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7.8-07 狩人講座7

『ゆーしゃー?怖がってないで出ておいでー?痛くしないからー?』


「……エネルギア?勇者はペットではないですわよ?っていうか、痛くしないって、どういう意味ですの?」


一体何を考えたのか、白い雪原に向かって、逃げ出したペットを探すような声を投げ始めた鎧の姿のエネルギアに対し、疲れたような溜息を吐く剣士。


そんな彼らは、エネルギアが着陸した場所からほど近い場所にあった森の方へと、真っ白な雪原の中を進んでいる最中であった。

自分たちが歩いている雪原が、一体どこなのかは分からなかったようだが、アルクの村が防風林を兼ねた森の中に作られていたことから、とりあえず近くにあった森へと進むことにしたようである。


「積った雪というものは、非常に歩きにくいものだ。エンデルシアでは、よく砂漠の中を歩いていたが、それとはまた違う歩き難さを感じる……。その点、狩ry……姉様は、とても歩き易そう……ですね?」


と慣れない言葉につまりながら、20cmほど積った湿った雪に足を取られつつ、それでもどうにか周囲の者たちに付いていこうとしていた女装賢者。

すると、柔らかいはずの雪の上を、特に気にした様子無く歩いていた狩人が、賢者に対して、助言の言葉を口にした。


「なーに、簡単な話だ。雪を踏んで足を取られる前に、もう片方の足を……」


「その水上でも歩ける理論は、私たちには無理です……」


「そうか……。これも令嬢になるためには必要なスキルなんだが……確かに、体重を軽くする術は、簡単に身に付けられるようなものじゃないからな」


「……そうですか」


狩人の頭の中にある『令嬢』という存在が、一体どういう化け物なのか、まったく理解できなかった様子の賢者。

その際、彼は、知り合いの令嬢たちにどのような人物がいたのかを思い出そうとして……しかし、早々に思考を停止してしまったようである。

どうやら、皆、もれなく異常な人物だったらしい。


一方、彼らの近くを歩いていた魔女アンバーも、令嬢では無いはずなのだが、賢者が考える一般人の枠組みの中には含まれていなかったようである。

では、彼女はどうやって移動していたのか、と言うと、


ブゥン……

ブゥン……

ブゥン……


その音を聞けば分かる通り、最早、足すら使っていなかったようだ。


「……アンバーさん。一つ聞きたいのだが……疲れないか?」


「えっ?今、何か言いm」ブゥン……「ました?」


「いや、なんでもない……」


ケロッとした表情のまま、ひたすら転移魔法だけで移動するアンバーに、心底疲れたような表情を向ける賢者。


そうこうしている内に、5人は森へとたどり着き……そしてその中にあったアルクの町へと到着した。


そこには、白い雪が積った、いつもの町並みが広がっていた。

森の木を使った木造の建築物。

様々な色の煙の上がる煙突。

そして昼夜問わず光り輝く、魔導式の街灯。


しかし、すべてがいつも通り、というわけではなかったようだ。


「雪かき……してないですわね」


その光景を見て、呟く剣士。

そんな彼の言葉通り、街の中を貫く街道、横に走る路地、そして各々の家の庭には、手付かずのままの雪が溜まっていたのである。


つい先日まで、この町に住んでいた狩人も、その異変については感じていたようだ。


「雪はそう滅多に降らないって言っても……流石に除雪くらいするはずだよな。みんな、面倒くさくなったか?」


「いえ、そんなはずは無いと思いますけど……」


と狩人の言葉を否定しようとするアンバー。

彼女も、今ではこの街の住人なので、ここに住む人々が面倒臭がって家から出てこなくなるような何処かの誰かのような性格をしていないことは、良く分かっていたようである。


それは冗談めかして『面倒くさくなった』と言った狩人も例外ではなく、


「だよな……。まずは町長のところに行って、話を聞くとしよう。もしかすると勇者もそこにいるかもしれないしな」


という結論にたどり着いたようだ。





それから5人は、街の中を歩いて、町長の家(酒場)へと足を向けようとするのだが……大通りに差し掛かったところで、一人険しい表情を浮かべていた賢者が声を上げた。


「……拙い!気をつけろ!」


「えっ?」


一人、反応が遅れたアンバーが、間の抜けた声を口にした……その瞬間である。


ドゴォォォォ!!


