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7.7-19 問題と対処4

何故か嬉しそうに、刃を向けたり避けたりしているアトラスとシラヌイ。

そんな2人を目の当たりにして……しかし、特に顔色を変えるとこと無く、


「……ワルツ様?アレどうするの?」


メイド姿のイブは、隣で呆れたような表情を浮かべていたワルツに対して、おもむろに問いかけた。


するとワルツは、腕を組んで眉を顰めると、イブに対して言葉を返す。


「そうねぇ……。正直に言えば、関わると面倒くさいから、放置しておきたいところだけど……2人がどけてくれないと配管の修理もできないし、触媒の充填も出来ないから、どうにかしなきゃならないかしらね。このまま空調が効かなくて、部屋の中が寒くなっても、別に私はかまわないけど……イブはどうする?寒くてもいい?」


「むしろ、寒いほうがいいかもだし?故郷に比べれば、どーってことない気温かもだからねー」


「あらそう。それじゃ、放置でいっか?」


「そーだね」


そして、その場を立ち去ろうとする2人……


「ってわけにもいかないわよね……」


「うん……」


しかし、見なかったふりは、できなかったようだ。


それからワルツたちは、再び、アトラスとシラヌイの方を振り向いた。

だが、戦いに集中して、2人だけの世界に入り込んでいるアトラスたちが、やってきたワルツたちに気づくこと無かったようで……2人は、轟音を上げながら、戦闘を続けていたようである。


その様子を見て……イブがこんな感想を口にする。


「シラヌイちゃんって……すっごく強いかもなんだね?」


「戦闘のスキルがどの程度のものかは、これまで実戦が無かったから知らなかったけど……あの様子を見る限り、正面から戦ったら、狩人さんには勝てないかもしれないわね」


「かもだよね……。狩人さん、薄い気配だけで戦ってるようなものかもだし……」


「……ダメよ?イブ。狩人さんの前で、それを言ったら……。狩人さん、そのこと気にしてるんだから」


「えっ……」


「でも、確かに、シラヌイったら……予想したよりも随分と強いみたいね」


と、全力で肉弾戦を仕掛けようとしているアトラスのことを、常に亜音速域で操り続けていた長い黒刀を使って、近づけないように捌き続けていたシラヌイに対し、感心したような表情を見せるワルツ。


一方、イブの方は、笑みを浮かべた2人がいったい何をしたいのか、まったく分からなかったようで……彼女にとって、シラヌイやアトラスの強さは、あまり重要ではなかったようである。


「それで……ワルツ様は、2人のことをどうやって止めるかもなの?」


「そうねぇ……。タイミングを見計らって、超重力で2人とも押し潰そうかしら?喧嘩両成敗って奴ね」


「それでいいかもなの?事情とか聞かなくてもいいかもなの?」


「どーせ、また、ろくでもない理由で喧嘩してるはずだし、いいんじゃない?っていうか、それ以外に、2人を止める方法が無いと思うんだけど……イブは何かアイディアとかある?(面倒くさいから、私が高速に動いて、2人に割り込む以外の方法でね?)」


「んー、まぁ、いいかもなんじゃない?死ぬわけでも、怪我をするわけでもなければ……」


「んじゃぁ、決定ね」


そして、亜音速のステップを踏む2人に対して、右手をかざすワルツ。

重力制御を行使するため、本来、一切のモーションがいらないことを考えるなら……どうやら彼女は、隣で自身のことを見ているイブに対して、かっこいいところを見せたかったようである。


そんな少し病気のようなものを発症していたワルツは、自身が介入しても2人が刃で怪我をしないタイミングを見計らって……


ドゴォォォォン!!


と、5[G]を付加した。


すると……


「ぬあっ?!」

「きゃっ…………っ!」


ドスン!

