7.7-03 黒い影3
ちょっと、修正しきれてない部分があるかもだねー。
2人が歩く王都の景色は……ワルツたちが初めてここへとやって来た半年ほど前とは、大きく様変わりしていた。
今や木材の半永久的な供給源と化していて、王都の空の一部にかかっている世界樹(?)の存在もさることながら、いつの間にか大量に増えていたルシア製人造鉱山のモノリスや、空高くそびえ立つ真っ黒な王城兼工房の施設などなど……。
それがあるだけでも、異世界の中に出来た別の異世界のような雰囲気を出していたのだが……それに輪を掛けるように、町並みの光景も変わっていたようだ。
魔力を通すために大量の配管が張り巡らされていた武具屋の工房。
それまでは王都になかった鉄筋コンクリート製の魔道具店。
魔力を動力源とした機械的な玩具で遊ぶ子どもたち。
そして、増える稲荷寿司屋……。
現代世界でいう中世の頃のような町並みが、元の王都の情景だとするなら……、今の王都の風景は、本来なら相反する存在であるはずの魔法と科学の両方を内包するような、統一感の無い雰囲気を放っていたのである。
スチームパンク……とも違い、物理的な法則を無視すること無く、科学を魔法で補い、魔法を科学で再解釈するような……絶妙な共生関係がそこでは展開されていたのだ。
なお、スチームパンクという言葉がピッタリと当てはまるのは、農業大国ミッドエデンの方ではなく、飛行艇技術が発達した、隣国のエンデルシアの方だろうか。
……そんな、どっちつかずでありながら、しかし排他的な関係ではない科学と魔法が共存する町中の、その通りに張り巡らされていた石畳の上を、いつも通りに歩いて行くイブとコルテックス。
たまに青くキラキラと光る魔力の欠片を金属製の煙突から吐き出している鍛冶屋や、エネルギアの魔導ラジコン(?)を操る子どもたちを横目に見ながら、王城から出た彼女たちが15分ほど西の大通り歩いていくと……急に、香ばしい香りが、2人の鼻孔をくすぐってきた。
「んー、この匂い。食欲が無くても、ヨダレが出てくる匂いかもだね」
「そうですね〜(もしかして、パブロフの犬ですか〜?)」
実際、イブがよだれを飲み込んでいる様子を見ながら、彼女に対して微笑みを向けるコルテックス。
そんな彼女には何か言いたい言葉があったようだが……その匂いによって引き起こされる生理的反応は、彼女にも起っていたようで……コルテックスは結局、自身の唾液と一緒に、その言葉も飲み込んでしまったようだ。
「なーに注文しよっかなー」
「なんでもいいのですよ〜?無理、って言われたら、無理矢理に作らせるだけですから〜」
「えっ……う、うん……」
自身が下手なことを言ったせいで、煎餅屋が取り潰されてしまう未来が何となく想像できたのか……その直前とは種類の異なる難しそうな表情を浮かべるイブ。
それから彼女が『やっぱり、無理難題は言わないでおこう……』と、子どもらしからぬ考えにたどり着いたところで……
「……ここですね〜?」
匂いの発生源となっている、小じんまりとした木造の一軒家に、2人は辿り着いた。
そこは、大通りから1本、内側の路地に逸れた場所で、それほど多くの人が歩いているわけではない場所だった。
それが原因だったのか、あるいは元々人気が無かったのか……。
開店している様子の店内には……しかし、客の姿は無かったようである。
そんな店の入口に、黄色いメイド服を着たイブは駆け寄ると、のれんに手を掛けながら、コルテックスを中へと案内した……。
王都にある一般的な店舗と違い、まるで日本家屋のような佇まいをしていたイブ曰く、煎餅屋。
そこは……実際には煎餅屋ではなく、主に和菓子のようなものを中心に扱っていた軽食屋だったようだ。
煎餅、団子、饅頭……それに稲荷寿司……。
王都で流行りつつあった稲荷寿司は、こんなところにまで進出しているらしい……。
