7.7-17 問題と対処2
まるで、どこかの青春ドラマのように、キラキラと輝く謎の液体を空中に散布しながら、走り去っていったシラヌイ。
そんな彼女の後ろ姿に対して……
「シラヌイちゃん……走ってっちゃったかもだね……」
「あぁ……」
イブとアトラスは、ただただ呆然とした表情を浮かべることしかできなかったようである。
そんな2人の内、最初に我に返ったのは……高速に思考できるニューロチップの頭脳を持った、アトラスの方だった。
「って、どうすんだ?!この展開……」
「え?やっぱり……アトラス様が追いかけなきゃならないかもなんじゃない?シラヌイちゃんだって、レディーなわけなんだし」
「パターンとしちゃ、そうなるんだろうな……。まさか、自分がこんな目に遭うとは思わなかったぜ……。……仕方ない。ちょっと行ってくる」
「あ、でも、イブが逃げたときは放っておいt……もがーーーッ!」
「なーに心配すんな!イブに何かあったときにも、ちゃーんと追いかけてやっからな!」わしわし
そう口にしながら、普段通りイブの頭に手をおいて……彼女の髪の毛を揉みくちゃにしてから、走り去っていくアトラス。
「……ホント、追いかけて来なくていいかもなんだけど……」
イブは、そう口にすると、手ぐしで梳いてもまったく変化することのない、その癖毛を整えながら、彼の背中を見送るのであった。
「……あ。そういえば、アトラス様のこと許してあげるの忘れてたかもだけど……ま、いっか」
それからイブは、毎日の仕事……城の掃除へと戻ることにしたらしく、魔法のポシェットの中から、自分の身長と同じくらいの長さのモップを取り出すと、それを地面に置くのだが……。
どうやら彼女が掃除に専念することは、まだ出来ないようである。
アトラスと入れ替わるようにして、別の顔見知りが、その場へと姿を現したのだ。
「イブちゃん……」ずーん
……妙にテンションの低い寿司娘、ルシアである。
「……どうしたの?ルシアちゃん?」
「……どうしたかって?よく聞いてくれたね。イブちゃん!」キラッ
「あっ……(これ……話が長くなるやつかもだね……)」
「実はね?世の中には定休日というものがあって……市場が停止していると、新鮮な大豆を仕入れられないお豆腐屋さんが営業できなくて、新鮮なお豆腐が仕入れられないと油揚げ屋さん(?)も営業できなくて、そして新鮮な油揚げが仕入れられないお寿司屋さんは……私にお寿司を売ることが出来ないの。分かる?この理不尽」
「ふ、ふーん……そ、そうかもなんだね……(多分、お寿司屋さんは、ルシアちゃんにお寿司を売るためだけに、営業してるわけじゃないんじゃないかな……)」
それからも続く、ルシアの稲荷寿司談義。
そして、言いたいことを言って満足した彼女が、冷凍稲荷寿司を食べるためにイブのことを開放したのは……それから3時間が経過した後のことだったという……。
「……げっそり」げっそり
「……なに言ってるのよ、イブ……」
言葉も見た目もゲッソリとしたイブが、MEMS生産設備のある階の掃除をするためにやってきたため……その階でマイクロマシンを作り続けていたワルツは、思わずイブに事情を問いかけた。
するとイブは、黒いエネルギアのような戦艦が今もなお突っ込んでいたために、荒れ放題だったその場所を、自身に可能な範囲で片付けながら……昨日から続く厄介な出来事の断片を、おもむろに話し始める。
「あんねー……アトラス様がうるさすぎて、イブの安眠を妨害してくるかもなの。それにルシアちゃんが稲荷寿司について長々と熱く語ったり、シラヌイちゃんが泣きながら走り去っていったり……」
「前者2つは、理解できなくもないけど……最後の1つは何の話?」
と、作業を続けながら、振り返らずに首を傾げて、イブに対して疑問を投げかけるワルツ。
本来なら最初の1つ目についても、当事者たち以外にとっては、意味不明な出来事のはずだが……アトラスの姉であるワルツには、なんとなく理解できたらしい。
「ワルツ様は……寝ているイブが、アトラス様に、いかがわしいことをされたかもって話、知ってる?」
「えぇ、知ってるわよ?アトラスが、今のイブと同じように、げっそりとした顔をしながら、勘違いされたー、って嘆いてたから」
「そうかもだったんだね……。それで、今日の朝に、イブが勘違いしてた、ってアトラス様のことを許そうと思ってたかもなの。だけど、そのことをアトラス様に言おうとしてたら、シラヌイちゃんがイブの言葉を聞いてたっぽくて……何かを勘違いして、走ってっちゃったかもなんだよね……。何となくそれが、イブのせいな気がして……げっそりとしてたかも?」
「そうだったの……(それやっぱり、アトラスのほうが酷い目に遭ってると思うけど……別にいっか)」
そしていつも通り、アトラスのことはどうでもいい、ということになった様子のイブとワルツ。
