7.7-23 問題と対処8
「…………滅ぼしてやる!」
イブたち3人が、妙に風通しの良い議長室の中に入った瞬間、彼女たちの耳にそんな声が届いてくる。
『?!』
「お寿司を横取りした恨み……絶対に許さない……!」
その言葉を聞いた途端、
『…………』
なるほど、と言わんばかりの表情を浮かべる3人。
どうやら彼女たちは、議長室の中から聞こえてきた爆発音の正体が、何であるのか察したようだ。
それは……まぁ、わざわざ言うほどのことでもないかもしれないが、黒光りするマイクロマシンの塊に、今日も大切な稲荷寿司を奪われたためか、怒り狂うルシアが放った魔法によって生じた音だったようだ。
ただ彼女は、いつも通り全力で魔法を放ったわけではなかったようで、議長室の壁に穴が空いてしまうような事は無かったようである。
大出力一直線だったルシアの魔法は、もしかすると、徐々にその形を変えつつあるのかもしれない……。
それはそうと。
イブたちが議長室の中に入ると、そこにテレサの姿は無く、コルテックスの姿だけがあったようだ。
結果、怒り狂うルシアに応対していたコルテックスは、イブたちがやって来たことを確認すると……こんなことを口にした。
「3人とも、いいタイミングでやって来ましたね〜。……というわけで、ルシアちゃんへの対応は、おまかせしました〜」
『……え?』
あまりに急な展開に、眼を点にしながら、固まるイブたち。
しかし、彼女たちが、コルテックスに対し、その言葉の真意を問いかける前に……
「それでは、ここで失礼しますね〜」
ガコン!
……と、コルテックスは、議長室の床に突如として開いた穴に吸い込まれるようにして、姿を消してしまった。
どうやら、彼女の発言は、その言葉通りの意味で、『後の面倒事は任せました〜』ということだったようである。
その際……
『うひゃぁっ?!な、なんでコルテックス様が天井から落ちてくるんですか?!』
と、ユリアらしき人物の叫び声が聞こえていたところから推測すると……恐らくコルテックスは、下の階にある情報局局長室へと、落ちていったのだろう。
「んなっ……?!」
「……なんとなく予想は付いていましたね」
「うむ……」
そして自動的に閉じていく穴に向かって、恨めしそうな視線を向ける3人。
しかし、放っておくだけで、彼女たちの目の前にいた、魔王以上に厄介な『勇者候補』が、勝手に落ち着いてくれるわけわけもなく……。
仕方なくイブたちは、怒り心頭状態で魔力の濁流を作り出していたその混沌の源へと、話しかけることにしたようだ。
「えっと……あの……ルシアちゃん?何にかあったかm」
「よく聞いてくれたね!イブちゃんたち!」
「あっ……(また、話が長くなるやつかもだね……)」
「うっ……(午前中はこれで潰れてしまいましたね……)」
「ぐっ……(これは逃げられぬやつだな……)」
その瞬間、何故コルテックスが逃げ出したのか、そして何故テレサがここにいないのか……その正確な理由を把握する3人。
しかし、それに気付くのが遅すぎたためか。
彼女たちは、数時間に渡るルシアの稲荷寿司談義に巻き込まれてしまったのであった……。
……そして2時間後。
そこには……
「……というわけだから、テレサちゃんのお寿司に、グリンピースを混ぜると、面白いことになるんだよ?知ってた?」
「ううん。今日、始めて知ったかも……」
「テレサ様、グリンピースが嫌いだったのですね……」
「我もあの緑色の粒は嫌いだ……」
意外なことに、稲荷寿司談義に花を咲かせる4人の少女の姿があったようだ。
流石のルシアも、延々と意味不明な(?)稲荷寿司の話をするのは、仲間たちに失礼だということは理解していたようで、皆にも分かるネタを展開させていたようである。
もしかすると、こういう点においても、ルシアは進歩しつつあるのかもしれない……。
しかし、いい加減、稲荷寿司の話ばかりでは飽きつつあったのか……イブは議長室の戸棚から取り出して、応接用の机の上に出していた好物の煎餅を口にしながら、折を見て、話題を変えることにしたようだ。
「ちなみになんだけど……ルシアちゃんがマイクロマシンにお寿司を食べられたのって、どこでの話かもなの?」
「えっとねー……あの大っきな木の上だよ?」
「あの……なんでそんなところで食べていたのですか?」
どうしてわざわざ、世界樹(?)の上まで行って、稲荷寿司を食べなくてはいけないのか……。
シラヌイにはどうやっても理解できなかったらしく、彼女は思わずその理由を問いかけてしまったようだ。
まぁ、言うまでもなく、理解できなかったのは、彼女だけではなかったのだが……。
「だって、この3日間、連続でお寿司を横取りされてるんだよ?これはもう、ゆっくり味わって食べるためには、どこかに逃げて食べるしか無い、と思わない?……そうだね。もしかしたら、シラヌイちゃんには、命を賭けても守りたいと思うお寿司のことが分からないかもしれないから、別のもので例えると……せっかく完成した最高傑作の刀が、3日間連続で、あのGみたいな黒い物体に壊されちゃったのと同じくらいショック、って言えば分かる?しかも逃げた先まで追ってくるんだよ?」
「それはすごく困ります。というか……ルシアちゃん、お寿司に命を賭けてたのですね……」
「うん!」
シラヌイの問いかけに対して、迷うこと無く、首を縦に振るルシア。
彼女に、大切なものを3つ挙げるように言ったなら……ほぼ間違いなく、そこに稲荷寿司が入っていることだろう……。
その後。