誰もいない店の中に入ったイブは、早速カウンターへと駆け寄ると、店の奥の方へと声を投げた。
「すみませーん!お煎餅くださーい!」
そう口にしてから、嬉しそうに黄色い尻尾を振るイブ。
それから店員が出てくるまでの間、絶やすこと無くひたすら尻尾を振り続けていた彼女の姿は……どう見てもお使いの犬である。
そんな嬉しそうなイブの後ろ姿を見ながら、コルテックスが『どんな人物が出てくるのでしょう〜?』と、イブが親しげに会話をしていそうな店員の姿について、想像を巡らせていると……香ばしい匂いを漂わせてきている暗闇の向こうから、1人の店員がゆっくりとその姿を現した。
……いや、むしろ、ヌッ、と姿を現した、と言うべきか……。
「…………」
……スキンヘッドで、壁のように大きくて……そして無口な様子の男性の店員。
恐らく彼が、この店の主なのだろう……。
「……(あの〜、ここ本当に、お煎餅屋ですか〜?)」
現れた和服姿の彼を見て……自分たちの入った店が、実は少女たちだけで入ってはいけないタイプの危険な店だったのではないか、と思い始めるコルテックス。
しかし、彼女のそんな懸念とは対象的に、イブが振る尻尾は、その速さと振幅を上げていったようである……。
「おはようございます、店主さん!」
「…………」こくり
イブの元気な挨拶に対して、軽く会釈を返す巨漢の店主。
そんな彼に対して、イブは単刀直入に、用件を口にし始めた。
「えっとー、今日はお煎餅を買いに来たんですけど、一つお願いがあったかもです。お代は払うので……イブの好きな味のお煎餅を作ってくれませんか?」
……その瞬間だった。
「…………!」カッ
まるで一喝するかのように、店主が眼を見開いて、イブにその視線を向けたのである。
歴戦の兵士が、自身の前に現れた敵に向ける視線……そんな様子だ。
「はぁ……断られるんじゃないかって心配したけど、安心したかも!それじゃぁ、早速、味なんですけど……」
「えっ?ちょ、ちょっと、イブちゃん?色々と何か無視してませんか〜?」
「えっ?……あー、ごめんなさい、コルテックス様。お金の相談をするのを忘れたかも……」
「いや、お金のことはいいのですが、そういう話ではなくて〜……」
「ん?そうではない?」
「えっと……どう見ても、店主さんが、イブちゃんの話を承諾されているようには見えないのですが……」
どうやったら、一喝するような視線を向ける店主が、頼みを聞き入れたと思えるのか……。
今日一日は、イブのために、一肌脱ぐつもりのコルテックスだったが……流石に、理解しがたい店主の反応には、思わず頭を悩ませてしまったようだ。
そんな彼女に対して、イブが何かを思い出したかのように言葉を返す。
「あー、コルテックス様、今回、初めて店主さんと会話するかもなんだよねー。なら、勘違いしちゃうかもだけど、これが店主さんの頷きかもだよ?」
「……そうなんですか〜?」
イブの言葉に納得できなかったのか、店主に対して直接問いかけるコルテックス。
すると……
「…………!」カッ
と、同じように一喝するような視線を見せたので……イブの言葉が正しいとするなら、恐らく、肯定のサイン、ということなのだろう。
まぁ、まったく逆の種類の表情だったとしても、意味は通じてしまうので、合っている、とも言い切れないのだが……。
「……そうでしたか〜。それは失礼しました〜。では、イブちゃん?注文を続けてください。でも……食べられないほど大量に注文したり、とんでもない味にして食べ物を粗末にするようなことをしたら、ダメですよ〜?」
「うん!もちろん!」
そして、イブは暫く悩んでから……注文を始めた。
「えっと、3種類、作って欲しいかも?まずは……うどんせんべい!」
「……えっ?」
「…………!」カッ
「次に……焼きそばせんべい!」
「……それお煎餅にする必要は無いと思うのですが〜……」
「…………!」カッ
