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7.7-25 問題と対処10

眠いのじゃ……。

青く澄んだ空。

一箇所にとどまること無く、足早に流れていく雲。

そして、そこに浮かぶ、飛行性の魔物たち。


本来なら天井や壁が有って見えないはずなのに、そこに広がっていた大パノラマを前にして、飛竜は、


「ふむふむ、そうか……。我の部屋は、無くなってしまったのだな……」


そう口にしながら、遠い景色に目を向けて、小刻みに震えていたようだ。

言葉には出していなかったが、内心では相当に混乱しているのだろう。


そんな飛竜の心の言葉が、イブにもどことなく伝わってきたらしい。


「ドラゴンちゃん。こういう時は抱え込まないで、素直に驚くべきだと思うかもだよ?」


「驚く……?こういうときこそ、冷静にあるべきだと、コルテックス様やテレサ様に教わったのだが?」


「んーとねー、時と場合によるってやつかもだね」


「なるほど。つまり今は、驚いてもいい場面、というわけだな?」


「うん」


「ふむ……。ならば、仕切り直しといこう!」


そして、身体の震えを止めて、大きく息を吐く飛竜。

一方、イブの方には、彼女がどうして『仕切り直し』と言う言葉を使ったのか、そして大きく息を吐いたのか、よく解らなかったようだ。


ただ、それでも、一つだけ、彼女には分かっていたことがあったようである。

これから飛竜が何かしようとしている、という出所不明の嫌な予感だ。


結果、大きく息を吐いた後で、今度は大きく息を吸った飛竜は、


「……わ、我の部屋を返すのだ!!」


ドゴォォォォ!!


人のままの姿で、怒りと驚きと、そして恐らくは悲しみの成分を含んだ野太いドラゴンブレスを、自身の部屋があった場所に向かって、全力で放ったのである。


それは、王都の上空を飛翔すると、野を超え、山を超え。

遂には遠くに見えていた山脈へと衝突し、眩しい閃光ともに()ぜるのだが、流石にどこぞの誰かのように、地形を大きく変化させるようなことは無かったようである。


あるいは一般的な人間が見たなら、とてつもない爆発のように見えなくもないかもしれないが、少なくても、そこでブレスの様子を眺めていたイブたちの顔には、驚きの色はなく、単に困ったような呆れたような、そんな苦笑が浮かんでいただけのようだ。

飛竜のブレスが衝突した地点から程近い場所で、大きな山全体が眩い光を発しながら赤く赤熱していた、と言えば、イブたちが驚かなかった理由については分かってもらえるのではないだろうか。


