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7.7-10 黒い影10

それからしばらくして、無抵抗なアトラスがボロ雑巾のようになり、コルテックスにチョークスリーパーを仕掛けられてから、身動き一つしなくなった後の話……。


「ふぅ〜……スッキリしました〜」ツヤツヤ


そこには……兄を足蹴にしながら、満足げな笑みを浮かべるコルテックスの姿だけが残っていたようだ。

決して穏やかなものとは言えない、事件性すら感じさせてしまうような凄惨な光景だったが……このやり取り(?)は言うまでもなく、2人の間で交わされる、いつも通りの出来事である。

どうやらこれが、コルテックスにとっての『休憩』らしい……。


「さてと〜(そろそろ、イブちゃんを起こしましょうか〜?あまり長く眠ると、夜に眠れなくなってしまって、明日もまた、寝不足になってしまいますからね〜)」


実際にそんな経験があったのか……ホムンクルスの中で唯一睡眠を摂るコルテックスは、イブの明日のことを考えて、彼女を起こすことにしたようだ。


そして彼女は、物言わぬアトラスの頭から足を下ろして、そして近くにあったイブの寝室へと向かおうとするのだが……


「……あれ〜?起きたのですか〜?イブちゃん……」


そんな彼女の言葉通り、その視線の前には、


「…………」


今まさに彼女が起こそうとしていたイブの姿があったようである。

ただ、少しだけ、イブの様子に、違和感があったようだが……。


「……?どうかしたのですか〜?」


ユラリ、と廊下の真ん中で、いつの間にか静かに佇んでいたパジャマ姿のイブに対して、事情を問いかけるコルテックス。

俯いていたために、イブのその表情は伺えなかったが、コルテックスには彼女のその雰囲気が、いつもと大きく異なって見えたようだ。


「……もしかして、私がアトラスのことをイジメたことで、怒っているのですか〜?」


「ちょっ……やっぱりお前、俺のこと、イジメてる自覚があったのかよ!?」


「しゃらっぷ!」


地面に転がっていたボロ雑巾が煩かったので、コルテックスは声を上げたのだが……


「…………」


しかしそれでも……イブに反応は無かった。


故に、より一層、疑念を抱いたコルテックスは、眼を細めながらイブへと近づいていく。

そして、うつむく彼女の肩に手を置いて、そして軽く揺すりながら問いかけた。


「大丈夫ですか〜?イブちゃん?」


だが、やはり、彼女から返事が戻ってくることは無い。


「……?」


イブのあまりの異様さに気付いて……何かあったのではないかと思ったらしく、彼女の顔に両手を当てて、そしてその顔を無理やりに持ち上げるコルテックス。


……その結果、分かったことが一つだけあったようである。


「…………んがっ……zzz」


「寝てる〜……?」


どうやらイブは、立ちながら寝ていたらしい……。


「夢遊病でしょうか〜……?」


成長途上にあるイブのような子どもなら、夢遊病は充分に有り得る話である。

そのためか、コルテックスは安心したように、一旦持ち上げたイブの顔から手を離した。


そして今度は……なぜか、自分の頭を押さえて、何やら考え込み始める。


「(でも、本当にそうでしょうか〜?大人、子ども問わず、心に強い負担がかかったときにも、夢遊病の症状は見られるんですよね〜……。やはり、イブちゃんにとって戦闘メイド(?)の荷は、重すぎるのでしょうか〜……?)」


彼女が夢遊病になってしまったのは自分のせいなのではないか……。

今日になって幾度か、同じ問題で頭を悩ませている彼女だったが、やはり何度考えても、一人の少女の未来が掛かっている問題に対しては、ナーバスになってしまうらしい。


それからコルテックスは、自ら解を出せなかったためか、助言を求めるために、後ろで転がっているはずのアトラスの方へと振り返って、口を開こうとした。

1ヶ月間、イブと一緒にいた彼なら、何かヒントを与えてくれるかもしれない……そう考えたのだろう。


だが……彼女の問いかけは、アトラスに届くことは無かったようである。

それは何も、先程までは元気だったアトラスが、彼女が振り返ってみると、そこで絶命していたから……というわけではない。

もちろん、妹のことが嫌になり、その場から逃げて姿を消していたから、というわけでもない。


……そう。

アトラスは、たとえ妹からどんなに酷く扱われようとも、彼女専属の騎士なのである。

それ故に、彼には、自身の手の届く範囲で、コルテックスを守らなければならない、という使命があるのだ。


そして、この瞬間も……彼は騎士だった。


ドゴォォォォン!!