「最後に……ギョーザせんべい!」
「……潰れた餃子でしょうか〜?」
「…………!」カッ
イブが頼んだ3種類の煎餅に対して、それぞれ肯定の表情(?)を見せる強面の店主。
どうやら彼は、イブの注文を、快く(?)作ってくれるようだ。
ただ、コルテックスとしては、イブの注文が何処か無難な味ばかりだったような気がして、納得できなかったようである。
故に、彼女は、メイド犬に対して、こんなことを口にした。
「もう少し、冒険してみても良かったのではないですか〜?例えば、ヘルチェリー味のお煎餅とか、ジャム味のお煎餅とか、稲荷寿司味のお煎餅とか〜……」
「コルテックス様、さっき食べ物を粗末にしたらダメって言ってたじゃん……」
「ちゃんと責任を持って食べるなら、良いと思いますけどね〜」
「そういう意味だったんだ……。んー、どうしよう……」
注文した後で、コルテックスの言葉の真意を聞いて、後悔したような表情を浮かべるイブ。
それから彼女が、注文を変更しようか、と思ったその時だった。
「…………!!!」カッカッカッ
店主は何かに反応したようにして、3連続で凄むような視線をコルテックスへと向けたのである。
「……?何か嫌な予感がするのですが〜……」
言い知れない不安が、彼女の脳裏を過ぎったところで……店主は2人分のお茶をその場に置くと、店の奥へと戻っていった。
そんな彼の背中に視線を向けながら……イブはコルテックスの懸念を裏付けるような言葉を口にする。
「あれは……多分、コルテックス様の分も作ってくれるっていう意味かもだね」
「……何味でしょうか〜?」
「それは……ヘルチェリー味とジャム味と稲荷寿司味じゃないかな?やっぱり……」
「……食べないっていう選択は〜?」
「多分、店主さん、怒ると思う……」
「……ですよね〜……」
余計な一言を口にしたがために、コミュニケーションが得意ではなさそうな店主に誤解されて、あまり想像したくない味の煎餅を食べることになってしまったコルテックス。
それから煎餅が焼けるまでの間、店の奥から漂ってくる怪しげな香りに……彼女はこれまでに見せたことがないような微妙な表情を浮かべていたとか、いなかったとか……。
うーむ……。
眠いのじゃ……。
何故、生き物は眠るのか。
そして、食事を摂らねば生きて行けぬのか……。
その時間を惜しんで、別のことが出来たなら、普段できない様々なことが出来るのに……と、思う今日このごろなのじゃ。
というわけで、今日も頭が飽和してしまったが故、完全には修正しきれておらぬ部分が残ってしまったかも知れぬのじゃ。
その点はご了承いただけると幸いなのじゃ。
まぁ、普段から、完璧には程遠い文なのじゃがの?
実はのう……頭が飽和してしまったのには、理由があったのじゃ。
……2回ほど、1から書き直しておる……。
要するに、今日1日で3話書いた計算になるかのう?
最初のプランでは、王都の経済活動から見た、煎餅屋の変化について書こうと思っておったのじゃ。
じゃが、GDPの増加と貧富の差とインフレの相互関係と、銀行の設置や政策による経済活動の調整、について考えておったら……どこぞの授業のような話になってしまってのう?
それがあまりに酷かったから、仕方なく書き直したのじゃ。
で、次に書いたのが、普通の煎餅屋の話。
雰囲気としては、アルクの村の酒場の店主や、サウスフォートレスの武具屋の店主……みたいな感じだったのじゃ?
じゃがのう……彼奴らのコピーが増えても面白くない、と思った故、吹っ飛んだ性格の店主が出る話に、再び書き換えた、というわけなのじゃ?
それも、普段は横暴なコルが戸惑うくらいの御仁を、のう。
結局、書きたいことが書けておるかは、設定が脳内に存在する妾からは判断が付かぬが……まぁ、こんなものじゃろうかのう。
というよりも、眠すぎて……これ以上は、何も考えられぬのじゃ……zzz。




