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7.8-09 狩人講座9

「しっかし、困った……」


「狩人の嬢ちゃんらしくないな?急にどうした?」


「実は……勇者が行方不明になってな……」


「ほう?そうか。でも、それは、冒険者をやってる限り、当たり前のことなんじゃないのか?」


「そりゃそうなんだが……実は勇者のやつ、訓練中の事故で何処かに飛ばされたんだ。それには私にも責任があってな……」


「すみません……。私がうっかりしてました……」


「……なるほど」


だいぶ(ぬる)くなっているはずなのに、ちびちびとレモンティーを傾ける申し訳無さそうな狩人とアンバーの姿を見て、何が起ったのか、大体の事情を把握した様子の店主。

すると彼は、そこに居た者たちが浮かべるものと同じく、困ったような表情を浮かべると、腕を組みながら、2人に対して問いかけた。


「転移魔法を使ったんなら、大体、どこに飛ばされたかくらいは、分かるんじゃねぇのか?」


「この町の郊外だったことは間違いないはずなのですが、どこを探してもいなくて……。ここに来ていないとなると、どこに行ったのか、皆目見当が付かないんです」


「……そういうわけなんだ。手ぶらで転移したはずだから、近くにこの村があると分かれば、必ず立ち寄ると思うんだが……」


そう言ってから、目を細めて黙り込んでしまう狩人。

どうやら彼女の頭の中では、最悪な展開……すなわち、勇者が一人、真っ白な雪原の中で遭難したところを、マギマウスに襲われた、という可能性が浮かび上がってきていたようだ。


それが暗い表情となって出ていたためか、狩人に対し、店主は逆に明るい表情を向けると、こんなことを口にした。


「まぁ、そう心配しなくても大丈夫だろ。マギマウスの化け物くらいなら、勇者の坊主一人でもどうにかなるんじゃねぇか?魔王を相手に戦うわけでもねぇんだからな」


「そうだといいんだが……」


「どうやら、お前さんの中では、坊主の評価が随分と低いようだな?だけどあいつはあいつで、隣国を代表する勇者様なんだろ?それなら、少しは信じてやってもいいと思うぜ。まぁ、俺は口先ばかりで、責任は持てなけどな」ガッハッハ


「あ、あぁ……。確かに、子ども扱いするような歳でもないしな……」


無責任ではあっても、自分を元気づけようとしてくれていることは分かったのか、店主の言葉を受け入れることにした様子の狩人。

勇者を吹き飛ばした張本人であるアンバーの方は、それでも表情が冴えなかったようだが、明るい店主と狩人の話を聞いている内に、2人に元気づけたらしく、徐々に普段の調子を取り戻し始めたようだ。


なお、勇者の本来の仲間であるはずの剣士と賢者の方は、消えてしまった自分たちのリーダーのことを、最初からそれほど心配している様子は無かったようである。

今回の場合には、マギマウスの魔力特異体という危険要素が、この地域の至る所に潜んではいるものの、マギマウス()()()魔物なら、勇者一人でもどうとでもなる、と考えていたのかもしれない。




「さて……それじゃあ、そろそろ行くことにするよ」


レモンティーを貰ったついでに、軽食も摂ったところで、店主に対して別れの言葉を口にする狩人。

すると、その言葉を聞いた店主が、彼女に対して質問した。


「そろそろ行く……?戻るんじゃないのか?さっきの話だと、訓練中だと聞いたが……」


「いや、これからやろうとしていることも訓練の一環だ。実は、これから、裏の山にいるドラゴンを狩ろうと思ってな」


と、ニンマリと笑みを浮かべながら、言葉を返す狩人。


すると、店主は苦笑を浮かべると、顔の前で手を振りながら、狩人を諭し始めた。


「いやいや、無理はやめとけ。どこにマギマウスがいるとも分からない状況で、雪の降りしきる山に向かうとか、危険極まりないだろ。それこそ嬢ちゃんに何かあったら、伯爵たちに申し訳が立たないぜ……」


その言葉を聞いて、狩人が眉を顰めながら、口を開く。


「あのな、町長。私は、いつまでも、何も出来ない少女のままではないんだぞ?」


「えっ……?」

「えっ……?」

「えっ……?」

『えっ……?』


「……だ、だから、子ども扱いするのはやめて欲しい。それを証明するためにも……私はあの『山の主(ドラゴン)』に勝たなくちゃならないと思ってる。……夢なんだ。いつもこの村から眺めているだけで、決して手の届かなかった、あの強そうな主を狩ることが、な……」


すると店主は、何処か呆れたような表情を浮かべてから、ゆっくりと口を開いた。


「そこまで言うなら、無理矢理に止めるようなことはしねぇが……無茶すんなよ?」


「なーに、大丈夫さ。危なくなったら、アンバーの転移魔法もあるし、エネルギアの艦砲射撃もあるからな」


『うん!一瞬で、木っ端微塵だよ?にくかいだよ?』


「お、おう……(狩人の嬢ちゃんがその気なら……しゃぁないな)」


「ん?何か言ったか?」


「いや、気のせいだろ。それじゃぁ、気をつけろよ?」


どこか強引に話を終わらせることで、何かを誤魔化そうとした様子の店主。

だが、彼の言葉を信じた狩人に、その言葉を気にした様子は無かったようである。




そして、狩人の宣言した通り、かつてワルツとルシアが鉄鉱石の採掘を行っていた、巨竜が住処にしているだろう山へとやって来た一同。

しかし、そこには、数か月前までの面影はなく、マギマウスたちが作り出した異常気象のために、すべてが雪に包まれた極寒の地と化していたようだ。


ビュォォォォ!!


