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7.8-02 狩人講座2

体力の限界ゆえ、あまり頭が回っておらぬ注、なのじゃ?

次に賢者が眼を覚ますと、そこは光りに包まれた部屋の中だった。

とは言っても、地面や壁すらも発光しているどこかの地下室とは異なって、単に部屋の窓から日が差し込んできているだけの部屋のようである。


そんな寝起きには辛い、眩しい部屋の中で、賢者は開いた目蓋を一旦閉じると、眼が部屋の明るさへと慣れるまでの間、ベッドの中で、自分の身体に起こった出来事を思い出そうとしていたようである。


「(俺は……どうしたんだ?)」


意識を失った瞬間のことが思い出せず、眼を閉じたままで、眉を顰める賢者。


それから彼が、狩人から、マギマウスがひそんでいるかもしれない森へと木の実や山菜を収穫してこい、と言われたことを思い出したところで、彼の耳に、聞こえてきた声があったようだ。


「……お嬢様。朝ですよ?早くお着替えをして、食堂までいらっしゃって下さいませ。もう既に旦那様方はお顔をお見せになっておりますからね」


「(……お嬢様?俺以外に誰か寝ているのか?……それに……朝だと??)」


その言葉を聞いた瞬間、賢者の頭の中を大量の疑問符が流れていく。

だが、彼の頭は、まだ正常に回っていなかったためか、現状を正確に理解できなかったようだ。


ガチャッ……


窓にかかっていたカーテンを開けたと思わしきメイド(?)が部屋から出ていった後、ようやく眼が覚めてきたのか、賢者は閉じていた眼を開けて、上半身を起こし、部屋の中の様子を見回した。

その結果、彼の眼に飛び込んできた光景は、彼の予想を大きく越えたものだったようである。


「ここ……どこだ?」


天蓋付きの鮮やかな色のベッド。

おしゃれな装飾が施されている化粧台。

女性が着るとしか思えない洋服。

そして、自身が身に付けていた妙に肌触りの良いネグリジェ……。

どう考えても、自分とは縁のない部屋様相と自身の装いに、賢者の頭は混乱した。


「確か俺……マギマウスの攻撃のとばっちりを受けて倒れたはずだよな……」


そして意識を失って今に至る、ということまでを推測したところで、彼は一つの結論に達したようである。


「(……俺、死んだんだな。これがいわゆる、転生というやつだろう)」


どこかで読んだ小説のように、命を失った自分は、何処か知らない異世界の住人になってしまった……。

彼はそう考えたようである。


「(予想だと、俺はどこかの令嬢になってしまったようだな……。一応、男のようだが……もしかすると性別のひっくり返った特殊な世界なのかもしれない。……よし。とりあえずここからは、どちらの性別でも使える『私』という一人称を使って生きていこう)」


そして開き直った賢者は、本来、男性なら着付けの方法が分からないはずのカジュアルドレスを、何故か、すんなりと着こなし、近くにあったストールを肩に羽織ると、


「さて、いくか……!」


彼は覚悟を決めて、部屋の扉を開けたのである。




そして賢者が、何処かで見たことのあるようなデザインの廊下を、適当に歩いていくと……反対側の通路から見知らぬメイドが一人、歩いてきた。

なので彼は、転生した(?)ことを疑われないよう、メイドに対し、普通に挨拶をすることにしたようである。


「おは……ゲホッゲホッ……」


発言したところで、喉から出て来た野太い声に、令嬢として如何なものか、と思ったのか、誤魔化すように急に咳き込んでしまう賢者。

すると、当然のごとく、彼の前からやって来ていたメイドは、令嬢(?)のことを心配して、問いかけてきたようである。


「あの、大丈夫でございますか?お嬢様」


「…………」コクコク


「そうでございますか。なら良いのですが……食堂はそこを真っすぐに行って、曲がったところでございますよ?」


そう口にして、至って普通の表情を見せながら一礼をすると、賢者を通り過ぎて歩いていく、何処かで見たことがあるような茶髪メイド。

そんな彼女の言葉に、


「(……何で食堂の場所を教えてくれたんだ?まさか……実はこれ、勇者の策略じゃ……いや。無駄にクソ真面目なあいつがそんなことを思いつくはずがないし、剣士がこんな豪邸を持っているようには思えん……。ということは……ここの令嬢。自分の家の中で迷うような、相当な方向音痴だったのだな)」


賢者はそんな適当な理由を思いついて、深くは考えないことにしたようである。


それから、メイドの説明通り、通路を真っ直ぐに進んで、そして突き当りの角を曲がったところで、


『食堂』


と書かれた部屋の札が、彼の眼に入ってきた。


「(やはり、ここの令嬢は、相当な方向音痴のようだ。普通、自分の家に、こんな札なんて付けないはずだからな。もしかして……ドジっ娘属性などもあるのだろうか?)」


一体どうすれば、この館の令嬢を演じることが出来るのか。

賢者は、何故か嬉しそうな表情を浮かべながら、扉の前で首を傾げていたようである。

普段から大量の読書をしている賢者のことを考えるなら、もしかすると彼は、自分が物語の登場人物のように思えているのかもしれない。


「(よし……まずはさっきのメイドと同じパターンで、風邪をひいている設定から、言葉をうまく発せない展開に持っていって、その『旦那様』とやらの様子を見ることにしよう。場合によっては、魔法で声質を変える必要もあるかもしれないな……)」


