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7.7-14 黒い影14

……時間は少しだけ遡る。

場所は……1つしかない椅子を取り合うかのように、消え行く足場に身を寄せていたワルツたちのところ。

より具体的に言うなら……


「ちょっ、押さないでよユリア!それとリサ?鳥串じゃ刺さんないから、そういう無駄なことは止めてね?」

「いえ、押してません!むしろ引っ張ってるだけです!」

「…………!」ゾクゾク

「先輩と後輩ちゃんだけ呼ばれて、私は呼ばれないなんて……。もう少し、キャラが立ったほうがいいんでしょうかね……」


と、ワルツ他、情報局員3人組が、不毛な争い(?)を繰り広げているモノリスの天井部分である。

そんな彼女たちのさらに上空には……


「……何してるの?みんな……」


砂のように崩れていくモノリスの上面で、理解できない行動を続けている姉たちに、怪訝な視線を向けるルシアの姿があった。

彼女は、その意味不明な押しくら饅頭へと参加する気はないらしい……。


そんなルシアの質問に答えたのは……リサが両手で持っていて、自身に刺そうとしてきていた鳥串を、真剣白刃取りのように受け止めていたワルツであった。


「何してる、って……そういうアトラクション?」


「あとらく……えっと、お姉ちゃんが何言ってるか分かんないんだけど……」


「要するに、遊んでるってことね」


「あ、そうだったんだ……」


表では驚いているように見せかけて、実は皆で遊んでいた(?)、という姉の言葉に、少しだけ後悔したような表情を浮かべるルシア。


それから彼女は、何を思ったのか、少し後退してから……


「それじゃぁ……私も混ぜてもらうね!」


そんな声を上げて……4人に向かって突撃(げきとつ)したのである。

もちろん、満面の笑みを浮かべながら……。


『ちょっ?!』


ドゴォォォォン!!


…………


それからボウリングのピンのように、狭い足場から吹き飛んでいった3人が、周囲に並んでいた他のモノリスも一斉に崩れていく様子を目の当たりにして、昼食を中断し、本来の業務に戻っていった後。

情報局員たちを午後の仕事へと送り出したルシアと、そこに残っていたワルツは、2人揃って、アリに削られていく角砂糖のようにゆっくりと無くなっていきつつあった(くだん)のモノリスへと、その視線を向けていた。


「なんで急に溶けちゃったんだろ……」


少し離れた場所から見ていたためか、その光景を、『崩れていく』ではなく、『溶けていく』と表現するルシア。

山を丸ごと溶融してモノリスを作り出した張本人だった彼女にとっても、その光景は、理解の範疇を超えた出来事だったようである。


一方、ワルツの方は、ある程度、原因が分かっていたので、そこで首を傾げている妹とは、少々異なった反応をしていたようだ。


「なんで溶けたか……。私はそれよりも、マイクロマシンたちが、溶かしたモノリスを何に使おうとしてるのか……そっちのほうが気になるわね」


「だよね…………え?」


「え?いや、どうして溶けたかって、これも多分、私が作ったマイクロマシンが暴走してるのが原因よ?今はいいけど、このまま放っておくと、そのうち人を食べ始めたり……って、そんな悲しそうな顔をしないでルシア?完全に手をつけられなくなったら、最悪、EMPバースト(最終手段)でどうにかするから」


「うん……。お寿司屋さんが無くなるのは困るから、絶対だよ?お姉ちゃん……」


「う、うん……」


ルシアの言葉に対して、何か言いたげなワルツだったが、彼女の言葉を否定するつもりはなかったので、そのまま言葉を飲み込んだようだ。

稲荷寿司屋の店主を救うことが、王都の人々を救うことにつながるなら、結果としてやることは同じ、と考えたのだろう……。


それから、寿司屋贔屓(びいき)なルシアは、自分の中にあった疑問が晴れたためか、少しだけ表情を明るくしながらワルツへと問いかけた。


「それで……どうするの、お姉ちゃん?全部、捕まえるの?」


マイクロマシンの一つ一つが、小さな機械であることを知っていたルシアは、こぼした砂を回収すればいい、程度に考えていたようである。


しかし、ワルツの作ったマイクロマシンは、一般的に『砂』と呼ばれる岩石の粒子などよりも、1〜2桁ほど小さく……物の隙間に入り込んだマイクロマシンのことも含めるなら、決して現実的とは言えなかった。

道路の隙間や、土のあいだ、あるいは人の体内に入り込んでいるかもしれない分まで回収することを考えた時、それがどれほどに大変なことなのか、語るまでもないだろう。


……では一体、どのように対処すれば良いのか。


「そうねぇ……。全部回収するためには、一旦、すべてのマイクロマシンを私の制御下に戻す必要があると思うのよ。そうすれば、一個一個回収する必要もないし、放っておけば、勝手に集まってくるはずだしね?」


そんなワルツの言葉通り、どうにか制御不可能な状態を解消して、マイクロマシンが自ら、工房にある箱の中へと帰還するように司令を与えることが()()()()、問題は容易に解決するのである。

しかし、まぁ……


「でも……暴走してるんだよね?」


司令が与えられないことが一番の問題なのだが……。


「設計上は、絶対にありえないはずだし、途中で正常に動くかどうかの試験はしてるから、必ず何か命令を受け付けない原因があると思うのよね。っていうか、食べ物を奪ったり、モノリスを溶かしたりしてるくせに、人や動物を襲わないとか……おかしいわよね。なんか目的か意思のようなものがあるっていうか……。いや、別に何か襲ってほしいわけじゃないけどさ?」


