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7.8-04 狩人講座4

正しい鍵を使わずに、針金だけで錠を開ける……。

それは、勇者にとって造作も無いことだった。

彼がそのピッキングの技術を身に着けたのは、もちろん、人の家に忍び込んで、そこにある引き出しや箪笥(たんす)を漁るため、ではない。

彼らがダンジョンの中で見つけるトレジャーボックスは、鍵が掛けられているものが多いので、ダンジョンを冒険するものたちには、必然的に鍵を開けるための技能が要求されていたのだ。


そしてここでも、勇者のその技術は、光り輝いていた。


カチャッ……


「はい、鍵を開きました」


鍵に触れてから、3秒としない内に、食堂の扉の鍵を開けてしまう、眩しい笑顔が特徴的なメイド姿の女装勇者。

そんな彼女(?)に対して、約2名の仲間たちが、どういうわけか悲しそうな視線を向けていたようだが、それについては、わざわざ取り上げるほどのことでもないので省略しよう。


そして扉が開く状態になった後で、次に動き始めたのは、真っ赤なドレスを着た剣士であった。


「……では、早速、脱出ですわね。いつも通り、わたくしが前衛をつとめますから、皆さんは後方支援をお願いいたしますわ」


「……わかった」

「気を付けてくださいませ、ビクトール様」


「では…………エネルギア、行きますわよ!」


『うん!』


その瞬間、


ぎゅっ


っと女装した剣士に抱きつくエネルギア。

すると、マイクロマシンでできていたエネルギアの身体は、液体のようにして溶け、剣士のドレスの上から彼女(?)身体を守る近代的な鎧と、そして真っ黒な大剣へと変化した。


その結果、その姿を見ていた勇者と賢者が、羨ましそうに溜息を吐きながら、口を開く。


「私もそのような鎧を着てみたいものです……」

「なんでだろう……すごく悔しい……」


「お前r……貴方たち。わたくしに、どれだけの苦労があるのか分かっていないから、そんなことを言えるのですわ。幾度、死にかけたことか……」


剣士は羨ましがっている仲間たちに、呆れた表情を向けてから、部屋の扉を()()()()開いた。


彼女(?)はこの時、もう少し注意を払うべきだった。

自身の死にかけた経験などを思い起こしている暇があるのなら、今、この瞬間も、立てようとしていたフラグについて、思慮を巡らすべきだったのである。


しかし、剣士が、それに気付くことは無かった。

結果、次の瞬間、


ドゴォォォォン!!

ドシャァァァァ!!


扉の隙間から、銀色の大きな何か見え隠れしたかと思うと、それに当たったらしい剣士は、反動で吹き飛ばされて、部屋の反対側まで吹き飛ばされてしまったのだ。

そして開きかけていたドアは、


ガチャッ……


と音を立てながら、そっと閉じて、


カチャリ……


外から再び鍵が掛けられてしまったようである。


「んなっ?!」

「…………」


机や椅子、その他、様々な装飾品を巻き込みながら、水平に飛行していった剣士に対して、眼を見開き、驚愕の視線を向ける2人。


だが、エネルギアを纏った剣士が、そう簡単に絶命するわけもなく。

エネルギアが咄嗟(とっさ)に張った重粒子フィールドのおかげで、服にホコリが付く程度で済んだ剣士は、近くにあった棚に手を掛けて、悪態を吐きながら、ゆっくりと立ち上がると、何もない空間に向かって声を上げた。