まぁ、そんな、どこかの狐娘が進めているだろう作業の話はさておいて。


シュワァァァァ……


全力でブレスを放った結果、少女の姿のままだった飛竜は、その顔を真っ赤にするほどの火傷を負ってしまったようである。


「あー……これは、カタリナ様のところに行って、治療してもらわなきゃダメかもだね……」


文字通り顔から湯気を上げている飛竜に対して、相変わらず、呆れたような視線を向けるイブ。


対して、飛竜の方も、その視線には気付いたのか、ブレスを放った後で、どこか恥ずかしそうな表情を浮かべていたようだ。

尤も、顔が真っ赤だったこともあって、本当に恥ずかしいのかどうかは、本人にしか分からないのだが。


「顔がヒリヒリする。だが……心は晴れやかだ」


「そりゃ、あれだけ、力いっぱい叫びながらブレスを吐けば、スッキリするかもだよ……」


「ふむ。主殿も、何か嫌なことがあれば、ブレスを吐くと良い」


「いや、無理かも……(試したけど、出なかったかもだからね……)」


「左様か……なるほど。人である故、仕方ないことか……。だがまぁ、主殿たち人間にも、これならできるだろう」


そして顔を真赤にした飛竜が次に取った行動は、


グリグリ……


と、近くにいたアトラスの胸に、自身の頭を押し付ける、というものであった。

どうやら、彼女は、アトラスに対して、頭を撫でろ、と無言で要求しているらしい。


「お、おい、飛竜……。お前、さっきまで、冷静が云々とか、コルテックスやテレサに色々と教わった、って話をしてなかったか?いや、頭は撫でてもいいけどな?」ワシワシ


「〜〜〜」ブンブン


アトラスに頭を撫でられた結果、太い尻尾を左右へと乱暴に振りながら、嬉しそうな表情を浮かべる飛竜。

その様子は、犬の獣人であるイブよりも、遥かに犬っぽい、と言えるだろう。


すると、その様子を見ていたイブは、眉間にシワを寄せながら、紅潮した頬を膨らませる。


「そ、そんなハレンチなこと、イブにはできないかもだもん!」


「え?イブ、お前もしかして……俺に頭を撫でられることを、破廉恥なことだと思ってたのか?」


「えっ……いや、違うかもだし……。そっちじゃなくて、頭を擦り付ける方のことかもだし?」


「そうかそうか……でもな、イブ」


アトラスはそう口にすると、一定の高さで手を動かしている間、磁石のようについてくる飛竜を連れたまま、イブの近くまで移動して、


「……別に我慢しなくても良いんだぜ?」


そう口にしてから、彼はイブの頭も撫で始めた。


「も、もがぁぁぁぁ!!」

「もがぁ〜〜〜」


180度近く表情が異なるにもかかわらず、しかし似たような声を挙げるイブと飛竜。

その表情は、まったく種類の異なるもののはずなのだが、イブもまた火傷を負ったかのように、飛竜と同じく顔に真っ赤な色を浮かべていたのは、果たしてどういった理由があったからなのだろうか。




それから、軽く調査しても、マイクロマシンたちが原因となった事以外に、特に思い当たる節がない、という結論にたどり着いた3人。

もしもそうだとするなら、自分たちにはどうしようもない、というわけで、その場に残って調査と修理を続けることにしたアトラスと別れたイブと飛竜は、2人でカタリナのいるだろう診察室へとやって来た。


イブとしては、カタリナのところへは出来ることなら近づきたくなかったようだが、徒弟である飛竜が診察室に行くというので、仕方なく一緒について来たようである。

責任感の強い彼女にとっては、飛竜を見捨てる(?)わけにはいかなかったのだろう。


「……この部屋……絶対に来たくなかったかもなんだけど……」


「ぬ?主殿?何か申されただろうか?」


「ううん。なんでもない。なんでもないよ?」


そう口にしながら、その部屋の中にいるだろう、恐ろしい注射器使い(?)に向かって、苦々しい視線を向けるイブ。

とはいえ、その餌食になるだろう飛竜に対してイブができることは、彼女が開放された後で慰める以外に、何もないのだが。


だがそのままそこに立っていても、何も進展しないので、彼女たちは、覚悟を決める(?)と、いよいよその部屋へ向かって、一步を踏み出したのである。


ガション!


その瞬間、いつも通りに勢い良く開く、診察室の自動ドア。

しかし、その先にいたのは、いつもこの部屋にいるカタリナ、ではなく、


「まぁ、シュバルちゃん!しゅごいでしゅねー?ハイハイが出来るようなったのでちゅねー?」

「…………」ニョロニョロ

「あの……テンポ様?来客ですよ?」


カタリナ以外の3人の姿だったようだ。

つまり、テンポ、シュバル、そしてユキである。

どうやらカタリナは、週一の回診のために王都まで出かけているらしく、今日は部屋にいないらしい。


「何やってるの?テンポ様?」


普段から無意味(?)に注射器を振りかざしてくるカタリナがいないことで、ホッとしながら、問いかけるイブ。


すると絨毯を敷いた床の上に腰を下ろしていたテンポは、珍しくトレジャーボックスの中から外へと出して、そこでハイハイをさせていた真っ黒な姿のシュバルを抱き上げながら、嬉しそうに話し始めた。


「シュバルちゃんの運動ですよ?私もこうして子どもを育てることは初めてだったので、シュバルちゃんの運動をどうすれば良いのか、と考えあぐねていたのですが……案ずるより産むが易し、というやつだったようです。一緒に絨毯の上で寝そべって、スキンシップしていればよかったのです」


「ふーん……。イブは一人っ子だから、他の子どもは見たこと無くて、分かんないかもだけど……もしかすると、そうなのかもだね(っていうか、迷宮の赤ちゃんに、運動とか必要なのかな?)」


