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7.6-29 サウスフォートレスでの戦い14

それからも勇者によるエネルギアの説得が続いて……そして10分ほどが経過した頃。

何処かゲッソリとしたワルツと狩人、そしてゲンナリとしたルシアとイブ、それに……初めてのエネルギア見学のためか、ウキウキとしたような表情を浮かべていた魔女のアンバーが船へとやってきた。


そんな彼女たちがタラップを上がって格納庫の中に入ってくると、そこには……赤い紐で縛られながら床に転がる男性Aと、ボロボロな格好で鉄パイプを握りながら興奮気味に声を上げる男性B、それと、そんな彼から声を向けられていて、その手に大きなローソクを握った全裸の少女Eの姿があったようだ……。


『……あ……』


やってきた5人と、彼女たちがやって来たことに気付いた男性B(ゆうしゃ)、それに少女E(エネルギア)は、それぞれに別々の表情を浮かべながら、そんな声を上げて固まった


狩人の場合は……何故か後悔したような表情。

ルシアの場合は……眼から輝きが失われた状態の無表情。

イブの場合は、両手で真っ赤な顔を隠しながらも、その指の隙間から、恐る恐る覗いて……。

そして、アンバーの場合は……


「……?」


普段と変わらない表情のまま、何かおかしいところでも?、といった様子で、首をかしげているようであった。

どうやら、やってきた5人の中では、彼女が一番、純真無垢だったらしい……。


一方。

その場には彼女と同じような心境にあった人物が、もう一人いたようだ。


『あ、おかえりなさい!』


根本的に、恥じらい、という概念が彼女の中には存在していないのか、まったく恥ずかしそうな様子を見せていなかったエネルギアである。

普段、色仕掛け(?)で、剣士のことを手中に落とそうとしている彼女だったが、その行動の意味までは理解していなかったようだ。

経験豊富(?)そうなサキュバスのユリアに、男性の落とし方を学んだようだが、恥じらいについては教えてもらえなかったのだろう……。

本来、それは、人間なら誰しもが持っているはずのものなので、ユリアは、説明する必要は無い、と判断したのかもしれない……。


まぁ、それは、エネルギアが人間どころか生き物ですら無いので、仕方がないものとして……。

それと剣士のことも、身動きがとれないので置いておくとして……。


問題は……勇者である。


「こ、こ、これは……だな……?」


ボロボロな服装で、鉄パイプを手にした彼が、年端もいかない姿をした裸の少女(?)前で、声を荒げる……。

現代世界なら、それだけで警察に連行されかねない状況だったが……どうやら異世界でも、それ自体に大きな違いは無かったようだ。

故に、彼は必死になって、自分の無実を伝えようとしたのだが……


ドゴォォォォン!!


「ふべっ?!」


……彼は弁明の機会を与えられることなく、超重力を掛けられてしまった。


「……あなたが信仰するという女神様に、お祈りは済んだかしら?勇者?」


そう口にしたのは……ここまで説明が出ていなかったワルツである。

彼女は、久しぶりに髪色を真っ白へと変え、赤い2重のリングをその瞳に浮かべると、まるで……いや、本当に汚いものを見るかのような視線を、勇者へと向けたのだ。

それも、常人なら一瞬で気絶してしまいかねないほどの、莫大な殺意と一緒に……。


「ち、違う……!誤解だ!」


「あらそう。でも……知ってる?性犯罪者は、みんなそう言うのよ?世の中には『疑わしきは罰せず』って言葉があるみたいだけど……あなたのような現行犯の場合には、疑わしきなんて言葉は存在しないわよね。というわけで、死んで頂戴?」


「ちょっ?!」


そして、ワルツが、重力制御の出力を、10Gから20000Gくらいまで急激に上昇させようとした……そんな時であった。


『お姉ちゃん、何してるの?』


この場合の被害者であったエネルギアが、2人の会話に割り込んできたのだ。


「何って……女の敵を処刑してるところよ?」


『女の敵?ビクトールさんみたいに?』


と口にしながら、剣士の背中に貼られていたA4の紙に目を向けるエネルギア。

ワルツの言葉通りなら、剣士もまた、処刑される対象、ということになるので……


『お姉ちゃん。もしかして、ビクトールさんのことも殺しちゃうの?』


彼女の頭の中では、剣士 = 勇者、という構図ができあがってしまったようだ。


「えっ……いや……そんなことは……」


それが何を意味するのか……空気の読めないワルツでも理解できたらしい。

しかし、彼女のダメージコントロールが間に合うことは無かったようである。


『ビクトールさんだって、ホントは何か悪いことをしたわけではないはずなのに、いつの間にかぐるぐる巻きにされて……どうしてこんな酷いことするの?!』


「う…………」


エネルギアの……涙混じりのその言葉に、すぐに答えることが出来なかったワルツ。

一般的なルールで考えるなら、エネルギアに対する2人の行動は、釈明の機会すら与えられることなく即投獄なものだったために、彼女は2人に対して罰(?)を与えるつもりで接していたのである。

しかし、恥じらいの意味を知らないエネルギアにとっては、一方的にワルツが2人を虐めているようにしか見えなかったようだ。

まぁ……実際、その通りなのだが……。


(……やり過ぎかどうか、って言われたら否定はできないわね。でもそう考えると……今回の件の、根本的な責任は私にあるのかも……)


……彼女が考えた根本的な責任。

それは即ち……エネルギアに対して、人としての基本的な教育を施していないことに対するものであった。

数ヶ月の間に急激に成長していたエネルギアに、人の社会の中で最低限必要となる、道徳的な教育を施していなかったからこそ、今回のような問題が生じてしまった……ワルツはそう考えたらしい。