「お、お姉さま!い、今のは一体何ですの?!」


すると、部屋の中にいるはずなのに、影が薄すぎて誰にも見えなかった狩人が、恐らくは首を傾げているのか、唸りながら返答する。


「んー……あれは多分、母様だな」


「えっ……」


「一応言っておくが、母様は、私なんかよりも遥かに強いぞ?流石に、この訓練に協力してくれるとは思ってなかったけどな……」


「伯爵夫人が……強い……?」


「あぁ。素手で火竜を殴り倒すくらいに、な。……なんなら、そこの扉の鍵から、廊下を覗いて見ろ。覗くくらいなら、特に何もしてこないはずだ。……多分だけどな」


と、自信無さげに呟く狩人。


その言葉を聞いて、鍵穴を覗くことにしたのは、その名前が示す通りの性格をしていた、勇者だった。


「では、私が確認いたします」


扉の前に近づき、そこでメイド服のスカートの裾を正しながら地面に膝を付くと、直接扉に触れないようにして、外を覗き見るメイド勇者。


するとそこには……


ギロリ……


と、彼女(?)と同じようにして、自分の方を覗き見る、血走った怪しげな眼球が……。


「……?!」


その眼を見た途端、驚いて扉から離れ、覗き見られない角度に素早く移動する勇者。

流石の彼女(?)でも、その視線には、驚きを隠せなかったようである。


その様子を見て、狩人が問いかける。


「ん?どうした勇者?母様は居なかったか?」


「か、狩人様のお母様なのか誰なのかは存じませんが、向こうからも、どなたかが、こちらを覗いておられたのです!」


「あー……そりゃ多分、母様が、鍵穴から勇者の気配を感じ取ったから、こっちを覗いてたんだろう。……どれ、私が覗いてみよう」


すると、気配を消したまま、誰にも見えない影の薄い状態で、鍵穴を覗き込んだ狩人。


それから彼女は、どういうわけか再び唸りながら、こんな言葉を口にした。


「すまんが、違ったみたいだ。あれは母様じゃなくて、ウチ(騎士団)の副団長だ。実は、女に興味が無くて、男に興味のある……」


「ちょっ、やめっ……!」

「狩人殿?!俺たちの元の服はどこにあるのだろうか?!」


言い知れぬ危険を感じ取ったのか、臀部(でんぶ)を押さえながら、勇者と同じように壁際へと移動する剣士たち。


だが、勇者だけは、どんなことがあっても、やはり、決意が揺るいでしまうようなことは無かったようで、


「……では、別の手段で脱出することにいたしましょう」


と2階にあった部屋の窓に眼を向けながら、そう口にした。


すると、次に剣士が口を開く。


「レオ……貴女、やる気なのですわね?」


「……愚問でございます」


「なら……わたくしも貴女が諦めない限り、お付き合いいたしますわ!」


やはり、勇者の決意に感化されていたのか、つい今しがた吹き飛ばされたばかりだと言うのに、笑みを浮かべて答える剣士。

彼女(?)の場合は、エネルギアを纏っていることもあって、そう簡単に誰かに負けることはない、という自信があったのだろう。


それは、天使化できる賢者にとっても同じだったようで、一旦は取り乱していた彼も再び落ち着つくと、意気投合している2人に対してこう言った。


「お前たちがやるというのなら、おr……私もそれに付き合おう」


こうして、勇者たち3人とエネルギアは、一旦、振り出しに戻って、再び部屋の脱出を試みることにしたのである。




「……夜が怖いな……」

「……昼間も怖いですわ……」

『大丈夫!剣士さんのこと()僕が守るから!』

「3人とも、気を抜かないでください」


今度は、危険人物(?)が覗き込んでいる扉の方からではなく、窓から脱出することにした様子の勇者たち。

その際、兵士同士の状況連絡を恐れたのか、彼女たち(?)は、自分たちの行動が悟られないように、鍵の穴に詰め物をしたようだ。


「……一つ懸念がございます」


「どうしたのだ?勇者」


窓から見える景色に兵士が居ないことを確かめながら眉を顰めていた勇者に対して、その理由を問いかける賢者。

すると勇者は、一旦窓から離れると、その懸念について説明を始めた。


「部屋の中に閉じ込めている私たちが、正規のルートであるはずの扉から出てこなくなったことを感じ取った時……兵士たちには、次に私たちがどのような行動に出るのか、大体の予想が付けられるのではないでしょうか?」


「つまり……私たちが、窓から逃げることを察知している、というわけか?」


「はい。なので、窓から逃げるというのは、気が進まないのでございます。あまりに安直と言いますか……」


「ふむ……。では、勇者はどのように逃げればいいと思う?」


すると勇者は、再び輝かしい笑みを浮かべると、賢者に対してこう言った。


「それはもちろん……ニコル様にお任せいたします。なんと言いましても、『賢者様』でございますからね!」


「……くそっ、やっぱり、なんか悔しいぞ……」


勇者の言葉の一体どこに、悔しいと感じる要素があるのかについては不明だが、賢者は実際、悔しそうに歯を食いしばりながら、渋い表情を勇者に向けた。


だが、そこは、エンデルシア王国を代表する勇者パーティーの『賢者』。

彼は大きく息を吐いて、すぐに普段のぶっきらぼうな表情に戻ると、窓から逃げる以外のプランCについて話し始めた。


「……屋根裏から移動する、壁に穴を開ける、外部の協力者に連絡をとる、強行突破する、フェイントをかける、屋敷ごと爆破する、生贄を捧げる……。さて、どれか良さげなものはあるか?」


「では、賢者を表の兵士の生贄にして、その間に屋敷に遅延爆発性の魔法を仕掛けると言うのはいかがでしょう?これなら皆、大混乱、間違い無しだと存じますが?」


「自分で言っておいて何だが……それ最悪な選択肢だろ」


「では、ちゃんとお考え下さい」


「分かったよ……」


そして正式なプランCについて考え始める賢者。

その結果、彼が提案したプランは……。

モチベーションが底を突いた今、妾は次なる『いのべーしょん』に手を染めるべきじゃと思っておるのじゃ。

……いや、思っておるだけじゃがの?

ゆっくりと時間が取れない以上、大改造劇的いのべーしょんは、そう簡単には出来ぬのじゃ……。

まぁ、8章辺りから、始めてみようかのう。


さて。

一つだけ補足……というか、伏線の回収があるのじゃ。

伏線、というほどのことでもないやも知れぬのじゃが……以前、サウスフォートレスの地下トンネル内で、全裸で立ち回っていた水竜を見ても、副隊長が特に反応を示していなかった点について、なのじゃ。

……要するに、そういった特殊性癖があったから、らしいのじゃ?

ほんと、コレを書くために、一体、どれだけの時間を費やしたというのか……。

……え?単なる思いつきだろ?

まぁ、似たようなものかもしれぬのう。


補足はこのくらいかのう。

明日は……また朝から早い故、今日も早く寝かせてもらうのじゃ。

じゃがのう。

明後日は少し時間を取ろうと思うのじゃ?

というよりも、来週は地獄のような1週間故、3〜4話ほど書き留めておかねば、過酷すぎて生きて行けぬからのう。

今日の睡眠も、そのための準備、と捉えてもらえると幸いなのじゃ!

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