「?!」


アトラスの方を振り向いた途端、逆に、イブがいるはずの背中の方から突然響いてきた爆音に、驚きを隠せなかった様子のコルテックス。

それには、少なくても、4つ以上の驚きがあったようだが……その中でも一番大きかった驚きについて述べるなら……


「い、イブ!急にどうしたんだ!」


突然、夢遊病真っ最中だったはずのイブが、自身に向かって襲いかかろうとしてきたことだろうか。

それも、異変に気づいたアトラスが、惜しむこと無く全力で止めようとするほどの、馬鹿力を出しながら……。


「ア、アトラス!イブちゃんに手を上げては〜……」


「分かってる!」


コルテックスに襲いかかろうとしていたイブを、(すんで)の所で押さえながら、妹の指摘に大声で答えるアトラス。


それから彼は、その大声に言葉を乗せて、イブに向かって呼びかけた。


「イブっ!眼を覚ますんだっ!」


夢遊病のせいで暴れているのなら、正気に戻せば、落ち着くはず……。

彼はそう考えたようだが……イブから返ってきた言葉は、


「……もう、食べられないかも……zzz」


どこからどう聞いても、寝言だった……。

どうやら彼の大声程度では、()()()()()()イブが眼を覚ますことは無さそうである。


「一体、どうなってんだ?!これ?!」


自分よりも頭一つ分くらい小さな少女が、総重量150kgを越える機械と生体部品で出来た自分の身体を押し返し始めたことに、驚愕の表情を浮かべるアトラス。

彼の記憶が正しければ、力比べをして自分のことを押し返せる人物は、横暴で自分勝手な姉妹たちか、あるいはエネルギアくらいしか思い浮かばなかったようだが……今回、そこに、本来なら仲間たちの中で最も非力なはずの犬娘が、追加されることになりそうである。


「まさか、イブのやつ……知らないうちにカタリナ姉から人体改造の手術でも受けてたのか?ユキみたいに……」


「そんな訳あるはず無い〜……とはいい切れませんね〜……」


「だよな……」


それ以外にイブが怪力を出せるようになる原因はあるのか……。

2人は幾つかの可能性について、ホムンクルスにしか参加できない超高速思考空間の中で議論をするのだが……結局、原因らしい原因は、断定できなかったようである。

なお、1番高い可能性については前述しているので省略するが、2番目に高かった原因は……実は犬族が怪力である、というものであった。

だがそれも、大して高くもない椅子の上から飛び降りただけで足を挫く、普段のイブの行いを見ていた2人にとっては、すぐに却下される程度のものでしか無かったようだが……。


「何だよ一体……」


イブのその力が、一体どこから湧いてくるのか……。

原因について、まったく思い当たらなかったアトラスが、それでも必死に頭を悩ませていると……コルテックスがこんなことを口にする。


「ところで〜……アトラスと面と向かって力比べが出来るほどに、イブちゃんの骨は強いんでしょうか〜?」


「強くないはずだけど……実際、何の変化も見られないところを見ると、強いんじゃないのか?」


「…………」


アトラスのその言葉に返事をしないまま、彼と取っ組み合いを続けていたイブへと近づいて……そして、その身体を事細かく調べていくコルテックス。

そして、イブの筋肉や、細い腕の骨が、いつも通りに貧弱だったことを実際に触って確かめたコルテックスは……ある一つの仮設を立てたようだ。


「……これは、()()()()()()ますね〜」


「えっ?取り憑かれる?」


「そうです。恐らく、あの真っ黒なゴキブ……じゃなくて、お姉さまが作ったマイクロマシンに取り()かれているのでしょう〜」


「は?」


「触ってみて分かりましたが、イブちゃんの筋肉は、今、まったく活動をしていません。ただ、皮膚の表面がとても硬くなっているところを見ると〜……恐らく、剣士様がエネルギアちゃんを纏って暗黒騎士っぽくなる時のように、身体の表面に張り付いたマイクロマシンが、彼女の身体を無理矢理に動かしているのではないでしょうか〜?……あるいは、犬族に伝えられている究極奥義『夢遊病』が発動した可能性も否定は出来ませんけどね〜?」


「ねぇよ!」


コルテックスの仮説の半分には頷いて、そして半分には否定的なアトラス。

彼がどちらの仮説を否定していたのかについては……言うまでもないだろう。




ちなみに……。

イブはその頃、茶色く香ばしい平面がどこまでも続く、見知らぬ土地を歩いていたようだ。


「んあ……?お煎餅の世界かもだねー……。うっぷ……。もう、食べられないかも……」


それが滅びの言葉だったのか……。

間もなくして、その煎餅で出来た世界では、大規模な地殻変動が起こり、割れ煎餅が大量に生産されていたようだが……本編にはまったく関係のないことなので、彼女が割れ煎餅の合間で繰り広げた壮大な冒険譚については、省略させていただこう……。

イブの覚醒……なのじゃ!

……この流れで、それは無いがの。

じゃが、それがまかり通るのが、妾たちの書いておるこの物語なのじゃ?

……そのせいで、回収できておらぬ伏線が、大量に残っておるのじゃがの……。


まぁ、それは、おいおい回収していくとして。

今日は、睡眠不足ではない故、それなりには書けたと思うのじゃ?

それでも、完璧には程遠いのじゃがの?


……というわけで、今日も、特に補足はない故、早めにお暇させてもらうのじゃ?

実は……明日までにやらねばならぬことを忘れておったのじゃ。

寝て起きたら……誰かが片付けておいてくれぬかのう……。

……のうアメよ?


……zzz。

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