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1.2-31 町での出来事22

「……狐族の人間は、狸族の人と、うまくやっていけない、という話です……。リア……あの魔法使い、狸族なので……」


「お姉ちゃん……この人、かわいそう!」ぶわっ


 上着と帽子を取って、自身の正体を明かした女僧侶。そんな彼女の行動と言葉を見聞きして、ルシアは180度意見を変えたようだ。


 ただ、ルシアが反応したのは、僧侶が自分と同じ”狐族”だったことに、ではなく、僧侶が口にした”魔法使い”という言葉の方だったようである。

 勇者パーティーの”魔法使い”は、自分たちに直接危害を加えてきた人物で、さらに言うなら、ルシアと同じく強力な魔法を使う人物だった。にもかかわらず、魔法を使うことを推奨される側と、使用を禁止される側で、ルシアとはまるで対極の存在だったのである。それを考えれば、ルシアが憤ってしまっても仕方の無いことだと言えるだろう。


 それを一言で表現するなら——


「あの人、私も、大嫌いだもん!」


——敵の敵は味方だった、といったところだろうか。


「お姉ちゃんや狩人さんに手を出した人……絶対に許さないんだから……!」ゴゴゴゴゴ


「「…………」」


 身体から言い知れないオーラを放つルシアを前に、閉口してしまった様子のワルツと僧侶。そんな2人から見たルシアは、猛烈な速度で回るミキサーの刃のように見えていたことだろう。尤も、実際に、彼女の周りを、ぐるぐると魔法の風が吹き荒れていたようだが。


 結果、僧侶に対して、恨みや憎しみといったマイナスな感情を抱いていなかったワルツは、妹からの反対が無くなった以上、僧侶のことを受け入れることにしたようである。現状、ルシアだけでは人手不足が否めず、猫か狐の手を借りたい所だったので、ワルツとしてはちょうど良い申し出だったようだ。


「……貴女、名前は?」


「……カタリナです」


「そう。じゃぁ、カタリナ。これから貴女は超雑用係になるかもしれないけど、それでも良いって言うなら……同行を許可するわ?」


「雑用でも何でも構いません……。町に入るための税金すら払えず、魔物に襲われていつ死ぬとも分からない状況でいるよりは、ずっと良いです……」


「「あっ…………」」


 カタリナと名乗った僧侶の話を聞いて、何故、彼女が町に戻らなかったのか、その理由を察した様子のワルツとルシア。どうやらカタリナは、町の中に戻ろうにも、検問所で税金を払うことができず、途方に暮れてしまったらしい。


「空腹ってところから、何となく分かってたけど……貴女、一文無しだったのね?」


「はい……。”あの森”から出たところで、勇者様方に捨てられてからというもの……ここの町に戻って来て、どうにか一旦は中に入ることができましたが、冒険者ギルドで依頼を受けようにも、申し込み金すら払うことができず……。途方に暮れていたところで、偶然、お二人の姿を見つけて……。それで、外に出たら……」


「余計にどうにもならなくなった……って訳ね……」


「はい……」ぐごぉぉぉぉ


「お姉ぢゃん!この人、やっぱり、かわいそう!」ぶわっ


「いや……うん……(何となく自業自得な気がしなくも無いけど……気のせいかしら?)」


 一旦は町の中には入れたのなら、身につけている装備を売って路銀にすれば良かったのに、などと思うワルツだったが、どうやらカタリナは、そのことをすっかりと失念していたようだ。


 それからワルツたちが、魔法の練習を諦めて、一旦町に帰ろうかと考えた、そんな時だった。町に向かって踵を返して歩き始めたワルツたちに対し、カタリナがその場から動かずに、こう口にしたのである。


「……一つだけ……いえ二つ、聞かせてください」


「ん?何?」


「……お二人のお名前です」


「「…………あ」」


「それと、もう一つ……」


 そう言って、真剣そうな表情をワルツへと向けるカタリナ。その結果、彼女の口から飛んできた言葉は、ワルツにとって頭の痛い問いかけだったようである。


「勇者様とあなたが戦っているとき……あなたの本当の姿を見ました……」


「!?」


「あなたは……あなた様は、もしや、神なのですか?」


「いや、違うし……。それだけは無いし……」


「えっ……」


「いや、ルシア?違うからね?」


 やはりワルツの正体を勘違いしていたのか、神では無い、という言葉を聞いて驚いたような表情を見せるルシア。

 それを見たワルツは、小さくため息を吐くと、周囲を見渡して、誰もいないことを確認してから、妹とカタリナの前に機動装甲の姿を見せて……。そして逆にホログラムの姿を消してから、こう口にした。


「まったく、私としたことが、姿を見られてたなんて……。で、何度も言うようだけど、私は神様じゃ無いからね?私の名前はワルツ。この世界に紛れ込んだだけの、ただの——旅人よ?多分……」


 と、ワルツはそこにいた2人に対してそう口にするのだが……。

 一方のルシアとカタリナは——


「「…………」」ぽかーん


——と口を開けて、ワルツのことを見上げたまま固まってしまっていたようである。彼女たちにとって、ワルツの機動装甲の姿を見るのは2度目のはずだが、それでもやはり、見慣れなかったらしい。


「もう……2人とも、見たことあるんだから、そんな驚かないでよ……恥ずかしい……」


「あっ……ご、ごめんなさいお姉ちゃん……」


「す、すみません……え、えっと……ワルツ様……」


「まぁ、良いけどさ?そんなわけで、私、人間でも神様でも、そもそも生物ですらないけど……付いてくる?」


「うん!絶対について行く!」


 そう言って、何度も首を縦に振るルシア。

 対してカタリナの方は、というと——


「……私もついて行きます!」


——そう口にしながら、覚悟を決めたような視線をワルツへと向けていたようだ。


「なら、仕方ないわね。ちゃんと仲良くやってね?2人とも」


「うん!……カタリナお姉ちゃん。私、ルシアって言います!不束者かもしれませんが、よろしくお願いします!」


「えっと……カタリナです。これからよろしくね?ルシアちゃん」


「うん!」


 そう言って嬉しそうな笑みを浮かべるルシアとカタリナ。


 そんな狐の獣人たち2人の姿は、毛色が近いこともあって、まるで本物の姉妹のように見えていたようだ。



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