カラン……


当然のごとく、体勢を崩すアトラスと、手から黒刀を落としてしまうシラヌイ。

それ自体は、ワルツやイブが予想したものの範疇で、特に問題なく、2人はその場に倒れて終わりのはず……だった。


しかし、実際にはそうはならず、ワルツたちの予想を超えた結果が生じてしまったのは……ワルツのタイミングの読みが甘かったためか、それとも単なる鬼人の少女にしか見えないはずのシラヌイの体力が、異常に高かったためか……。

いずれにしても、ワルツの介入は……


「…………?!」

「…………」


「あ……」

「…………!」


新しい面倒事を作り出してしまう原因になってしまったようだ。


「なんでそこで、一步前に踏み出すのよ……」


シラヌイが地面に倒れる際、彼女はその場に崩れるのではなく、5[G]という超重力を無視して、一步前に踏み出してしまったことに……頭を抱えずにはいられなかった様子のワルツ。

対して、ワルツの隣りにいたイブの方は、顔を真赤にしながら、手で目隠しをして……そして指の隙間から2人のことを観察しているようだ。


では、そんな彼女たちの前で、何が起っていたのか、というと……


「…………これで、既成事実が成立しましたね?アトラス様?」にっこり


「んな……」がくぜん


仰向けの状態のアトラスの上に、シラヌイが馬乗りになって……そして、彼の顔に、自身の顔を重ねていたのである。

要するに彼女は事故を装って……キスをするという強行に及んでいたのだ。

尤も、それが故意の出来事だったのか、それとも本当に単なる偶然だったのかは本人にしか分からないことだが……まぁ、今もなお、超重力のかかり続けているはずの空間の中で、全くそれを気にした様子無く、上半身を起こしたシラヌイのことを考えるなら、自ずと真相も分かるのではないだろうか。


「……念のため聞いておきたいんだが、既成事実ってなんだ?」


「それは、もちろん……私との婚約ですよ?」


「……だと思ったよ……」


そして大きなため息を吐いて……ワルツに対し、ハンドサインで重力制御の解除を合図するアトラス。

そんな彼からのサインを見たワルツは、彼と同じく大きなため息を吐いたあとで、超重力があまり関係無さそうな2人に対して掛けていた重力制御を、先程とは打って変わって、特にモーションを見せることなく解除するのであった……。




