、感動の念すら抱いていたようである。


『剣士ちゃんと賢者ちゃん!篭ってないで、出てらっしゃい!うぉぉぉぉ!!』


ガタガタガタ!!


「嫌ですわ!絶対に、嫌ですわ!」


「なぁ、剣士……。そろそろ、その話し方止めないか?なんか、奴と同じ臭いを感じるんだが……」


「え?今、何か言いましたかしら?」


「…………」

『…………』


わざと言っているのか、それとも化け物(ふくちょう)が食堂の扉を揺らしていたために賢者の声が聞こえなかったのか。

話し方を元に戻す気の無さそうな剣士に対して、賢者とエネルギアは、呆れたような表情を浮かべていたようだ。


ちなみに今のエネルギアは、剣士の鎧にはなっていない。

勇者が抜けたことで空いてしまった中衛の穴を埋めるように、人の姿になっていたのである。

その代わり、武具と防具を失った剣士は、狩人からサウスフォートレスの騎士団用の装備を貸してもらって、それを身に付けていた。

まぁ、3人に食堂の扉を開く勇気が無かったために、それも単なる飾りになってしまっていたようだが。


そのことに自覚があったのか、剣士が悔しそうな表情を見せながら、口を開いた。


「……このまま負けっぱなしというのは何となく癪に障りますわ。賢者?何か良い案は無いかしら?」


「ハッキリ言って難しいな……。前に、狩人姉さんに教えてもらった、伯爵夫人の声真似は、何度か試してはみたが……私たちが言っても、まったく効果が無かったしな……」


と口にしながら、苦々しく、眉を顰める賢者。

すると、エネルギアに案があったのか、今度は彼女が話し始めた。


『やっぱり、僕が実力行使するしか……』


「ダメですわ?エネルギア。砲撃したり、殺傷したりするのは、狩人お姉さまに申し訳が立ちませんことよ?あの扉の裏にいる方だって、本来はこの町の騎士様ですし……」


『剣士ちゃーん!賢者ちゃーん!一緒に、楽しいことしましょうよー?』


「うぅ……本当に気持ち悪いですわ。お姉さまの知り合いじゃなければ、事故に見せかけて殺ってしまってもいいくらいの気持ち悪さですわね……」


「ドン引きだな……」


『やっぱり、サクってやっちゃう?』


と口にしながら、自身の腕から先が変形させて、黒い刀のようなものを生やしていたエネルギアが、扉に向かって何かを切るかのようにブンブン、とそれを振っていたものの、


「いえ、やっぱり、流血沙汰は拙いですわ……」


「そうだな……。もう少し我慢してくれないか、エネルギア?」


剣士と賢者は、やはり否定的だったようである。


『むー……』


それが気に食わなかったのか、腰に手を当てながら唸り始めるエネルギア。

どうやら、彼女の我慢の限界も、そろそろ危険水域に達しつつあるようだ。


それを感じた賢者が、眉間のシワを深めながら、口を開く。


「……仕方ない。一か八か、窓から出てみるか……。最悪、見つかったとしても、とりあえず、あいつからさえ逃げ切ることができれば、どうにかなるだろう(このまま、エネルギアちゃんを放っておくと、違う意味で俺たちの命が危うくなりそうだからな……)」


「まったく賢者とは思えない発言ですわね……」


「なら、他にあるか?ビクトール」


「……仕方がありませんわね。エネルギア?窓から行きますわよ?」


そんな剣士の言葉を聞いた瞬間、エネルギアの我慢ゲージの数値(?)が急激に減少していったようで、


『うん。いいよ!』


この3日間、まったく進展が無かったことで不機嫌だった彼女の表情は、一気に笑顔へと変わっていったようだ。




『……敵影なし!』


「……じゃぁ、行きますわよ」


「……あぁ」


身体を液状にして一人外へと飛び出し、周囲の索敵を行ったエネルギア。

そんな彼女が出したゴーサインを合図に、剣士と賢者は、一気に2階の窓を飛び出した。


結果、当然のごとく、重力に引っ張られて地面へと落下した剣士たちは、


ドスン……


足、尻、背中という順番に、衝撃を分散させながら着地して、どうにか無事に外へと辿り着くことに成功したようである。

とはいえ、そこは屋敷の外ではなく、生け垣と建物に囲まれた中庭だったのだが。


「(角だ!どこからも死角になる、塀の角に走れ!)」


「(わ、分かりましたわ!)」


小声でそんなやり取りをして、庭師によって整えられているだろう中庭を誰にも見つからないようにして走り抜け、そして、家の壁と、生け垣の隙間に身体を滑り込ませる剣士と賢者。

そこは、2人が食堂の窓から目星をつけていた場所で、建物のすべての窓から死角になっていて見えない上、近くに来ても、直接覗き込まない限り誰にも見えなかったので、一時的に身を隠すには絶好な場所だった。


「(とりあえず、食堂から出ることは出来たが……まだ気を抜くな?私たちが付けた足跡が、庭に残ってるからな……)」


「(そう……ですわね。ところで、お姉さまが設定したタイムリミットまで、あと何分くらいかしら?)」


「(30分……)」


「(む、無理ですわよ……)」


「(あぁ……なら馬を盗むか……?)」


「(でも、訓練なのに馬を盗んで……そして、マギマウスか何かに襲われて、もしも殺してしまうような事があったなら、取り返しがつきませんわよ?)」


「(なら……どうする?)」


「(んー……)」


狭いスペースにピッタリと身を寄せ合いながら、体育座りで唸る男たち2人。


たとえ部屋から抜け出せたとしても、彼らがいた中庭から目的地までは、生け垣を越えて、町内を走り、入町管理をしている検問を通り抜け、街の周りでマギマウスの警戒に当たっている騎士たちの監視の目を()(くぐ)って……。