突然、突風が5人に向かって襲ったのだ。


「……?!」

「マギマウスですわね?!」

『こんなところにまで……』

「仕方ない!勇者(レオ)!やるぞ!……って、あいつ居ないんだった……」


強い風と共に飛んできた雪や土砂などを避けながら、混乱の表情を見せる一同。

だが、その風魔法による攻撃は、エネルギアの真っ黒な重粒子シールドによって、難なく遮ることに成功する。


そして、その様子を見て、剣士が声を上げた。


「ここはレオ無しでやるしかないですわ!ニコル!」


「分かった!しかし、タイミングが悪いな……」


「いいえ。そうでもないですわよ?わたくしたちにはエネルギアも、そして狩ry……お姉さまもついているのですから!」


『うん!』


「あの……私は?」


一部、剣士の言葉に承服し難い表情を浮かべていた者がいたようだが、皆、おおむね、戦うことには賛成していたようである。


だが、ここに来て、一人だけ、例外的な反応を示す人物が出てしまう。

それは、転移魔法しか使えないアンバー、ではない。

むしろ、この場においては、主力とも言える人物の様子が、何やらおかしかったのだ。


ゆえに、剣士は、その人物……狩人に対して問いかけた。


「……どうしたのです?お姉さま?」


声が返ってこない上、唇を真っ青にしながら小さく震えている狩人に、なんとなく不安を感じる剣士。

すると、彼のその直感を裏付けるかのように、狩人が小さく口を開いた。


「……マギマウスが怖い……」


「えっ?!」


「マギマウスが……怖くて堪らないんだ。普通のやつなら何とも思わないが、相手が化け物だと分かっていると……急に足が震え始めて、手に力が入らなくなって……。狩人として、笑ってしまうよな……」


「…………」


その言葉を聞いて、眼を細める剣士。

彼女(?)は以前、狩人が、マギマウスに襲われて死にそうになった、という出来事を聞かされていたので、彼女が何故マギマウスを怖がっているのかを察したようだ。

あるいは、数多(あまた)の戦場を経験したことのある剣士だからこそ、時にそういったトラウマ(PTSD)を抱え込んでしまう者がいることを理解できたのかもしれない。


その結果、剣士は、狩人の一步前に踏み出ると、彼女を自身の背中に守るように立ち振舞いながら、その口を開いた。


「……お姉さま。ここはわたくしにおまかせ下さい。マギマウスなど、一瞬でみじん切りにしてやりますですわ!」


そして剣士は、ここにはいない勇者の代役と務めるかのように、相棒のエネルギアを構えたのである。


「ニコル!いつも通り、サポートをお願いしますわね!」


「あ、あぁ……(こういう時くらい、普通に喋ろよ……)」


「アンバーさんは、街に被害が出ないよう、飛んできた魔法を、転移魔法で何処かへと消し去ってくださいまし!」


「あ、はいっ!(私でも役に立てることがあるんですね!よーし、やっちゃいますか!)」


と、それぞれ、剣士の呼びかけに応える賢者ニコルと魔女アンバー。


しかし、残念なことに、と言うべきか。

やる気満々なアンバーが活躍できそうな機会は無さそうだった。


何故なら、雪の下を進むマギマウスの大体の居場所に目星を付けた剣士が、


「エネルギア!行きますわよ!」


と、相棒(?)に対して声を掛けた瞬間……勝敗が決したからである。


『うん、分かった!しょっくかのん!』


「……えっ?」


ドゴォォォォン!!


突然、剣士が見ていた景色が爆ぜ、直径10mの大きなクレーターが地面に生じたのだ。

どうやら、離れた場所に停泊しているエネルギア本体から、高エネルギーの弾体が飛翔してきたらしい。


その光景を見て、唖然として固まる4人。

その中で一番最初に正気に戻ったのは、やはり、エネルギアと一緒にいる時間がメンバーの中で最も長い、剣士だった。


「ちょっ、エネルギア!流石にそれは拙いですわ!町を壊したりなんかしたら、怒られちゃいますわよ?!」


『えっ……コルちゃんが、危険分子を見つけたら、容赦なく消しちゃっていいって言ってたけど?さーちあんどですとろい、って言ってたかな?』


「このままだと、わたくしたちの方が、危険分子扱いされそうですわね……」


と、エネルギアが聞かされただろう、この国で一番危険な少女の指令を想像して、頭を抱える剣士。

その言葉通りというのなら、一番最初に消されなければならないのは、コルテックス本人のはずだが……逆にコルテックスが危険ではないとするなら、一体何が危険だというのか、剣士には分からなくなってきたようである。


一方、その様子を見ていた狩人にとっては、何が危険なのか、という問題はどうでも良かったようだ。


「……素晴らしい。素晴らしいぞ!剣士!」


「えっ……」


「令嬢たるもの、こうでなくてはな!」


「え?は、はい……(つまり……令嬢というものは、危険でなくてはならない……ということですか?)」


コルテックスにしても、狩人にしても、そして勇者パーティーの魔法使いであるリアにしても……。

令嬢のサンプル数における危険人物の割合が100%な気がして、令嬢=(イコール)危険人物という数式を頭の中で完成させた様子の剣士。

それから彼女(?)は、自分はそうなりたくない、と思ったようで、複雑な表情を浮かべながら、深い溜め息を吐くのであった。

まぁ、そんな剣士の憂いも、満足げな笑みを浮かべる狩人を前に、一瞬で消え去ってしまったようだが……。

……まだ、なのじゃ。

まだ、終わっていない!なのじゃ。

何が終わってないって……明日明後日のストックが、まだ書き終わっておらぬのじゃ。

じゃから、これから決死の覚悟で、書かねばならぬのじゃ?

というわけで、今日は、あとがきを省略させてもらうのじゃ。

本当、少しでいいから余裕が欲しいのじゃ……。

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