そして、起き上がったアトラスの腕に、嬉しそうな表情を浮かべながら、くっついているシラヌイを前に……


「……はぁ」

「……はぁ……」

「だいたんかもだね……!」


3者2()様の表情を見せるアトラス、ワルツ、それにイブ。

そんな3人の視線を向けられても、シラヌイが動じる様子は無かったようだ。


「というわけで、ワルツ様。アトラス様が、たとえ特殊性癖者だったとしてもかまわないので、彼を私に下さい!」


「えっ……」


「私に下さい!」


「いや……う…………どうするアトラス?」


「何でそこではっきり否定してくれないんだよ……」


この期に及んでも、やはり優柔不断な姉に対して、心底、呆れた表情を向けるアトラス。


それでも、やはり、すぐには結論が出なさそうなだったワルツが悩んでいる間……どういうわけか眼をキラキラとさせていたイブが、シラヌイに対して問いかけた。


「シラヌイちゃん!アトラス様のどこが良いと思ったかもなの?」


「そうですね……献身的で、我慢強くて、かっこいいところでしょうか?」


その言葉に……


「かっこいいか……。初めて言われたよ」


と、満更でもない表情を浮かべるアトラス。


だが、それと婚約(これ)とは話は別だったためか……。

彼はすぐに表情を引き締めて、自身の腕を万力のような力で掴んでいるシラヌイの方を振り向くと……言わなくてはならない言葉を、彼女へと告げた。


「シラヌイ……すまないが、お前とは結婚できない」


その瞬間、


「……ぐすっ」


ある意味、女性最強の武器を、容赦なく振りかざしたシラヌイ。

おそらくは、泣き落とし戦略(?)に出ることにしたのだろう。


そんな彼女の、どこか無理矢理な態度に……アトラスはその理由を問いかけることにしたようだ。


「なぁ、シラヌイ。急にどうしたんだ?何か急いでいることでもあるのか?」


するとシラヌイは、その泣き顔に……少し暗い色を混ぜながら、事情を話し始めた。


「……ワルツ様に出会うまで、私は世界中を旅していた、と言う話をご存知ですよね?」ぐすっ


「あぁ。確か、夏の大三角形の一角(アルタイル)に襲われる前の話だろ?」


「はい。実はその旅の目的は……私の将来の婚約者を探すことだったのです」


「そうか……(そんなこったろうとは思ってたけどな)」


「それで……故郷に戻って、見つけた婚約者を、おじいちゃ……お祖父様に対して報告しなくてはいけない期限が、実はあと2ヶ月くらいしかなくて……」


「え?」


「それを過ぎると…………勝手に旦那様が決められてしまうのです……」


「……そういうことか」


シラヌイが抱えている問題を、今になって知って……考え込むように眼を伏せるアトラス。

近くに居て、彼女の言葉を聞いていたワルツやイブも、彼と同じような表情を浮かべていたのは……同じ女性としてシラヌイの言葉が重かったためか……。




それからもその場で4人が、どこか暗い雰囲気をまといながら、考え込んでいた……そんな時である。


「……話は聞かせてもらいました〜」


近くの廊下から、現状において最も厄介である、と言っても過言ではない人物が姿を現した。

どうやら彼女は、ワルツたちよりも先に来て、見えない場所からアトラスたちを観察していたらしい……。


「こ、コルテックス様?!」


「い、痛っ!」


その瞬間、アトラスの腕を捕まえて、彼の腕に自身の手がめり込むほど、大きな力を加えるシラヌイ。

しかしそれは、アトラスを傷つけるためのものではなく……むしろ彼のことを守りたい、と考えての行動だったようだ。


結果、自分よりも一回り大きなアトラスを、シラヌイは自身の小さな背中に隠すと、目の前にいた、自身とほぼ同じ身長の銀髪の狐娘に鋭い視線を向けて……そして宣言した。


「コルテックス様!アトラス様は渡しません!勝負です!」


まだ、姉であるワルツの承諾を得られていないというのに、一番厄介な末の妹に宣戦布告するシラヌイ。

たとえワルツが首を縦に振ったとしても、コルテックスをどうにかしなくては、アトラスを手に入れられないことを、彼女はよく理解しているようだ。


そんな宣告を受けて、コルテックスは普段通りニッコリとした表情を浮かべると……こんなことを口にし始める。


「勝負をすることは構いません。それに勝ったら、アトラスを自由にしても構いませんよ〜?」


「お、俺の人権……」


「しゃらっぷ!ですが……シラヌイさん。貴女はアトラスを夫に迎えて〜……その結果、不幸が将来が訪れるかもしれないと分かった時、それでもアトラスのことを好きでいられると誓えますか〜?わざわざ聞くまでもない、愚問かもしれませんが、貴女と兄のことを考えると、それだけは聞きたいのです。……これは、冗談ではありませんよ〜?」


と口にしながら、普段のニッコリとした表情の中に、鋭い視線を含ませるコルテックス。

しかし、既に一步踏み出してしまったことで、頭の中がアトラス一色に染まっていたシラヌイが、今更、後に引けるわけもなく……


「はい。もちろんです!アトラス様を必ず幸せにして見せます!」


彼女は迷うこと無く、そう言い切った。


「分かりました〜……。それでは明日、アトラスのこれからの人生を賭した争奪戦を、開催しましょう〜」


「望むところです!」


「もう……いや……」


自身を完全に置き去りにした、そんな2人の決定に……ジェンダーのために武器になりえないと分かっていても、泣き顔を浮かべざるを得なかった様子のアトラス。


こうして、明日に迫っていた第二回アトラス争奪戦は……急遽、予定を変更して(?)、アトラスを夫に迎えるための争いへと、変わってしまったのである……。

……いいんじゃろうか……この展開で……。

それをずっと悩んでおったのじゃ……3章くらい前から。

まぁ、それ以外にまともな展開が思い付かなかった故、これで良いのじゃろう。

アトラスを雑に扱ったイブ嬢が、シラヌイ殿に爆散させられる話をしても、誰も得しないからのう……。


というわけで……今話みたいな展開になったのじゃ?

問題は……いや、なんでもないのじゃ。

これからも前途多難なのじゃ、ということだけ、言っておくのじゃ。


さて……。

稲荷寿司の食べ過ぎで眠い故、眠ってしまおうかのう……。

……3000円。

何の金額かは、分かるじゃろ?

今日食べた稲荷寿司の合計金額なのじゃ(1人あたり)。

3店舗をはしごして、ありとあらゆる種類の稲荷寿司を購入して……そして食べて……。

もう、お腹いっぱいなのじゃ……。

妾も稲荷寿司は嫌いではないのじゃが……こんな稲荷寿司ばかり食べておっては、いい加減飽きる気がせんでもないのじゃ……。

じゃが、まぁ……ワサビ入りの稲荷寿司は、大好きじゃがの?


……そして最後に一言。




…………誰じゃ!妾の稲荷寿司に、グリンピースを入れたやつは!




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