さらにその先で、マギマウスたちに警戒しながら、森までの数キロを甲冑を身に付けた状態で短時間の内に走り抜け、最後には魔物を見つけて狩って、そして持ち帰らなければならないのである。

普通なら、目的地まで行って帰るだけで1日仕事のはずだが、狩人曰く、令嬢(?)になるためには、それがまるで戯れの一部のように出来なくてはならないらしい……。


ただ、決してそれは不可能なことでは無かった。

何故なら、彼女は以前、こう口にしていたからだ。


『手段は問わない』


すなわち剣士たちには、2つほど可能性が残されていたのだ。

それが分かっていたのか、可能性の内の1つ目が、自ら口を開いた。


『じゃぁ、僕に乗ってく?』


つまり、エネルギアを使って、空から目的地へとたどり着き、そこで魔物を狩って、急いで戻ってくる、というわけである。


ただ、それには1つ、どうにもならない問題があった。

ゆえに、雪の上をスライムのように流れながら移動してきたエネルギアに対し、賢者は指摘の言葉を口にする。


「……エネルギアちゃんの所に辿り着くまでに、30分は掛かるだろうから難しいな」


『じゃぁ、本体をこっちに持ってくるっていうのは?』


「そうすると今度は目立つだろうから、無駄に暇な騎士たちが異変を嗅ぎつけて、エネルギアちゃんに私たちが乗るところを狙って妨害してくるだろう」


『んー……』


賢者の言葉に、何か言い返そうと考えている様子のエネルギア。

だが、どんなに考えてもいい考えは出てこなかったようで、


『ビクトールさん……僕、もうダメかも』


と言いながら、剣士に対して甘えるように、纏わりつき始めたようだ。


一方、賢者の方には、考えがあったらしい。

要するに可能性の2つ目である。


「……アンバーさんのところに行こう」


と、先日、勇者のことを何処かへと消し去った若い魔女の名前を口にする賢者。

つまり、彼女の転移魔法を借りて、移動時間を短縮する、ということのようだ。


「でも、あそこには戦闘で傷ついた兵士や騎士たちが運び込まれているはずですわ。姿を見られる可能性は非常に高いと思うのですけれど……」


と、スライム状のエネルギアを撫でながら、賢者の言葉に答える剣士。

だが、賢者の考えは、それで終わりではなかったようである。


「少しは頭を使え、ビクトール。何も、俺たちが直接施療院の中に忍び込む必要はないだろ?」


『僕が隠れながら、アンバーさんのことを、呼んでくればいいんだね?』


「そういうことだ、エネルギアちゃん。私たちはこれから姿を隠しながら、町の噴水がある場所まで移動するから、エネルギアちゃんは、アンバーさんを呼んできてくれ」


『うん、分かった。……ビクトールさん?僕がいなくなっても、寂しがらないでね?』


「子どもじゃないのですから、それは無いですわよ。……お願いしますわね?エネルギア」


『うん、行ってくる!』


そして、生け垣の隙間を越えて、その向こうへと姿を消すエネルギア。


その姿を見送った後で、剣士たちは体勢を整えると、周囲に人がいないかを探し始めるのだが……。

そんな折、どこからともなく、こんな声が聞こえてきた。


『きゃぁ〜〜〜っ!剣士ちゃんと、賢者ちゃんが逃げ出しちゃったわ〜〜〜っ!』


「くそっ!あいつにバレた!」

「一刻も早く、ここから逃げ出しますわよ!」


その声が新伯爵邸内に響き渡ったと同時に、急激に人の動きが活発になることを感じたらしく、顔色を変える剣士と賢者。


それから彼女たち(?)は必死になって生け垣(薔薇)を越えるのだが……。

その際の2人の行動が、まるで令嬢らしくない、泥臭く、血なまぐさい行動だったことについては、ざわざわ説明するまでもないだろう。

もう少し、噛みごたえのある文章を書きたいのじゃ。

どうすればそんな文になるのか、そしてその自分なりの書き方とは一体何なのか……。

それが分からぬ現状では、今日みたいな駄文を垂れ流すことしか出来ないのじゃ。

再び、いのべーしょんが必要なのじゃ?


じゃが、最近はのう。

書くことと日常生活に忙しくて、いのべーしょんの種になるような、他の者の話を読めておらぬのじゃ。

読むことが出来るのは、新聞やネットの記事くらいかのう……。

それがダメとは言わぬが、表現の多様さを考えるなら、あまり適さないと思うのじゃ。

やはり、本が一番いいのじゃ。

……高くて買えぬし、読んでおる時間も無いがのー。


まぁ、そんな暗い話は置いておいて、今日もまた、夢の中で、いのべーしょんの計画でも練ろうと思うのじゃ。

今のところ、1点、ネタはあるのじゃが……それを実行に移すための方法を考えようと思うのじゃ。

とは言っても、気付くと大抵は、次の日の朝になっておるんじゃがの?

例えば、こんな感じで……zzz。

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