もしも、エネルギアが服を着ていたなら、こんな事にはならなかった……とも一概には言い切れないが、少なくても、即、処刑という流れにはならなかったことだろう。


故に彼女は……


「……やり過ぎたわ。ごめんなさい……」


素直に謝ることにしたようだ。




それからワルツが、ご立腹状態のエネルギアをなだめて落ち着かせて。

その後……危機が去って安心したためか、超重力の中で嬉しそうに腕立て伏せを始めていた勇者には……とりあえず触れないようにして、剣士を縛っていた紐を解いてからのこと。


ワルツは……そこにいた者たちに対して、重要な一言を口にした。


「さて……それじゃぁ、ここに来た時に話した通り、エネルギアには数日間、ここで待機してもらうわね?」


『えっ?!』


ワルツの言葉を聞いて、いつ話した!、と言わんばかりに、声を上げる仲間たち。

ただ、エネルギアは頷いていたので、彼女自身はその説明を受けていたようである。


そんな仲間たちの反応を見て、ワルツはエネルギアと交わしただろうその話の内容を口にし始めた。


「いやさ?マイクロマシンの駆動には、無線電力伝送装置が必要になるんだけど……マイクロマシン本体の方の生産を優先してたら、作る時間が無くなちゃったのよね……。それに、その装置から出る電波って届く距離もそんなに広くないから、基地局みたいにたくさん作らなきゃんらないし……って言っても分かんないわよね。ま、それで、装置が完成する前での間、エネルギアの船体に搭載されている装置を使って、一時的にその代用をしようと思うのよ。要するに、エネルギアが今回のマギマウス対策の(かなめ)ってことね(ブレーズたちには悪いけど……あっちのプロジェクトは、自前の道具で頑張ってもらうしか無いわね)」


ワルツのその言葉を聞いて……しかし、首を傾げずに、納得したような表情を浮かべる仲間たち。

どうやら皆、電波や無線、マイクロマシンという言葉を何度となくワルツの口から聞いてきたので、全く理解できない、というわけではなかったようだ。

ただ、その際、今日久しぶりに顔を合わせて、科学について殆ど知らなかったはずのアンバーも頷いていた理由については……不明である。


まぁ、それはさておき。

そんな皆の反応を見てから、ワルツはさらにこんな言葉を口にした。


「それで……狩人さんに一つお願いがあるんですけど、いいですか?」


「ん?なんだ?」


「狩人さんも……できれば、エネルギアと一緒に、ここに残ってもらえません?」


「……え?」


突然の事だったためか、まさに寝耳に水な様子で、眼を点にする狩人。


そんな彼女に対して、ワルツはその理由を説明し始めた。


「今回の件で思ったんですよ。この娘には、教育が必要だ、って。誰か頼める人がいればよかったんですけど、みんなちょうどいいタイミングが無くって……。まさか、外部から家庭教師を雇うわけにはいきませんからね」


「そりゃそうだが……どうしたんだ急に?」


「ちょっと言いにくいんですけど……狩人さん、最近、マトモに狩りができてないんじゃないですか?」


「……!」


「なので、サウスフォートレスで休暇を取ってもらって、思う存分狩りをしてもらう……そのついでに、エネルギアにお嬢様教育(?)を施してもらいたい、って思ったんですよ。時間的には、多分……1週間くらいですかね」


「1週間……まぁ、いいか。受けるのは構わないが、1週間程度じゃ、教育するには全然足りないぞ?」


「本当は、もっと長い時間、エネルギアの家庭教師をしてもらいたいんですけど……難しいですよね?」


と、諦め半分で、問いかけるワルツ。

すると狩人は、ワルツの予想とは裏腹に、首を振りながら返答を口にした。


「いや、それは構わんが……教えられることはあまり無いかもしれないぞ?最低限のマナーとか、令嬢の心得とか、狩りの心得とか……」


「あの、最後のは……必要なんですか?」


「あぁ、断言する!令嬢に狩りの心得は必要だ!」


「あ、はい……。それじゃぁお願いします……」


そう口にしてから……今度は、当事者であるエネルギアの方を振り向くワルツ。

そして、彼女はエネルギアに対して問いかけた。


「というわけなんだけど、狩人さんの講義を受けてもらえるかしら?」


『それ最初に僕に聞くべきだと思うんだけど……でも、面白そうだからいいよ?もちろん、ビクトールさんも一緒に参加してもいいんでしょ?』


「えっ?俺も?」


「えぇ、もちろんいいと思うわ?……構いませんよね?狩人さん」


「あぁ。剣士も……令嬢修行(?)でいいのか?」


「えっ?!」


「えーと……内容はお任せします」


「なら、令嬢(かりゅうど)修行だな」


『えっ……』


そして、言葉を失うワルツ、エネルギア、剣士の3人。

どうやら狩人は、エネルギアたちを、是が非でも狩りの世界に連れ込みたいようだ……。

うーむ……。

今話で7.6章を終わらせようと思ったのじゃが、アンバー殿の話や、勇者殿のこれからの話を書ききれなかった故、もう1話追加するのじゃ。

まぁ、予定通りといえば、予定通りなのじゃがの?


さて。

そんなわけで、これまでルシア嬢と同じくらいに、ワルツと共に行動してきた狩人殿が、別行動を取ることになったのじゃ?

……いや、影が薄いだけで、同じ建物の中にはいたのじゃぞ?

但し、ボレアス編は除くのじゃ。


で、悩んでおるわけなのじゃ?

狩人のエネルギア嬢に対する英才教育(?)を取り上げるべきか、あるいはワルツ側の話を書くべきか……。

この気配……両方かの?

まぁ、一番書きたいことは、ワルツ側の話じゃから、そっちを優先して書くことになるとは思うのじゃがの?

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