それよりも何よりも、2人ともが、シラヌイのことを心配していたようだ。
「それで……シラヌイはどうしたわけ?」
「んーとね……アトラス様が、すにーきんぐしてる?」
(……ストーキングじゃないかしら?いや、多分、単に追いかけただけだと思うけど……)
「だけど、イブにも、2人がどこまで行っちゃったかまでは、分かんないかも」
「試しに……私の方で調べてみる?」
「えっ?分かるかもなの?ワルツ様?」
「えぇ、簡単なことよ?ちょっと待ってね……」
そして無線通信モジュールを起動して……仲間たちが持つ無線機の電波強度から、三角測量の原理で、シラヌイの無線機の在り処と、アトラスの現在位置を割り出すワルツ。
その結果、分かったことは……
「まったく……シラヌイらしいわね。あの娘、溶鉱炉のある部屋に引きこもってるみたいよ?」
シラヌイは王城の外に逃げていったわけではなく、工房の……それも彼女が普段、好きこんで作業をしている電気炉のある部屋に閉じこもっている(?)、ということだったようだ。
「流石、ワルツ様。だてに神様やってないかもだね?」
「……何、イブ?イボンヌって呼ばれたいの?」
「あ……う、ううん。違うのワルツ様。単純に感心しちゃっただけかもだよ?……そっかー。ワルツ様って、誰がどこにいるとか、すぐに分かるかもなんだねー」
「条件付きだけどね?」
そう言いながらも、手を休めること無く作業を続けるワルツ。
……そのためか彼女は、イブが不意に呟いた言葉を、聞き取ることができなかったようである。
「なら……イブが逃げ出しちゃった時も、アトラス様よりも先に見つけてよね?ワルツ様」
「……ん?なんか言った?」
「ううん。……げっそり」げっそり
「意味が分かんないんだけど……」
思い出したように、ゲッソリとした表情を浮かべ直した(?)イブに対して、ホログラムの身体は振り返らずに、透明になっていた機動装甲から怪訝な視線を向けるワルツ。
彼女がイブに対してそんな視線を送ったのは……その表情に反して、何故か尻尾を振っていたイブのことが理解できなかったから……なのかもしれない。
そして場面は変わって……。
シラヌイを追いかけたアトラスは、ワルツが居場所を断定した通り、電気炉のある部屋……の入り口付近にやってきていた。
そんな彼の目的は……言うまでもなく、シラヌイに会って、彼女が抱えているだろう誤解を解くためである……。
……しかし、である。
電気炉のある部屋までやって来たアトラスは、部屋の扉が開いているというのに、彼女のことを追って、その内側へ入ろうとはしていなかった。
「……なんだろう……すごく嫌な予感がする……」
そのぽっかりと空いた、少し赤みを持った暗闇へと、細めた視線を向けながら、二の足を踏んでいる様子のアトラス。
電気式の溶鉱炉のある部屋の前なので、本来ならムッとした熱さが、彼のいる場所まで伝わってきていてもおかしくないはずなのだが……むしろ彼は、その背筋に、冷たいものを感じ取っていたようである。
「これが勇者なら……魔王との決戦直前ってところか……」
知識の中にあったRPGの一場面を思い返しながら、彼は誰に宛てるでもなく、そう呟いた。
それから間もなくして、いよいよ覚悟を決めたのか、彼はその薄暗い部屋の中へと入ることにしたようだ。
「武器と防具が欲しいけど……あったらあったで、シラヌイに対して失礼だよな……」
第6感が、最大限の警告を発する中、それをすべて無視して……そして部屋の中へと飛び込んだアトラス。
その瞬間、
ブゥン……
「ぬおっ?!」
部屋の闇に溶けるような……何か赤黒い棒状の物体が、彼の眼の前スレスレを通過していったようだ。
それも……
スパンッ!
と、周囲の壁を、柔らかい豆腐のように切断しながら……。
「ちょっ、死ぬ!マジそれ死ぬって、シラヌイ!」
ルシアによる最大限のエンチャントが掛かったはずの鋼鉄を、いとも簡単に切断していく特殊な高速度工具鋼の刃。
その異常な光景を目の当たりにして、アトラスは全力で3歩ほど後退した。
そんな彼の前に、暗闇の中から現れたのは……
「……アトラス様……ここで一緒に死んで下さい!」
自身の身長よりも2倍以上長く、そして、赤黒い刀身が特徴的な2本の太刀を持った……シラヌイだった。
考えても考えても……答えが見つけられない正しい文の書き方。
それはきっと、数式のように、一意に解が求められるものではないから、ということなのじゃろう。
……ただし、2次以上の連立方程式など、複数の解が求められる場合と、複素数(以下略
いやー、最近、仮眠を摂って、コヒーを飲んでおるのじゃが、それでも眠いのじゃ。
これはもう、夜の睡眠時間が短いとしか考えられないのじゃ。
というわけで、今日はさっさと寝てみようと思うのじゃ。
そうすれば……きっと明日の夜は、スッキリと書けると思うのじゃ?
……きっと、のう。
……zzz。