それから彼は、相手から自分がどのように見えるのかを完全に失念しながら、食堂の扉を開いた。


ガチャッ……


賢者が扉を開いた瞬間、女性とも男性とも判断の付かない声が、部屋の中から飛んできた。


「おや?おはようニコル。今日の身体の調子はどうだね?」


「……か、狩ry」


「調子は、どうだ?」ゴゴゴゴゴ


「……いえ、おはようございます。お、お父様。もう身体に問題はありません……」


「そうか。それは重畳(ちょうじょう)……」


男装をしながら、席についている狩人の態度を見て、全てを察した様子の賢者。

先程までは生き生きとしていたはずの彼の眼が、その瞬間には死んだような眼になっていたことについては、言うまでもないだろう。


ところで、部屋の中に居た人物は、狩人だけでは無かったようだ。


『お、おはよう、ニコルおにい……お姉ちゃん!』


少女らしい服装をした、難しい表情のエネルギアと、


「おはよう……ですわ。ニコル……」


げっそりとした、お嬢様姿の剣士である。


「……おはよう、2人とも……」


疲れ切ったような表情を浮かべながら、2人に返答をすると、それから空いていた席に腰掛ける賢者。

そんな令嬢3人(?)に対して、狩人が声を荒げた。


「……お前たち。そんなことで、戦場で生きていけるとでも思っているのか!まったくもって(たる)んでいる!既に狩人の試練は始まっていんだぞ!?」


『は、はいっ!』

「お、おう……ですわ」


「…………はぁ」


狩人の言葉に対して答えた2人が、既に現状を受けている様子を目の当たりにして、賢者はもう逃げられないことを悟ったようである。


それからも狩人の言葉は続く。


「3人とも、少しは勇者を見習ったらどうだ?あいつからは……本気でワルツの仲間になりたいと思っているのが、ひしひしと伝わってくるぞ?」


「そういえば……勇者(レオ)を見てない……ですね?」


賢者がそう口にした途端、令嬢役の2名が眉を顰めながら、口を開く。


「賢者。お前、あれを見たら、多分ショックを感じると思……いますわよ?」


「ん?どうしてだ?」


『うん。僕もそう思う……』


「……2人とも、何を言ってる……」


「ニコル?発言が女性らしくない……ですわ」


と、剣士が、取ってつけたような『ですわ』を口にした瞬間だった。


ガチャッ


「お食事をお持ちいたしました」


賢者が先程見かけた、聞き覚えのある声のメイドが、食堂へと入ってきたのである。


それから彼女は、テキパキと食事を各自の前に配膳すると、


「それでは失礼いたします」


そう言って、部屋を出ようとして……


「きゃっ!」


ガシャンッ!


扉を目前に、ワゴンごと(つまず)いてしまったようだ。


本来、メイドのそんな失態を見たなら、館の主人(?)たる狩人は激怒して然るべきなのだが、


「素晴らしい……」


むしろ彼女は、感慨深げに頷いていたようである。

その様子を見て、賢者は気付いてしまう。


「ま……まさか……」


顔を真っ青にしながら、愕然とした表情をメイドに向ける賢者。

そんな彼に対し、共に何度も死線を越えてきた戦友の剣士が、悲しそうな表情を浮かべながら、トドメの一言を告げた。


「そのまさか……ですわ」


つまり、


「あのメイド……勇者(レオ)か?!」


ということだったようである。

どうやら勇者の女装は、仲間たちから見ても、異次元のレベルにあったようだ。


そんな剣士と賢者のやり取りが続いている間、メイド勇者と狩人男爵(?)の方でも、別の会話が繰り広げられていた。


「も、申し訳ございません!旦那様!今、片付けますので、何卒ご容赦を……!」


「随分と役に成り切ってるな……勇者。私は嬉しいぞ?」


「滅相もございません!粗相をしてしまった以上……お仕置きを受けることは覚悟しております!」


「いや、別にそこまでするつもりは……」


「分かりました……。では、旦那様の代わりに、自ら鞭を打って参ります!」


「いや、やめ……」


ガチャッ……


そして、部屋の中へと深々と礼をした後で、ワゴンと共に部屋を出ていってしまうメイド勇者。

その後、館の中に響き渡ってきた痛々しい音を聞いて、そこにいた3人は、朝食が喉を通ったとか、通らなかったとか。


まぁ、勇者と同じく、本気で成し遂げたいことがあったエネルギアだけは、


『ずず……あ。スープは音を立てて飲んじゃいけないんだった!』


勇者が何をしていようとも、まったく気にしていなかったようだが……。

いつもは20分ほど仮眠を取ってから、執筆しておるのじゃ。

そうでなくては、頭が回らぬからのう。

じゃが、今日はどうしても時間が取れなかった故、夕食を軽く口にしてから、休み無しに執筆を始めたのじゃ。

じゃから、文も内容も、微妙な感じになっておるかも知れぬのじゃが、その点、ご了承いただけると幸いなのじゃ。

……え?普段とあまり変わっておらぬ?

つまり、普段から微妙……いや、なんでもないのじゃ。


まぁ、そんなことはさておいて、今日は前述の通り、極限状態ゆえ、もう、寝かせてもらうのじゃ。

そうでないと、今日はいいかも知れぬが、明日の執筆活動に響くからのう。

2日連続で極限状態とか、誰得なのじゃ。

というわけで、あでゅーす、なのじゃ?




……あぁ……これで……寝れる……のじゃ……zzz。

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