「では、イブちゃんも、私とここで寝そべって、シュバルちゃんと一緒に遊んでみますか?」


「……うん、今回は遠慮しとくかも(悪いけど……シュバルちゃんが苦手かもなんだよね……)」


「そうですか……それは残念です」


と言いながら、本当に残念そうな無表情を見せるテンポ。


すると今度は、そこまで黙っていたユキが、来客の2人に対して問いかけた。


「ところで、2人揃って、どうしたのですか?……って、聞くほどのことでもないですね」


すると、ユキに視線を向けられていた真っ赤な顔の飛竜が、2人に対して事情の説明を始める。


「実は、お恥ずかしいことに、人の姿のままでブレスを放ったが故、また顔を火傷してしまったのだ。それで、カタリナ殿に治していただきたかったのだが……おらぬなら、仕方ない。また折を見て、伺うとしよう」


『えっ……』


火傷しているというのに、何も治療を受けずに帰る、と言い出した飛竜に対して、困ったような表情を向けるイブとユキ。

とはいえ、カタリナもルシアもいない以上、回復魔法が使えそうな人物がそこにはいなかったので、消毒して化膿防止のための薬をつけて、そして包帯を巻くくらいしか、出来ることは無さそうだったのだが。


しかし、である。

自分の腕をメリメリと甘噛(?)してくるシュバルのことを、愛おしげにあやしていたテンポが、彼を不意に絨毯の上に降ろすと、飛竜に対して手招きをしながら、こう言った。


「カリーナちゃん?ちょっと顔を見せて下さい」


「む?それは構わぬが……顔への注射は、できればやめてほしいのだが?」


「そんな事しませんよ?」


そして飛竜が、絨毯の上にいたテンポの近くに、膝を下ろした時のことだった。


ポワァ……


「……!」


テンポの手が自身の顔に近づいた瞬間、顔から痛みが急激に引いていったらしく、飛竜が驚愕の表情を浮かべたのだ。

どうやら彼女は、カタリナから教わったのか、回復魔法が使えるようになっていたらしい。


「はい、おしまいです。どうですか?名付けて、『いたいのいたいのとんでけー魔法』は?」


自慢げな無表情を浮かべながら、飛竜に対して感想を求めるテンポ。

そんな彼女に対して、飛竜はもちろんのこと返答を口にするのだが、


「…………ふ、ふむ。世の中には、誠に不思議なことがあるものだな……」


彼女の返答には、どういうわけか、原因不明の()が入っていたようである。


「……科学とは違って、物理現象を無視した魔法ですから、不思議なのは当たり前ですよ?」


「いや……そうではないのだ」


「…………?先程から、どうしたのですか?」


自分が回復魔法を使えたことに驚いているのか、と思いきや、そういうわけではなさそうな様子の飛竜に対して、怪訝な視線を向けるテンポ。

その際、近くにいたイブとユキも、飛竜と似たように難しそうな表情を浮かべている様子が視界に入ってきたためか、テンポはより一層、混乱してしまったようである。


すると、何時までたっても、異変に気づいていない様子のテンポに対して、ユキが指摘の言葉を口にする。


「あ、あの、テンポ様?後ろを振り返って頂きたいのですが……」


「……後ろ、ですか?」


ユキの言葉を聞いて、テンポは嫌な予感がしたのか、彼女は恐る恐るといった様子で、ゆっくりと後ろを振り向くのだが。

なんと、そこには、


「……す、すごいでちゅねー?シュバルちゃん……。増えることも出来るんでちゅねー……?」


まるで細胞分裂したように、2体に増えた、真っ黒なシュバルの姿(?)があったようである。

猛烈に眠い故、せっかくのイノベーション(?)が、台無しなのじゃ……。

……たぶんの。


で、何を変えたのか、というと……わざわざ言わずとも分かるのではなかろうかのう?

ヒントは、ナレーターの文に、2点ほど大きな変更があった、ということなのじゃ?


まぁ、試験的なモノじゃから、今後もずっと、同じスタイルで書き続けていくのかについては、現時点では未定なのじゃがの。

この書き方で一つだけ言えることは……読みやすさは別にして、すごく書きにくい、ということなのじゃ。

もしかすると、眠いことが原因かも知れぬ故……明日も引き続き、同じように書いてみようかのう?


でじゃ……。

眠いのじゃ……。

あとがきを書きながら、寝てしまうかと思っ……zzz。



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