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7.6-28 サウスフォートレスでの戦い13

……ところで。

サウスフォートレスへとやって来ていたのは、4人だけではなかった。

彼女たちがエネルギアを使って飛んできたのだから、少女エネルギアがいるのはもちろんのこと……彼女の生け贄たる剣士も一緒にやってきていたのである。


しかし、どういうわけか……2人の様子は、少々おかしなことになっていたようだ。

普段なら、剣士にベッタリと張り付いているはずのエネルギアが、彼にくっつかず……彼から少し離れたところで、ゲッソリとした表情を浮かべながら、座り込んでいたのである。

……それも、一切の服を身に付けないままで。


その様子は一見すると……どこか犯罪じみた問題が生じたように見えなくもなかった。

だが、エネルギアの表情が冴えないとはいえ、今もなお剣士から離れずついて回っていることを考えるなら、そうでないことは明らかだろう。

ただし、それについて、ワルツたちがちゃんと理解していたかどうかについては、甚だ疑問が残るところだが……。


故に、剣士は、何かを勘違いしただろうワルツたちに……


「…………」


ロープでぐるぐる巻きにされ、黒い目隠しを付けられ、猿轡を口に嵌められ……そして極めつけに、


《この人は女の敵です》


という文字が書かれたA4のコピー用紙を背中に貼られて、エネルギアの格納庫に転がされていたようである。

もしもこの船に牢屋があったなら、彼はその中に入れられていてもおかしくはない状況のはずだったが……幸か不幸か牢屋は設置されていなかったので、仕方なく(?)今のような状況になっていたようだ。

なお、どうして剣士の横に、巨大なローソクと魔導ガスバーナーが置かれているのかは、まったくもって不明である……。


……というわけで、巨大なエネルギアの船体の昇降口すぐのところに位置する格納庫の中は、イモムシのような状態になってグッタリとしている剣士と、それを10m程度離れた場所からゲッソリとした表情で眺める少女エネルギアが作り出す異様な雰囲気で支配されていた。


そんな中で、最初に口を開いたのは……まぁ、当然のごとく、エネルギアであった。


『剣士さん。最初から、僕には興味は無かったんだね……』


つい昨日、ワルツにマイクロマシンの身体を譲り受けた結果、透き通るような白い肌と、黒い髪、そして……涙を手に入れることに成功した彼女は、格納庫の冷たい床の上で体育座りをしながら、絶望の表情を浮かべていた。

今の彼女の心境を一言で説明するなら、失恋、だろうか。

まぁ、昨日から随分と口数が減っていた上、いつもと同じく剣士を眺めていた彼女が、そんな心境にあるなど、周りの者たちには分からなかったようだが……。


「…………(どうしてこうなった……)」


一方で、その言葉を聞いていた剣士の方には、外から見る限り、何も反応は無かった。

反応したくても物理的に反応できない状況だったこともその一因かも知れないが……それとは別に、エネルギアに対して、返答できない理由があったようである。


……それは1ヶ月ほど前のことだった。

意気投合したブレーズと共に、彼が王都の酒場で何気ない会話をしていると、


《実はなぁ……俺には故郷に許嫁(いいなずけ)がい()んだが……》


その言葉を口にした瞬間、エネルギアが酒場の天井に大きな穴を開けて降ってきたのである。

言い方を変えれば、彼女にあまり聞かれたくなかった話を聞かれてしまった、とも言えるだろう。

その際は、それは過去の話であって、今も許嫁がいるわけではない、という説明をして、彼は事なきを得ていた。


だが……その背景には、どうやら単純ではない複雑な事情があったようなのだ。

果たして、どのような事情があったのかは、彼がその詳細を話さない以上、誰にも分からないが……明るい話ではないことは、間違いないだろう。

もしも、誰にでも話せるような話なら……恐らくは最初にエネルギア自身か、友人のブレーズ辺りに明かしているはずなのだから……。


……一方。

そんな背景があることを知らないどころか、実はそもそも剣士に許嫁がいたことすらも忘れているエネルギアにも、剣士に対して積極的になれない理由があったようだ。

それも、すべての問題を忘れてしまうほどに、大きな問題だったのである。


……剣士が女性に興味を示さない……。


それが、剣士一筋なエネルギアにとって、どのような意味を持つのか。

人によっては様々な解釈があるかもしれないが……エネルギアの場合は、こう考えたようだ。


『僕の貧相な身体つきが問題なんだね……』


彼女は、本体である船体の修復の際、オリハルコン合金が材料として使用される度に、人としての見た目の成長を続けていた。

それでも、身体の起伏には依然として乏しく、決してグラマラスという言葉は当てはまらない体型をしていたのである。

彼女はそれが剣士に受け入れられない原因であると思ったようで、どうにか体型を変えようと努力したようだが……小さなマイクロマシンの集合体で身体ができていた彼女であっても、製作者のワルツと同じく、ベースの身体の形状を変える事は叶わなかったようだ。

