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1.1-04 HelloWorld 4

ナンバリングを変更したのじゃ。

食料と毛布を確保して、納屋へと戻ってきたワルツたち。

そんな彼女たちは、ある大切なことを忘れていたようだ。


既に太陽が沈み、空に星がまたたき始めていた、といえば、大方の予想が付くのではないだろうか。


「あっ、火を起こしてなかった!」


「あっ……」


人ではないワルツにとっては、内蔵されているカメラの原理上、暗闇とは無縁なので、焚き火の準備を完全に失念していたようである。


ちなみに。

旅人たちが野営をするときに火を起こすのは、何も視界を確保することだけが目的ではない。

火を怖がる動物たちの習性を利用して、不用意に野営地へと彼らを近寄らせないようにするため、という側面もあったのである。

尤も、ゴブリンのように知性をもった(?)者たちが、一般的な動物たちと同じように、火を怖がるかまでは分からなかったが……。

それを考えなかったとしても、ここには年端もいかない少女もいるので、暗闇を払うために、やはり焚き火は必要と言えるだろう。


「えっと……私が()ける!」


ルシアはそう口にすると、近くの廃墟の横に積み重ねられていた薪を数本持ってきて、納屋の前にそれを起き、焚き火の準備をし始めた。


そんなルシアに対し――


「火傷しないように注意してね?怪我したら大変だから」


ワルツは決まり文句のような忠告を口にする。

しかし、そこで彼女は、あることに気がついた。


「(そう言えば……ルシア、どうやって火を付けるのかしら?)」


もしもワルツが焚き火を起こすなら、レーザーなどの高出力エネルギー兵器を使えば、一瞬で点火可能だったが……。

今のルシアが、ライターやバナーの類を持っていたり、それに準じる道具を持っていたりする様子は、当然無かった。

なら彼女は、どうやって火を点けるというのか……。


そんな疑問を頭の中で考えながら、ワルツがルシアの行動を、微笑ましげに眺めていると――


「えっと…………えいっ!」


ズドォォォォォン!!


という豪快な音と共に、突如として、薪に火が(とも)った。


そんな非科学的な現象を目の当たりにして、しかしワルツは直ぐに事情を把握する。


「……魔法ね?」


「うん!でも……あまり強くないんだけどね……」


そう言って、獣耳をたたむと、しょんぼりとした表情を見せるルシア。

それを見て、ワルツは思う。


「(さっきのが”あまり強くない”って言うんだったら、普通の人が使う魔法って……どんだけ強いのかしら?どう考えても、人を標的にして使ったら、一撃で爆死するレベルだと思うんだけど……)」