言いたいことを言ったのか、今度はルシアの方が、パジャマ姿の3人に対して、疑問を口にした。
「そう言えば、みんなは、どうしてここに来たの?」
そんなルシアの質問に答えたのは……自分にとって大切なものが何なのかを考えて、結局、何も思い付かなかった様子の飛竜である。
「うむ。それなのだが……実は我ら、自室の扉を、何者かに破壊されてしまったのだ。それの報告をコルテックス様にしようと思って、ここまで来たのだが……どうやらコルテックス様もテレサ様も忙しいようで、報告できずにいるのだ」
「ふーん。カリーナちゃんのところのドアは、寝ぼけて、ブレスで壊しちゃったんじゃないの?」
「いや……う、うむ……。違うと思うのだが……そう言い切れぬのが、なんとも歯がゆいところだ……」
と言いながら、口をモグモグと動かす飛竜。
それは実際に歯がムズムズとしたためか、それとも、寝ている内に口からブレスが出ていたかもしれないことを考えたためか……。
それから飛竜が、首を傾げながら、うんうんと唸り始めた姿を見届けると……ルシアは、残り2人に対して、質問を投げかけた。
「シラヌイちゃんや、イブちゃんも、扉を壊されちゃったの?」
すると、イブが最初に、その質問に対して返答する。
「イブの部屋は壊されたかもだね。でもシラヌイちゃんの部屋は、たぶん無事かもだよ?実は、今日起きたら、イブのベッドの上で、何でかシラヌイちゃんが寝てて……」
「えっと……昨晩、廊下を歩きながら考え事をしていると、急に眠くなってきて……気付いたら近くにあったイブちゃんの部屋のベッドで寝てました」
と、イブの言葉に続いて、補足を口にしたシラヌイ。
このままではルシアに、何か勘違いされそうな気がする……と、彼女は思ったらしい。
だが、彼女に対して返ってきたルシアの言葉は、シラヌイにとって予想外なものだったようだ。
「なんか……すごい展開だね。でも……少し前は、そういうの、よくあったよ?」
「えっ?!頻繁に扉を壊されていたのですか?!」
「えっ?いや……そうじゃなくて、気付いたら誰かがベッドで寝てる展開の方。例えば、私が、お姉ちゃんのベッドで寝てたり、狩人さんのベッドで寝てたり、ユリアお姉ちゃんのベッドで寝てたり……(その逆もあったね)」
「フリーダムですね、ルシアちゃん……」
と口にしてから、何かを考え始めるシラヌイ。
どうやら彼女の頭の中では、何やら思いつきが浮かんできたらしく……彼女は決心したような表情を浮かべると、人知れず拳を握ったようだ。
一方。
その様子に気付くこと無く、話を単に聞いているだけだった飛竜が……彼女も何か思い出したらしく、ルシアに対して問いかけた。
「ところで、ルシア殿。ルシア殿は何故、部屋の中で魔法を放っていたのだ?」
その瞬間……
『?!』
どうしてこのタイミングでそれを聞く!、と言っていそうな視線を、飛竜に対して向けるイブとシラヌイ。
あるいは……嫌なことを思い出させることで、また暴走を始めたらどうする、と言いたかったのかもしれない。
だが、2人の懸念とは裏腹に、ルシアは既に怒りを鎮めていたようで……彼女は至って朗らかな表情を浮かべると、なぜ議長室の中で魔法を使っていたのかを口にし始めた。
「実は、さっきまで、この部屋の中にもいたんだよ?あの黒い奴。だから、コルちゃんに許可を貰って、誘導爆雷で爆破してたの。とりあえず、部屋の中のやつは全滅させられたから、スッキリしたんだけど……でも、難しいよね?だって、あの黒いのって、お姉ちゃんが作ったマイクロマシンなわけだし、本来は国の人々を救うためのモノなんだから、手当たり次第に壊すっていうわけにもいかないからね……」
「う……うむ。そうですな……(ゆーどーばくらい、とは一体何なのだろうか?何か恐ろしい響きなのだが……)」
そして飛竜は、その聞いたことも無い魔法を、頭の中で想像して、恐怖したのだという……。
それからもマイクロマシン談義(?)に花を咲かせる4人。
その際の会話で、イブの部屋や飛竜の部屋の扉を破壊したのは、やはりルシアの稲荷寿司を食べてしまったマイクロマシンと同一なのではないか、という結論に、彼女たちはたどり着いたようだが……果たしてそれが本当に正しいのかどうかについては、その場で判断することはできなかったようである。
……グリンピースは嫌いなのじゃ?
眼を瞑って食べる分には良いのじゃが……嫌がらせのようにグリンピースばかりが入っておったりして、無視できぬほどの、あの柔らかくて甘苦い食感が口の中に広がったりすると……もうそれは、怒り心頭なのじゃ!
……まぁ、それでも我慢して食べるんじゃがの?
それはさておいて、なのじゃ。
話を書いておる上で、グリンピースとは違い、どうしても無視できぬ悩ましいことがあるのじゃ。
7章の落とし所については考えてあるのじゃが、『奴』の立ち位置をどうすr……いや、なんでもないのじゃ。
本当はここで色々と悩みを書いておったのじゃが、見返してみると、何となくネタバレな気がしなくもなかった故、省略させてもらうのじゃ?
それでも端的にいうと……8章を飛ばして、9章やサイドストーリーのことを考えると、今から『奴』について、色々と調整が必要なのじゃ。
それがうまく書けなくて……今日みたいな駄文が増えていっておるのじゃ……。
まぁ、文が足りないよりはマシなのじゃがの?
さて……。
今日みたいに頭の回らぬ日は、さっさと眠るのに限るのじゃ。
今夜は……『吾猫』でも読みながら眠るとするかのう……zzz。