とはいえ……ぐるぐる巻きにされて、生きているかどうかも分からない剣士からは、一切の返事は聞けていないので、彼が本当にそう思っているかどうかは不明だが……。


なお、そんな最近の彼女に対して、妙な翼人と、彼の周りでうろつく謎の小さな箱(?)から、何やら怪しげな視線を向けられていたようだが……その詳しい理由は分かっていない。




それから、エネルギアが剣士のことを、じーっ、と眺めるだけで、何も口にしない時間が1時間ほど経過して……そして、どういうわけか、彼の頬が紅潮を始めた頃。

エネルギアは、いつの間にか剣士の真横まで近づいて、彼の横にあったローソクに火を付け、そしてそれを重力制御の効いていた床に立てようとしていた。

日が落ちて暗くなってきていたので、明かりが欲しいと思ったのだろう。

彼女の船体に備わっているライトを使えば、ローソクなどの光源を使う意味はまったく無いはずだが……誰かがローソクを用意してくれたので、せっかくだから使ってみよう……彼女はそう考えたのかもしれない。


しかし、そのローソクは機械で作られていたわけではなかったために、簡単には自立しなかったようである。

なので、自立するように、底の部分を少し削って立たせようとしていた……そんなエネルギアのところへと、不意に来客が訪れる。


「……お前ら何やってんだ?っていうか、お前……もしかして、エネルギアか?」


上半身が裸で、下半身も際どい格好をした、鉄パイプを杖代わりに持った男性が、タラップを登ってここへとやって来たのだ。


『誰?』


そんなボロボロな格好をしていて……何故かガニ股気味だった男性に、誰何するエネルギア。

すると彼は、泥まみれでボサボサだった金色の髪の毛をかき上げつつ、疲れきったような顔をエネルギアに見せながら言った。


「……俺だ」


……それは勇者だった。

地竜との戦闘の際、地面に沈み込んでしまった彼は、施療院でソフィアから……男性としての尊厳が失われてしまいそうな、言葉に表現するのも躊躇われる荒療治を受け……そしてその途中で逃げ出してきたらしい。

恐らくは、彼女から治療を受けていた最中に、ルシアの広域回復魔法を受けて……そして動けるようになったのだろう。


そんな数カ月ぶりに会った勇者の顔を見て……しかし、エネルギアはすぐに剣士の方を振り向くと、興味なさげに呟いた。


『覚えてない』


「えっ……」


かなり前に見た明るいエネルギアの態度とは対照的に、暗い表情を見せながらローソクを握る彼女から飛んできた言葉に、思わず耳を疑ってしまった様子の勇者。

一体彼女に何があったのか……。

それも、一糸まとわない裸の状態で……。


その結果……彼は一つの結論にたどり着く。

赤いロープで縛られた剣士。

そして大きなローソクを持った、目に光のない、裸のエネルギア……。


「……び、ビクトール!お前、エネルギアちゃんに何てことを……!」


「も、もがっ?!(お、お前もか?!)」


何年もの間、行動を共にしてきた勇者なら、現状を把握してくれると思っていたのに……しかし、実際にはそうはならなかったために、イモムシ状態で抗議の声を上げようとする剣士。

しかし、彼がどんなに講義しようとしても、その口に嵌っていた猿轡は、彼の言葉が外に出ることを許さなかったようである……。


……それから勇者は、エネルギアに対して、剣士のことを諦めるように説得した。

彼女が剣士のことを好いていたことは知っていたので、このまま剣士といると、人生(?)を棒に振ってしまうと、知り合い(賢者)の例を上げながら説明したのである。


……だが、エネルギアが、その言葉を受け入れることはなかったようだ。

それはもう手遅れだったからなのか、あるいは、そもそもそういった話の問題ではなかったからなのか……。

いずれにしても、エネルギアの剣士に対する情熱は、許嫁がいても、剣士が特殊な性癖(?)を持っていても、そして他者からの介入があっても……揺るがないものだったようである。

もしかすると彼女は、その見た目よりもずっと、頑固、なのかもしれない……。

問題は、誰が何の目的でローソクを置いていったのか……。

犯人(?)は、先に船を降りた4人の中にいる……!


……という、話を書こうとして、ではまず誰が置いていったのか、と考えたところで、妾の頭は熱暴走を迎えたのじゃ。

とは言っても、公序良俗を考えるなら、2人しかいないのじゃがの?

まさか、イブ嬢がローソクを置いていったわけは無かろう?

まぁ……何処か()()()おるイブ嬢が、気を利かせた可能性も否定はできぬがの?


さて……。

この章の話は、あと1話か……長くても2話で終わる予定なのじゃ?

次の話へと進めるための布石は、あと1個になったからのう。

これで、ようやく……7.7章に進めるのじゃ。

……え?8章じゃない?

そりゃ……まだ書きたいことが書けておらぬからのう?

8章は……8.01章から始まったりしての?

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