初めて見た魔法が、思いのほか強力だったので、色々と考えざるを得なかった様子のワルツ。

ルシア曰く、彼女の魔法は強くないらしいが、初見のワルツには、どう見てもそうは思えなかったようである。


しかし、比較対象が無かったので……。

ワルツは、ルシアの魔法が実際にはあまり強くない、と思うことにしたのであった。



それから、夕食――保存用の硬い干し肉と、表面にカビが生えていたのを削ぎ落としたパン、それに白湯(さゆ)を摂り終わり……。

そして、ひと息ついた後のこと。


ワルツはルシアに対し、この村で何が起こったのかを、聞いてみることにしたようだ。


「ねぇ、ルシア?無理に、とは言わないけど……もし良かったら、この村で何があったのか、私に教えてくれないかしら?」


その問いかけを聞いたルシアは、焚き火をじっと眺め……。

そして、その当時のことを口にしようとした。


「あのね?2日くらい前に……怖いおじさんたちが……」ぐすっ


しかし、当時のことを思い出しすのと同時に、怖い記憶も思い出してしまったらしく……。

彼女は再び、大粒の涙を、目尻に蓄え始めてしまったようだ。


「えっと……答え難かったら、無理に言わなくていいのよ?今の一言でなんとなく分かったから……」


「ごめんなさい……」しゅん


「大丈夫。私がついているから、もう心配はいらないわ?」


そう口にして、俯くルシアの頭の上へと、恐る恐る手を伸ばし……。

そしてその頭を優しげに撫でるワルツ。

それで目の前の少女の恐怖が薄れるなら、自分の生きてきた世界の習慣は捨て去ってもいい……。

彼女は無意識の内に、そんな選択をしたようである。


それが功を奏したのか……。

ルシアは落ち着きを取り戻すと、再びその口を開いて、説明を始めた。


「私は……近くの森に薬草を取りに出かけていたから助かったんだけど……」


ルシア曰く、今から2日ほど前のこと。

彼女が森に薬草を摘みに行っている間に、村は略奪の被害に遭ったようである。

そのおかげで、略奪者たちが乱暴を働いていた当時、彼女は村にいなかったので、無事だったらしい。

ただ、彼女が薬草を摘み終わって戻って来たときには、略奪者たちはまだ村に残っていたのだとか。


幸い、村から離れた場所でそれに気づくことが出来たため、その日、彼女は、村が一望できる近くの森へと身を隠し……。

そこで次の日の昼まで待っていると、略奪者たちはようやく村を去っていったのだという。


それからまた1日が過ぎ、途方に暮れていたところに、ゴブリンたちがやって来て……。

そして、今に至る、という話だった。


「そう……。でも、もう大丈夫よ?もう怖い人とか来ないから(……って言葉で、安心してくれればいいんだけど……?)」


そう言って、再びルシアの頭に手を置くワルツ。

これまで、子どもと接したことのなかった彼女にとっては、どのようにルシアと接すればいいか分からず……。

その後も、人知れず、孤軍奮闘が続くことになったようだ。



それからも、ワルツがひたすら、ルシアの頭を撫で続けていると……。

彼女はいつの間にか、夢の世界へと旅立っていたようだ。


「(ぶっちゃけ……コミュ障には辛いわね……)」


そんなことを考えながら、ようやく手を止めるワルツ。


それからワルツが、不意に顔を上げると……。

細い毛がびっしりと生えた、三角形の半平(はんぺん)のような物体が2つ、彼女の視界の中に入ってきた。

……ルシアの獣耳である。


そんな彼女の獣耳は、時折、何かに反応しているかのように、ピクッピクッと小さく動くのだが……。

周囲の草陰で鳴いている虫の声や、(たきぎ)の音に反応しているわけではなく……。

それ以外の何かに反応している様子だった。

あるいは、夢の中の出来事に反応して動いているのかもしれない。


ワルツはその獣耳を、まるで穴が空くかのごとく、凝視していたわけだが……。

その際、彼女は、とある違和感に気付いたようだ。


「(あれ?普通に人の耳もある……というか、獣耳の中に穴が開いてない?ってことは……実は癖毛?いや、それにしては妙にリアルな獣耳よね……)」


眠っているルシアの獣耳に、思わず手を伸ばしそうになるワルツだったが……。

触りたいという衝動を、どうにか押さえ込むことに成功したようだ。


……と言うより、それ以外に気になることがあった、と言うべきか。


「(……爆発音?ずいぶん遠いみたいだけど……何か兵器みたいなものかしら?それとも……魔法?)」


機動装甲に内蔵された高性能マイクロフォンでしか拾えないような極めて小さな音に気づいて、納屋の外へと怪訝そうな視線を向けるワルツ。


それから彼女はルシアを起こさないようにして納屋を出ると……。

見晴らしの良い丘の上までやってきて、地平線の彼方へと眼を向けた。


そこでは、カメラのフラッシュのような明滅が、地面から空へと向かって、不定期に輝いていたようである。

一見すれば雷のようにも見えなくなったが、ワルツのニューロチップに内蔵されていたデーターベースによると、どうやらそういうわけではなく……。

地上で何かが爆ぜたために輝いた光だったようである。

例えば、高性能爆薬のような何かが……。


「距離は……20kmってところかしら……?」


それを見て、この村を襲ったのは、戦いに敗れた兵士たちなのではないか、と警戒するワルツ。


それから彼女は、何があってもいいように、より一層の注意を払うことにしたのであった。



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