『うわ〜、寒い……眠い……』


「え、エネルギア?!雪山で寝たら、死んでしまいますわよ?!」


「ビクトール……それは分かってて言ってるのか?」


「えっ?」


「いや、なんでもない……」


いつも通りに夫婦漫才(?)を始めた2人に対し、呆れた表情を向けて、口を噤む賢者。


一方、寒さを感じていたのは、どうやらここへと先頭を切ってやって来た狩人も、また例外では無かったようである。

彼女は不意に立ち止まると、まだほとんど登っていない山の、その頂きに対し、険しい視線を向けながら、おもむろにこんなことを呟いた。


「……やっぱ、帰るか」


『えっ……』


今日くらいは、狩人のドラゴン討伐に参加してもいい、と口にしていたアンバーを始め、狩人に付き合うつもりだった全員が、思わず耳を疑ってしまった。

行きは歩きだとしても、帰りは転移魔法で帰ってくるつもりだったので、まだ山に登ってもいない場所で戻ろうとしている狩人の言葉が、すぐに受け入れられなかったらしい。


そんな仲間たちの怪訝な視線を感じたのか、狩人が事情の説明を始めた。


「……ホワイトアウトって言葉、知ってるか?空から降る雪や、風のせいで地面から巻き上げられた地吹雪のせいで、周囲が真っ白になって、自分がどこに立っているのか……それどころか、前後左右すら分からなくなってしまう現象だ。このまま山を登ったなら、そうなってしまう気がするんだよ。そんな状態のところをドラゴンに襲われたりなんかしたら……対処できないと思ってな。それに……」


そう言ってから、剣士に鎧として装備されていた(?)エネルギアに対して視線を向ける狩人。

剣士が身に付けていたその黒い鎧は、いつの間にか、


サラサラ……


と崩れ始めていたようだ。

要するに、


「……これ以上進んだら、エネルギアの身体の維持ができなくなるんじゃないか?」


ということだったのである。

エネルギアはまだ、言葉をハッキリと発声できる状態にはあったようだが、彼女の身体を構成しているマイクロマシンの一部が、エネルギア本体から飛んでくる電波の圏外に入り始めていたようで、制御を失いつつあったようだ。


今になって、そんな自身の異変に初めて気付いたのか、エネルギアが驚いたような声を上げた。


『うわっ!ぼ、僕の身体が崩れてく!助けて、ビクトールさん!』


「……痛いのですか?」


『ううん?痛くないよ?』けろっ


「なら……ここで引き返して、エネルギアの身体の部品を拾いながら、戻りましょう?それでもかまわないかしら?お姉さま」


「う、うん。もちろんだ(なんだろう……剣士の喋り方から、段々、違和感が無くなりつつあるような……)」


その後、剣士やエネルギア以外の仲間たちに対しても、戻ることについて、了解を得た狩人。

彼女が問いかけた際、仲間たちから異論が出るようなことは無かったが、アンバーが残念そうな表情を浮かべていたのは、転移魔法を使うことで皆の役に立てると思ったのに、結局、歩いて帰ることになってしまったため、活躍の機会を失ってしまったから、だろうか。


そして、登山を早々に諦めて、狩人たちが下山とも言えないなだらかな坂を引き返し始めた……そんな時であった。


ビュォォォォ……


山に吹き付ける風雪の合間を縫うようにして、(くだん)の巨大な竜が、彼女たちの頭の上を通過していったのだ。


「あぁー……今回もまた、狩れなかったな……」


「お姉さま。そんなに気を落とさないでくださいまし。今度、勇者を見つけたら、その際はまたお付き合いいたしますわよ?」


「……そう言ってもらえると助かるよ」


残念な気持ちを隠せなかったのか、肩を落としながら、エネルギア本体への帰り道を歩いて行く狩人と、他3名+1人。


その際、


『ふあっ……ふあっ………………くそっ、くしゃみが引っ込んじまった!それにしても、嬢ちゃんたち遅せぇな……』


という声が、山の方から風に乗って聞こえてきたとか、きてないとか……。

どうにか、このメチャクチャに忙しい2日間を、乗り切ることに成功したのじゃ。

もう、足は棒のようで、腰は粉砕骨折寸前なのじゃ……。

……でも、まぁ、もう少しは頑張れるかのう?


ほいでじゃ。

こうしてドラゴン(?)と狩人の戦闘は回避されたわけじゃが……その正体については、別に言わなくともよいじゃろ?

これまでに、何度か(ほの)めかしておったからのう。

果たしてドラゴンと狩人の関係がどうなっていくのか……それについては、追々語ってゆこうと思うのじゃ。

でも多分、それは、10章くらいになるのではなかろうかのう?


さて……無事に書き終えた故、今日はかなり早いのじゃが、もう寝てしまおうと思うのじゃ。

前述の通り、昨日今日とで、ボロボロでガクガクな狐になってしまったのじゃ。

身体と頭のリセットが必要なのじゃ?


というわけで……ちょっ、枕?!なにすr……zzz。



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