「……私の稲荷寿司……」ゴゴゴゴ


「う、うん……。それで……とりあえず、原因について何か心当たりが有りそうなヌルとかテンポとかに、話を聞いてみようと思うのよ。さっきも言ったけど、一昨日(おとつい)、クリーンルームの窓が吹き飛んだときに、2人が紅玉や自爆霊がどうとか、って話をしてたわけだし……」


「まだ詳しい話は聞いてなかったの?」


「だって、相手がテンポだし、ヌルはヌルでヌルだし……。変に絡まれることが分かってると、話しかけ難いじゃない?っていうか、あの2人、妙に仲が良さそうなのよね……」


「カタリナお姉ちゃんもそうだけど……ボレアス出身の人って、みんなテンポと仲がいいんじゃない?」


「イブがどうなのかは、イマイチ分からないけど……意外にそうかもしれないわね」


と、ユリアとリサも、ボレアス帝国の出身である事を忘れて、納得げな表情を浮かべるワルツ。

なお……2人とも、情報局員という性質上、テンポと仲が悪い、というわけではない。

もちろん、特別、仲が良いわけでもないが……。


まぁ、それは、本筋から外れた話なので置いておいて。


「それじゃぁ、ちょっと行ってくるわ」


ワルツはルシアにそう告げると、空中で宙返りして、王城へと向かおうとした。

その際、ルシアに一緒に来ないか聞かなかったのは……彼女がこれから、稲荷寿司屋に泣きつきに行く未来が、何となく想像できたからだろうか……。


しかし……。

事はワルツたちの想像を超えて、大きく進みつつあったようである。


それに最初に気付いたのは……案の定、泣きそうな顔をして、稲荷寿司屋のある王都の大通りに、空から降りていこうとしていたルシアだった。


「お、お姉ちゃん?!」


「へ?何?」


「あ、アレを見て!」


「……?アレってな……」


そこまで言って、口を開いたまま、固まるワルツ。

目の前で起こっている出来事にひどく驚いたせいか、言葉を失ってしまったようだ。


そんな彼女たちが何を見たのか、というと……


ゴゴゴゴ……


王都の外に、直径500mほどの黒い水溜りのようなものができていて……そこから赤く輝きながら、何か太い柱のようなものが、生えつつあったからである。

そんな黒い水溜りの周囲で、草木が自然発火しているところを見ると……どうやらその赤く輝く柱は、相当な高温状態にあるらしい……。


それが何であるのか。

ワルツには分かったらしく……それと同時に嫌な予感もしたためか、彼女は無線通信モジュールの緊急コールを発令してから、王都にいる仲間全員に届くように、電波に乗せて自身の声を飛ばした。


「ちょっ……皆、ヤバい!」


すると、ワルツと一緒に、その光景を眺めていたルシアが……徐々に冷えて黒くなりつつも、未だ急激に成長を続けていたその柱に眼を向けながら、浮かんできた疑問を口にする。


「アレ、何……?」


「えーと、敵襲?」


「敵襲って……なんか違う気がする……」


ここまでの経緯から、その原因がマイクロマシンにあることを、姉と同じく察していた様子のルシア。

そんな彼女の眼には、その光景が、何者かの攻撃にしては、随分と回りくどいもののように映っていたようだ。


それからもその柱は見る見るうちに大きくなり、そして全長300mを超えた辺りで……物理現象を無視して地面から離れると、なんと空中に浮かんでしまったのである。

その姿はルシアから見ても……


「黒い……エネルギアちゃん?」


……だったようだ。


そんな未確認飛行物体を唖然としながら眺めるワルツとルシア。

その際、ワルツは、自身のホットラインが、無線機を持つ全員と接続されていることを思い出して……


「……なんかよく分かんないけど、エネルギアっぽい真っ黒な戦艦が急に現れて……」


そこで見えていた様子を、言葉で電波に乗せて、それからも観察を続けるのだが……。

風船のようにフワフワと浮かぶ、その巨大な空中戦艦がその場に留まることは無く、風に運ばれるようにして向かった先が、とんでもない方向だったようで……彼女は続けて声を上げた。


「……新しい工房に衝突しそうになってるわ!(あ、これ、止めた方が良いかしらね?)」


ドゴォォォォン!!


こうしてエネルギアとは対極の見た目をしている黒い戦艦は、その先端から、ワルツたちの新しい工房……それも、何の偶然か、マイクロマシンの生まれ故郷(?)であるMEMS生産設備があったフロアに突き刺さったのである……。

いいペースで書いておったはずなのじゃが……最後の部分のワルツの発言を、前話と合わせるために調整しておったら、結局、書き終わるのがいつもと同じ時間になってしまったのじゃ。

こうなるなら……もう少し、ちゃんと考えておくべきだったのじゃ……。

もう2話くらい話のストックがあれば良かったんじゃがのう。

まぁ、仕方ないのじゃ。


それで、なのじゃ。

明日は早朝から用事がある故、あとがきは手短に済ませさせてもらうのじゃ。

家に客(業者)が来るからのう。

そのための掃除を朝からせねばならぬのじゃ。

もう、大変なのじゃ。


というわけで、補足すべきことは今のところ特に無いので、今日はこの辺で終わらせてもらうのじゃ?

いや、本当は補足したいことはあるのじゃ?

じゃが……それは今言うわけにはいかぬからのう……。

乞うご期待(?)なのじゃ!


……妾が忘れてしまう可能性も、いつも通り否定できぬがの?

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